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対霧独立防衛空戦隊 ARMA  ~宇宙とかくソラの舞~  作者: たこ爺
最後は心に

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第18話 なにかのせんじょう

 照明が落とされ、緑と白に染った愛機だけが格納庫内で明るくてらされている。


 クリスマスカラーか。よく言ったもんだ。


 機体を洗浄をするために起動した空調と慣性システムが騒がしい。


 狗鷲のエンジンの方がよっぽどいい音を出してくれる。

 まあ、これがないと目の前に置かれているバケツの水もまとわりつくだけで洗剤を使っても何かを洗うこともできないし、この空間内で長時間生き残ることもできない。故に、止めるわけにもいかない。

 

 これが現実、か。


 さっさとこいつを磨いてやろう。

 漆黒が光を反射し黒金といえるような輝きを見せていた美しい機体。それも今は緑と白に二分された。しかし、コックピットだけは粘着質なペイント弾の塗料といえど撥水できるようにはできているらしい。闇の世界に私を写し出してくれている。

 

 異質だ。


 機体はのっぺりと染まっているというのに。

 

 洗剤の入った容器をひっくり返し、バケツの水に溶かす。バケツの淵を4,5周したらスポンジを浸す。少しかき混ぜ、渦を生じさせ撹拌する。勢いが乗ってきたところで逆に回せば、水が跳ね回り、さっきより多くの白泡を生み出す。

 スポンジを握れば、混ざりきってない虹色に煌めく透明な洗剤と白泡が同時に溢れ出す。


 まあ、こんなもんか。


 もう一度スポンジを浸し、今度は搾らずにスポンジを叩きつける。

 機体側面から流れ滴る洗剤はすでに少し緑に変色している。

 スポンジを少しばかり横にスライドさせると、のろっとした感触とともにほんの少しだけ黒い塗装が顔を出す。

 

 なかなか骨が折れそうだ。


 キースはいつものようにサイコロ振って、飯を食ってからやるとか言っていたが……寝れるのか?クリスマスカラーを機体塗装代わりにしないといいんだが。

 この調子じゃバケツ一杯で両手の範囲を洗いきれるか怪しい。

 グリフォンの全長は32.7m、砲身が突き出ているからとはいえ、戦闘機としてはかなりの大型……ははっ、私も寝れるか怪しいな。


 ともかく、上から洗おう。多少は無駄が少ないはずだ。

 タラップを使い、バケツを持ったまま機体に上り、垂直尾翼に向かってスポンジをこすりつける。


 尾翼に描かれているはずのエンブレム、翼の生えたカエル(リーパー)の姿はまだまだ見えない。

 スポンジが浮いた塗料を吸い取って緑に染まるまで、尾翼の頂上から順繰りに、自分に最適な範囲で腕を何度も動かす。


 一か所黒金色に輝く姿が見えれば、多少は希望も見えてくるというもの。

 そこから見えるペンキの厚みを基準に少しずつ、塗料を削り取った。

 ……気の遠くなる作業なことには変わりない。

 

 そしてしばらくたって、リーパーの翼が半分ほど見えてきただろうかといったとき、背後からコツコツと靴音が聞こえてきた。


「……はぁ、やっときたのかよ。遅いぞキース」


 振り返るとそこには……


「やぁ、佐々木少尉。精が出るなぁ」

「た、大尉殿……」


 キースではなく、制服をきっちり決めた大尉殿がこちらに来ながら手を振っていた。

 よくよく考えればきちんとした姿勢で歩かないキースが心地よい靴音を響かせるわけがない……しまった。

 

「失礼致しました」

「いや、ええんよ。わいはこれ、君に渡そうと思うて来ただけやから」


 そういって手を挙げていた方とは異なる左手を掲げて見せる。ボトル容器のようだが、なにかはよく見えない。


「それは、なんでしょうか?」

「見たが早いわ」


 大尉殿がボトルを持ち替えたと思ったときには、その容器が宙を舞っていた。

 塗料に足を取られ、危うく翼から転げ落ちかけながらも、なんとか容器をキャッチ、パッケージを確認する。


 赤と白を下地に黄色で派手に装飾され、これこそクリスマスカラーだろといいたくなるキャップ付き容器に書いてあった文字は……


「『激トビくん』……ですか?」

「せや、『激トビくん』そこに転がっとるそこらの洗剤とは全然違うんやで?試してみ」


 別に頑張れば今の洗剤でも落ちる。用務庫からわざわざとってきたタダの洗剤。それの方が断然お得だと思うがそれは口に出さない。大尉殿のいうことだ。とりあえず従わなければならない。

 濯ぎ用に用意していたバケツに、さっきやったようにバケツの淵にそって洗剤を回そうとすると。


「あーそい、キャップ一杯でええで。大分濃ゆいんやわ」

「あ、大尉殿そこは!」


 大尉殿が声をかけながら私が機体の上へ上るのに使ったタラップへ座ろうとしていた。

 当然、機体の下にあるのだから洗剤によって溶けたペンキで汚れている。

 

「ああ、汚れか。気にせんでええで。とにかくキャップ一杯や」


 すでに腰を下ろしてしまったからには後の祭り、大尉殿の言葉に従いキャップ一杯の洗剤をバケツに投入する。

 また、前したようにバケツをかき混ぜると、大量の泡が……というわけでもなく。

 少ない洗剤にしてはという但し書きがつく程度の少々寂しい泡が立ってきた。

 大尉殿には悪いが、さっきまで使っていた洗剤の方がいい気もする。

 

 

 スポンジに効果があるのかわからない『激トビくん』の入った水を含ませ、尾翼にあてる。

 まあ、とりあえず一往復……


 ん?塗料が、ない?黒金に輝く塗装が、もう、見える?


 意味が分からない。先ほどまでいつぞやの海峡上空の紳士達より頑強な抵抗を見せていた汚れたちが撫でただけで堕ちていく……


「よー汚れが飛ぶやろ。昔、わいが配属したてやったころに戦場で教えてもらったんや。どこの売店にも格安で売ってあるで」

「素晴らしい品です。ありがとうございます!」


 革命だ……これさえあれば、私も温かい飯にありつける!

 

「そうか、そいならええんや。いつも迷惑かけとる礼と思ってつこうとき」

「ありがとうございます!」

  

 これは冷たいとおいしくないからとおもって諦めていた油ものや汁ものも、選択肢に入ってくるな……


「なあ、佐々木少尉……これ、一本どうや」


 突然、少し雰囲気を変えた大尉殿が差し出してきたのは前時代的な趣向品。電子や加熱式なって久しい、人に快楽を与えると同時に人を堕落させる禁断の発明。

 

 紙のたばこ。


 どうやら大尉殿の用はこれが本命ではないらしい。


 当然、私に断る権利はない。


「もちろん、いただきます」


 私は、作業の手を止めて、まだペンキの不快な感触残る翼の上へと腰かけた。

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