閑話 元家庭教師達~前編
長くなってしまったので分割しました・・・
「いや~戦った戦った。久しぶりに満足したぜ」
「まったく・・・本当に戦闘狂ね」
カモーラの街の近くにできたダンジョンの最下層、所謂ボス部屋でバイマトが満足そうにしているのを、カイヤがボスが消えゆくのを見ながら呆れている
入口から二十五階層を宣言通り三日で走破したバイマトはウマルのパワーレべリングという名目そっちの気で久しぶりの戦いを満喫したのだ。
「殆ど役に立ちませんでした・・・」
「俺もです。しかもウマルさん強かったし・・・」
巻き込まれて連れてこられたサームとサニラは真っ新なままの新装備を見ながら呆然と呟く。 パワーレべリングという事で戦いの主戦力はバイマトとカイヤが務める事は判っていたのだが二人の戦闘力は想像していたよりも遥かに強力で出会う魔物達をバッタバッタと斬り伏せるバイマトに遠距離から繰り出されるカイヤの凄まじいまでの魔法攻撃であっという間に戦闘が終了してしまうのだ
その為、魔物と出会って直ぐに一撃を入れて経験値の入手条件を満たした後は二人の戦闘を見学するだけと言う状態になってしまい、初戦闘のウマルと大した差の無い状態になってしまい若干落ち込んでしまっていた
「いや~案外戦闘も楽しい物ですね。二人の気持ちもわかりましたよ」
「いやいやウマルさん。普通はこんなに強い魔物に出会ったら逃げますからね!?」
「そうなんですか!?結構楽しかったですよ?」
文官一筋で戦闘など熟した事が無いウマルであったが、パワーレべリングの結果最下層近くに下りてきたときにはバイマトと共に前衛でメイスを振り回していたのだった。 ラウンジシールドを巧みに使い敵の攻撃を捌きながら隙を見つけてはメイスを叩きこむウマルは、バイマトの様な突進型の戦士では無いが堅実な戦いぶりで魔物を確実に葬っていた
流石にバイマトとカイヤが一対一の状態を作った上での戦闘ではあるが、それでも国内最難関級のダンジョンの魔物と戦えるようになったのだから十分な強さである
「まぁ武器のお蔭ですけどね」
「確かにこの武器の性能は凄いですけど、そういう問題じゃないと思います」
「はっはっは、確かにこんなにウマルが戦えるとは思わなかったぜ」
「まぁ体力には自信はありましたけどね」
文官とはいえセイレケの街の行政を一手に引き受けるウマル。 領主であるアルベルトがチョイチョイ仕事を投げ出し抜け出してしまう為、徹夜で仕事を片づける事が多々ある為自然と体力と精神力が鍛えられたようだ。 尤もアルベルトの家庭教師を始める前の研究職時代からそんな事は日常茶飯事だったのでサボりがちな領主のせいだとは言えないのかもしれないのだが・・・
「はいはい!無駄話はそこらへんにして野営の準備をしちゃうわよ」
「あ、カイヤさんすいません。直ぐ手伝います」
ボス部屋の奥には地上に戻る為の転送陣が輝いているのだが、ダンジョン攻略を急いだ為に今から地上に戻っても結局は野営になるので、それならば安全なボス部屋で野営した方がゆっくり休めるという事で初めから計画していた事だった
男性陣がダンジョン攻略を振り返っている間に野営の準備を進めていたカイヤの言葉に苦労性のサームが会話を打ち切り直ぐに手伝い始める。 しかし他の三人に関しては一切動こうとしないのだが、実は役に立たないので早々にカイヤに見切りをつけられた結果なのでこれまでの野営と同じく二人でサクサクと準備を進めて行く
冒険者として長い経験があるバイマトも野営などはお手の物だが彼の場合は基本的に保存食とごろ寝が野営だと思っているので始めから戦力としてあてにされていない。 サニラはサウスバーグ家の領兵一筋の生粋の戦士であり、しかもセイレケ砦に常駐していた為、知識はともかく実際の処あまり役に立たないのだ
意外だったのはウマルで文官の彼が野営の経験が無いのは判るのだが、家事炊事に関して一切出来ないと言う情報は長い付き合いのバイマトとカイヤはともかく、サニラとサームを非常に驚かせた
「《何でも超人》のウマルさんでも苦手分野が有ったんですね」
「ッ!なんですかその嬉しくない二つ名は!?」
「いや、セイレケの街では案外有名ですよ?」
文官としてセイレケの街の行政を一手に引き受け、アルベルトだろうがカルルク将軍であろうが正座で説教してしまうウマルは領主であるアルベルトとは違った意味で欠かせない存在だ。 アルベルトが思い付く奇抜な政策もウマルの手腕が無ければ到底実現できず、その管理監督能力と現場の指揮能力は非常に信頼されていた
その幅広い知識に実際に彼の仕事ぶりを見ている文官達を中心に「何でも超人」として広く領民に知れ渡っていたのだが、実際に面と向かって言われる事が無かった為、そんな二つ名が付いている事などまるで知らなかったのだ
「まぁ二つ名なんて初めはこっ恥ずかしいもんだからな。その内慣れるさ」
「そうですか?あなたの《剛腕》もそうだったんですか?」
「違うわよ。本当は《無策無謀》が二つ名だったのよ、それを強引に《剛腕》に変えさせたのよ、コイツは」
「あっ!馬鹿。それは内緒の筈だろ!」
「因みに私は初めから《魔女》のままよ」
「・・・《冷血の》だけどな」
このダンジョンでの戦いぶりを見ていたサームとサニラにはその二つ名が似合いすぎていて苦笑いを浮かべるしかなかった。 集団で現れる魔物に突進していくバイマトと薄っすらと浮かべる冷たい笑みで魔法を放つカイヤ・・・しかしそれを指摘するとその矛先が此方に来る事は間違いない為に口を噤む事にした選択は間違いでは無い
「しかし長い付き合いになりますけど、案外知らない事も有るんですね」
「そう言えばそうだな。家庭教師になる前からコイツとは腐れ縁だが、その前の事とか案外知らないかもな」
「コイツって何よ!・・・でも案外私はウマルのこと知ってるけどね~」
「ッ!・・・ティレケとティムールですね!?」
「ほほほ、黙秘するわ」
三人はアルベルトが一歳の時からの付き合いだ。 メネドールが集めた家庭教師として出会って以来の付き合いなのでかれこれ十五年近くになるのだから結構長い付き合いだといえるだろう。
一歳児に家庭教師と言うのも異常だと思いつつも三人ともメネドールに世話になっていた事も有りその役目を快諾した。 しかし当時はこんな長い付き合いになるとは思っていなかった
教えた事を直ぐに吸収するアルベルトの異常性に興味を覚えたものの、当時はその事は秘匿されていた為、その事を話せるのは家庭教師同士だけだったので、なんだかんだ三人で良くつるんでいたのだ
まぁ、簡単に言えば三人とも気が合ったのだろう。 夜通しアルベルトの話で盛り上がったのもいい思い出だった
そのまま居心地の良さにアルベルトに仕える事になり今に至るのだが三人共アルベルトの元を離れるつもりが無いのも一緒であった
「ティムール様は確かウマルさんの奥方でしたよね」
「そうよ。元々私の可愛い~弟子だったのよ」
「えっ!って事は・・・」
「そう!ウマルって結構手が早いのよ」
「ちょっ!人聞きの悪い事言わないで下さい!!!」
「ほぉ~その辺詳しく!!」
普段は落ち着いてどちらかと言うとツッコミ役が多いウマルが焦ったように動揺すると言うのは非常に珍しかった。 しかもその有能さで有名な彼だったが私生活は殆ど知られていないので興味津々の一同であった
「私を訪ねてきた彼女を三日で口説き落とした時は凄かったわよ~」
「い、いや、だってあの機会を逃したらもう会えないかと・・・」
「えっ!三日?たった三日で口説き落としたんですか?」
冷静イメージしかなかったウマルの意外な面だった。 初対面から三日で口説き落として結婚まで持って行けるなんて婚活で悩むサームには羨まし過ぎる技術だった
「そうよ~情熱的だったわよ。それでその時に出した彼女の条件が冒険者を続ける事。だから彼女はこの街に居ないわ」
「えっ!居ないんですか?道理で・・・」
「道理で?」
「い、いや、何でも無いです。」
「ふふふ。サームは勘違いしてたわよね?」
「な!なんで知ってるんですか!?」
今でこそアルベルトに紹介された恋人と上手く行ってるサームだが、一時は大物なのに独身ランキングの男性部門一位を獲得したと言う不名誉な黒歴史を持っており、その時に何故ウマルが一位でないのかと酒場で良く嘆いていたのだ。 まぁウマルの事を独身だと思い込んでいたサームが悪いのだが、この世界では特殊な事情以外で夫婦が別居している事は珍しいので仕方無いのかもしれない
「ほら、セイレケの街を造り始め時、醸造所だけが凄く早く出来たじゃない」
「ええ、バイマトさんが私財投げ出したって奴ですよね」
「おお、あの時はちょっと調子に乗っちまって後が大変だった」
セイレケの街が出来あがる過程で出来た公的な建物の中では醸造所はかなり早い時期に出来上がっていた。 呑兵衛のバイマトが私財を投げ出してまで設備や原料を買い求めた事が大きな要因だったのだが・・・
「実はアレにウマルも噛んでるのよ」
「え!?でもウマルさんってそんなに飲まないですよね?」
「ええ、ウマルはね。でも・・・」
「ああ!奥さんが飲むんだ!」
「チッ!」
三日で口説き落としたものの冒険者を続ける事を了承したため、中々帰ってこないティムールに文句を言えないウマルはあの手この手で彼女が帰ってくるように手を廻していたのだ。
「それって、公私混同じゃあ・・・」
「失礼な。他の皆にも好評だった訳で一方的に私に益が有った訳では無いぞ」
「そうね~結局帰って来なかったし」
「そうなんですか?」
「ええ、甘口のワインは口に合わなかったみたいよ」
バイマトが醸造にマーリンを頼るのを見越して、賢者の知恵で作ったワインならティムールも興味を示すと考えたウマルは醸造所の設置を急がせたのだ。 ワイン用の醸造所がやたら立派だったのもその為でサームが言う様に公私混同も甚だしかったのだが・・・
冒0険者を長く続け酒の魅力にスッカリ嵌っていたティムールは甘口のワインよりも辛口の赤を好んでおり然程興味を示さなかった。 まぁセイレケの街に住む女性陣には好評だったのでウマルの行った事は無駄になった訳では無い、というより彼の目的は果たせなかったのだから公私混同というには聊か可哀想だった
「それではティレケ様の事も御存じないですね?」
「えっと・・・もしかして?」
「はい。ウマルさんの第二夫人です」
「は!?・・・いや、失礼。でも第二夫人ですか・・・」
アルベルトの守護役で常に領主館に詰めているサニラは中々の事情通の様で、バイマトですら知らなかった情報を良く知っていた。 素の性格は案外短気で良くカルルク将軍に突っ込みを入れているのだが侍女たちの評判は高く結構浮名を流している彼は様々な噂話に精通していたのだ
だが、サームにして見れば独身仲間だと一方的に思っていたウマルに第二夫人までいたとは思って無かったので先程に続きただただ驚くばかりだった
「サームさんも良く会ってますよ?」
「え!?いつ?どこで?・・・そんな心当たりないですよ?」
私兵隊の隊長を務めるサームなので普段は兵舎にいる事が多く、良く会う女性と言えば筋骨隆々の女性兵士ばかりだ。 まさか文官のウマルの奥方があんな・・・と、そこまで考えて一つの考えに行きつく
「そうか第一夫人は冒険者だと言うしマッチョな女性が・・・いやでもティレケなんて名前の兵士はいなかった筈だぞ?」
「プッ!違うわよ。ティムールも私の弟子だから魔法使いだし線の細い可憐な女性よ」
「そ、そうですよね。うちの兵士な訳ないですよね」
主にカイヤとサニラが事情をバラしサームとバイマトがフンフンと聞き役に廻る形で野営の夜は更けていく
まだまだ続きそうな自身の話にウンザリしながらもやり返す機会を虎視眈々と狙うウマルであった・・・
昨日の閑話とは違って筆が進む楽しい時間だったのですが、その分長く成り過ぎてしまい二話に分割する羽目に・・・
明日更新しますのでご勘弁を
本編第四章は水曜日からになります
読んで頂いて有難う御座います




