教育係任命
レオーネとの兄弟水入らずで過ごした翌日、約束通りレオーネの息子、フォルティスに会うために朝食を済ませた一行は息子が閉じ込められている塔まで向かう事にした。
同行者はイヴだけで他は待機の自由行動。
本当はイヴも留守番だったが、レオーネが魔人族であるイヴにも付いてきてほしいと、謎の懇願を言ってきたのでリオンは本人の意思に任せて丸投げしたら、付いてきた。
「レオーネさんってリオンの弟さんなの?」
「そうだな」
「そうなんだ。じゃあ私のお義弟さんってこと?」
「クハハ、そのバグった思考回路は間違ってるから捨ててこい」
「え?じゃあなに?」
「は?ただの俺の弟だろ、ってお前マジか……その澄みまくった瞳は自分が何を間違ってんのか分かんねえって顔じゃねえかよ、こわっ」
「え?リオンは私の家族だよ?」
「えぇ、やば。…………ふむ。まあいいか、好きにしろ」
「うん!」
面倒臭くなって全てを投げたリオンとそんなリオンの言葉を全て肯定的に受け取ったイヴは満面の笑顔で頷いた。
そんな様子を見ていたレオーネはリオンの横に来るとコソコソ話かけてきた。
「やぱりイヴは番だったのだな。兄さんも魔人族の魅力に目覚めたのだな」
「は?ちげえよ。あといつ間に『兄さん』なんて呼ぶ様になったんだよ。やめろ気持ち悪りいな」
「クハハ!照れるな照れるな、クハハハハ。いやなに、今は配下達の前の『陛下』ではない、ただのキマイラでリオンの弟の『レオーネ』なのでな。そういう風に付き合える存在は初めてなのが新鮮で嬉しくてな。まあ許せ、クハハ」
「ハァ、人族みてえな事言いやがって……」
楽しそうに笑いながら会話を楽しむレオーネにリオンはため息を吐く。
拒絶の意思を示す前に脳内に念話が響く。
(ねえねえリオン、ひとがたになって〜)
(オピス?なんでだよ。キマイラボディでいいだろ)
(もう〜元の姿だとわたしが外に出られないでしょ〜?)
(ん?あぁ、まだそうなのか。だがそれがどうかしたか?)
(もう〜!相変わらずリオンはバカなんだからぁ。今からわたしたちの甥っ子ちゃんに会いに行くんだからわたしが出てた方がいいでしょ〜?)
(…………そうか)
オピスの発言に思考を放棄したリオンが大人しく擬態した。
それに追従する様にレオーネも人化をしてリオンに近付いてきた。
「おぉ、兄さん。会う時は人型でとお願いしようとしていたが、その手間が省けた。助かる」
「その感謝はリオンじゃなくおねえちゃんのわたしに言うべき!はい、やりなおし」
「そうだぞ〜?ルプおねえちゃんにも言ってごら〜ん?ほらほら〜」
「ぐっ、オ、オピス、姉さん……ルプ、姉さん……」
先程まで楽しそうにしていたレオーネも絶壁セットに詰め寄られタジタジになっていた。
面白そうなのでそのまま見ていても良かったが、イヴが心配そうに服をグイグイ引っ張ってきたので仕方なく仲裁する事にした。
やめなさい、服が破れる。
「テメェ等じゃれてんじゃねえ!おい、レオーネ早く道案内しろ」
「おぉ!そうだな!!こっちだ!早く行くぞ!」
「「あっ!!」」
レオーネが絶壁蛇狼の側から逃げ、素早く先頭に立つ。
そんな彼は振り返り、逆に急かしてくる。
その様子に再度ため息を吐くリオンにイヴがボソリと呟く。
「弟さんなんでしょ?もっと優しく接しないとダメだよ」
「なんでだよ、んな事したら甘ったれ根性が出来上がるだろうがよ」
「私ひとりっ子だからわかんないよ。そういうもの?」
「俺も知らねえ」
「ふふ、なにそれ」
リオンとイヴの微笑ましい会話の前方では、逃げられたと思ったレオーネがオピスとルプに再度絡まれて困惑していた。
しかしその顔は最初会った時の様なつまらなそうな顔ではなく、とても生き生きとした楽しそうな顔だった。
その後何事も無く一行はフォルティスが封印されている塔の前に辿り着く。
立ち止まったリオンがレオーネに視線を向けると「今更だが、」と口を開いた。
「なんでお前の息子って封印されてんだ?」
「おいおい、本当に今更だな……。だが確かに封印に至った経緯を話していなかったな。どれ、塔に入る前に少し休憩するとしよう」
「じゃあティータイムだね。リオン、一式だして」
「あぁ」
レオーネの言葉にイヴがリオンに何かを促すと、リオンが闇魔法を発動。
亜空間からイスとテーブル、ティーセットなどなど、貴族が持っていそうな豪華な品の数々が出てきた。
驚くレオーネを他所にイヴがテキパキ紅茶と茶菓子を準備し、リオン、ルプ、オピスは既に着席していた。
いつの間にか現れたツバサも既に着席している。
「お義弟さんも座ってください」
「あ、あぁ、ありがとうイヴ。ん?なんて?」
未だ混乱しているレオーネが素直に着席するが、変な呼び方をされて聞き返すがイヴは準備で大忙し。
仕方なくそのままリオンに視線を向け、素直に驚きを吐露する。
「凄いな兄さん、これ闇魔法?よくこんな精緻な魔法が使えるね。座標の割出だけでも相当な負荷だと思うのだがな」
「精緻?これがか?」
賞賛されたリオンだったが、当人は首を傾げながら片手間に闇魔法で亜空間を作り出す。
「んな大それた事じゃねえよ。こんなの適当に開けばいいだろ?精緻と言うならお前が使う大規模転移魔法の方が凄えだろ。前ロストルムを逃がすのに使った魔法はお前だろ?試そうとしたが、俺でもあの距離と数は無理だからな」
「適当?クハハ、さすが、やはり兄さんは規格外だな。そんな兄さんに褒められるなんて光栄だけど、アレは我の力というよりアーティファクトの力だな。しかも最後のひとつを兄さんからロストルムを助けるために使ってしまったからな、クハハハハ」
「クハハ、それは残念だ」
肩をすくめるリオンが魔法を消すと丁度準備が終わったのかイヴが隣に着席する。
リオンはイヴを軽く撫でながら本題に入る事にした。
「さて、それじゃどうして息子を封印する事になったのかを聞こうじゃないか」
「うむ、そうだな。説明の前に兄さん達は七大罪については知っているか?」
「あぁ、確か人族にしか発現しない呪いみてえなもんだろ?」
「まあその認識で問題ない。ちなみに発現した者に会った事はあるか?」
「ここ1年以内で2人あるな。1人は殺したが2人目は逃してまだ捕まえてねえな。それがどうした?」
「1年以内に2人もか!?それは凄いし、少し異常だな。それでその2人、強さはどうだった?」
「ん?1人は今のイヴなら勝てるくらいか。お前に合わせて言うならスノーオーガを少し弱くしたくらいか。2人目は話にしか聞いてねえが、今ならロストルムより強いかもしれねえな」
「そうか……。ではリオンが邂逅した1人目の大罪発現者は不適合者だな。2人目に関してはよく分からぬな」
「ん?その不適合者ってなんだ?」
「言葉そのままの意味だ。大罪スキルに適合しなかった者の事だ。そういう不適合者が無理矢理大罪スキルを発現させた場合、ほぼすべてのスキルを失い、自我を失い、受けたキズは命を削る事で再生させ徐々に身体が崩壊して最終的に朽ちる。だが完全に適合してしまった人族は自我は残るものの、器が大罪の力に耐え切れず長く生きる事なく死に至る」
「へぇ」くらいの感想しか湧かないリオンだったが、イヴは何やら考え込んでいて、暫く様子を伺っていると挙手して質問をレオーネに投げ掛けた。
「大罪のスキルが発現した場合はどうやっても解除できないんですか?」
「無理……というか我はその方法を知らぬ。元々発現数が多くないのもあるが、自然消滅する存在に態々命の危険を顧みず向かっていくバカはそうおらぬよ。学者や縁者などたまに手を出す輩はおるが殆ど殺されて終わりだ。それに長く生きてきた我であっても完全に適合した存在は1人しか知らぬからな。大罪スキルは不適合な事が正常な発現かと思うくらいだ」
「そう、ですか……」
「はん、勝手に死ぬんなら放置でいいだろ。それで?それがお前の息子の封印とどう関係すんだよ」
待ち切れなくなったリオンが話を断ち切ると問い掛ける。
「そうだったな。我の息子、フォルティスは七大罪のひとつ、『傲慢』を発現しているのだ。それも完全に適合していてな。その封印というのも、あの子の身体が大罪スキルに耐えられる様にスキルを弱体化する結界が施されている」
「へぇ……確かにデバフっぽい結界かと思ってたが、これはそれより更にキモイ結界だな」
リオンが目の前の塔に目を向けながら吐き捨てると、イヴは袖をクイクイと引っ張る。
「ねえリオンどういうこと?スキルそのものが弱体化できるのも初めて知ったけど、それって普通の状態異常とは違うの?」
「基本状態異常は、肉体に起因するものだ。この世界だと精神体にも掛かるかもしれねえがそこまでだ。だがスキルは魂と紐付くものだから、簡単に言えばこの結界は魂を縛るもの。隷属の首輪とは訳がちげえ」
「博識だなリオン、どこでそこまでの知識を得たのか気になるな」
「ではお義弟さん、今のリオンの話は当たっていると?」
「まあ一般的なスキル結界の説明としては間違っていない。だが、この結界は我が妻により少し改良されていてな、特定のスキルの力だけを抑える事に特化している」
「へぇ、そんな事が可能なのかよ」
「残念ながら我も詳しくは知らぬがな。ただその代償としてアーティファクトは設置型となり、この塔から息子が長時間出る事も叶わなくなってしまった」
「では私の甥っ子くんは一生ここから動く事ができないと?」
ナチュラルにイヴも甥っ子呼びになっている事には誰一人触れずにレオーネは首を振る。
「我の息子はただの人族ではない。キマイラと魔人族のMixだからより強靭な肉体と魂を持っておる。更に我の力を長年分け与えた事によって、あと数年もすれば身体も成熟し結界が無くとも、外界に出たとしても大罪の力に振り回される事もないだろう」
なぜか得意気なレオーネにリオンは訝し気に思いながら問い掛けた。
「だからテメェが抜け殻になった訳だな。その理由は分かったが、俺がテメェの息子に会う理由はなんだ?単純な顔合わせって訳じゃねえんだろ?一体何企んでやがる」
「リオン、そんな言い方ないでしょ!私の甥っ子くんでもあるんだから会うのは当然でしょ?」
「クハハ!イヴにそう言ってもらえてフォルティスも喜ぶであろうな。それと兄さん、そんな身構えなくてもいい。兄さんには我に代わって息子を鍛えてほしいのだ。兄さんが言う様に我は力の大半を息子に譲渡してしまってな。既に配下達では相手にならないのでな、リオンに託したいのだ、もちろん礼はするぞ」
レオーネの話を黙って聞いていたリオンは頭の中でカタカタ計算して、良い駒ができるかもとプラス評価が出たので承諾しようと口を開く前に周囲が騒がしくなる。
「はーい!わたしが甥っ子ちゃんを鍛えてあげる〜」
「はいはーい!オピスもやる〜。甥っ子ちゃんはわたしが立派なキマイラにしてあげる〜」
「うふふ、良いわねぇ。私も鍛えてあげようかしら。将来は立派な筋肉にしてあげるわ」
「お、おう、姉さん達は頼もしいな」
「クハハハハ!コイツ等のやる気が上がった所で、そろそろ行くか」
リオンのひと声でティータイムを終了させて、闇魔法を発動し全てを収納する。
その間にレオーネは塔の入り口の結界を解いていたので某アトラクションではあり得ない、待ち時間0分で中に入る事ができた。
中は細長い廊下が続き、中央部はだだっ広く天井まで吹き抜けの空間が広がり、壁際には螺旋階段が設置されたいた。
「フォルティス!フォルティス出てきなさい。お前に紹介したい方達がいる」
レオーネが宙に向かって声を上げると、上階からガタガタと騒がしい音が響き渡り、怒声に合わせ何かが落下してくる。
耳を澄ませたリオンはなるほど、と思う。
「ザコが俺様に指図すんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
両手に身長以上の大剣を振り下ろしながら落ちてくる推測フォルティスくんはリオンの頭にその大剣を振り下ろした。
轟音と土埃で周囲を視界不良にした推測フォルティスくんは大笑いしながら大剣を肩に担ぐ。
「連れも大した事ねえザコだったな!!俺様の手ずから死ねたお前は幸せ者だな!!ハハハハハハ!!」
「鍛えがいがあるじゃねえかよ、クハハ!!身も心もな!!」
「あん?ぐべっ!」
大笑いしていた推測フォルティスくんは無傷のリオンの愛ある拳によって地面に深くめり込んだ。
ピクピク痙攣する推測フォルティスくんを一瞥するとレオーネに向き直った。
「いいね、生きてる。頑丈だ。おい、コレがフォルティスでいいか?」
「ハァ……そうだ」
推測フォルティスくんが断定フォルティスくんになった所で、シュミットみを感じる問題児の矯正をどうするか脳内会議で盛り上がるのであった。




