真似ぶ
火や水、土の槍や不可視の風の刃など、多属性の魔法攻撃がリオンに向かって降り注ぐ。
リオンとルベリオスの戦闘が始まってから数分。
間髪入れずに放たれる魔法に最初は感心していたリオンも、その手数の緩慢さに次第に飽きてきていた。
当然リオンとしても、ルベリオスがおばあちゃんの知恵袋並みに様々な攻撃手法があるとワクワクしていたが、今の所変わり映えしない。
更に威力も一定なので、今ではそのどれもが着弾する前にリオンによって弾かれるか霧散していた。
リオンも手加減して魔法を10門〜20門くらいをちょくちょく放つが、余裕で躱される。
「お前ひとりで戻ってきたのか?もう手札がねえから終わりにするぞ?」
飽きたリオンが闇槍を今までより少し多い50門程作り出し、射出する。
だがルベリオスは慌てた様子も無く、更にリオンの言葉に反応する事なく全てを回避する。
虚しく外れた闇槍が地面を抉り耕していく。
彼女は変わらず、一定間隔で一定魔力量の魔法を放ってくる。
それにも関わらず無詠唱で放つ事と、威力がイヴ以上なのを思うとルベリオスは噂に違わぬ元高位冒険者だったのだと感じ取れる。
ロストルムやネアと良い勝負しそうではあるが、ギリアム帝国でレイと戦い、更にそこから進化を遂げたリオンにとっては元オリハルコン級であったとしても、人族が1人だと弱過ぎて退屈だと感じていた。
「魔法戦も見栄えがいいがよ、俺としては近接戦の方が好きなんだがお前はどう思う?」
趣向を変える為、放った魔法と違わぬ速度で接近したリオンが右前脚を振り下ろす。
相変わらず返答は無いが、今回は少し驚いた様子で表情を歪ませながら回避する。
しかし全ては回避出来ず肩を少し抉り、鮮血が飛び散る。
「無視は悲しいねぇ。なあなあ、そろそろ本気出せよババア、つまんねえよ俺。何のために戻ってきた?勝算あっての事だろ?早く出せよ手札の2枚や3枚よぉ」
問い掛けつつ両前脚を上げ、後脚だけで立ち上がるとそのまま攻撃を繰り出した。
上下左右から迫る爪撃にギリギリではあるが避けているルベリオスだが、リオンの攻撃範囲が広い事と、攻撃速度が徐々に上がってきた事で次第に避け切れずに身体中に切創が増えていく。
(これでも何もしねえか……。えぇ……マジで何もねえのか?死にに出てきただけ、か?んなタマじゃねえだろうが……ん?)
考え事をしながら攻撃していると肉を抉る音が次第に金属音を削る音へと変化している事に気付く。
意識を音のする方へ向けると、そこにはルベリオスが両手に透明な盾を展開していた。
「何だそれ?盾?魔法か?んー、光の障壁に似てるけど……属性はちげえが障壁の範囲指定、か?クハハ!器用なもんだな。最早障壁じゃなく魔法の盾だな」
ギャリギャリと音を響かせ、攻撃を往なすルベリオスに感心するリオンだったが、それでもそこまでで、自然とため息を溢す。
「ハァ、確かにそれは凄え高度な魔法技能だし、攻撃を往なす技術もそら凄まじい鍛錬の日々だったんだろうよ。だがよ、そりゃあくまで対人か同程度の大きさの相手向けだろ?俺の攻撃の威力を殺しきれてねえよ」
独り言の様に淡々と話すリオンに、彼女からは当然返答は無いが、その言が正しい事は彼女の両手を見れば分かった。
透明だった魔法の盾も血で染まり、幾度も砕けては再生させたからか魔法の盾は歪な形になっていた。
肩で息をするルベリオスに呆れた様子のリオンは両前脚を戻すと再び魔法攻撃に切り替えると脳内会議を始める。
(ツバサ、テースタ、周囲に人族の反応はあるか?)
(無いわね)
(無いのぉ)
(だよなぁ。どう思う?)
(そうねぇ、態々転移で戻ってくるのだから何か準備はしていると思うわ)
(時間かせぎとか〜?)
(準備に時間稼ぎかぁ、確かに俺もそう思うが、時間稼ぎってどう見ても俺等次第じゃねえか?)
(ん〜?どういうこと〜?)
(手を抜いてあげているだけで、いつでも殺せるって言いたいのよ、ルプ)
(あぁ〜なるほど〜)
(それか蚊共と一緒で死んだら発動する呪いの類の準備かもしれんしのぉ)
(それはそれで面白そうだし一番シンプルで楽だよなぁ。でもそれなら最初の魔法戦で自分から死んでんじゃね?)
(まだその準備が終わってないだけかもしれないわねぇ)
(ゴチャゴチャ面倒臭えよ!!塵にしちまえばいいだろうが!!)
(お前はホント俺とは思えねえ程バカだよな。逆に羨ましいよ)
(んだとッ!!)
(あー、はいはい。そういうのいいから。暇なら俺の代わりにアイツ攻撃してろ。ただしまだ殺すなよ)
(わたしもやる〜)
(おう、ロンのお守りは頼んだぞオピス)
(死ねッ!!)
ロンとオピスが参戦する事でリオンの攻撃パターンが変化する。
先程までは唸るだけだった右頭の紅竜のロンと尻尾の銀蛇であるオピスの攻撃が開始した。
ロンは灼熱のブレスによる範囲攻撃や炎弾や炎槍などの点攻撃を、オピスは邪眼と土魔法を主体にルベリオスを苦しめる。
ある程度の資金的余裕があれば邪眼などによる状態異常は魔道具によって防げるのは身を以て知っていたので、今回もルベリオスには通用しなくても特にリオンは驚かなかったが、そこは普段話を聞いていないオピス、当然のリアクションをする。
(えぇ〜!?なんでなんで〜!!わたしの邪眼が効かないよ〜?どうして〜?)
脳内に響く雑音として処理されたオピスの叫びに応える者は居なかった。
いい感じに戦闘が続く事を確認したリオンは再び脳内会議を始める。
(あっちの様子を聞こうにも、これイヴ意識ねえな)
(どうせ暴れたから無力化されちゃったのよ)
(いつまで経っても雑魚だなアイツ)
(コラッ!イヴちゃんはいつも頑張っておるわい!)
(アホかジジイ。その頑張りが足りねえっつってんだよ。努力なんて大小の差異はあれど誰でもできんだからな)
(あらあら、厳しいわねぇ)
(んな事ねえよ)
(ふん!それならお主も彼奴からこの機会に色々と吸収せんかい!!)
テースタが示す存在、ルベリオスにリオンも視線を向ける。
現在進行形でロンとオピスの猛攻に耐えている彼女から、何を吸収するのかと首を傾げるリオンにテースタは呆れながら応える。
(魔法の運用に関してはお主より上じゃろうからな。殺す前に少しでも技術を奪い、自分の糧にしろと言うておる。大雑把なお主でも実りある時間じゃろうて)
(あぁ、なるほどな。確かにあのちっこい盾とか便利だしなぁ。仕方ねえ、少し観察してみるか)
(それなら暇だから私は攻撃に参戦するわ)
(は?いいけど、殺すなよ?)
(バカね、アナタ達と違ってちゃんと調節するわよ)
(どの口が言ってんだよ。それに俺はバカじゃねぇ)
脳内会議の結果、テースタの案を採用してルベリオスの魔法技能や技術を学ぶ事になった。
彼女としてはツバサが参戦し、更に過酷な状況になったのにも関わらず、相変わらず淡々と一定の距離を保ちながら一定魔力量の魔法を放つ事を徹底していた。
疲労が滲む顔からはその思惑は読み取れなかった。




