兄弟
夜にレオーネと会う約束をしたリオンは全員が寝るまで待ってから部屋を出た。
「案内しよう」
いつから待っていたのか、アラクネのネアが案内を買って出た。
場所は既に知っているが対応も面倒臭いリオンは何も言わず顎で先を促した。
無言で歩く事暫く、リオンがふと窓から階下を見る。
そこはニンゲンの様に火の番や巡回を行う魔物達が居た。
目を細めながら思案するリオンにネアは一瞥しただけで話し掛ける事無く歩を進める。
謁見部屋を通り過ぎた事で漸く場所が変わったのだと理解し、そのためのネアかと納得した。
今回は謁見部屋が最上階かと思っていたが、それより更に上の階へ案内された。
到着した目の前にはリオンが入れないくらいの小さい扉があり、ネアがコンコンコンとノックした。
「陛下、お連れしました」
「あぁ、ご苦労。入れ」
「リオン様、ここからアナタだけ入ってくれ」
「……あぁ、悪いな」
「ッ!?い、いえ」
一瞬驚いた顔をしたネアはすぐに顔を伏せてしまった。
リオンは小首を傾げたが、すぐに興味を失い視線を扉に向けた。
「これじゃ入れねえな。はぁ、仕方ねえな」
擬態と幻術を駆使して人型になったリオンは扉を開け、中に入る。
中も思ったより狭く、リオンが中腰にならないといけないくらい天井が低い。
さらに部屋の中には先程声がしたレオーネはおらず、どうしたもんかと考えていると天井から茶髪の男がニュッと顔を出した。
「おぉ、リオン!こっちだこっち。今夜は月が綺麗だったものでな。急遽場所を変更したのだ!クハハ!」
「クハハ!構わねえよ。そうか、この世界でも月なんだな」
呼ばれた方へ移動して更に階を上がるとそこは屋上だった。
櫓とは違う、娯楽味があるその空間にレオーネが人化して既に酒を飲んでいた。
さすが獅子頭を持ってるだけあってリオンと似た切れ長の目に猛獣らしい顔付きだ。
リオンはレオーネの横に腰掛けると隣から盃が渡され酒を注がれる。
レオーネはニカッと笑うと盃を掲げた。
「同胞の出会いに!」
「ん?あぁ、出会いに」
苦笑しながらリオンがレオーネの盃に自分の盃を当てる。
リオンは酒を煽る。
「良い飲みっぷりだな、ほれ」
「悪いな」
「気にするな」
言葉少なに酒を注ぎ合う両者に、普段の2人を知ってる者達から見れば驚く事だらけだろう。
レオーネ配下は、彼がここまで気安く接する事に。
リオン一派は、彼が即座に本題に入らず且つ相手の掛け声に合わせる事や他者に酒を注ぐ行為に驚愕する事だろう。
だが、リオンからしてみたらそれは心外であり、本人も何故かは分からないが今のこの状況が妙に落ち着くなと感じていた。
しかしそんな疑問も酒瓶が10本ほど開く頃には解決する事になる。
「さっきの狭え部屋はなんだ?茶室か?」
「チャシツ?が何かは我は知らぬが、エルフが住んでた時はここで密談などをしておったようだぞ。なんでもあの部屋の中では身分差が無く、全てが平等なのだそうだ」
「クハハ!それはそれは、面白え話だな。それはそうと、そろそろお前の話でも聞こうじゃねえか」
「ん?我の話?」
「あぁ、お前がロストルムとかに力を分けたのは方法はともかく納得はした。だが、お前がそこまで抜け殻になった理由が分からねえ」
リオンのこの言葉に僅かに目を見開いたレオーネはリオンから視線を外すと酒を煽ってため息を吐いた。
「さすがだリオン、そこまで分かっているとはな」
「大した事じゃねえ」
暫く沈黙が続き、木々が風に揺れる音だけが響くが、レオーネは昔話を話す様に語り出す。
「リオンよ、お主は魔物が子を成すにはどうすればいいと思う?」
「は?そんなの番でやるか、人族を犯して苗床にする、あとは自分の魔力で魔素溜まりを作って生まれるか、くらいか?まあ後者を子と呼ぶかは意見が分かれそうだけどな」
「ふむ、確かに基本的な解釈はそれくらいだな。特殊な人族であればMixと呼ばれる存在ができるであろう?」
「特殊?あぁ、魔人族か。確かにそんな話聞いたな。まさかお前……」
ジト目を向けるリオンに何を勘違いしたのか照れながら頭を掻くレオーネ。
「いやそのまさかでな。もう50年以上は前の話だがな。とても美しい魔人族だった」
「そんなの聞いてねえよ。だがよ、お前の子どもの気配も何も感じねえが、どっちも死んだのか?」
ド直球のリオンの言葉にレオーネは首を横に振る。
「魔人族は元々短命だからな、妻は既に天寿を全うした。だが息子はまだ健在だ。気配が探れないのは塔に封印を施しているからだ。ほれ、あそこの塔だ」
レオーネが指差した塔にリオンも視線を向け魔力を張る。
そうしてそうやく微弱な魔力の流れが見えた。
中の構造は封印の影響なのかボヤけて見えない。
リオンの探知が終わるのを待ってレオーネが話を再開した。
「今日呼んだのもそれが理由でな。是非我の息子に会ってほしい」
「ん?俺が?なんでだ?」
訝し気な視線を向けたレオーネはそんな反応を予想していたのか間髪入れずに応える。
「それはリオン、お主が我の兄だからだ」
「ん?俺がお前の兄だと?それはあり得ねえ」
「なぜ違うと言える!」
即座に否定したリオンに今度はレオーネが訝し気な表情になり、語気が強くなる。
しかしリオンは気にせず事実をそのまま淡々と伝えた。
「俺が親共々全員殺したからな」
「は?それこそあり得ない!!」
「チッ!ここで戻るんじゃねえバカが!!」
リオンの言葉に興奮したのか、反論したレオーネの人化が解け、リオン達は16階から1階まで落ちた。
普通の人間なら挽肉になって終わりだが、リオンとレオーネは何事も無く地上に着地した。
リオンは未だ擬態と幻術で人型だが、レオーネは四足獣のキマイラ姿で唸り声を上げている。
その様子を衝撃音で集まった野次馬魔物達が戦々恐々と眺めていた。
リオンとしてはただの事実を伝えただけなのだが、それを真っ向から否定されて面倒臭くなってきてしまった。
どうしようかと考えていると念話が頭に響く。
(とりあえずアナタが生後1年くらいのバブちゃんだって伝えた方がいいんじゃないかしら?)
(あのキマイラの言う事が本当だとしたら2500年くらい前の話じゃろうしな。お主が父キマイラと勇者に巻き込まれたのも知らん可能性がありそうじゃのぉ)
「(あぁ、確かにな)……唸ってるとこ悪りいがよ。お前、俺が親父キマイラと初代勇者の魔法に巻き込まれたのは知ってんのか?」
先程まで唸っていたレオーネだが、突如リオンから齎された未知情報を聞かされキョトン顔を晒す。
フリーズして数秒、腕を組んで太々しく待機するリオンを意識できるまでには戻ってきたレオーネは辿々しく口を開く。
「い、いや、その時、我はまだ生まれて無かった。父上と勇者の話は代々乳母として支えてくれたアラクネから聞いているが、兄上の話は行方不明とだけ伝えられていた」
「(その頃の記憶はなんも覚えてねえが)なるほどな、だから俺にはお前の記憶がねえ訳だな」
納得したリオンは面倒臭いので軽く異世界に飛ばされてまた帰ってきて、その際にまた赤子になり、生後数日で育児放棄され、その報復として皆殺しにした事を伝えた。
ついでにまだ生後1年くらいのベビちゃんだというのも伝えた。
色々端折りながら伝えたが、それでも情報量が凄まじいらしく混乱気味に脳内で整理していた。
暫く時間が掛かると思ったリオンは近くに居た野次馬ゴブリンに酒を持ってこいと伝えた。
その時の野次馬ゴブリンの慌て様はウケた。
暫く待っていると野次馬ゴブリンが汗だくで酒を持ってきた。
受け取ったリオンは「汗だくで汚ねえよボケが」と罵るとしゅんとしてとぼとぼ歩いていっちゃった。
後日色んな人に怒られたから、その野次馬ゴブリンにはリオンの爪を送っといた。
(それでアイツ、本当に俺の弟だと思うか?)
(知らないわよ。DNA鑑定でもしてみれば?)
(魔力波長は違うが、これは肉親でも違うからのぉ。じゃが、リオンは彼奴の時代とは違う存在じゃからのぉ)
(わたし、弟欲しかったからいいと思う〜)
(わたしもわたしも〜、いい子いい子してあげるんだ〜)
(だがコイツもう抜け殻だろ?鍛えた所ですぐ死ぬぞ?)
(ロンはそればっか!弟くんはわたしが守るもん)
(それじゃ話に出てた息子育てりゃいいんじゃね?今後の駒として役に立つんじゃね?)
(ガハハハハ!たまにはまともな事言うじゃねえかリオン!)
(だめー!!甥っ子ちゃんもわたしが守るー!!)
(ルプとわたしが立派な弟ちゃんと甥っ子ちゃんにしてみせるー!!)
(まあ彼が弟だともっと面白い事になりそうじゃない?言ってみたらアナタは王族。部下のロストルム達も丸ごとゲットよ?)
(え?ツバサそれ最高じゃん。じゃあもうコイツ弟にしよう)
(そうでしょう?あら?そろそろ戻ってきそうね)
いつの間にかリオンは座り、周りにはツバサ達が車座になりながら酒盛りをしているとレオーネが思考の波から戻ってきた。
しかしリオン周りにはいつの間にか知らない人物が集まっている事に更に困惑した。
「お、お?リオン、その者達は誰なのだ?」
「戻ってきたようだな、弟よ。コイツ等がお前と息子を立派に育てるってよ」
「ん?んん??」
更に困惑したレオーネの側に2人の幼女がトテトテと歩いてきた。
満面の笑顔だ。
「えへへ、レオーネちゃん。わたしはルプ、アナタのおねえちゃんだよ〜」
「ん?」
「わたしはオピスおねえちゃんだよ〜。レオーネちゃんよろしくね〜」
「んん?」
「明日は甥っ子ちゃんにも会うよ〜」
「あ、あぁ?」
「名前はなんていうの〜?」
「あ、ん?あ、フォルティス、だ。お、おい、リオン!この2人は誰なのだッ!?」
「クハハ!!お前のそんな慌てた姿を見れてお兄ちゃんは嬉しいぞ。ちなみにコイツ等は全部俺だ」
「な、なに?」
「説明するからお前もこっち来て飲めよ。おいそこの野次馬ゴブリン、酒持ってこい!つうか野次馬連中はどっかいけ、ぶち殺すぞ」
「ハ、ハイィィィィ」
「あらら、可哀想ねぇ」
リオンの殺気をばら撒き野次馬を解散させ、レオーネは素直に輪に加わり、ツバサ達を説明すると再び思考停止してしまった。
その頃にはリオンは無視してワムちゃんを出して餌を与えながら酒盛りを続け、レオーネの相手はオピスとルプが率先して行っていた。
さすがに少し慣れたのかレオーネの再起動は早く、その後は数時間に渡って酒盛りをした。
オピスとルプの対応にはぎこちなかったが、リオンと話している時は王では無く、本当に弟の様に幼さが残る存在に感じられた。
数千歳のキマイラに思う事では無いかもしれないが、リオンは弟とはこういうものかと理解した。
「リオン、そしてツバサ、テースタ、ロン、ブロブ、オピス、ルプ。今日は楽しかったぞ」
「こら〜オピスおねえちゃんでしょ〜」
「そうそう〜。ルプおねえちゃんだよ〜」
「ぐっ、そ、それは、後日検討するとしよう。そ、それではリオン、明日息子を紹介しよう」
「はいよ」
「ではな」
「「あぁ!」」
レオーネは明日の約束を取り付けるとルプ達から逃げる様に去って行った。
その様子にリオンはクツクツと笑いながら明日のイベントを楽しみに部屋に戻った。




