32 神界
遅れました!今章で終わらせる予定です!
「よし、準備はいい?」
振り返って、アーサー君に聞く。
〈勇気〉も、海外のダンジョン攻略で使ってなかった分のSPで取ってくれたんだよね。
あと、あの後リダがもう一回だけ来て空間を越えられるのは一人だけって言うのを伝えにきた。
行くのは私。
これは全員に賛成を貰ってる。
あの半透明の膜は12時間で消えたけど、ちゃんと待たないとダメみたい。
使用している間、忠義所持者が死亡するかなんらかの理由……それこそシステム破損とかがなければ12時間消えることはなく、膜がある間はシステム内の攻撃を完全無効、システム外の攻撃も窒息などを除いてほとんど無効出来るスキルらしいね。
「はい。始めましょう」
と言っても、正規の方法で呼び出すのはかなり簡単。
「〈楽園〉」
景色が変わって、不思議な空間に飛ぶ。
雲一つない快晴、天まで届きそうな巨大樹。
穏やかな流れの小川のせせらぎに、優しく私達を撫でる風。
ただし、生き物は全くいない。
いるのは、私とアーサー君だけ。
これが楽園の能力。
戻る時は楽園を使用した場所に戻る。
空中だろうが、水中だろうが関係なく。
ちなみに一時的に逃げられはするわけだけど、私はこの中にいる限り回復せず、消耗する。
空腹にもなるし、疲れもする。
でも傷も治らないし、休んでも疲れが取れない。
つまり、ここで生活することはほぼ不可能。
寝たきりでもご飯が食べられないから餓死する。
「楽園の支配者、叡智の使徒である私が許可する、聖剣の封印を解除せよ」
「勇気の使徒、希望の使徒である僕が命ずる。聖剣を解放せよ」
その瞬間、〈楽園〉が解かれ、頭上の空間が割れる。
魂が震える感覚。
……これは、慣れないなぁ……。
割れた空間から、ゆっくりと落ちてくる光る刀身が見える。
「……アーサー君、お願い」
深呼吸してから、お願いする。
アーサー君は私の言葉に頷いて、しっかりと柄を握った。
「……〈次元斬〉!」
アーサー君がそう呟いた瞬間、剣の光がより強く輝いた。
吹き荒れる突風と共に、ガラスが割れるような音が響き、空間に人一人が入れる大きさの亀裂ができる。
こちらから見える向こう側は真っ白な世界で、何もない。
「じゃあ、行ってくるね」
「よろしくお願いします」
剣を手放し、目を伏せお辞儀をするアーサー君を横目に亀裂に入る。
「眩し……っ」
中に入ると、正面から強く眩い光が向けられている。
ただの光のような、私を進ませないための障害物のような。
それは奥に進めば進むほど、光が強くなって行く。
左腕で光を防ぎつつ、一歩ずつ進む。
振り向いたらダメな気がして、前だけを向いて。
一歩ずつ、一歩ずつ、確実に。
丁度千歩目を踏んだ瞬間、光が収まり、広い空間に出る。
真っ白なのに、どこか暖かみのある優しさを感じる、そんな場所。
「ここ、は」
辺りを見回していると、突然正面に美しい女性が現れる。
顔立ちは可愛いよりは美しい感じの整った顔立ち。
体は出るとこは出ていて、細いところは細い、男性受けしそうな体。
白いワンピースドレスのようなものを着ていて、綺麗、と言う印象を受ける。
でも、特に目を引くのは髪。
よく晴れた日に見える満点の星空をそのまま写し取ったかのような色で、毛先に行くほど黒から紺、青、水色、白になるグラデーション。
床に着くくらい、髪が長い。
この人が、多分リダの言ってた神様なんだと思うけど……。
見た目からは、あまり想像できない。
「あら?」
優しげな、しかしどこか意地悪そうな声色。
「ふふ、いらっしゃい。どうしたの?」
ゆっくりと、近付いてくる。
私は、要件を伝えようとして——
——体が動かないことに気がついた。
呼吸は出来る、思考もできる。
でも、指一本たりとも動かせない。
「……なーんてね。あなたの目的はわかっているわ」
そう言って、おもちゃを前にした子供のように笑う。
「あなたに試練を与えましょう。まずは、その呪縛から逃れてみて?」
心底楽しそうに、「どのくらいかかるかしら?」と呟いて。
私の、神に至るための試練が始まった。




