33 助けを求めて
岩を掴む。
体を引き寄せる。
腕を伸ばし、岩を掴む。
足場を確保し、体を持ち上げる。
腕を伸ばし、岩を掴む。
こんな簡単な動作の繰り返しに、どれだけの時間をかけただろうか。
なんとか必死の思いで壁を登り、横穴へと体を持ち上げる。
這うように前へ進むが、思うように足が進まない。
杖でもあったら楽なのに、と考える。ライラさんの長剣の鞘でも借りてくればよかった。
ライラさんはどのくらいで回復するだろうか。治癒のポーションはどれくらいライラさんを回復させてくれるだろうか。
フレア様は大丈夫だろうか。一人で二匹のアサシン・フロッガーを相手にして怪我でもしていないだろうか。
二人のことを心配しながら、苦笑いする。
まだ七級の私が上級冒険者の二人を気にかけるなんて、おかしな話だ。
私なんて生きているだけで奇跡だ。一人だったらとっくに死んでいたかもしれない。
それでも、私にできることはある。
ボルザとエミルといっしょにダンジョンを脱出したときもそうだ。
私だけができることがあった。
ライラさんやフレア様にないもの、ボルザやエミルにないものを私は持っている。
お兄ちゃんとの訓練。
お兄ちゃんからの教え。
でも……。
だめだ……。
がくりと膝をつく。
あまりの痛みと疲労で今にも気を失いそうだった。
壁に寄りかかって体を支える。倒れそうになるのを、なんとかこらえる。
横になってしまったら、もう立ち上がれないかもしれない。
かといって、足を踏み出すこともできない。とても動けそうになかった。岩壁を登ってくるのに、ほとんど気力と体力を使い果たしていた。
(――助けを呼びに行かなくちゃならないのに……)
意識が遠のきそうになったとき、フレア様の言葉が頭の中で響いた。
私の言葉に、フレア様は反論したのだ。
アサシン・フロッガーは敵国の冒険者がつれてきた魔物だと、私が指摘したときだ。
『――ありえないです! あの国が超絶級冒険者を国外に出すなんて!!』
どうしてフレア様はあんなことを言ったのだろう。
朦朧とした頭で必死に考える。
あの国とはソヒィスト信仰共同体のことだ。
なぜ、ソヒィスト信仰共同体は超絶級を外に出さない?
だめだ、思考がまとまらない。
でも、考えなきゃならない。
これは大事なことのような気がする。
思い出せ、お兄ちゃんが言っていたことを。
『ソヒィスト信仰共同体は〝力〟を崇める。それは国家の安全を揺るぎないものにするため――』
そう言っていた。
神を信仰する代わりに〝力〟を信仰している。
力を崇めるのは国家の安全のため、国民の安寧のため。
それだけではない。賭博を許さず、賭け事をするだけで死罪にするような国だ。国が博打のようなことをするなんてことはしない。超絶級冒険者を国外に出すと、戦力が落ちて他国に攻め込まれる可能性がある。危ない橋は渡らない。
そんな国がなぜ〝力〟を外に出した?
博打のようなことをした?
それには理由があるからだ。
では、ソヒィスト信仰共同体がこの国に超絶級冒険者を送り込む条件とは?
考えろ、考えるんだ。
どうなれば、自国の安全が脅かされない?
もし超絶級冒険者を国外に出すとしたらどういう状況だ?
考えろ。
どういう状況だ……。
……!!
その時、私は嫌な仮説にたどりついた。
これならあの国が超絶級冒険者を国外に出す可能性がある。
でも、まさか――。
「ここに……三人いる!?」
この国は三つの国に囲まれている。
ソヒィスト信仰共同体だけでなく、ドレイン共和国、ラインハルト帝国も結託しているのではないか。
それぞれ一人ずつの超絶級冒険者を送り込んだのではないだろうか。
「ここに三人も……超絶級が……」
このダンジョンに敵国の超絶級冒険者が三人もいるというのか……。しかも三国は協力体制をとっている。
「そして、この国を罠にはめた……」
相手に悟られていないと部隊長ダイモスは言っていた。敵国の超絶級は袋の鼠だと。
そうではない。ここにおびき寄せられたのだ。
ダンジョンという密閉された空間で、三人がかりでこのモルク王国の超絶級冒険者を葬るために。
袋の鼠は私達だ。
私が驚愕の仮説にたどりついた時、男の声がした。
「僕と同じ結論だね……」
幻聴だろうか。いや、そうではない。
確かに聞こえた。
目の前には少年がいた。




