第17話 墜鳥
『さて、リーパー、アルプ、まとめてでえーわ。はよかかってきーや』
「その言葉忘れないでくださいよ」
正面にこちらを見つめるヘラクレスが一機。
機体の向きを示す機外灯が赤く眼光のように輝いている。距離は、1キロ半と少しと言ったところか。隣にはいつものようにキースがいる。
基本戦術として2対1の状況なら片方が攻撃、もう片方が警戒、援護に回る。
そうそう破られるものじゃない。
二千年前にあった地球人同士の大戦では、現秋津州のパイロットたちがアメリカ州のパイロットたちの2機分隊による連携攻撃戦術によって多くの命を散らしたことは有名な話だ。
大尉殿が相手じゃなければ多少油断してしまいそうになる。
「先に私が仕掛ける。アルプは隙を見て仕留めてくれ」
『OK』
「行くぞ」
スロットルを一気に開放し、顔がはっきり見える程しかない大尉殿との距離を縮める。
ほぼ同タイミングで大尉殿も飛び出してきているため、交差までの時間は刹那。しかし、その一瞬で互いに当たらないとは思いつつもトリガーを引く。
赤と緑の光弾が交差し数瞬遅れて黒塗りの機体が互いの頭上を抜ける。
最初の旋回は小惑星も挟まない単純旋回、同タイミングで始まった新旧世代の旋回でグリフォンが負けることはあり得ない。
容易に大尉殿の機体を背後に捉えられる。当然、引き金を引き、照準器の先を赤く染め上げる。しかし、そこは大尉殿そう簡単にはやられない。
アルプが回避機動先に叩き込む青い光弾をものともせず全ての弾を避けきる。
くっそ、ちょこまかと。
『往生際が悪いぜ大尉!』
再び、照準の中にヘラクレスを捉え、引き金を引こうとした時だった。
ふいに、視界の中に影が差す。
チッ、小惑星帯に入ったか。
小惑星の中は大尉殿が大の得意とするフィールド。できればここまで持ち込みたくなかったが、仕方あるまい……
……!?
いない。ヘラクレスが、いない!
僅かに意識を小惑星に向けはしたが、目線は外していなかったはず。
どこに……
『リーパー!後ろだ!』
クソッ!
小惑星が邪魔でアルプの援護に時間がかかる隙を突かれた。
その時、普段薄目で見ることのない大尉殿の眼球を見た気がした。
機体を捻ろうと反射的に手を動かすも、時すでに遅し。
巨神から放たれた光弾は既に機体を鮮緑に染めていた。
『撃墜』
見るのは2回目。ただ、誰かに見せられるのは初めてだ。
こうも屈辱的なものか。これは……
私の撃墜によって、キースも同じく鮮緑に染め上げられるまで、そう時間はかからなかった。
『ふぅ、さすが暫定首席なだけあるわ。時間かかってもうたわ。そいなら、引き続き……そうやなーリーパー分隊とノーム分隊でもうひと試合デモンストレーションやろか。1対2と2対2じゃ、全然違うしな』
何事もなかったかのように訓練を進める大尉殿。
そう、これはデモンストレーション。
空中格闘戦訓練の一環であり、グリフォンを汚してくれたこの塗料も訓練が終われば自分の手で落とさなければならない。
これ以上、この機体を汚すわけにはいかない。
大人しく、機体をノームたちの前へと運ぶ。
『悪魔も、赤以外に染まれるんだな』
『代わりにてめぇらを赤く染めてやるよ』
『おっかないねぇ、まあでもこんなところで優勝候補と手合わせできるとはわたしとしても光栄の至りだよ』
「そいつはご丁寧にどうも。こちらとしてもそちらを赤く染め上げる準備は万端なので安心してほしい」
『……染まるのは、そっち。クリスマスカラーにしてあげる』
『いい度胸だチビ酒』
『双方、そのへんでええか』
すこし熱くなりすぎたか。
「すみません大尉殿。大丈夫です」
『こちらも大丈夫です』
『そいなら……試合開始』
再び、スロットルを開けトリガーを引きながら突っ込む。
当然、当たらない。
緑と漆黒の機体が交差し合い美しい軌跡を描く。
今度は速度、性能共にほとんど同等。
旋回が終わるのは同タイミング。そのまま空戦はシザースにもつれ込むものと考えて間違いないだろう。
アルプとの距離を保ちつつ、隙を見て相手の機を押し出す。または自分の後ろにつかせて隙ができたところで僚機が撃墜する。
そういう流れだった。
しかし、それ以前の問題が一つ、浮上してくる。
ノームの旋回が、早い。
明らかに旋回半径が狭い。
別段旋回時速度が遅いとかそう言う古典的な手法じゃない。純粋に、旋回が早い。
同期に生産された同型機にもかかわらず、だ。
理由は分からない。しかし、確実にそこには私の背面を照準に捉えようとしているノームの姿があるのだ。
咄嗟にロールし旋回方向を変え、照準をずらす。
青白い排気ギリギリを白い光弾が掠めていった。
これで、初弾は回避できたが背後に回られた。
『くっそ、旋回速すぎんだろ!』
どうやら、アルプも同じ状況らしい。
急減速して押し出そうにも、アルプの援護なしだと意味がない。速攻ホビットに撃墜されるだけだ。
とりあえず小惑星帯で体制を……なっ!
目の前を、機首の向きを変えながら通過する緑の機影。
アルプだ。
当然その後ろからアルプを追いかけているのはホビット。
上を見上げたとき、そこには冷静に私を照準の中に収めるノア少尉の姿が、赤い視界越しに、見えた気がした。
また、あの二文字が視界に広がる。




