4 初めての授業は居眠りで終わる
学園での授業が始まった……はずなのだが……。
「起きて。二人とも起きてよ」
誰かが私を揺り動かす。
心地よい眠りを妨げられた私は、寝ぼけながら声を出した。
「もう少し……。寝かせてよ……」
それでも私を揺する手が止まらなかったので、眠い目を擦って起き上がった。
周りを見回す。
「あれ? ここどこ?」
たくさんの生徒が私を取り囲んでいた。
横では机に髪を広げてすやすやと眠る少女。確か名前は……。ノルちゃん。
私を起こしてきたのはティアだ。
そうだ、二人の間に座って授業を聞いていたのだ。
授業は確かに途中まで聞いていた。
だけど、第一領域の魔法がどうとか、基本、初級、中級、上級と分類されており、第一領域でもっとも難しい魔法はクラス4相当……あたりで睡魔に襲われたのを覚えている。
「もう、二人とも授業はしっかり聞かないと!」
ティアは呆れた声を出していた。
ノルちゃんは相変わらず横で寝たままだ。
私が目を覚ますのを待っていたのだろう。周りを取り囲んでいた生徒たちが一斉に話しかけてきた。
「ねえねえ。冒険者なんでしょ?」
「騎士団長様の妹なんだって?」
男性が多い冒険者だが、クラスの生徒は男女比が3:2ほどで女子の生徒も少なくない。そのほとんどがここに集まっていた。
「今までで倒した魔物の中でどれが一番強かった?」
「いつ六級に昇格したんだ?」
「報酬っていくら貰えんの? 報酬で何か買った?」
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
ティアはすぐ横で肩をすくめていた。ユニスもやってきて、人混みの後ろから覗き込んでいる。
私は一人一人の質問に答え、その度に、「すごい」だとか「もっと聞かせて」だとか「意外と報酬は少ないんだな」とかの反応があった。
たいしたことはしゃべっていないのだが、生徒たちは本物の冒険者とあまり面識がないらしく、私の話を興味深く聞いていた。
冒険者になったばかりの私の話なんて面白くもないと思うのだが、まるですごい冒険談を聞くかのように熱心に耳を傾けていた。
だが、最後部の席からは意地の悪い声が聞こえてきた。
「はんっ。たかが六級だろうが。どうせゴブリンを退治しました、とか、パーティ組んでダンジョン行きました、だとかその程度だろ。六級じゃできることは知れてるわな」
机に肘をつき、手の上に顎を置いている。下目遣いで私たちを見下ろしていた。
バジットは見事に図星をついてきた。私が依頼として達成したものはゴブリン退治と荷物持ちだけだった。
「六級じゃパーティを組んでも下っ端扱いだな。次は外に出て魔法の実習授業だ。Bランクの俺様が実力を見極めてやるよ」
偉そうな言い方だった。横にいる取り巻きらしき男子生徒の二人もにやにやしていた。
私を含め、クラスの誰もが彼に言い返せないでいたが、一人の男子生徒が声をあげた。
「お……、おい! バジット!」
どもりながら大きな声を出したのはユニスだった。
「フィルさんはね、すごい冒険者なんです! ここへ来るときに強盗を捕まえたんです!」
ユニスは細身の体を奮い立たせ、バジットに向かわんばかりに叫んだ。
叫んだといっても、体同様に声も細くて迫力はなかった。
「何言ってんだ、ユニス。冒険者なら当たり前だろ。馬車の護衛なんてよくある依頼なんだし。まあ、六級向けの仕事だな。俺のような四級相当にはまず回ってこない仕事だ」
「強盗に出くわすなんて、そうあることじゃありません! 僕だって一緒に手伝ったんですよ! 誘導催眠だってかけました!」
「強盗が弱かったんだろ。ユニスの誘導催眠で眠るなんて雑魚中の雑魚じゃないか」
「バジットは見ていないから知らないんです! フィルさんのすごい力を! 相手は十三人もいたんですよ!」
「ほう、どうすごいんだ? 六級冒険者だろ」
「フィルさんはね! 天候や地形を操作する第三領域魔法を使って、大勢の強盗を一網打尽……むぐっ……ぐふっ」
私は慌ててユニスのところへ飛んで行き、手で口を塞いだ。ユニスはもごもごと言っている。
これ以上、喋らせるわけにはいかない。
私は第三領域どころか、魔法すら使えないのだ。
ところがユニスの言葉に教室はざわめいた。
「第三領域!?」
「ありえない」
「確か授業でやったよな。第三領域の基本魔法ですらクラス9相当だ」
「クラス9以上は一級や特級の領域だって」
「でも、特別な固有能力を授かっていたら下級冒険者でも使える人はいるとか」
「そんな人はすぐに上の階級へ昇って行くって聞いた」
なんだか話が大きくなっていく。
もう! ユニスはなんてことを言ってくれるんだ。
天候や地形を操作?
そんなことはできるはずがない。
私は魔法がまったく使えない六級なのだ。
否定しておかないとまずいことになりそうだ。
「みんな、私はそんなすごい魔法なんて使えないの。ユニスが大袈裟に言っただけなんだよ」
周りの生徒たちは顔を見合わせる。
私の言葉に、みんなは一応、納得したようだった。
「そうだよね。さすがに第三領域はないよね」
「ああ、でもきっと強力な魔法で強盗を退治したんだろうな」
「次の授業は魔法の実習だ。なんだか楽しみになってきた。本物の冒険者の魔法を間近で見られるなんて」
みんなは私の魔法に期待しているようだった。バジットは、ちっと舌打ちする。みんなが私に関心を持つことが気に食わないようだった。
それにしても。
ああ、本当にユニスは……。
とんでもないことを言ってくれた。
次は実習だと言っていた。さっきみたいに寝ているわけにはいかなそうだ。
みんなの羨望するような眼差しが辛い。
ティアまでが目をきらきらと輝かせて私を見ている。
お願いだから、そんな眩しいものを見るような目で見てこないで。
どうすんの、これ?
どうやって切り抜ける?
短剣の衝撃波で誤魔化すとか絶対無理だよね。
冒険者になって以来の最大のピンチが訪れているのではないだろうか。




