第12話 尋問
「隼」
……まずい。心当たりは全くないが、この場が私にとってまずい状況ということだけはわかる。
デブリーフィングに戻ったら明らかに殺気立った様子で仁王立ちして待っているアンナ少尉。
後続にも、同期たちが続いている。
「あー私は少し別件が……」
「……頼む!どうやったらわたしでも大尉殿についていけるんだ。教えてくれ、この通りだ」
……ん?
私を待ち構えていたときとは打って変わりアンナ少尉が私に対して頭を下げている?
そんなことなら別に教えるんだが……
ビビらせないでほしい。
「別に難しいことじゃない。アウト、イン、アウトを意識して飛行するだけだ。特別なことは何もしていない」
「何をしたかじゃない。どうやってそれをやってるのか聞きたいんだ。あのじゃじゃ馬でなんだってそんな勢いで突っ込めるんだ」
じゃじゃ馬……じゃじゃ馬?
「何を言ってるのかいまいちわからんのだが、そのじゃじゃ馬というのは……グリフォンのことか?」
「そうだよ。それ以外何があるっていうんだ?離着陸以外でちょいと操縦桿を引くと頭の中をひっくり返されそうになるし、何より最新のを積んでんのに慣性制御が追いついちゃいない。内臓からひっかきまわされてる感覚だよ。それに、加速も異次元。軽くスロットル入れただけで宇宙の果てまで飛んでっちまうんじゃねえかって錯覚しちまう。軍馬として使えるように調教されてるとは思えない」
……なるほど。相談してくれたのには悪いが。
「慣れだな」
「「「……は?」」」
「だから慣れだ。昨日、アンナ少尉をはじめ、お前らが離陸訓練している間、私はちょっとグリフォンで遊んてたんだ」
こればかりは本当に主席の特権といったところだろう。皆には悪いが、案外大きなアドバンテージになってしまった。
「普通そんなちょこっとじゃ慣れるわけないだろ……そうだ!キース、お前はどうなんだ」
「ん、俺か?まあ……強いて言うなら勘だな」
「「「……は?」」」
「俺はアルプ、女の扱いには慣れてるらしくてなあ!ちょいと飛べばシュンについていくぐらいできる」
「……あんたたちは、ほんっとにあてになんないよ」
その時、他の同期達も深く同意したのか首を大きく縦に振っていた。
……解せん。
「そいなら、自主練でもしたらどうや」
「た、大尉……」
小惑星帯を一周して戻ってきたのか。
まあ、デブリーフィングに共感が参加するのは当然だしな。
突然の登場に私とキースを除き、慌てて取り繕う同期達をいつものようにひょろけた目で眺めながら大尉殿は話を続ける。
「小惑星帯内は飛ばせられんけど、基地周辺を自由時間にトレボーはんの管制下で飛ぶ分にはわいは何も言わんで。佐々木少尉の言う通り、慣れが一番や。それに……クロフォード少尉。あんた、部隊付航空技師やろ?グリフォンは特別訓練期間後も同じ機体が支給されるんや、その他の隊員にはない知恵、使わんといてどうするんや」
「……ノア、グリフォンの飛行制御プログラム明日までに見直すよ。できるね」
「おーけー。たぶん、いける」
「俺らも、このあとちょっと飛びに行かねぇか?」
「勿論、付き合うぜ」
「なあ、俺も一緒に飛んでいいか?」
「もちろん、そこのお前も来いよ!」
数秒の沈黙の後、アンナ少尉の言葉を皮切りに同期達が一斉に訓練をしようと騒ぎ始める。
「おー、いーでーその意気や。ま、明日も小惑星帯の飛行ってこと以外伝えるようなこともないし、みんな自由にしてええで」
「「「大尉殿!ありがとうございます!」」」
そして、大尉殿の鶴の一声を合図に、皆ソラへと駆けていった。
『こちらピクシー!トレボーへ。離陸前チェック完了しました。離陸許可ください』
『おいまて、俺が先だ。こちらグレムリン同じくチェック完了、離陸許可頼むぜ』
『リュタンも忘れないでくれ。トレボー、離陸許可よろしく!』
TCSが騒がしい。多数ある射出口はこういうときのために存在するのだろうが……トレボーが大変そうだ。
『なあ、リーパー。これ、俺ら出る必要あったか?』
「別に、練習が必要なければ飛んじゃいけないなんて言われてないだろ?それに……騒がしいソラも悪くない」
『……それもそうか。そういや、大尉殿がとばすときのペースでついていけるように練習しないといけない気がしてきた』
「奇遇だな。私もだよ」
「こちらリーパー離陸前チェック完了、離陸許可願います」
『同じくアルプ、離陸前チェック終わった。離陸許可出してくれ』
『離陸許可申請、チェック完了了解。ピクシー、グレムリン、リュタン、リーパー、アルプ。cleared for take of』
『『『「了解、cleared for take of !!」』』』
その日の午後、我々は基地上空を自由奔放に飛び回った。ループに似た縦回転やロールを繰り返した同期たちは基地の合間を飛行する私とキースとは対照的にときに悲鳴を上げ、ときに酔い、気絶しそうになりながらグリフォンのコツを掴もうとしていた。
そんな同期たちの声は厨房が閉まるギリギリまでARMA基地上空にてTCS内に響き渡っていたのだった。
しかし、それらの中にアンナ、ノア両少尉の姿はなかった。
出撃前にちらっと確認したところといえば、格納庫の片隅で何やら機械を広げて無口なノアと議論を行っている姿だった。
いったい何を企んでいるのやら。
そして、翌日。
『さ、昨日はほとんど誰もついてこれんかったし、今日も小惑星帯の飛行訓練と行こか』
静寂が包み込む、昨日張り切りすぎたとかそんな馬鹿らしい理由ではない。
大尉殿が発進した後の飛行順序は無駄に争って飛行を妨害しないよう予め皆で決めてある。
飛行順序は公平に実力テストの点数順だ。ちなみにアンナ、ノア両少尉は他の隊員と共通科目に絞って点数を比較した。
結果……なんとキースの後ろにノア少尉、アンナ少尉と続いた。
さすが技術士官……まあ、できれば運ゲー野郎には勝ってほしかったが、そうもいかなかったらしい。
いや、そんな事どうでもいい。もう、始まる。
『ほな、いくで』
また、青白い残滓を残して大尉殿の機体が鼠色の星空に消えようとする。
しかし、今回は機体の影も逃さない。
大尉殿がスロットルを上げたと見えると同時にスロットルを開ける。
狗鷲が巨神を追う。
力は狗鷲が上だ。後は、技だけ。
小惑星帯入口までで一気に距離を詰める。
しかし、最初の旋回ポイントでの侵入速度は大尉殿のほうが上。
旋回も当然早く、ポイント間の直線でなんとか追いつけているようなものだ。
ただ、昨日と明らかに違う光景がある。昨日は確認する暇もなかったバックミラーに映る機影だ。
昨日は、横にキースがいた。しかし今日は真後ろにつけており、そのさらに後ろにノア少尉、アンナ少尉、その他同期たちと続いている……
アンナ少尉たちも昨日は訓練に参加していないにも関わらず順調に飛行している。
大尉殿の言う、彼女なりのじゃじゃ馬の扱い方を覚えたのだろうか?
『お、やっぱみんな今日は調子ええみたいやな。そいなら、このまま無理せず最後までついてきー』
その日、太尉殿は懸念していた全力の加速を見せることなく、我々を最後まで導いた。
しかし、全機先んじてトレボーの管制下に入らなかったことは大変な前進と言える。
大尉殿いわく「まあ、新人にしちゃ十分やろ」とのこと。
手段が、なんであれ。




