第8話 宴
「「「乾杯〜!」」」
人々が何かを共通して達成したときにやること。
それは古から共通している。
宴だ。
酒を飲み、飯を喰らい、騒ぎ、寝る。
何も考えずにやる宴という娯楽は、脳内に達成感という名の快楽を増長させ、それまでの辛さを押し流してくれる。
まあ、つまり結果発表の会場からそのまま食堂へ、宴やさわげという人波に押し流され、やってきたのだ。
まあ、宴と言っても今回は翌日から飛行実技演習ということで酒はなし。あってノンアル飲料。私は健全にジュースを盃に注いだ。
太っ腹なことに食事に関しても試験合格祝いということで、ARMA側持ちで食べ放題になっている。まあ、歓迎会と言った側面もありそうだが、なんにせよ実に素晴らしい。
兵は食えるときに食うという大原則に従い、大皿に山のように盛り付けられた料理を皆遠慮せず、これまた山のように盛り付けていた。
私とキースも例外ではない。
私は近場にあったローストビーフやサラダといった洋食めいた代物を久々に取っていく。肉は低温で火を通したのか真ん中がまだほんのり赤い。ソースもとろっとしてよく絡んでる。
……こいつは絶対うまい。
キースといえば、「ちょっとまっててくれ」といって飯を取りに行っていた。まあ、いつものようにサイコロを振っているのだろう。
人が多い上に皆立っているので姿は見えないが。
乾杯で中身を飲み干したコップを返却し、溢れる肉汁とソースが口の中で重奏を奏でる中、キースが戻ってきた。二人の女を連れて。
ふむ……片方は見覚えのある肌黒の女。もう一人は、見覚えのない、かつ背が皆の胸ほどしかない小さな女。
「おい、キース。早速女たらしの本性を表したのか?それなら他所でやってくれ。できれば私を巻き込まないでほしい」
「ああ、お前が相手だと女を殺しちまうからな……ってちがうわ!俺は頼まれてこいつらを連れてきたんだ。だれがこのクソ忙しいときにわざわざ女見せびらかすかっての」
「わたしとしても心外だね。こんなチャラ男に引っかかる女とは思われたくない」
「おい、そりゃねえって。最初に声かけてきたのはそっちだろう?」
「わたしはあんたじゃなくて、首席殿に用があったのさ」
けっ、と吐き捨てそうなキースをよそに、笑いながら出てきたのは肌黒の女。
「コウノトリぶりだな、覚えてるか?」
「ああ、君は確か……クロフォード少尉。グリフォンの整備性に美点を見出していた同期であってるか?」
「よく覚えてるな……そのとおりだ。わたしはアンナ。アンナ・クロフォード、アンナでいい」
そう、彼女は私が大尉殿に苦手意識を持つ原因を作った人物の一人、コウノトリの中でグリフォンの整備性こそ素晴らしいと主張していた女。
「それで、結局シュンに何の用なんだよ。まさか、俺を無視して告りにきたんじゃねえだろうな?」
「まあ、ありかもしれねぇが、そんなんじゃないよ」
女を誑かすはずのキースの言葉を聞き流し、彼女は深淵を見るかのように私の目を覗き、言った。
「あんた、あのときの佐々木少尉で間違いないんだな?」
「ああ、私が佐々木隼少尉だ」
簡単な質問に答えると、彼女の目は変わった。
「ふん、そうかい。あの馬鹿っぽい二人が首席と次席かっさらってったもんだから誰かと成り代わってるんじゃないかって思って、顔を拝みに来たんだよ。だから、用はこれだけさ。まあ強いて言うなら……今後は、どうぞよろしくってとこかな」
「ああ、よろしく」
「ちなみに、そこにいるのが私のバディ、ノアだ。ちと無口なやつで機械ばっかりいじってるがいいやつだ。よろしく」
「ん、よろしく首席さん」
そこで初めて、もうひとりの女が口を開いた。
キースが空気と化し、私とアンナ少尉が喋っている間、ずっと虚空をタイピングしていた小さな女。
ぶかぶかの隊服を着てなければ子どもが迷い込んだと錯覚してしまいそうだ。
「んで?そういや二人の顔はコウノトリ以来講義もテストも見てない気がするんだが、気の所為か?」
ようやくキースが気体から固体に戻ろうとしている。
「あーそれか。私とノアはみんなとは更に違う特別講義を履修してんだ」
そういって見せてきたのは『戦時特別部隊付航空技師』と表紙に書かれた冊子。
これがアンナ少尉の教科書らしい。我々よりもよっぽど分厚いように見える。
「なるほどな、道理で見かけねえわけだ」
「まあでも、明日からの実技演習科目は合同だ。わたしら……あーまだTACネーム教えてなかったな。わたしがノーム。ノアがホビットだ。宇宙の上ではよろしく頼むぜ」
「私がリーパー、キースがアルプだ。こちらこそよろしく頼む」
「それは知ってる。おそらく、ここにいる全員がな」
わたしは、アンナ少尉とキースは顔を少し上げて隊服から腕を出したノア少尉と固い握手を交わした。
「さて、自己紹介も終わったし、みんなで飲もうぜ」
アンナが、そう宣言した瞬間だった。
「ん」
ポン、っという音がしたかとおもうと、目にも留まらぬ速さで各人の前に現れたノア少尉が、あるものを手渡してきた。
この宴にあるはずのない、しかし、他の宴には必須装備のあれ。
そう、ビールである。
それも瓶ビール。
「それじゃ、かんぱ〜い」
「おいまて、それは……!」
止める間もなく小さい体に見合わず瓶ビールをもって、ラッパ飲みを始める。
呆然と見ているうちに、一本が消えた。
「ふぅ」
気づけば二本目を開け、また小さな体の中に流し込んでいる。
アンナ少尉が苦笑いしてこっちを見ているところを見るに、これが本当の目的らしい。
……はあ、実習初日から解毒剤を使う羽目になるとは思わなかった。
その日は結局……宴の運命か、通り酒を飲み、飯を喰らい、騒ぎ、寝た。




