閑話 元家庭教師達~後編
「そうか第一夫人は冒険者だと言うしマッチョな女性が・・・いやでもティレケなんて名前の兵士はいなかった筈だぞ?」
「プッ!違うわよ。ティムールも私の弟子だから魔法使いだし線の細い可憐な女性よ」
「そ、そうですよね。うちの兵士な訳ないですよね」
心当たりの女性と言えば自身の私兵隊に属する女性兵士しか思い当たらず、ひょっとしてウマルには特殊な好みが有るのかと疑ったサームだったが思わず吹き出したカイヤによって否定される
しかし部下の女性兵士以外でサームに女性の知り合いがいないと言うのも悲しい出来事なのだが、アルベルトに紹介された恋人がいるので本人は気にしていない様で、周りもそこには突っ込まないでいた
「ほら、ウマルさんと一緒にいる秘書官の方。話した事あるでしょ?」
「ええ、あの無口な方ですよね。良く私兵隊の物資の納入とか給料の事で顔を合わせますけど・・・」
「あの方がウマルさんの第二夫人ですよ」
「へ!?だってあの方男性じゃ・・・いやいや、確かに細身で声も高いですけど制服だって男物ですしお胸も・・・」
「プッククク。良かったわねウマル。みんな男性だと思ってるみたいよ」
サニラの暴露にアタフタと動揺するサームに悪戯が成功したような笑顔のカイヤ。 その二人を憮然とした表情で見つめるウマルの表情は聊か硬い。 どこで仕返ししてやろうかという魂胆を隠しつつも、これ以上の暴露は避けたいといった感じだ
「こう見えてウマルって独占欲も高いし嫉妬深いのよ。ティムールの時は彼女の条件を泣く泣く飲んだのだけどティケルには男装までさせて他の男の眼から隠してるのよ」
「えっと・・・何と言えば良いのか。あっ!でも黙ってウマルさんの言う事を聞いてくれるんだからそれだけ思われてるんですね!」
「・・・気を使わなくていい」
衝撃の事実に何とか言葉を探してフォローするサームに不機嫌な表情でボソっと告げるウマル。 だがカイヤの方はそれで終わらせるつもりは無い様で更に燃料を追加していく
「プッククク。それがねぇ~そうでもないのよ。初めは良かったんだけど最近はそれをネタにティケルに脅されてプレゼントにお金が掛かってお小遣いが・・・プッ~ククク」
「カイヤ・・・覚えてろよ」
《なんでも超人》も家に帰れば何処にでもいる旦那と変わり無い様で、奥さんには頭が上がらない様だった
「サームも最近は伯爵令嬢と上手く行ってる見たいで良かったですね
「はい!アルベルト様のお蔭で女性兵士から隠れる必要も無くなりましたし、ちょっと年上ですけど話も合うし素敵な方です」
アルベルトの紹介でお見合いした貴族の娘さんは、当初サームが心配したような女性では無く、正しく姫騎士の様な可憐な女性であった。 剣に夢中で確かな実力を持つ彼女だが家庭的な面もあり、やっと巡って来た春を失わない様にサームは大事に関係を進めている
「ハンッ!女なんかに気を使ってると将来尻に敷かれるぞ!」
「ほ~う・・・流石はバイマト難しい女性を相手にしているだけの事はありますね」
ウマルの眼がキラ~ンと光りチャンスを逃がさない狩人の眼になっていた。
「そう言えばバイマト殿の浮いた噂は聞いた事ありませんね」
「へっ!危険と隣り合わせの冒険者には固定の女はいらねぇのさ。娼館が俺の帰る処だ」
「ほう・・・それはそれは。領主館の中に娼館があるとは初めて聞きましたよ」
「「なっ!」」
ウマルの何かを示唆する言葉に、何故かバイマトだけで無くカイヤも驚いた表情でウマルの顔を見つめ返す
「私が知らないとでも?領主館は私のテリトリーですよ」
「ま、まさか見られてたのか?」
「ば、馬鹿!それじゃあ認めた様なもの・・・あっ!」
目を細めドヤ顔で放たれたウマルの言葉にバイマトが思わずといった感じで口走った言葉をカイヤが咎める。 しかしそれ自体がウマルの言葉を肯定している事に気が付いたカイヤが自らの口を押えるが、放った言葉はもう戻らないのだ
「やっぱりですか・・・侍女の報告でバイマトの部屋が最近綺麗だとは聞いて何と無く程度の考えでしたが想像どおりでしたね」
「え?って事はお二人は・・・」
「出来てたんですか?」
「ちょっとサニラ!言葉を選びなさい!!」
既婚者のウマルは領主館の近くに屋敷を拝領してそこに住んでいるのだが、バイマトとカイヤはアルベルトの最古参の家臣という事で領主館に自室を貰ってそこに住んでいる。
アルベルトの自室にも近く名目上は護衛も兼ねているのだが、見回りの義務などないし実際には普通に暮らしているだけだ。 しかしアルベルトの自室に近いという事は彼のプライベートエリアに属する場所であり深夜になれば人の往来が無い場所で警備の都合上、極少数の騎士たちが見回るだけである
「って、いつからなんですか?そんなそぶり全然見せてないですよね!?」
「いや、まぁ・・・その、なんだ・・・」
「バイマト、男らしくないですね。正直に言いなさい、ネタは上がってるんですよ!」
「チッ・・・あの日だよ。アルが帝国軍を一人でやっつけた後、参加できなかった俺達帰って来た日だよ」
「だからなんでアンタは!ウマルの誘導尋問だって気付きなさい!・・・ハァ~なんでこんな馬鹿な男と出来ちゃったんだろ」
カイヤでは正直に話さないと考えたウマルはターゲットをバイマトに絞り、然も知っている様な態度で迫る事でバイマトから情報を絞り上げて行く。
男らしくないとまで言われ観念してペラペラと話すバイマトに呆れながらカイヤも今迄誰にも話していなかった罪悪感からか素直・・・では無いものの漸く認める発言をしたのだが、それはバイマトに対する呆れも多分に交じっていた
「へ~バイマトさんとカイヤさんがね~・・・へ~」
「なによサニラ!言いたい事が有るならハッキリ言いなさいよ!」
「いえ、ただどっちから言い寄ったのかなって思っただけです」
「「なっ!」」
「そ、そんなのカイヤからに決まってんだろうが!」
「なんですって~!アルベルトにもう俺達は必要ないのかな?って落ち込みながらアンタが抱き着いて来たんでしょうが!」
「ば!馬鹿。俺が机に突っ伏したのを後ろから抱きしめたのはおお前じゃねぇか!」
「で、で、ででもそのまま振り返って押し倒したのはアンタでしょ!」
「はいはい・・・仲の宜しいこって」
砂糖を吐く様な表情のサニラが掌をヒラヒラさせながら軽くあしらう。 仕返しを目論んでいたウマルもまさか二人が此処まで盛大な自爆で赤裸々にその場面を語るとは思っておらず片手で顔を覆って呆れている
二人とも年齢的にはウマルよりも年上であり恋愛事で此処まで取り乱すとは思ってもいなかった。 カイヤはエルフで実年齢を知っている者はいないが、おそらくセイレケの街でも最年長の部類に入るのは間違いない。 バイマトだってメネドールと共に冒険者であったのだからソコソコの年齢の筈だ。
そんな二人が初心な若者の様に顔を真っ赤にして言い合っているのだから、これは中々に聞いている方が恥ずかしくなってくる
「馬っ鹿!その後もお前が、もう離さないとか言って来るから!」
「なによ!私の胸の中で甘えた様に泣いてたのはどこの誰よ!!」
その言い合いは殆ど惚気に近い物で有り周りに三人がいる事などすっかり忘れてしまっている様だった
「えっと・・・宝箱の中身は何でしょう?」
「え・・・そう言えば見てないですね。まぁ殿下に差し上げれば喜ぶんじゃないんですか?」
「まぁ明日で良いですね。そろそろ眠りましょうか・・・」
「そうしましょうか・・・はぁ聞かなきゃよかった・・・」
バイマトとカイヤの痴話喧嘩を呆れつつもしてやったりといった表情でニヤニヤ見つめるウマル。 その三人から徐々に距離を取りつつ、サームとサニラは無難な会話をしながらでその場を離れていく
セイレケの街に暮らす以上、いややがてこの街程度の規模では収まらなくなるであろうアルベルトに仕える以上、この三人とは長く付き合っていくのだ。 ソコソコ親しくなっておいた方が良い三人ではあるが別に弱みを握る気は無い。 二人にはアルベルトの守護役と私兵隊の隊長と言う立派な役職が在り、この三人を利用して出世を狙うつもりなど毛頭ない
寧ろこれ以上聞くと何かと面倒事に巻き込まれそうな気がした二人は、そっとその場を離れ寝床へと潜り込むのだった・・・
結局、三人の恋愛話で終わってしまいましたが、また機会があれば別の側面も書きたいと思ってます。
エリザベスの閑話も書きたかったのですがこれ以上書くと肝心のプロットに頭が回らなくなりそうでしたので、それもまたの機会に
次章、第四章は少し重たい話しになりそうです。前作以来久しぶりのシリアス先生の出番の予定です・・・が、シリアス先生ってサボり気味ですのでどうなるかは未定です(笑)
読んで頂いて有難う御座います




