後日譚 柊兄妹
「やっぱり7年も経てば結構変わるねー」
私が小学生だった頃に比べれば相当様変わりをした街並みをきょろきょろと見回しつつ、舞は笑顔で散策する。
お兄ちゃんの足も直して、本当に久しぶりの兄妹3人での外出。
もう、叶わないと思ってた。
「そりゃあね。私の生きてきた時間の半分くらいはあるし」
まぁ、私のせいで変わったところもあるんだけど。
ちなみに、舞の体は事故当時の状態で、歳がかなり離れちゃってる。
何歳とカウントするのが正しいのかわからないけど、少なくとも精神的にも肉体的にも子供のまま。
「魔華、大丈夫か?」
「お兄ちゃん、大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから」
心配するお兄ちゃんに、笑顔を見せて大丈夫だと答える。
舞が普通に暮らせるように各所に挨拶しに行ったせいで、少し疲れてるんだよね。後悔もないし面倒だとも思わなかったけど。
「お姉ちゃん、私買い物行きたい!」
魂でいる間の記憶や意識はほとんどなかったらしいけど、それでも久しぶりだって感覚はあるようで、舞はすごくはしゃいでる。
かなりテンションが高くて、その楽しそうな表情を見てると、本当に頑張って良かったと思う。
「はいはい、どこ行く?」
「んー、あ、あそこ初めて見た! 行ってみたい!」
そう言って、つい最近出来た建物を指さす。
レディースものを多く売ってる服屋さん。
「じゃあ行こっか。お兄ちゃん」
「……まぁ、魔華と舞が楽しいならいいよ」
苦笑いを浮かべながら、どことなく嫌そうに言う。
まぁ、お兄ちゃんからすれば面倒だろうけど。
逃す気はないよ!
「いらっしゃいま……せ?」
店内に入ると、若い女性店員さんが元気に挨拶し……ようとして、途中で止まった。
その表情は、困惑と歓喜と驚愕の混ざったようなもの。
「魔華ちゃん!?」
あぁ。
んー、どうしようかな。
別にこの人に悪気はないし、ただのファンの人なんだけど……今騒がれるのはちょっとなぁ。
「すみません、今はちょっと……」
「あ、すみません! 何かあれば、お声がけください!」
私の言葉に、店員さんはハッと周囲を見回す。
そして周囲に人がいないことを確認してほっと胸を撫で下ろし、呼吸を整えてからそれだけ言って一歩下がる。
……まぁ、サインくらいはあげてもいいか。
そっとどこからか取り出した色紙を胸に抱える店員さんを横目で見て、ほんの少しの呆れを苦笑に含ませる。
お兄ちゃんもその光景に気がついたようで、持たされた大量の荷物を持って目を逸らしていた。
有名になってしまったから、まぁ仕方ないといえば仕方ないことなんだけど。
ちなみに、他の人の記憶を弄って私のことを忘れさせるのは、出来なくはない。
出来なくはないけど、その人にとって消すものが大きければ大きいほど影響が出るし、魂と記憶はかなり複雑に絡まってるから下手すると殺しちゃう。
私や私の大切なものに手を出そうとするやつならともかく、普通の人を殺したり廃人にさせるつもりはないから、これをする気はないよ。
「お姉ちゃん、これどう?」
私たちが関係ないことで笑い合っていると、舞が薄桃色のワンピースを持ってくる。
サイズもぴったりだし、可愛らしい。
「とっても可愛いし、似合うと思う!」
「やっぱり?」
「うん。買ってあげようか?」
舞には全然何もしてあげられてなかったし、甘やかしたい。
「いいの!? やったぁ!」
「じゃあ、お兄ちゃん荷物係お願いね」
冗談まじりにそう言うと、お兄ちゃんは『え、マジでこれ以上もつの?』と言いたげな表情を見せる。
「流石に怪我が治ってすぐの人をこき使いすぎじゃないかい魔華さんや」
一息でそう言いつつも、持つ気はあるあたり本当に優しい。
「いや、冗談だよ。半分くらい持つから」
「お姉ちゃーん! これはー!?」
店の奥から聞こえる舞の声に嬉しくなりつつ、この生活を守りたいなと思う。
そのためには、これからも頑張らないと。
「……でも、その前に。遊び倒すよっ!」
「……ほどほどに、お願い」
私の決意を込めた宣言に、げんなりした様子のお兄ちゃん。
これが、私たちの日常だ。
可愛くて強くて自分を救ってくれた人がいたら多分ほとんどの人がファンになると思います。