不穏な気配
「や~平和だね」
「ん・・・」
私室のバルコニーで日向ぼっこしているアルベルトとヴィクトリア。 この一ヶ月、ドワーフ達の襲来からマッドレンジャー達との修行、そして装備展覧会と怒涛の如く時間が過ぎ去り先日ようやっと本命のジョゼルのダンジョンに入ったアルベルトは久しぶりの休日をヴィクトリアと過ごしていた
「でも意外だったのはウマルだよね~」
「ん・・・戦闘狂?」
「ん~そこまででは無いかな。でもいいストレス解消にはなってるみたいだね」
アルベルト達はジョゼルのダンジョンで成長しすぎた邪竜を倒した後もちょくちょくダンジョンに潜っては魔物を倒していたのだが、あまり速いペースで入ると魔物が育ちきっておらず少し物足りなくなっていた
しかし、バイマト達が入るには丁度いい難易度になっている為、彼等も暇を見てはジョゼルに頼み込みダンジョンで修行していた。 アルベルトの言う意外だったと言うのはそこに積極的にウマルが参加していた事だった。
文官である彼がそこまでLV上げに拘る必要も無いのだが、積極的に機会を見つけてはダンジョンに潜っている理由をアルベルトはストレス解消と解釈していた。
最近はウマルに迷惑を掛けた覚えが無いからこそ、のんびりそんな事を考えていられる訳だが、自分がウマルのストレスの原因になった時もそうやって解消して貰えると有り難いとアルベルトはそれを止めるつもりは無かった
「あ~スッキリした・・・って狡い!私が居ないのにイチャイチャ禁止よ!!」
「おっと、お疲れべス。」
ヴィクトリアと二人で背凭れを倒しながら日向ぼっこしていた大きめのウッドチェアーにダンジョンから出てきたエリザベスがアルベルトに向かって飛び込んでくる。 それを受け止めた彼はすかさずエリザベスの頭を撫でて労うのだった。 この辺りの対応を間違うと婚約者同士のバトルが始まるのだが、アルベルトも慣れた物でエリザベスの弱点を的確についていた
「ふみゃ~。アルもっと~」
「うんうん。ウマル達の護衛ありがとね」
「ん・・・私も♡」
「はいはい、ヴィクもいつもありがとね」
ジョゼルのダンジョンは入ってみないと魔物の強さが判らない為、念の為婚約者のどちらかが護衛と言う形で付き添う事になっている。 本来ならばアルベルトも護衛に付くべきなのだがウマルが積極的にダンジョンに入っていくので彼までも不在になると不測の事態が起きた時対応できないので最近はあまりダンジョンに入っていない
「旦那様!何故に来てくれぬのじゃ!・・・って、また妾を除け者にしおって!!」
「ちょ!グフッ!?」
特注の大きめのウッドチェアーとはいえ、両脇に婚約者を抱いている状態では人化したジョゼルの入る隙間は存在していなかった。 その為飛び込んできた彼女を正面から受け止める形に成ったアルベルト。しかもその両手は婚約者たちを抱きしめていた為もろに身体で衝撃を受け止めるしかなかった
「旦那様!妾と妾のダンジョンは旦那様の物じゃ!!なのに肝心の旦那様が来てくれないのはおかしいのじゃ」
「ゲホゲホ・・・ご、ごめんねジョゼル。なるべく僕も行くようにするよ」
「判れば良いのじゃ。妾も我儘ばかりでは無いのじゃ」
「何言ってんのよ!十分我儘じゃないの!!」
「ん・・・贅沢」
アルベルトに飛び込んできてそのまま、彼の首にぶら下がる様にしてくっ付いているジョゼルをエリザベスとヴィクトリアは抗議の声を上げるのだが、自分のポジションから動く気配は無くアルベルトは自由を奪われたままその抗議活動を咳き込みながら見守るしかなかった
『アル・・・女難の相が濃くなっておるぞ』
「うん・・・自覚してるよ」
流石の伝説の賢者もこればっかりは如何し様も無かったのであった・・・
「で、殿下!大変です!!って、またですか!?」
「や、やぁサニラ。なんかあったのかな?」
「まったく、まだ明るい内からイチャイチャと・・・って、そうじゃなかった。大変です神国からの使者が門前に押しかけ領主との面談を求めてます」
血相を変えながらバルコニーへ飛び込んできたサニラはいつもの光景に呆れてしまったのか不敬とも取れる発言を思わず漏らしてしまう。 それを指摘・・・と、いっても傍から見れば正しくイチャイチャしている訳で、言い訳すら出来ない状態のアルベルトは不自由な体勢のまま首だけをサニラの方に向けて照れ隠しなのか必要以上に平静を装って返事を返す
実は領内でもプレイボーイで名高いサニラであったが流石に勤務中はそんな事をする筈も無く、羨ましさ半分でブツブツ文句を言っていたが事態の大きさを思い出したのか慌てて報告を再開する
「神国から?なに?使者なの?いきなりなの???」
「そう言われればそうなのですがそうみたいです」
アルベルトの尤もな驚きにサニラの答えも良く判らなくなってる処を見ると彼も十分にパニックに陥っているのだろう
「なんなの?帝国にしても神国にしても先触れって文化は無いの?」
「はぁ、私に言われても・・・」
帝国も宣戦布告無しに攻め入って来ていたが、その覇権を奪った神国も同様の文化を受け継いでいるのか使者の訪問と言う大事を前もって伝えるつもりは無い様であった。 当然受け入れ態勢が出来ている訳も無く偶々アルベルトが休日であったから良い様なものでこれが不在だった場合や都合が悪かった時の事など考えてもいない様だった
「ハァ。もうセイレケの街の宿命だと思って諦めるよ」
「では神国からの使者を受け入れるので?」
「無下にも出来ないし話だけは聞いてみるよ」
正直、相手国の礼を失した態度に対してアルベルトが休日を潰してまで受ける必要は無い。 王国の玄関口であるサウスバーグ領、更に最初の街というセイレケの場所なので使者が一番最初に来るのは当たり前の事だ。 しかしあくまでもサウスバーグ領の領都はカモーラであり領主はメネドールなのだ
本来ならば使者の訪問を告げる先触れがセイレケの街を訪れ、綿密な打ち合わせの上でカモーラの街に訪れて貰うのが正式な手順だ。 途中で宿泊する等の場合は歓迎の宴なども必要だが、まだ日も高く普通ならば通り過ぎるだけ、まぁ丁寧な対応を取ったとしても挨拶程度までだろう
アルベルトが辺境伯の息子であっても今は只の一領主だ。 辺境伯本人を差し置いて使者がいきなり訪れて面会を求めるなど何か魂胆があると勘ぐられても文句は言えない行為である為、アルベルトが教えられた外交の基本とはかけ離れていたのだった
「一応父上にも早馬で知らせておいてね」
「判りました。その様に対応します」
☆△☆△
「やあやあ、これは高名なアルベルト殿下にお会いできるとは光栄の至りです」
「いえいえ、只の一領主に過ぎない私に殿下などと・・・敬称は必要ありません。寧ろ若輩の私が対応する非礼をお許し頂きたい」
「はっはっは。これは一本取られましたな。失礼、この度、神国・・・聖ザービス神国の使者と言う大任を承ったバーン・ボッヒュと申します、以後お見知り置きを願います」
「アルベルト・サウスバーグです。よろしくお願いします」
陽気な態度で握手を求めるバーンと名乗った使者に握手を返しながらアルベルトはあくまでも一領主として対応する。 バーンはアルベルトを次期辺境伯として遇する事で何かしらの見返りも期待していたのだろうが、それをアルベルト本人にキッパリと否定された形だが悪びれた様子も無く笑顔を浮かべながらドカッとソファーに身を沈めた
『なんじゃコヤツは・・・』
「・・・」
アルベルトの勧めの前に、しかもドッカリと座ったバーンの態度に彼の後ろでふよふよ浮きながらマーリンが呆れた様に呟く。 口ではアルベルトを敬いながら、しかしその態度と行いが大凡かけ離れているのだ。 扉の前で直立不動を貫いているサニラも不満そうに表情を硬くしていた
「さて、この度隣国になった我が国は貴国との友好を求めております。そしてご存じの様に我が国は全能神アポフィス様を教皇ウェルヘム・ナザックの指導の元、国民全てが信仰しております。つきましては貴国にもその布教の許可を頂きたいのです」
『アポフィスだと!アル、コヤツを即刻追い出せ!』
「それは私の権限の及ぶ処ではございません。どうか王都にて国王陛下に許可をお求めください」
『ええ~い!アルよそんな悠長な事を言っておれんのだ。さっさと追い出せ」
「ふ~む。堅実なお答えですな・・・この街を見た時はもっと革新的な方かと思ったのですが。まぁ良いでしょう、ではこの街に我らが信徒の安らぎの場である教会の建設の許可を頂きたい」
『何じゃと!いかん!!絶対に許可するな!!!』
「お断りします。陛下からの許可も頂かない内から私だけの判断で許可できる話ではございません。」
「・・・そうですか、失望いたしました。我が神も同様に失望した事でしょう。まぁこんな田舎の街の領主ではしょうがないかも知れませんね。では失礼して先を急ぐ事に致します」
「なにもお構いできませんで。道中お気をつけて」
部屋に入って来た時の友好的な雰囲気とは逆の高飛車な上から目線の捨て台詞と共に大股で去っていくバーン・ボッヒュ。 彼が室内から出るまで黙って頭を下げていたアルベルトであったが、その姿が見えなくなると大きく一息ついてソファーに座り込む
「なんですかあの無礼な男は!いきなり来ておいて要求を断られたらあの態度、失礼にも程があります」
「まぁ、しょうがないよ。向こうは一応国の代表、こっちはしがない田舎の一領主なんだからさ。それよりもサニラ、緊急の伝令を用意して。父上と陛下に宛てて重要な報告がある。あの使者よりも早く届ける必要が有るからね」
「緊急ですね、判りました。腕の良いのを見繕ってきます」
サニラも大分砕けて来たな、と気安く愚痴を言ってくれるようになった自らの守護役に頬を緩めながらアルベルトは彼が飛び出していった部屋の扉を閉める
「それじゃあマーリン、アポフィスって何?なにをそんなに怒っていたの?」
『うむ、すまんかったな。ちと冷静さを欠いてしまった。』
「それは良いけど・・・一応陛下と父上にも伝えるから詳しい事を教えて」
一応は国の代表である使者に対して一領主がサッサと帰れなんて行った日には外交問題どころか下手したら全面戦争である。 一応陛下からはアルベルトに任せると言う言質は取っているが、あれは国王が面倒臭くなって丸投げしただけでありアルベルトは本気にしていなかった
『まさか、こんな身になってからその名を聞く事になるとはの。アポフィスと言う名の神を祀る連中は儂の生きておった時代にもおったんじゃよ。』
「へ~宗教国家なんてカルトな連中かと思ってたら案外歴史があるんだね」
『アル、歴史があるから正しい教えとは限らんぞ。どうやら今回はザービス教と名乗っているらしいが、儂らの頃は別の名で呼ばれておった』
「別の名?」
『そうじゃ、≪終末教≫と呼ばれておったのじゃよ』
誰もいなくなった応接室。 知らない者が見たらアルベルトが独り言を呟いているように見えただろう・・・
しかし、古の知識を持つ伝説の賢者の言う宗教の名に、なにか背筋に冷たい物が流れるのを自覚したアルベルトだった
シリアス先生が遅刻して、あわやいつも通りになりかけましたが最後に謎を残してって感じで狙い通りです
えっ?読めていた・・・まぁ在り来たりな感じですいません
次回は明後日更新です。お楽しみに
読んで頂いて有難う御座います




