小石
ロマンスグレーの案内で目的地まで行こうとした矢先、上空から鷹に似た鳴き声を放ちながら急降下してくる存在を確認したリオンは口角を限界まで上げ、言葉を垂れ流す。
「感動の再会だな鳥野郎」
「ピィィィィィイイイ!!」
「「ロストルム殿!?」」
リオンが魔法を練り上げ始めるのと同じタイミングでアドレアとロマンスグレーが金銀グリフォンと思しき名前を呼ぶ。
しかしリオンは問答無用で闇玉を放つ。
驚愕する一同だったが、ロストルムも同じタイミングで火魔法のファイアランスを放ってきたので考えている事は同じ様で、リオンの笑みが深くなる。
両者の初級程度の魔法がかち合うが、それでも爆発の規模は大きく、周囲全員を包み込む爆煙と砂埃、轟音が感覚を鈍化させた。
視界を遮られて尚、ロストルムからの攻撃は続き、それに合わせるリオンも攻撃の手を緩めなかった。
自身の焼かれる毛皮に熱を感じながらもロストルムの肉を削ぐ感覚も感受しながら徐々に視界が晴れてくる。
それに併せ攻撃が緩やかになり、両者が視認できる程クリアになった時には魔法攻撃は止み両者近接戦を開始した。
リオンが右前脚を斜めに振り下ろすと、ロストルムが風属性を纏わせた左前脚で迎え撃つ。
風魔法が螺旋状に左前脚に絡み付いているので弾かれながら、ロストルムの顔面軌道から逸らされたリオンの右前脚がめり込りながら地面に埋まり、その副次結果として地盤を砕き放射状に亀裂を発生させ、地響きが周囲を揺らした。
リオンが右前脚を抜く前にロストルムが今度は風魔法を纏わせた左前脚を一度地に付け、お返しとばかりにリオンの顔を切り上げる算段で思考するが、想像と違い肉体はバランスを崩し訳もわからず顔面から地面に倒れ込んだ。
状況が理解できないロストルムが左前脚を確認すると、リオンの右前脚の威力を相殺できていなかった様でぐちゃぐちゃに潰れていた。
視認した事でロストルムは動揺して硬直してしまい、次への行動の反応が遅れる。
本能で身体を無理矢理動かし、緊急回避に全リソースを注ぐが、いざ視界を上げた時には全てが終わっていて衝撃と共に視界を覆うリオンの左前脚が直撃した。
グシャッと鈍い音を耳朶と感触で堪能したロストルムは自身が敬愛する主君への賛辞と謝罪を唱え、意識を飛ばす。
リオンが左前脚を退けると、そこには意識を飛ばしたロストルムが沈黙していた。
嘴はひしゃげ、頭蓋骨は割られ、圧迫により両眼球は破裂、頸椎もヒビが入り皮膚は千切れ、辛うじて胴体と繋がっていてまさに首の皮一枚といったところだった。
にも関わらず。
「さすが魔物ってか、クハハハハ。よーしよし、まだ死んでねえな」
(ねえねえ、もう食べていい?ワムちゃんも待てないって言ってるよ〜)
(普通のグリフォンと味がどう違うのかは気になるのぉ、ひょひょひょ)
(とり味かな〜?それともライオン味?ライオンって美味しいの〜?リオンはマズイよね〜?とり味だったらいいなぁ)
(こらルプ!リオンは硬くてマズイお肉だけどそんなこと言わないの〜)
「うるせえぞテメェ等!!ガキンチョには俺の美味さは理解できねえんだよ。乳臭いガキはそこら辺の肉で満足してろ」
(あぁ!リオンがわたしたちのことバカにしたー!ガキンチョはルプだもん!わたしはおとなの女なんだからぁ)
(そうだそうだ!って、え?オピスには言われたくないもん!ごはんのことしか頭にないおバカでちちくさいガキンチョでしょ〜)
(あぁ!ルプひどーい!)
(オピスこそー!)
脳内会議で主題からそれたルプとオピスが現実でもバトルを始め、なんと首が伸びたルプである金狼がこちらも普段以上に伸びた銀蛇であるオピスに襲い掛かった。
周囲の者達から見たら驚愕ものだが、リオンから見れば今も念話で稚拙な会話を繰り広げながら戦っているのでいつも通り無視する事にした。
そして改めてロストルムに目をやると、髑髏のテースタがちゃっかり解体しようとしていたので頭を握り潰し中断させた。
リオンが脳内全員に念話を飛ばす。
(おいコイツを始末するのは無しだ!いいな?)
(えぇ、分かったわよ。途中からこの鳥さんも本気じゃなかったものねぇ。つまらないお遊びに付き合ってあげるなんて、アナタも優しい所があるじゃない)
(ツバサも気付いてたか。どうせ俺がコイツを捜してここに来たとでも思ってたんじゃねえか?クハハハ、小石に躓いたレベルの脅威度のくせに手を抜くなんて舐めた野郎だ)
(ここまであからさまだと誰でも……ではないけれど、気付くわね。でもそれなら全力でアナタを葬ればいいと思うのだけれど?)
(さあな、コイツの本心なんか知らねえが魔物同士力量差くらいは理解できたんじゃねえか?まあ生きてんだから、んなの後で聞きゃいい話だしな。おい!ルプ!オピス!いい加減やめろ!)
リオンの身体を前後で引っ張り合う滑稽な争いを諌めると、大人しくなった彼の様子に全員恐る恐る近寄ってくる。
ちなみにイヴは戦いが終わった時には既に背中に乗っていた。
「それでリオン、このグリフォンまだ生きてるけど?」
「ん?あぁ、コイツは殺さねえ。つうかお前……いやなんでもねえ」
「???」
イヴが小首を傾げるがリオンはそれ以上語る事なく、いつものリオン謹製ポーションを金銀グリフォンに浴びせた。
超回復した反動で呻き声をあげるロストルムだが、損傷部位が完治すると静かになった。
意識はそのうち戻るだろうと判断したリオンは、このロストルムを知る人物を呼び寄せた。
「おい執事、コイツは誰でコイツとはどういう関係だ?」
「ワタクシめがご説明させていただきます」
やはりと言うべきか、一歩前に出て手を挙げた筆頭執事のロマンスグレーが声を上げた。
「そちらの方は我等が住まう場所を統治する、陛下の右腕であるグリフォンの変異種、ロストルム殿でございます。先んじてお伝えした通り現在では住居を共にする、そうですね…。仲間と認識していただいて問題ございません」
一拍考える様に顎に手を据えながら迷いなく【仲間】と発言した。
リオンがロマンスグレーやその他を見ても動揺などは見えず、共通認識だと納得した。
続いてロマンスグレーは深々とお辞儀をした。
「ロストルム殿を救っていただき、ありがとうございます。リオン様は回復術にも精通していたとは、ワタクシ感服いたしました」
「あぁ、コイツが本気ならこの場で殺してたけどな。なんか面白そうだったから生かした。そういやなんで俺の名前知ってんだ?」
そんな事より、とリオンがなぜ自身の名前を知っていたのかと疑問を投げかけるとロマンスグレーは視線をリノア達に向けた。
「先程の戦闘中にあちらのお嬢様方にお聞きしました。それと申し遅れました、ワタクシはアドレア様に仕える筆頭執事のクーフィと申します」
「へぇ、なるほどな。まあなんでもいいか、とりあえず今後妨害はなさそうだしとっととあの塔まで行くぞ」
ロマンスグレーことクーフィがロストルムがまだ意識を回復しておらず、どうするのかと疑問を投げ掛ける前にリオンはロストルムの身体を魔法で浮かすとドナドナしていった。
ポカンとした色々リオンに慣れていないアドレア一同と色々慣れているイヴ、リノア達に分かれるが早々に歩き出したリノア達に続いた。
ルベリオスは戦闘中から現在まで周囲を確認して考え事をしている。
時々エリーゼに話を振り、様々な議論をしている。
師弟関係とはああいうものかと感心するリオンは聳え立つ塔に面白イベントをワクワクと期待しながら歩を進める。
そのまま歩き続け、ロストルムが目覚めたので事情説明を含め休憩をすることした。
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[自己犠牲]
スノーオーガを向かわせた陛下達。
常に様子も見えるから緊急時には対応可能だと思っていたが、早々に投影の鏡をリオンに砕かれてしまい困惑する一同を陛下が宥める。
(お前等、落ち着け。スノーはここに来たのが最近ではあるが、それでも彼奴の強さは皆知っておろう)
陛下の言葉で全員が確かにと安堵の表情を浮かべ、落ち着きを取り戻し始めた。
しかしそれもすぐに瓦解する。
遠くからの魔力波動を感じ、戦闘が始まったのだと理解した一同だが、それも数刻もしないうちに収まった。
さらに事態を混乱させたのがスノーオーガの気配が消えたことだ。
その事実は再度全員を騒がせるに足る理由に十分だった。
言葉にならない咆哮が部屋を満たすが、今度は陛下の声ではなく猛禽類のような鳴き声が響く。
(落ち着け貴様等!!それでも陛下の配下か!!)
全員の視線が声の本人、金銀グリフォンであるロストルムに向けられ、静寂が訪れる。
そのタイミングでロストルムは陛下に頭を垂れ進言する。
(陛下、ここは私が向かいたく存じます!ご許可を!)
(ならぬ!)
申請に対し陛下からの強い念話が響き、全員が萎縮するなかロストルムは萎縮することなく頭を上げ真っ直ぐ陛下を見る。
(彼奴の狙いは私です。私が、かの敵を打ち破ってみせましょう!!)
ロストルムの意思に陛下はギリギリと辛酸入り混じる感情を顔に宿すが、暫くするとフッと力を抜く。
(……お主に任せよう)
(有難き幸せ!)
(だが!死ぬ事は許さぬ!)
(なッ!?そ、それでは)
(我が譲歩できるのはそこまでだ!危険だと判断したら全力で逃げよ!よいな?)
(……かしこまり、ました)
渋々という感情を押し殺し許可を出す陛下にピィィと鳴きながら承服したロストルムが足早に会議室を後にする。
重苦しい沈黙が満たす部屋で暫くすると、遠方から先程と比較にならない魔力波動が届き、全員に緊張感が走る。
暫くすると先程同様、魔力波動が収まる。
動揺が再び場を支配するが、気配を探ると微弱ではあるがロストルムの気配を探知できた。
生きている事の安堵と逃げる事ができなかった悲観が陛下の心を満たしていく。
即座に救援を送ろうとしてピタリと動きを止めた。
その様子に疑問を持ったアラクネが陛下に声を掛ける。
(陛下?何か気になる事でもございましたか?)
(ん?あぁ、いくつかあるが、ロストルムの気配が先程より強くなった点、意識が戻った訳ではないのに気配が移動しておる点、だな。今は真っ直ぐこちらに向かってきておる)
(ッ!?そ、それはそれは、アドレア殿達が裏切ったという事ですか?)
(いや、そうとも限らぬが……。警戒はもちろんだが、あちらのリーダーも魔物なのだ。討伐以外の思惑があるのかもしれぬな。ネア、警戒は怠らずに出迎えの準備を開始せよ。他の者も我の声があるまで先手で攻撃を行う事を禁ずる!)
(は!畏まりました!)
アラクネことネアが命令に従い即座に行動を開始する。
他の者への指示も出した陛下が、この場を解散させると各々慌ただしく動き出した。
ものの数分で部屋には陛下だけとなり、身体を動かしゆったりと横になる。
息を漏らした陛下が言葉も共に零れ落とす。
「ようやく会えるのだな……」
その言葉からは感情が読み取れず、聞く者もおらず再び部屋が沈黙に満たされる。




