24 試験の結果が発表される
筆記試験が終わった。ロゼッタ先生はお昼の時間を返上して、採点をしているらしい。
私たちは食堂でご飯を食べていた。
女子生徒は固まって座っている。
食事をしながらも、私はそわそわして落ち着かなかった。
横にいるティアとノルちゃんも落ち着かない様子だった。
試験の結果を気にしない生徒もいて、気楽な感じで雑談をしている。
例のお菓子トラップについて話をしているようだった。
「ほんとにお菓子を食べたのかな? バジットに変わった様子がないんだけど」
「別の意味で様子がおかしいよ。ずっとこっちを見ているし……」
「まだあの手紙のこと、話していないの?」
本人は気づかれていないつもりのようだが、バジットのことは誰もが気になっていた。クラスの女子たちはそういった視線には敏感なようだった。
私は試験の結果のほうが気になって、バジットどころではなかった。
◆ ◆ ◆
午後になるとすぐに、試験の結果が伝えられた。
「今回、満点をとった生徒がいました。これだけ難しい試験で満点をとるとは、よほど普段からしっかりと勉強をされているのですね」
クラスはどよめく。ティアもノルちゃんも、誰だろうと周りを見回していた。
私も試験の結果には自信があったが、満点を取れたと思えるほどではない。何人かの視線がユニスに集まっており、その予想は当たっていた。
「満点はユニスさんです。では、解答用紙を受け取りに来てください」
彼は教壇へ向かって、先生から受け取った。
クラスからは称賛する声と拍手が上がる。
ユニスは照れ臭そうに受け取って、席に戻ろうと歩きだした。
すぐ横を通ったので、私は声をかける。
「すごいね。満点だなんて」
自分のことのように喜びながら、明るい声で話しかけた。
ユニスは顔を赤くしながら恥ずかしそうにしていた。
「まぐれだよ」
ティアがねだるようにユニスに言った。
「ねえ、見せて、見せて。満点の答案」
ユニスは快く見せてくれた。
私は横からそれを覗き込み、ノルちゃんも身を乗り出してくる。
そこにあったのは私の答案とはまったく異なるものだった。文字でびっしりと埋め尽くされている。まるで高名な学者が難しい書物を記述したかのようだった。
私の答案との違いに、愕然としながらも、目に焼き付くほどに凝視した。
これが模範解答というやつなのだ。
しかし、ちょっと待て。
私が書いたものとの差が大きすぎる。
山に住んでいたときに、本はたくさん読んでいた。
ほとんど絵ばかりで構成された本から、ページが文字で埋め尽くされた本まであった。
幼児向けの絵本は絵で構成されており、文字はほとんどない。
大人向けの本はこのユニスの答案のように、文字がびっしりと埋まっていた。
私はその文字がびっしりと埋まっていた本を暗記するほどに読み込んでいた。
読むのは得意なのだ。
だが、書くことはまったくと言っていいほどできなかった。
なぜなら、山に住んでいたら文字を書く必要性がなかったからだ。
そもそも文字というものは高名な学者が書くもので、普通の人には必要がないと思っていた。
「ノルンさんは68点ですね。ティアナさんは、65点です」
点数は口頭で発表され、生徒全員に公開される。
しかも、点数の高い順番で呼ばれていた。
次々と名前が呼ばれ、最後に残されたのはバジットと私だけだった。
ティアとノルちゃんは不安そうな顔をしていた。
「ほら、フィーちゃんは生徒とは別に発表するんだよ。きっと点数に関係なく、後回しにしたんだって……」
慰めるようにティアは言ってくれる。
しかし、結果はすでにわかっていた。
ユニスの解答を見た時点で察したのだ。
あまりに強烈な印象を受けたため、脳裏で鮮明に映像化されたほどだった。
暗記しているたくさんの本とともに、ユニスの答案は私の記憶に刻み込まれた。
「みなさん、よくがんばりました。ですが残念ながら、二名の落第者が出てしまいました。合格者はこのあと自由時間とします。落第されたお二人は、今から追試験です」
先生のこの言葉で、すでに私の落第は確定していた。
「まず最初の落第者は、バジットさん。32点。もう少し頑張りましょうね」
バジットは解答用紙を受け取るが、なぜだか嬉しそうな顔をしている。こちらに顔を向けて、満面の笑みを浮かべた。ぞわぞわとした悪寒が走る。
しかし、それどころではなかった。今から私の結果が発表されるのだ。
「……そして、フィルさんです。……ですが、ちょっと問題がございまして……」
先生は少し言葉を濁していた。
「フィルさんの点数は、0点、と言いたいところですが、伝えたいことが伝わってきましたので15点をつけました。次からは絵ではなく、文章でお願いしますね。それにしても見事なものです」
先生は私の解答用紙を生徒たちに見えるよう掲げた。
「おお……」
「すげえ……」
感嘆のような、どよめきが起こった。
「芸術点で採点したら120点を差し上げたいところです」
生徒たちは一斉に笑い声をあげた。
「お二人はこれから追試です。合格するまで終わりませんからね。他の方々は午後を自由時間とします」
私が答案を受け取って席に戻ってくると、生徒たちが一斉に集まってきた。食い入るように私の解答用紙を見る。
「見せて、見せて」
「おお、本当にすげえな」
「どうしたらあの時間で、これだけ書き込めるんだ?」
「陰影の付け方が神がかっているな」
「ここは塗り潰してるんじゃない。網がけだ」
生徒たちは、だんだん批評家のような口調に変わっていった。
「この線の繊細さ、ここの滑らかな曲線もみごとだ。魔物の恐ろしさを強調するような力強さもある」
「この眼を見ろよ。なんだか本当に光が反射しているみたいだ」
「何年修行したって、これだけのものを描けるようには思えない」
「神々しさすら感じる。遥かな高みを見たようだ」
「才能ってあるんだな……」
「天から与えられた恩寵と言っても、過言じゃない」
「あまりの才能に、打ちのめされた気分だ……」
「すごい。すごいという言葉しか出てこない……」
大袈裟に褒める生徒だったが、どんなに褒められても嬉しい気持ちが湧いてこなかった。
それよりも、これからの追試が問題だった。結果が出せなければ意味がないのだ。
私は文字が書けない。自分の名前を書くことで精一杯だ。
これで一体どうやって試験を突破できるというのだ。
クラスのみんなは自由時間となって、もろもろ退出していった。
ノルちゃんは教室を出る間際に、私にポーションを渡してくれる。
「はい、これ。どんな状態異常でも回復できるよ。追試に苦労したら飲んでね」
ポーションを渡しながら、ノルちゃんはちょっといたずらっぽい顔をしていた。
何かに期待している目だった。
ポーションの瓶を眺めると、見覚えのある文字が書いてあった。
「練度7。このポーションって通称セブンスと呼ばれてるんでしょ? 大金貨で十五枚くらいするんだっけ? ありがとう。もらっておくね」
私は何気なしに言った。反応が薄い私を見て、ノルちゃんは天を仰いでいた。
「ああ、そうだったあ」
額に手を当てて、上を見る。
「フィーちゃんはルディアスの妹だったー。びっくりさせようと思ったのに」
なるほど。高価なポーションを私に渡すことで、驚かせようとしていたのだ。
「私も友達にあげたことがあるんだよね」
「フィーちゃんも同じことをしているんだ。大失敗。ドッキリが玉砕です」
ノルちゃんはぺろりと舌を出していた。
「じゃあ、追試がんばってね。あと、バジットの嫌らしい視線に負けないように」
そう言ってノルちゃんは去っていった。
教室にはバジットと私だけが残される。
そうだ。この教室でバジットと二人きりになるのだ。
前途多難な試験はなおも続く。




