第23話 巨神のソラ 2
目標まで距離7000、小惑星の影から射線に入らないよう接近してきた。しかし、正面に立ち塞がる500m級の小惑星を超えた先からはもう目標と我々とを遮るものは無い。
つまり、前回のようにピクシー達を分離する訳にはいかない。多少火力は分散されるかもしれないが、迂回し、敵からの攻撃にさらされる時間が延びる分、撃墜されるリスクは高まるからだ。ではどうするのか?
そんな状況だからこそ──
正面から行くのだ。
「リーパー、FOX3」
『アルプ、FOX3!』
『ピクシーFOX3!』
『セルキー、FOX3!』
4機の狗鷲から幾条もの白線が伸び小惑星を超えて突き進んでゆく。
白線の先をゆくのは発射コールの通りQASMではない。QAAMである。
「リーパー、ライフル」
『アルプ、ライフル!』
『ピクシーライフル!』
『セルキー、ライフル!』
その後に続くのがQASM、HASMより威力こそ劣るものの遥かに高機動であり、弾頭内に搭載されたシステムに従って、敵艦の対空砲火をかいくぐりながら突き進む。
一方で今回QAAMは普段見せる複雑怪奇な機動と違いほぼ直線飛行。ただしこれは異常というわけではなく、普段と異なる対艦目標であるため、その目標に対して追従することしかしないQAAMの特性上正しい。むしろ狙い通りである。
つまり、QAAMは敵艦の対空砲火を分散させるための囮。背後に控えるQASMこそ本命なのだ。
レーダーマップ上に我々が放ったミサイルの群れが光点となって表示される。
光点が多すぎて少々眩しいくらいだ。
これだけの数があれば、さすがの初月と言えど迎撃しきれまい。
念の為必要な場合はアハト・アハトで追撃できるようにQASMのさらに後ろから4機並んで小惑星の影から飛び出す。
そのとき、目に飛び込んできた光景、以前見たよりも激しいように見える虹の弾幕、そして艦の各所から伸びる白い糸……
艦から伸びる白い糸が表すもの、それ即ち……
「迎撃ミサイル!?聞いてないぞ!」
艦影は見紛うことなき初月、先日の訓練でも世話になった。間違いない。
その初月が、ミサイル?
信じられない。現役時代は搭載していなかったはずだ……
『おい、どうするシュン!ミサイルがどんどん落とされてくぞ』
レーダーマップに改めて目をやれば50以上あった光点もその数を半数以下に減らしている。
初月の防空能力が近距離になるにつれ射程の短い対空火器が参加し始め、これからさらに厚くなることを考えれば……『任務失敗』その文字が脳裏をよぎる。
『隊長……小隊長!』
「ど、どうした。ピクシー」
『アハト・アハトによる長距離狙撃を具申します』
『なにいってるのよピクシー、この前小隊長たちが長距離射撃した時はかするのがやっとだったじゃない』
「いや……」
ありかもしれない。前回私とキースが射撃をした時は回避機動中だった。
今回、前方には我々が放った大量のミサイルがいる。初月の管制AIは今、その対処に精一杯のはずだ。
アハト・アハトはそもそも砲口初速も早く、精度もいい。機体が安定している今なら、あるいは……
「いけるかもしれないぞ。セルキー」
『しょ、正気ですか!』
「正気も正気だ。チャンスは1度、既にレーダーには捉えられているはずだから火器管制から脅威度判定を上げられる前に敵へアハト・アハトを叩き込む。全機、射撃用意!撃ったらさっさとズラがるぞ!」
FCS管制をアハト・アハトに切り替え予測点に従い狙いをすます。
「リーパー、FOX4」
『どうなっても知らねえぞ!アルプ、FOX4!』
『やってやります!ピクシーFOX4!』
『まったくもう!セルキー、FOX4!』
「全機、散開!」
発砲した瞬間、初月からさらに幾条もの白煙が立ち込める。機内には警報装置がけたたましく鳴り響き、初月の火器管制システムにロックされていることを知らせてくる。
実際白煙のうちの一つは私に向かってきているのだろう。
だが同時に、弾幕を切り裂き計8発の砲弾が初月に弾着し、膨大な量の塗料をぶちまける。
対空砲の大半が停止し、白雲と共に描かれていた色鮮やかな虹の残る空は消え去った。
今の初月に、我々が放ったQASMを阻めるような火力は残っていないだろう。
しかし、未だ警報装置はやまない。
全力で機体を旋回させ同時にチャフ、フレア、煙玉をバラまき迎撃ミサイルが自分を見失ってくれることを期待する。
しかし、警報は鳴り止まない。
もし、迎撃ミサイルがQAAMと同等かそれ以上の性能を有していたら……そんな悪夢もよぎる。しかし今は期待し最善手を打つしかない。小惑星を盾とするためその引力を使って素早く機体を影へと飛び込ませる。欺瞞装置をバラまくのも忘れない。
ひとまず小惑星の中に退避したとき、欺瞞装置が生み出した白煙の中を突っ切って数発のミサイルが後方の小惑星に突き刺さり鼠色の塵を巻き上げた。
『こちらトレボー、敵艦船の撃沈を確認しました。現段階で追加の脅威は確認できません。リーパー小隊長機より10時の方向under11距離25000にあるポイントEcho3にて別命あるまで待機していてください』
敵艦撃沈。
IUDに表示されたその文言を認識し、唇を噛みしめつつ、その近くに表示された時刻表示へ目線を動かす。目標時間まで残り180……
小惑星帯内で距離25000をこの時間でいかねばならないとなると、少なくとも余裕があるとは言えない。
またここで、やることは最初へ戻るのか。
「了解、リーパー小隊目標へ急行します。全機後れを取るな!」
『了解!』




