33 試練
体を動かそうと力を込めても、抜けていく。
まるで、底に穴の空いたコップに水を流しているかのような。
そんな感覚。
「あぁ、あなたのそれを私に使うのはお勧めしないわ? 使ってもいいけれど……ね?」
思い出したように、そう言い放つ。
多分、精神干渉のことなんだろうけど。
……元々、出来ることがなくなった時以外は使う予定がなかった。
だって、神なんてものの精神を、一人の人間で背負えるかと言われれば十中八九無理だと思うから。
それに、お兄ちゃんより先に死なないって約束したし。
見えている地雷に突っ込むことは、手詰まりになるまではしない。
……何で、力が抜けているのに立ててるんだろう。
顔も首も動かないから、下を見ることは出来ないけど。
一応、目だけはほんの少しだけ動いてくれる。
……そう言えば、目も乾燥しない。
瞼を閉じれないから、普通は乾いてくるはずなのに。
疲れてもこないし。
呼吸は出来てるから、私の体内はしっかり動いているはず。
血も流れてると思うし。
意識を集中させる。
足に力を込めようとしても、感覚は変わらない。
一度深呼吸をして、力を抜く。
……うん、体勢は変わらない。
これは神へと至るための条件のはず。
なら、目の前の神様と同じ状態になればクリアできる?
出来る出来ないは置いておいて、可能性はありそう。
目の前の神は目を細め、値踏みするような視線で私を見る。
その表情は笑みが浮かんでいて、余裕がありありと伝わってきた。
「どうしたの? もう終わりかしら」
こちらが答えられないのをわかっているくせに、煽るように言葉を投げかけてくる。
一見、目の前の神は普通に立っているように見える。
でも、よく見ればほんの少し、ほんの少しだけ、私より上に立っていた。
……浮いてる。
白い世界だから、わかり辛いけど。
あれと、似たような感じなのかな。
でも、何かがあるってわかっただけじゃだめ。
何かまでわからないと……。
何か、神の力で、こんなことが出来る力……。
…………あ。
分かったかも。
神の力で、普通には出来ないことを引き起こしてる力。
私はあんまり使わなかったけど、鈴ちゃん達がいつも使ってる力。
MPだ。
神様が作ったシステムに組み込まれた、神の力。
MPを、システムの力を借りずに動かす……ってこと、なのかな。
魔力操作の感覚を思い出せ。
あれと同じことが、出来るはずなんだ。
まずは、感じ取るところから。
絶対に、クリアしてみせる。
「っは、はっ! はぁっ!」
床に手をついて、息を整える。
あれから、どのくらいたった?
毎秒数えていたわけじゃないし、変化もない。
凄く、時間がかかった気がする。
でも、ひとまず抜けた。
「思ったよりも早かったわね。まずは突破、おめでとう。それが、基本的に神が扱う力よ?」
そう言って、水を作り出したり、火種を浮かべたり、突風を巻き起こしたり。
私に、練度の差を見せつけてきた。
「……と言っても、最後は魂で殴り合うんだけどね? あなたがいつも一方的に殴っているように」
目の前まで歩いてきて、私の頬に両手を添える。
そのまま顔を持ち上げて、視線を合わせてきた。
深い青色の美しい瞳に、吸い込まれるような錯覚を覚える。
「あ、れ?」
心が、優しく包まれるような。
ルイナの魅了に近いけど、あれとは違って全く不快感がない。
でも、不快感も異物感もないのに、私の頭のどこかで何かが『危ない、逃げろ』って叫んでいる。
凄く、小さいものだけど。
「あら?」
その瞬間、私の体を半透明な膜が覆う。
これ、は……忠義の?
…………そうだ、抵抗しないと。
これは試練なんだから。
ゆっくりと、起き上がる。
「ふふ、いいわ。あなたのお仲間さんに免じて、クリアにしてあげる。あとは……あぁ、一つだけなのね」
そう言うと、半透明の膜を簡単に破って、私から離れる。
「それじゃあ、行ってらっしゃい。がんばってね」
その言葉と共に、私の体が落ちていく。
意識が落ちる前に見えたのは、笑顔で手を振る神と、その神に詰め寄る私の姿だった。




