約束
その場を静かにする方法が何かって?
校長先生に習ってジッと待つ?
のんのん
物理的に黙らせる?
のんのん
真空にする?
のんのん
この場での正解はトップを貶す事だ。
「抜け殻だなテメェ」
この発言で場は凍り、耳が痛くなる程の静寂が空間を支配した。
ただリオンは黙らせる為に発言した訳では無く、単純に思った事を口にしただけで、何も考えてはいなかった。
しかし周囲はそうとは思わず、津波の様に静寂の後の感情の爆発が起きていた。
膨れ上がる怒気に比例する様に左右からは怒号がリオン達に浴びせられる。
しかしリオンはいつも通りどこ吹く風で同種族であるキマイラのレオーネを見ており、レオーネもリオンしか見ていない。
ただ何故か目線はとても穏やかなものだ。
その表情をリオンは理解出来ない。
イヴ達は周囲からの殺気に当てられ武器に手をあてて、いつでも抜ける様に準備していた。
そんな状況を打開するために動いたイヴがリオンの横っ腹をツンツンされて漸く周囲の喧騒に意識を向ける。
(キャンキャンと、全然襲い掛かってこねえなコイツ等。犬みてえだな)
(わんちゃんは可愛いけど〜、ゴブリンとかオーガにキャンキャン言われてもなぁ〜)
(可愛くな〜い。そんな子には〜こうだ!)
かま首をもたげた銀蛇のオピスがオーディエンスに向け魔眼を発動した。
騒いでいた範囲内の魔物がピシリと固まった様に動かなくなる。
範囲外にいるオーディエンスが固まったオーディエンスの状態を視認して更に場が温まる。
「キ、キサマ!!」
「許サン!!」
「殺セ!!」
「ヤッチマエ!!」
(キャハハハ!おもしろーい)
(まんまモブザコの言動でウケる。よくやったオピス!褒美を出そう、クハハ!)
(わーい!やったぁ。ごはんごはん〜)
カタコトの罵倒が勢いを増し、念話でオピスとふざけながらも表面上は知らん顔で「そろそろ破裂するかなあ」とボソリとリオンが溢す。
それに合わせてか偶然か、目の前のレオーネが口を開く。
「静まれ」
見事ひと言で黙らせたレオーネにリオンは感心していると再びレオーネが話しかけてきた。
「リオン、なぜ我が抜け殻だと思ったのだ?」
「は?なぜだと?そんなのお前の状態見たら分かるだろ。それに横のソイツ等を見てみろよ。与えられた立場とお前の現状を知ってるから怒気だけバラ撒いてんだろ。俺だったら罵倒した相手ごと塵にするからな。まあ俺の上はいねえけどな、クハハ!!」
ロストルム達は悔しそうに殺気だけを高めるがリオンにはどこ吹く風。
ただリオンの見解を聞いたレオーネだけは笑いながら感心する。
「ほぅ。ククク、クハハハハ!さすがだな!」
レオーネが大笑いするとリオンに殺気を送っていた幹部級の面々も驚いていて、たまらずロストルムが声を掛ける。
「ピ、ピィィィィ(へ、陛下、大丈夫でございますか?)」
「む?心配はいらんぞ。しかしここまで笑ったのは久しぶりだったな。さてリオンよ、雑談はここまでにして本題に入ろうか」
「ん?あぁ、構わねえよ」
「うむ。リオンは何をしにここへ来たのだ?ここに住むつもりで来たわけではなかろう?」
問われたリオンは暫く考えると背後のルベリオスに目を向ける。
周囲の訝しむ視線に針の筵になるルベリオスはリオンの意図を読み取り、彼の前に移動する。
そこで初めてレオーネがリオン以外に視線を向ける。
だが反応はアラクネのネアと似た様なものだった。
「エルフか……貴様等には用は無いんだがな。……リオンどういう事だ?」
不快な顔をしたレオーネがリオンを問い詰めるが、リオンは肩をすくめると面倒臭そうに口を開く。
「まあとりあえず黙って聞けよ。おいルベリオス、早く喋っちまえ」
「じゃあ私から用件を伝えるよ」
渋々ながらもルベリオスが語った内容を黙って聞いていたレオーネだが、周囲のオーディエンスは話が進むにつれ、怒気が再熱し騒がしくなる。
ルベリオスの内容は要約すると、
1.この森が元々エルフのものだった
2.スタンビートでこの森を侵略した
3.即時返還を求める
話し終わったルベリオスにレオーネが落ち着いた様子で声を掛ける。
「はぁ。エルフの娘よ、そもそも我々魔物の性質は弱肉強食。それは人族のお前等も理解しておろう。それに貴様等人族も我々魔物の生息域に土足で踏み込み、殺し、骨や皮、肉など素材として扱うのであろう?侵略という意味では貴様等がやっている事と我々がやっている事に違いはあるのか?」
ルベリオスは反論を考えている様だがレオーネは話を続ける。
「この地を奪われたのだと思うならそれは貴様等エルフが弱かっただけのこと。不服ならば貴様等人族の好きな戦争を以て雌雄を決せばよかろう。何だったか、貴様等の大好きな言葉……」
レオーネは考える素振りは見せるがルベリオスの表情を見ているだけだ。
さも今思い出したかの様に言葉を紡ぐ。
「おぉ、そうだそうだ。確か貴様等の大好きな言葉、『正義』だったか、クハハ」
ルベリオスは黙って聞いている。
レオーネはため息ひとつ溢すと話の締めるに入る。
「はぁ。エルフ娘、ひとつ訂正してやろう。あれはスタンビートではない。単純に他の地から引っ越しをしただけだ。そこに居た奴等はもう覚えてないが、それだけだ」
「ッ!?」
「用件はそれで終わりか?なら話し合いはこれで終わりだ」
レオーネの言に悔しそうに歯噛みするルベリオスを一瞥して視線をリオンに移し、謁見を終わらせる。
ルベリオスはエリーゼ達に任せ、リオンはさっさと退出しようとすると念話が頭に響く。
(リオン、夜にまたここに来てくれ。ひとりでな)
(レオーネか。なんでお前の念話が俺に届くんだ?)
(ん?なぜと言われても念話はそういうものではないのか?して返事はどうだ?)
(へぇ、そうなのか。分かった、またな)
夜会う約束ができたレオーネは満足気な顔をしながらリオンを見送る。
部屋に戻ったリオンは今後どうするかを話し出した。
「あっさり拒否されちゃったな。どうすんだ?」
「そうだね〜。とりあえずこの塔をもうちょっと調べたいかな〜」
「ん?この塔はお前等エルフが建てたのか?」
「たぶんね〜」
「そうか、まあ好きにしろ。他の奴等はどうする?」
リオンがルベリオス以外に問うが全員残留の意思を表明した。
話し合いが終わり解散する流れになった。
ルベリオスはエリーゼを伴い探索を続け、他の面々はリオンの部屋でゆっくり過ごす事になった。




