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第7話 明日のバディ

「ふぅ、やっとおわった。やっぱ頭使うのは疲れるな。シュン……まだやる気か?あんまり詰めすぎは良くないぜ」

「キースこそ、復習しないのか?私としてはバディだけ脱落は勘弁願いたい」


 間に昼食を挟みつつ、朝7時から5コマあった初日の講義は終わり、夕食も済ませた私とキースは就寝時間までの自由時間を過ごしていた。

 2コマ目までは霧に関する講義だったが、3コマ目からはARMAならではのアステロイド内に関する飛行、戦術について講義が行われた。

 小型で高機動、高火力を誇るグリフォンの利点を活かせるようにアステロイド内を飛行士の『庭』とすることを前提とした講義は大変心踊った。


 しかし、その量は尋常でなく講義用に配布されたデータへ補足を打ち込みつつ、概要を把握するのがやっとだった。

 正直、復習をしていないキースが信じられない。


「大丈夫だシュン、心配いらない。俺は常々感覚派なんでね、1度聞いたことは完璧とは行かねぇが大体頭に入る。こうやってサラッと流せば完璧ってわけよ」


 そう言いながらキースは虚空をスクロールするような仕草を見せる。

 おそらく自分の視界内だけに件のデータを写しているのだろう。


「まあ、これやって覚えられないやつはだめだな。感覚つかめねぇのは何回やっても一緒、そういうジンクスがあるんだ。だから安心してくれ」


 安心どころか、不安要素しかない文言を並べるキースだが、士官学校を卒業するだけの実力を持っているのは事実。

 まあ、ここは一つ試してみよう。

 

「AG型の弱点はどこだ?」

「何だいきなり、試してんのか?」

「感覚派というものはどうも信用できるのとできないのがあるからな」

「AG型ってのは確かあの子持ち魚か。あいつの弱点は……確か腹だったな。子どもが弱点だ」

「ふむ……正解。それじゃあ、アステロイド内でより高機動に動くには何を使う?」

「そりゃあれだろ、そのーなんだ?。ぐいっと引っ張られるやつだ。小惑星の周り回るときにできるやつ」

「引力だ、引力。何だよ、ぐいっと引っ張られるやつって」

「まだそこまで見てなかったんだ。ざっくりとしか覚えてねーよ」


 まあしかし、ざっくり覚えていることは事実みたいだな。全く羨ましい。

 一つ、信じてみるか。

 

「それで、アルプの意味は?」

「最高にイケてるやつ、だったか?」


 とりあえずバディがいなくなったとき、私がどうなるか調べておくとしよう。



 結局その後も一週間、似たような生活を続けた。授業時間10時間に上る授業を受け、飯を喰らい、復習し、寝る。

 キースも相変わらず私が机に向かっている中、常にベッドへ横たわり虚空をスクロールしていた。

 二日目以降の授業内容は基本的にアステロイドが終わって以降、グリフォンの扱いや交戦規定に関するものばかりだった。


 グリフォンは最新鋭ゆえ、それだけ新しい機体システムも多い。

 多くの武装が搭載できるグリフォンだからこそ、それだけパイロットは多くの武器システムを手足のごとく使えないといけないというわけだ。

 

 そして今日は試験当日、1コマ目から1コマ延長して6コマ。1コマでこの一週間ならった1日分の内容が出題されるというわけだ。


「それじゃあ、試験用紙配るで。カンニングなんてつまらん真似すんなよ〜みっけたらワイが8.8cm砲(アハト・アハト)に詰めて地球に送り返したるけーな」


 普段おとなしいものを怒らせると怖いものである。大尉殿なら真面目にやりそうで笑えない。


「それじゃあ、試験開始!」


 思わず気の抜けそうになる号令と柏手の下、筆記試験が開始された。


 




「ほい、そいなら試験終了。結果は明日の朝返却される、それまではまあ、ゆっくりしときーや。できるなら、やけどな」

 

 ケラケラと笑いならが、大尉殿は去っていった。

 講堂内は、ざわめくこともなく皆、放心状態になっているようだ。

 それもそうだろう。今回の試験、難しすぎた。スライドの端に小さく書いてある内容が出てくるなんてザラだ。

 口頭でしか説明されていない補足、さらに応用、そのすべてが筆記で、解答用紙裏表A3サイズでびっしりと出題されているのだ。

 気が抜けていくのもしょうがないだろう。

 私でさえ、9割取れているかどうか怪しい。

 誰も動かない。終わったと呟くでもなく、バディと喋るわけでもない。私も、なんだか立ち上がる気になれない。

 こういうとき、最初に行くのは、なかなか勇気がいるものなのだ。


 しかし、そんな静寂を破るものがいた。


「おい、シュン。飯食い行くぞ。腹減った」


 さも筆記具の片付けが終わったからとばかりに私の肩を引いて立ちあがったキース。

 こいつはどうも、こういうのを気にしないらしい。余裕といった態度だ。

 まあ、そんな感じはしてたが。


「へいよ」


 あー俺達も飯行くか、そういう雰囲気をまとって呻き出す同期たちを横目に私たちは講堂を去った。


「シュン、今日は何食うんだ?」

「カツとじ丼だ。昨日から決めてた」

「ほぉーん……カツ丼だけに試験に勝てますように、ってか?」

「違うわ!」

「殺人鬼にも案外面白い面があるんだな」

「断じて違う。カツとじ丼には糖の塊である米、糖の接種を促進するビタミンBを多く含んだ豚ヒレに完全栄養食の卵が溶いてあるんだ。頭脳労働の後に最適だと思っただけだよ。まあ、女以外毎度適当に選んでいるキース君にはわからないかもしれないがね?」


 断じて、『カツ=勝つ』で選んだわけではない。

 

「ほぉお?いうじゃねえか。こいつはいつも、俺のこと考えて選んでくれるぜ?」

 

 そう言いながらキースはいつものようにダイスを取り出し、空中へ放り投げる。

 複雑に回転しながら落下してきたボール状のダイスを手に掴むと、頂点に来ていた数字を確認し、にやりと笑った。


「ほらな、77番。俺の今日の晩飯はカツとじ丼だ」


 そういってこちらに見せてきたダイスの番号は、77番。

 そして、食堂につき、確認したメニュー表の右上にはラッキーセブンが2つならんでいたのだった。

 

 



 柔らかい豚肉にサクサクの衣を纏わせ、とろっとした出汁卵とともに白米の上に乗っけた極上飯を口の中に掻き込み、緊張し冷え固まっていた頭と口の中から湯気を立ち昇らせた私とキースは完全に脳を溶かされた状態で昨日布団に入った。

 酒を飲んだかと錯覚する気分だったが、今朝はしかと目覚めることができた。


「おい、キース。昨晩はお楽しみだったわけじゃないんだ。さっさと起きろ」

「んあ?今日は週に一度の休暇だろうが、ゆっくり寝させろよ」

「なにいってんだ。今日は、テスト結果が出る日だろう。廊下に順位が張り出されているはずだ。さっさといくぞ」


 万が一、あってほしくはないが、こいつが落ちていた場合。私は教官室へ急がなければならないが故だ。


「あー、しゃあねぇ。いくか」


 気だるそうに体を起こしたキースを引き連れ、あらかじめ連絡があった結果掲示場所へと急ぐ。


 廊下のカーブを抜け、掲示場所である基地入口が見えたとき、そこには多くの人だかりが見えていた。

 ちっ、遅かったか。


 もう30分早く相方を叩き起こさなかった自身を呪いつつ、人混みの間を抜ける算段を付ける。

 いよいよ強行突破を仕掛けようとしたその時だった。

 集団の外周にいた一人と目があった。どいてくれると嬉しいな。という念を込めて笑顔を叩きつけてみたところ、驚いたような顔をして隣のやつに話しかけ、道を譲ってくれたのだ。

 できるやつもいるもんだ。関心関心、と思いつつ間を通してもらおうとしたとき。

 人が、割れた。性格には人の群れの中に一筋の道ができたのだ。


 一瞬後ろから上官でも来たのではと振り返るが、どうやらその様子はない。

 本当に我々のために道を開けてくれたらしい。殊勝な心がけだ。

 そうして、張り出されたホログラムを確認する。

 そこには……

 

 

 個人席次

 首席 リーパー 600/600

 次席 アルプ  596/600

 

 ペア席次


 首席 アルプ&リーパー 1196/1200


「女たらしの悪魔。お前、採点官を誑かしたりとかしてないよな?」

「そっちこそ、次の標的はお前だっつって脅してねぇよな?殺人鬼」



 ……どうやら、大尉殿と気まずいマンツーマンをする必要はなくなったらしい。

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