第16話 鴨撃ち
「やあやあ、皆さんごくろうさん。ほな、ブリーフィング始めるで」
例によって例の如く、大尉殿は今日もひょうひょうとして教壇に立つ。
「みんなもでブリーフィングで散々いったし知ってると思うけど、昨日初月を沈めれたんはリーパー小隊、ノーム小隊だけやった。どっちも兵器の特性、ようさん理解しとって素晴らしかった。皆も今日は作戦を達成してほしいと思っとるで」
昨日は言いくるめられ、結局私が四人分支払うこととなった。キースは当然のようにサイコロが引き当てたからと食堂内最高値の海鮮丼を買ってきやがった。
日替わり定食で遠慮してた莉芳とたつやを見習ってほしい。
まあ、ともかく今日は誰かに奢らせなければならない。
「そいなら、今日の作戦目標を説明するで。目標はAG型艦上攻撃機に見立てた訓練用標的機の撃墜、数は贅沢に100や。ただし、ミサイルの携行弾数は一機当たり最大16発まで。小隊で64発。補給もしたらあかん。一発で一機落としたとしても40機くらいはドックファイトで落とさなあかん計算やな。昨日と同じく、どんな作戦立てて飛行しようと自由や。失敗条件は標的機が訓練区域ラインから15以内に接近すること。あと、標的機の編隊もある程度分散するから、その辺も考えてやりや。質問はあるか?」
そう、昨日から行動計画は各小隊長に一任されている。
当然、結果や損失も変わってくる。
ARMAは損耗率もそれなりに高い。いつでも隊の指揮を取れるようにならなければならないのだ。
「ないみたいやな。そいなら作戦会議含めて1時間後08:00までに基地上空に集合するように。ほな、解散」
皆が敬礼し、大尉殿が壇上から去ると同時にブリーフィングルームが一気に騒がしくなる。
「小隊長、僕らはどうしますか?」
「……」
正直、作戦らしい作戦は思いつかない。
まあ強いて言うなら……
「今日も賭けでもするのか、シュン」
お。
「そうだな。撃墜数で勝負するか」
「今日も奢ってくれるんですか?小隊長」
「冗談きついぞ莉芳、撃墜王は私だ」
「今日は会敵するかどうかの運も必要なんだろう?なら俺が撃墜王だな」
「ドベにならければ……いいんですよね」
「まあ、とりあえず撃墜数のカウントはドックファイトのみでいこう。ECQAAMを無駄撃ちするのはもったいない。どうせ一発打てば一機墜ちるんだ。作戦目標の達成を怠ることだけはないようにいくぞ」
「へーい」
「「了解」」
『リーパー小隊。準備はええか?』
「いつでも大丈夫です」
『そいなら……作戦開始』
大尉殿の合図と同時にフルスロットルで小惑星帯に突っ込む。
標的機が展開しているんのはここから約20分ほどの宙域。
こちらが近づく間も向こうは前進することから、迎撃にとれる時間は15分といった所。
一寸たりとも無駄にはできない。
比較的広い飛行経路を選びながら飛んでいるからか、皆しっかりついてきている。
二分ほど飛行した後とらえた。
「リーパー、レーダーコンタクト。IFFに応答なし全機、マスターアームオン。1発も無駄にするなよ!」
『『『了解』』』
視界を遮る鼠色の小惑星が存在しないかのように、IUDはその先にいる無数の標的を映し出す。
大尉殿は標的の編隊がバラけていると言ったが全速力で突っ込んだのかほとんどの標的を捉えられているように見える。
新緑の四角いマーカーで表されたそれをロックオンする。すると、私がロックしたのは赤く、僚機がロックしたのは青くが変わる。
赤、青、緑……白の小惑星と蒼い星空を背景に四角いマーカーを見るのはなかなかにカオスだな。
しかし、それは同時に全機が目標を捉えた合図でもある。
「リーパーエンゲージ、FOX3」
『アルプ、エンゲージ、FOX3!』
『ピクシー!エンゲージ、FOX3!』
『セルキーエンゲージ、FOX3!』
4機の翼下から白い糸状の雲を吐き出してESQAAMが突き進む。
標的の前に立ちふさがる小惑星を縦横無尽に避けながら、幾何学模様の軌跡を残して迷うことなく突き進む。
私を撃墜したミサイルだ。標的機ごときを逃すはずがない。
視界の右端に表示されたカウントが零になると同時に、赤、青のマーカーが消え去り、視界が静かになる。
乃ち……
「全弾命中!残兵力は二手に分かれて侵攻中。分隊ごとにこれを撃破する。アルプは私に続け、ピクシー、セルキーは左の標的機を頼む」
『了解!お任せください』
この前のように腹をさらす二人を見送り、こちらも迎撃の体制を取る。
ただ、少しだけこの前と違うところといえば、空になって投棄したESQAAMのミサイルポッドが美しい腹を少しだけ隠してしまっていることか。
まあ、仕方あるまい。重りを吊るしたまま格闘戦を行おうとしたほうがよっぽど美しくない。
「ミサイルポッド投棄。こっちもいくぞ」
『りょーかい』
小惑星間に挟み、ゆっくりと右旋回をして標的機の後方につく。
小惑星を避けて飛ぶだけで回避運動もしないなら、高性能な無人機も鴨が葱を背負って隙を晒しているに等しい。
「GANS」
軽快な咀嚼音に似た銃声と共にFCSの指示を確認するまでもなく、機首に収められた弾丸を吐き出される。
それらは見事に白銀に煌めいて飛び交う鴨の群れを、赤く、紅く染め上げた。
鮮血にも見えるそれは単なるペイント弾なのだが、いやはや、この色を選んで正解だった。
隣で狩りをするアルプ機なんて悲惨でしょうがない。無人機の編隊から噴き出す青い血飛沫なんて悪魔の血にしか見えない。
その後も我々は、ディスプレイ上に敵機が映らなくなるまで狩りを続けた。
大尉殿のいう訓練区域ラインから大分余裕を持って迎撃を完了できそうといった所。
それもそうだろう。障害といえば標的機がふいに小惑星を回避しようとして経路をずらすことくらいなのだから。
まあ、今日の訓練は余興と考えていいだろう。
すべては、明日から始まるメインの訓練のための……
さて、訓練は終わったが、一日は終わってない。腹ごしらえをしないとな。
「それで?皆、今日のスコアはどうだった?」
「僕は25です!」
「私も、25でした」
「……」
「おや?キース君、君は何機落としたんだい?」
「シュンから、言ったらどうだ」
「わかってるだろ。私は29だ」
なにせ、真横で最後の編隊をかっさらったからな。
「……21だよクソッたれ!」
さて、キース君には親らしく、豪華な鴨鍋でも奢ってもらおうかな。




