スノーオーガ
無駄な大声で無駄に威圧的に睨んでくる目の前の毛むくじゃら雪男を見下ろす。
通常のオーガであれば2m程だが、目の前の毛むくじゃら雪男ことスノーオーガは3m程ある。
リオンより少しばかり小さいのにめちゃくちゃ睨んできて、更には大声で叫んでる。
(テメェがキマイラかァ?)
「うるせえよ!耳イカれてんのかテメェ!」
「ガアァァァ」
リオンが前脚ビンタが炸裂し吹き飛ばす。
しかし今度は両腕で防御したスノーオーガは憤怒の表情で再度咆哮を上げた。
するとそれに呼応する様にスノーオーガより一回り小さい青色の皮膚のオーガがぞろぞろと現れた。
「ブルーオーガ?眷属か?おいルベリオス、ありゃなんだ?」
とりあえず手っ取り早くリオンはルベリオスに説明を求めるも、彼女が首を振り困惑していた。
「分からないわ〜。過去スノーオーガは何度か確認されているけど、眷属を従える能力なんて聞いた事ないわね〜。そもそもスノーオーガは群れを追い出されたオーガが寒冷地に適応して特異的に進化した魔物だから〜基本は群れを成さず単独行動しかしない筈なんだけどなぁ〜」
「へぇ。まあそんな事はどうでもいい。現にアイツは従えてんだからな。あの雪男は普通のオーガと戦い方は一緒なのか?」
「そうね〜。基本は一緒で肉弾戦ね。ただ経験によっては属性魔法は使うらしいわ〜」
ルベリオスの話を聞いたリオンは方針を決めると擬態で身体を作り変えていく。
バキバキと鈍い音が暫く続き、ルベリオス達が唖然として動きが止まったのと同様にスノーオーガ側もリオンの変化に警戒心を強め距離を保つと動きを止めた。
擬態が完了したリオンは方針説明を行う。
「親玉の雪男は俺がやる。ブルーオーガはテメェ等で始末しろ。特にウピル、テメェは弱えからな。少しは手を出せよな」
「カカカ!ご主人様は厳しいのぉ。しからば儂も少し本気を出そうかの!リノアよ!遅れるでないぞ!」
「えぇ〜……ウピルはなんでそんなやる気マシマシになってるの?ハァ、まあいいや、援護は任せてよ」
「カカッ!期待しておるぞ!」
雪男ことスノーオーガが呼び出した眷属は2m程のブルーオーガで数は50くらい。
リオンの測定によると通常オーガ2.5匹分の強さらしく、今のチーム黒獅子だけだと危険だが今はルベリオスも居るので問題無いと判断した。
リノアとウピルには期待していないがヘイト要因で居ないよりかは囮として役立つだろうと思っていた。
更にリオンはワムちゃんも頑張って成長してくれと断腸の思いでこの場に残したのであった。
「それじゃテメェは邪魔にならねえ様にこっちで殺ろうや!」
「グガァッ!?」
足に力を込め、地面を踏み抜きスノーオーガの顔面を掴むとその場を離脱したリオン。
言葉通り邪魔な連中とは距離を置き、思いっきり戦える場所に移動した。
木々を薙ぎ倒しながら数百m移動してリオンがスノーオーガをぶん投げた。
手を離した瞬間に尻尾で地面に叩き付けたのでスノーオーガは地面を抉りながら耕していった。
改めてリオンは自身の擬態した身体を確認した。
顔は獅子寄りに狼成分と悪魔がプラスされた歪な見た目、鼻梁が長く耳が狼っぽく捩れた角がこめかみから一対生えてる。
二足歩行になっており両脚は山羊系悪魔っぽい。
蹄もある。
尻尾は鱗を纏った蛇。普段通りシャーシャーと威嚇している。
両腕はこれまた鱗に覆われた巨腕。
ダラリと脱力したら地面につく程の大きさであり、それは竜の腕である。
鱗も毛皮も漆黒だが、尻尾だけ銀色の蛇。
確認した姿に満足気な表情のリオン。
そんなリオンの顔面に突如氷の礫が迫るが、銀蛇の姿がブレると同時に氷の礫も消えてしまう。
バリボリと背後から音が響く。
(冷たくて美味しい〜。もう無いのッ!?シャリシャリ!アイス!アイスゥゥ!)
「クハハ!アイツに頼まねえとなぁ。どうなんだ?氷のおかわりだってよ」
リオンが声を掛けた先には未だに憤怒の表情を向けるスノーオーガがいた。
唸っているだけで意思疎通ができないスノーオーガにリオンは呆れた顔をしながら問う。
「いやお前念話に頼らずとも喋れるだろ?吠えるだけじゃ埒が明かねえだろ。それとも話さずに死ぬか?なあ雑魚虫よぉ」
「グガァ……。なぜ俺が話せると分かった侵入者よ」
「クハハ!そんなの、魔物の勘だな!」
「なに?勘だと?……グ、グアハハハハハ!勘、勘か。まあ話せる魔物であればそんな理由でもいいだろう。それで侵入者よ、ここにはなんの用で来たんだ?」
少し威圧を掛けて話し掛けるとあっさり話し始めるスノーオーガに呆れ、小さな違和感を感じながらも問われた用向きに思考を加速させる。
通常であればルベリオスとの約束事である、この地の奪還で来たと伝えればいいが、珍しくリオンは考えを変えた。
「ここに上下金銀のグリフォンがいんだろ?ソイツに会いに来たんだよ」
「ほぅ。アイツ、か。確かにアイツはこの地にいるな。だがそんな簡単に会えると思っているのか?」
「とりあえずあの塔目指して、いなけりゃ暫く捜しまわりゃいいだろ、簡単なもんだ」
「フッ、バカが!俺様がそれを許すとでも?」
「なんで捜すのにテメェの許可がいるんだよザコが」
「フッ、やはり俺様が出て来て良かった。俺様がテメェをぶち殺せるんだからなぁ!!」
「やってみろカスが!!」
一瞬で沸騰した感情が爆発したスノーオーガが殴り掛かり、リオンを吹き飛ばす。
リオンは木に着地するとそのままの反動で飛び上がり踵落としを決める。
地面は抉れ地響きが起こり、土砂が舞い上がった
ただリオンの足元にスノーオーガは居らず、攻撃を探知して視線を前に向けると舞い上がった土砂を射抜く様に先程の氷の礫が無数に迫る。
しゃがんで回避したリオンはお返しとばかりに掘り起こされた時に出た岩石をスノーオーガに殴り飛ばす。
岩石はリオンの力により砕け、散弾の様に広範囲に木々を撃ち抜いた。
「へぇ〜。聞いてた話だと脳筋っぽい野郎だと思ってたが、知能なのか本能なのかは置いといてなかなかどうして、頭使うじゃねえか」
「お前、生意気だな!我々の力を思い知るがいい!」
スノーオーガの前には氷の壁が出来ており、端っこは岩石礫により貫通していたが身体に近い中心部は貫通しておらず耐え切っていた。
彼は氷の壁の後ろから魔力を込めた拳で氷の礫として打ち出してリオンを攻撃するも、ただの直線的な攻撃なのですべてを打ち落とされていた。
スノーオーガは肩から血を流していたが、オーガ固有の回復力のお陰かすぐに出血は治まった。
そして今度はリオンから攻撃を仕掛ける。
直線的なフェイント一切無しのド直球正拳突き。
普通であれば距離もあり、ド直球な攻撃に余裕で回避できそうだが今回は速度があまりにも非常識なもので、ボッと音が鳴った瞬間にはスノーオーガの左腕が消し飛んでいた。
野生の勘で身体を捻る事で辛うじて即死を免れたスノーオーガは、激痛を押し殺し反撃に転じる。
身体を横向きにして未だ突き出しているリオンの腕を右肘と右膝で圧し折るため挟み込もうと打ち出す。
しかし肘と膝がかち合った時にはリオンの腕は引っ込んでいた。
その場からの離脱を考えていたが、悪寒を感じたスノーオーガは高速で身を屈めた。
そんな彼の頭上を空気を引き裂く音と共にリオンの左脚が通過する。
ギリッと歯を食いしばったスノーオーガが離脱の際の隙を晒すよりゼロ距離での反撃を選択。
意識を分散させるため氷の礫を複数出して四方八方からリオンに向けて射出し、それに合わせて顎にアッパーをかます。
決まった。
スノーオーガの口角が押し上げられ勝ちを確信するが、不思議と一瞬だけ頭が冷静になる。
頭上の攻撃を回避してからなぜずっと自分のところに影が掛かってるだろう、と。
そしていつまでも何の感触も無い空虚な右手に無力さを感じながら、顔面に強烈な衝撃と破裂音を体感しながらスノーオーガの意識が途絶えた。
「もうちょい肉弾戦やっても良かったが、進化して久しぶりに力込めて殴ったら簡単に潰れちまった」
(手加減って難しいわよねぇ)
(よわいのが悪い!)
(食べていい〜?)
「やっぱ武器使った方が長く遊べるな。あぁ、討伐部位だけ聞いたら後は食っていいぞ。頭だったら全部持って帰らねえと無理か?」
(ギルドの説明も確か言ってたわね。色々面倒臭いのよね)
「まあ仕方ねえよ。ん?アイツ等も終わったか、つうかコイツが死んで眷属は逃げたのか。戻るか」
((あい!))
「ハァ……特異個体もこの程度か。今後もこの程度なら全部潰しても問題ねえな」
頭が潰れたスノーオーガを格納したリオンは擬態を解くとリノア達に合流するために怠そうに歩き出した。




