第27話 当たらなければどうということはない
次の試合が開始されたことによって歓声も落ち着き、トレボーのアナウンスが入る。この試合、凱旋してきた方が我々と次に対戦する相手だ。
ピクシーの機体が漆黒を取り戻し、垂直尾翼に描かれた人形の妖精が顔をのぞかせた頃、勝者は雄叫びを上げながら凱旋してきた。
『勝者、グレムリン分隊!』
『うぉぉぉおおおおお!!!!』
確か記憶では座学の成績はそこそこだったはずのグレムリン、リュタン分隊であったが、どうやらソラに上がると頭のキレが変わるらしい。
『おいおいグレムリン、ちとはしゃぎすぎだ』
『あぁ!?別にいいだろ、これくらいよぉ!』
まあ、所謂脳筋ってところか。
『次の試合を開始します。グレムリン分隊は速やかに駐機場へ。ノーム、ホビット分隊シルフ、オベロン分隊はIUD上の指定位置に移動して下さい』
『おい、リーパー始まるぞ』
私の真後ろに駐機していたノーム分隊の二機が私を飛び越え、宇宙へと旅立っていく。
離陸した時点で既に編隊形成を終えており、寸分狂うことない美しい体形で舞い上がっていく。
我々の次に席次を置くだけのことはある。
しかし……やはりどこかおかしい。
機体形状が変わっている?大きな差ではないことは確かだが、何かが違う。
それだけははっきりと分かるほどの違和感。
『第7回戦、ノーム分隊vsシルフ分隊……始め!』
両分隊が一斉に飛び出し、機体を交差した瞬間、旋回を始める。
僅かではあるが旋回の開始はシルフ分隊のほうが早い。つまり、順当に行けばシルフ分隊が先に背後を取る。
しかし……私が対戦したときと同じく、明らかにノーム、ホビット機の旋回速度が早いのだ。
先程、私がピクシーの背後を取ったときのようになんとか背中が見えるというレベルではない。旋回軌道の内側に入り2度、3度の切り返しで斜線に収めてしまおうかという程だ。
腕が云々という話ではない。まるで別の機体に乗っているかのような……
もう一度、直接視界だけではなくIUDから流れてくる映像を拡大し、ノーム機の姿をもう一度確認する。
機体後方から吹き出す火炎、機体の各所から噴射されるスラスターの青白い光。
美しく飛んでいるのか知らないがどこか普通の機体より輝いて見える。
いや……見えるんじゃない。実際に輝いている……?
TCSのチャンネルが切り替わっていることを再度確認しアルプのみに連絡をいれる。
「アルプ」
『なんだ』
「ノームたちが強い理由、わかったかもしれん」
その後、改めてノーム分隊対策を話し合っているうちにその試合と、その次の試合はいつの間にやら終了していた。当然第7回戦、勝ったのはノーム分隊である。
そして、第9回戦。所謂準決勝、相手取るのは先の勝者グレムリン、リュタン分隊。
ちらっと見ていた限りでは特殊な戦法を用いる分隊だったはずだ。
今はそんな彼らと試合開始の合図を待っている。要はにらみ合い状態。例によって煽り文句が飛び交う。
『現首席様をねじ伏せられるとは、全く予想もしてなかったぜ。なあ、相棒』
『全くだ。トーナメントの神様が味方してくれたんだろうよ。俺等の日頃の行いが良すぎたってこったろ、相棒』
『ほぉ?いってくれるじゃねえか飲んだくれ共。てめぇらの顔を拝めるなんて、今日はブラックホールにでも遭遇するんじゃねえかってビクビクしてんだぜ?』
『はっ!女たらしには言われたくねぇなあ!』
気は荒い方でアルプの言う通りいつも食堂で酒を煽っている二人、しかしまあ、ここまでトーナメントを上がってくるだけの腕はある。
やはりノミニケーションというやつは関わりを深める面もあるのかこの二人の互いの信頼が他の分隊に比べて深いというのは二人の飲みをたまに見るだけでわかっていた。
「さっさとはじめよう。要は、我々が上ということを見せてやればいいんだろう?」
『抜かせ!』
『第9回戦、リーパー分隊vsグレムリン分隊……始め!』
「リーパー、エンゲージ」
『アルプ、エンゲージ!』
スロットルを再び置くまで押し込み、期待を一気に加速させる。
それは向こうさんも同じ。つまり、戦闘の開始はピクシーのときとあまり変わらない。
と、考えていた。
『うおぉぉぉ!!!!』
試合が始まったのにもかかわらず、TCSから怒声が轟く。
想定外のタイミングで鼓膜が破れんばかりの怒声が耳をつんざいたことで反射的に瞬間目を瞑る。視界が再びひらけたとき、正面には紅い弾丸を乱射しながら突撃してくるグレムリンの姿。
……っ!
いかん!
「ブレイク!」
即座に操縦桿を切り、軌道を変更する。
相対速度の高いヘッドオン状態ならば多少の軌道変更で追従できなくなる。
そしてそのまま旋回し、格闘戦に持ち込もうとする。しかし……ついてこない。正確にはグレムリンは交差後そのまま旋回せず離脱し、僚機のリュタンのみが追従してきているのだ。つまり、リュタン機を囮に使っているということなんだろうが……意図が読めない。通常、数的不利の状況になればたとえ片方の背後を取れても、その隙にもう片方の敵機に背後を取られて即刻叩き落されてしまうからだ。
適度に距離を保つことはあれど決して即カバーに入れない距離から離脱することはないはず……
何が目的だ?
「とりあえずアルプ、孤立しているバカを叩くぞ」
『へいよ』
グレムリンの動向が不明な今、レーダーへ常に気を使う必要が出てくるが、1vs2に支障をきたすほどではない。
アルプとリュタンがシザースを行い、その間に私が旋回を終わらせて落ち着いて射撃できる位置に移動する。
アルプとの格闘戦を行っている今、照準内に収められたリュタン機が無数に放たれるであろう弾丸を避けきれるはずがない。
つまり、
「チェックメイト」
トリガーを引き、純白の弾丸が吸い込まれるのを見届け、グレムリンの追尾へ移行しようと思考し始めたとき、予想外の光景が飛び込んできた。
リュタンが、避けたのだ。
迫りくる弾丸を旋回中の機動を急激に変更して弾幕の隙間を縫うように、華麗に回避して見せたのだ。
『っ!ちょこまかと!』
アルプもその回避機動によって背後を取れたため射撃を行ったようだが、回避機動を行った直後の余裕のない状態にも関わらず更に回避されたらしい。
本当にちょこまかと……
まあ幸いにもリュタンは回避機動を行ったことには変わりない。隙は大きく、次こそは仕留め得る……
再度機首が向き終わりトリガーに指をかけたその時。
『もらったぁぁあああ!!』
………ッ!しまった!
「ブレイク!」
叫ぶと同時に操縦桿を思いっきり引き、リュタンを無視して回避機動をとる。
刹那
自らがいるはずだった軌道上に無数の赤い弾丸が流れてゆく。
まさに、間一髪。
そして弾丸が通過したと同時に我々がかき乱していたソラを大きな耳の悪魔が貫いて行った。
アルプの方も、何とか避けれたみたいだ。
『チッ!逃がしたか』
『お前がTCSに大声いれるからバレるんだろ』
『……しくじったぜ』
今の攻撃、相手のミスで防げたようなもの。不意打ちだったら墜ちていた。こちらのTCSチャンネルは今、喋ったことは分隊間、聞くのは全体。と言った感じにしてある。
もし、相手もそうしていたら……
恐ろしい。
『ったく早すぎるだろ……リーパー、どう攻める? ずっと警戒しながらってのはきちいぞ』
「まあ、確かにそうだな。そう何度も渡れる橋じゃない」
あの攻撃は意識外を着いてくる的確な鋭い刃。ただ、その刃はそう易々と制御出来ていないらしく、その速度故かあまりこちらの回避機動には追従できてはいなかった。リュタンの攻撃もさして正確なものでは無い。何度も攻撃繰り返すうちに仕留めようという魂胆だろう。
「ただ……」
つまり、彼らがとっている戦術と我々が取るべき戦法。それ即ち……
「要は、当たらなければどうということはない。カウンターを仕掛けよう」
2度目の攻撃をなんとか躱したあたりで、その戦法は確立した。




