第三章③ ダンジョン攻略1
なんか長い(そしてめんどくさい)ダンジョンが形成されたようです。
攻略に手間取るのはアラミス達だけじゃない、久瀬もですw
第三章③ ダンジョン攻略
「で、俺はなんでここにいる?」
「あなたにはダンジョン攻略の共同参加をお願いしたいのよ。」
さらりと加えると、ザービは冷水を少しだけ飲んだ。まだ冷たい。
各人に視線を泳がせる。
「みたところ、物理アタッカー、魔法アタッカー、回復・補助のバランス型PTのように見えるけど?」
「ああーそれなんだがな……。」
「うちのメンツ、戦闘に関しては馬鹿みてぇに強いんだが……。」
バーレスは頭をポリポリしている。巨大な筋肉ダルマが突然動いた。
「……罠の探知やそういった類に弱い。」
青髪が付け加えた。
「もっとも……あんたの場合、探知系より俺たちよりな気もするがな。」
「待て、俺は探知なんて知らないぞ。」
「何言ってるの?私の不可視魔法ユニットを一瞬で粉砕してくれたじゃない。」
「あれを探知と言わずして、何を探知と呼ぶのかしらね!」
キャシーは特濃を飲む。いつもと同じ特濃のはずなのに、なぜかまずく感じられた。
「そういうことよ。あなたは分かってないみたいだけど、私たち、あなたの違和感を拾う能力を高く買っているのよ。」
「いざという時は、退却も考えています。ダンジョンの難易度はSSS。普通にキャパオーバーです。」
「そもそも俺はB何だが、そこは問題ないのか。」
「ギルマスからの特別依頼でもあるのよ。ただし、アラミスさんを連れて行くこと。これが条件でした。」
「……なぁ、何でダンジョンなんて存在するんだ?そもそもダンジョンの定義ってなんだ?」
ふと手を顎に寄せる。
「そういう違和感は拾わなくてもいいんだけどな……。でも、そういうと、ダンジョンの存在意義なんて考えたことなかったわね。」
「これはね、学者の中でも派閥できてるぐらいの数百年に及ぶ大論争よ。首突っ込まないほうがいいわ。」
「少なくとも私たちが考えるのは、今、そこじゃない。」
特濃を持ったまま、続ける。飲んでいるはずなのに、なぜか軽くならなかった。
「神々が人類に与えた試練だとか、魔族が人類攻略の拠点にしてるだとか、ただの自然現象だとか。」
「仮説は無限に飛ぶわ。」
「よーするに、あんたの馬鹿みたいな哲学の答えなんて、誰も知らないってこと。」
「未定義空間ってことか……。まぁ世の中、突き詰めれば全ては未定義空間に収束するのかもしれないな。」
「では、モンスターが巣食う理由は?何で外で活動しない?」
「あーめんどいわね!知らないわよ!そんなこと!そーいうのは学者連中にやらせとけばいいの!」
「確かに気になる話題だけど、私たちじゃ答えは出せないわね。」
ザービは冷水を再び口にする。ちょっとだけぬるくなっていた。手についた水滴を振るいながら続ける。
「で、どうしますか?私たちとその『未定義空間』行ってみませんか?」
「それを踏破することに、何の意味がある?害がないのであれば、こちらから突っ込んでいく必要はないだろ?」
「おい、こいつやっぱダメじゃねぇか?」
「……だが、俺はこういう話、悪くない。」
「ほぅ、面白いことを言うじゃねぇか。俺はお前をただの戦闘狂ぐらいにしか思っていなかったがな。」
「否定はしないが、慎重に行動するに慎重すぎることはない。」
「特に、今回はSSS。アラミスがいようがいまいがきついのは確かだ。」
「それに……俺としてはこいつがどこまでやるのか、実際にみたい。」
「やっぱ戦闘狂じゃねぇか。」
「だから否定しないといっただろう。」
青髪は剣の柄を持ちながら、静かに揺らいでいる。
結局半ば強制的に、ダンジョン攻略は決行することになった。なお、アラミスの謎哲学空間が何度も生成されたことには、皆がダンジョン攻略前に疲労するには十分すぎる余白だった。
とりあえずギルドからダンジョン到着までの話で分かったことは、すでにSランクPTが挑戦して数名の死者含み、ボロボロになって帰ってきたこと。罠が多かったこと。モンスターが異常に強かった。階層数は不明だが、第一層はほぼ一本道だった。この程度の情報だった。
「情報が不足しているな……。」
「生存者からの聞き取りはちゃんと行ったのか?」
「敵の特徴は?」
「罠の種類は?」
「なぜ一本道なのに、ほぼ半壊した?」
「こんな状況でダンジョン攻略なんてできるのか……。」
「私たちはその中で生き残ってきたわ。」
「これ以上に、あなたの疑問への答えはないわ。」
「……主観に再現性はない。が、再現してきたわけか……。」
「まーそう言うこった。やべー時は退却もするんだから、そんなに心配なさんなって。」
「過信は禁物だが、慎重すぎるのも考えものかもな。」
何だろう、まだ働き初めの頃、研修中なのにいきなり、「篠田さんしか今、動ける人員いないのでやってください」と言われる感覚が復活したのは。
「まぁ……俺が役に立てるかわからないが、やるしかないってことか。」
「ダンジョン入り口でやっと決心ついたわけ?遅すぎない?」
「無理もないわよ。初ダンジョンが未踏破のSSSなのだから。あのギルマスも大概よね。」
「今日は何故かよくわからないけど疲れたから、今夜はここで野営ね。」
その何故かの中心にいたのはアラミスだったのは言うまでもなかった。
*
「ふふっ、ダンジョンの定義、ですか。」
「篠田さんらしい質問ですね。」
「さて。」
「ここで彼の真価が試される。」
「……期待していますよ、篠田さん。」
……。
「でも。」
「文化圏ババアは許しませんからね!」
*
朝と昼の境界。大体午前8時過ぎ。
緋水とアラミスはダンジョンの中へ入っていく、が。
「待て。」
「どうした?びびったか、アラミスさんよ。」
「いや、何か違和感がある……それが何かわからないが。」
意識を集中させる。なんだ、何かがおかしい。
剣の柄で一直線の道のタイルをトントンと叩いてみる。
すると……。
床が盛大に開いて、その下には極細の巨大な針が剥き出しになっていた。
そこには死体が何体か串刺しになっていた。
「これだな、数名の死者の何人かは。」
「おいおい、いきなりこんなラスボス級の罠、入り口にあるのかよ。」
「……アラミスがいなかったら、俺たちもやばかったかもな。」
「ふ、ふふん。ほら!私の言った通り!私の不可視魔法ユニット見つけるだけのことはあるのよ!」
「おめーそんなこと言ってねぇだろ。」
「にゅ、ニュアンスの問題よ!」
「早速、アラミスさん活躍なさったのね。ギルマスが言うだけのことはあるわね。」
「これが今まで無名?もしかしてベテランなのを隠すために仮面とか?」
ザービは少し小首を傾ける。
「この仮面はただの境界だと言っただろう。」
「ま、そういうことにしておきましょう。」
壁ギリギリを這うように移動する一向。
するとどこからともかくオーガらしきモンスターが襲いかかってきた。
「オーガ如きが吠えるな!」
シュバルは目にも見えぬ速度で剣を抜いたかと思ったら、すでにオーガは死体になっていた。
(この青髪、今まで見たのと動きが明らかに違うな。)
(これがSSランクの剣士か。)
続いて、別の個体が襲いかかってくる。
「甘いわね。私の深淵魔術に飲み込まれなさい!」
暗黒物質が収束して、一気に放たれて……。
オーガの体は何かが貫通していた。
「罠はやべーが、モンスター自体はAランぐれーだな。」
「まだ序の口かもしれないわ。全員、気を緩めないように。」
確かに一本道だった。だが、それがかえって不気味だった。
「なぁ、このダンジョンなんで一本道なんだ?」
「何か誘われている気がするのは、俺だけか?」
「!」
「止まれ!」
「どうした、アラミスさんよ。」
「そこ、やっぱ空間歪んでる。」
「理由はわからないが……。多分突っ込むとやばいやつだ。」
「空間の歪み……転移とかそう言う系統かしら。」
「うーむ、ちょい確認してみっか。」
そう言うと、バーレスは転がっていたオーガの死体をその「空間」に文字通り投げ飛ばした。
(おいおい、あの巨体を軽々とぶん投げるとか、この人の筋肉どうなってんの?)
投擲されたソレはあるところを境にして、突如消えた。
「決まりね。転移系のトラップだわ。」
アラミスはふとその歪みの近くに佇む。
「ちょ……どうするのよ?転移系トラップなんて避けるしかないわよ?」
「空間の定義はなんだ?」
「人間は空間を認識する。しかし、認識と正しさはイコールではない。」
「この空間は世界と位相がズレてる。だから修正する。」
「空間の再定義をする。」
「構造のバグは、定義で再定義して修正する。それしかない。」
「まずは……座標の固定。」
「基準点Oを設定。」
「基準がなければ空間は測れない。」
「測れないものは修正できない、からな。」
「一次変換。回転補正。ねじれ修正。距離関数修正。」
「こんなとこか。これでこの歪みは修正された……はず。」
「おいおい、ダンジョンで数学?とか始めるやつ、初めて見たぞ。」
「でも修正されてるかは確認が必要ね。」
そう言ってザービは少し大きめの石ころ投げる。
ころん。
転移はしなかった。
「あんた、やっぱフツーじゃないわね。」
「ただの変態仮面じゃなかった……違和感探知機?」
「それ、人間じゃないな……嫌いじゃないが。」
シュバルは一連の行動を眺めていた。
(空間の歪みを察知?そして修正した?そんなやつ、初めて見たぞ。聞いたことすらない。)
(こいつは……ますます面白いな。剣の腕、どうなんだろうな。)
(俺の気配とかも普通に察知してきそうだ。戦ったら面白い意味でやばいな。)
そして先へ進む一行。
キャシーが歩みを止める。
「おかしい。」
「どうした?」
「私の魔力の波動が乱れてる。」
(魔力の波動?電場とか磁場とかと同じで魔力場でもあるのかね。)
どこからともなく、オーガロードが現れて突進してきた。
「なっ!オーガロードだと!」
「おいおいバック取られるなんて聞いてねぇぞ!」
「アラミス、気をつけろそいつはお前を狙っているぞ!」
体が勝手に動く。気づいたら剣の柄を握っていて……。
オーガロードは絶命していた。
「!?何があった?」
「待て、俺の目にも何が起きたかわからなかったぞ。」
「わ、わからない……剣の柄を握ったところまでは覚えているんだが、気づいたら終わってた。」
「規格外。」
「あなた、気をつけないと、悪巧みに利用されるわよ。」
「……面倒なことだ。」
(誰だよ『ちょっとだけ』とか言った文化圏ババアは……。)
「なぁ……。」
「このダンジョン、一本道だったよな?」
「なんで後ろ取られたんだ?」
アラミスの素朴な疑問に答えられるものはいなかった……。
続く




