それぞれの合図
リオンが【神槍】との真っ向勝負で炭化されていた頃、現場から転移したルベリオス達はリオン邸に降り立っていた。
未だ魔力が回復しきっていないルベリオスは立っていられず座り込み、状況を理解していたエリーゼとフェルト、リヴァイスの3人は無意識に北を向き、この家の持ち主であるキマイラの終わりに目を伏せた。
ルベリオスとの密約で転移していたアドレアは人目がつかない場所でウピルが居るであろう北を向き、勝ち誇った顔をしていた。
イヴは異変が起きた際に目を覚まし、リオンが居ない事を確認して即座に部屋を飛び出したが、突如ネックレスが光り目を瞑ってしまった。
次に目を開けるとそこはリオン邸という状況に、頭が追い付かず固まってしまっていた。
しかしこの場には、当事者以外の人物がひとりお留守番しており、突如現れた人物達に驚きながら声を掛ける。
「あ、あれ!?みなさん、どうしたんですか!?いつの間に帰ってきたんですか?」
全員の視線が狐人族のマリーに向けられ、一番最初に応えたのは年長者でもあるルベリオスだった。
「ただいま〜。占拠されていた場所に強力な魔物が多数居てね。エルフ族に伝わる魔道具で一掃する事にしたんだよねぇ。威力が威力だから私の転移の魔道具で戻ってきたの」
ルベリオスの言葉でマリーは理解が追い付かず、混乱した様に頷き、エリーゼ達は顔を伏せた。
そしてイヴが再起動した。
「え?あ、そ、そうなんですね。あれ?で、でもリオンさんでも対処できない程厄介な魔物の群れだったんですか?」
「あはははは。あぁ、そうだねぇ。やっぱそう思うよねぇ」
マリーの指摘に乾いた笑いを溢すルベリオス。
そして彼女は周囲をキョロキョロして、再びルベリオスに視線を合わせて首を傾げた。
「というかリオンさんはどこですか?」
その言葉が引き金になったのかイヴが無言でルベリオスに迫ると、自身の黒剣を振り下ろした。
鈍い金属音が響いた事で、周囲が漸く状況を理解して叫んだ。
「「「イヴッ!?」」」
「あはは。いきなりどうしたんだいイヴ君」
「それは自分が一番分かっている筈ですよ!!アナタが何をしたのか!!誰を殺そうとしているのか!!」
イヴの剣幕にエリーゼ達が近付けないでいると一番状況を分かっていないマリーが声を掛ける。
「えッ!?イヴ、何があったの!?その怒り様とリオンさんが居ないのは関係があるの!?一旦落ち着いて事情を話してみて」
「どうもこうもない!この人が!私のリオンを殺そうとしている!!せっかくリオンがレオーネさん達に引越しを提案して受け入れられたのに!!平和的に解決できたのに!!それをアナタがすべて壊した!!」
イヴの怒声による説明をなんとか噛み砕き、理解しようと頑張るマリー。
そんな彼女が言葉を組み立てる前に、再び乾いた笑いがルベリオスから発せられる。
「ははは。甘い、甘いよイヴ君。君は本当に甘い。生息場所が変わっても魔物は人族の脅威に変わりはないよ。そもそもね、魔物は滅ぼす以外の選択肢はないんだよ」
「ふざけるな!彼等は意思疎通が可能だった!理性的だった!!私達は一度も襲われなかった!!彼等の信頼を一方的に断ち切ったお前は魔物よりも醜悪な存在だ!!」
「ははは。それは……リオン君が居たからだよ」
「ッ!!でも!!」
「イヴ君、君も分かっていただろ?彼等彼女等の私達人族を見る目には敵意が宿っていたよ。もちろん全員ではないのは理解しているが、それは放置する理由にはならない、よ!!」
ガキンとイヴの黒剣を弾いたルベリオスはヨロヨロと立ち上がる。
逆にイヴは、心の奥底では理解している魔物と人族の関係に反論の言葉が出て来ず、唸る。
こう着状態の2人に、再度マリーが言葉を投げ掛ける。
「落ち着いて2人とも。あ、あとリノアさんとウピルさんはどこなの?」
沈黙が場を満たし、その反応が答えであり、察したマリーは顔を青くするとリオン達が向かった北方に視線を固定した。
するとそのタイミングに合わせたかの様に北方の空から地上に一条の光が落下した。
驚きに声を発しようとする前に、衝撃波や衝撃音が全員の全身を叩き付けた。
街の方では、先程まで静まり返っていたが、今では喧騒がここまで響いてくる。
ここでルベリオスは冷静に近くに居たエリーゼ達に素早くとある指示を飛ばす。
内容に困惑していた3人だったが、大人しくすぐさま行動を開始する。
指示、それはイヴの確保だった。
イヴは【神槍】が落ちて暫くしたら即座に行動を変更し、リオンの元に行く事に切り替え、走り出していた。
そんな行動を読んでいたルベリオスに先手を打たれ、イヴは3人に抑え込まれてしまった。
「ぐぅ。は、離して!!私は、私はリオンの所に行かないと!!離して!やだ!やだやだ!離して!やだぁ、ずっと一緒だもん!リオン、リオン待ってて!私が、、、、」
「ごめん、少し眠っててね」
3人の拘束すら破りそうな勢いのイヴに、ルベリオスは魔法で強制的に眠らせた。
そんなイヴの姿に3人は力が抜けた様に座り込み、悲しそうな顔で彼女を見つめ続け、ポツリと誰かが呟いた。
「これが、ホントに正しい事なの?」
その言葉に応える人物はおらず、代わりにマリーがルベリオスに問い掛ける。
「イヴは私の方で預かります。ルベリオスさんはこれからあどうするんですか?」
「そうだねぇ。とりあえずギルマス達に合流して今後の方針を話さなきゃねぇ。エリーゼ達もお留守番だよ、イヴ君が起きたらしっかり話し合いなさい。それとマリーさん、あっちにいるアドレアさんの対応もお願いしていいかな?」
マリーが木影にいるアドレアに視線を向けると相手は丁寧にお辞儀をしたので、軽い会釈で返した。
「良いですよ。その代わり、今日はお休みをもらいますとギルマスに言っておいて下さい」
「はは。ちゃっかりしてるなぁ。でもまあ、正直助かるよ」
「それくらい当然です」
「そうだね。じゃあ私はそろそろ行くよ」
「はい」
ルベリオスは空間魔法を発動させ、この場を後にした。
マリーは残された面々を見て、内心ため息を溢したかったが、眠る前の悲痛な叫びを上げるイヴの姿を思い出し、自らを奮い立たせる。
全員をリオン邸に入れ、イヴをベッドに寝かせるとマリーは全員が揃っているリビングに移動する。
アドレアを除く3人の顔色が悪いが、マリーもリオンが心配であるし事情も把握しておきたいと思っていたので、全員分の紅茶を用意してから話を聞いた。
最初にアドレアの自己紹介とここに居る経緯を聞いてみたら、話が進むにつれてマリーの眉間にシワが増えていき、最後は頭を抱えてしまった。
吸血鬼族というだけでも厄介だが、更に王族、しかも友達になったウピルを殺そうとルベリオスに話を持ち掛け、彼女はそれに同意してウピルには転移のネックレスを渡さなかったと。
ちなみにリノアは転移のネックレスが足らず、握ってすらいない蜘蛛の糸を切られたらしい。可哀想。残念。
とりあえず、アドレアの今後はルベリオスに一任するとして次、先程の空と地上を繋いだ一条の光の帯について3人に話を振る。
詳細は誰も知らなかったが、ルベリオスが古代の魔道具を発動すること、タイミングをみて全員を転移のネックレスで逃がす事が伝えられていた。
(これは、あの人なりにこの3人を巻き込みたくなかったのかな?でもこれじゃあ、もうイヴは納得しないわよね。これでもしリオンさんが死んじゃったら………大変ね。あぁ、リオンさん、イヴのためにも生きててよ〜)
ここまでの会話で数時間が経過したのか、既に空が白み始め、そろそろ夜が明けようとしていた。
そんな疲弊した彼女は、心の中でリオンの生存を祈る思いが通じたのかどうかは定かでは無いが、タイミングよく再び空から轟音と衝撃波が家を揺らす。
全員で慌てて外に出ると、空から燃えた固体が複数落下していた。
それが何かは不明だが、マリーにはそれがリオンからの生存確認の合図だと感じて安堵の笑みを浮かべた。
逆にギルドでは調査隊兼討伐隊が組む組まないと意見が割れていたが、空からの落下物を確認したギルマスの鶴の一声で即座に結成され、ルベリオス協力の元、出陣していった。




