伝説の賢者マーリン~⑭
久しぶりの連続投稿です
ドォーンと衝撃が繰り返される扉の前で飛び出すタイミングを見計らっていたアルベルト達はその間隔が徐々に短くなっている事に気が付いていた
「どうやら相当気が短い奴みたいね」
「うん、しかもあまり頭は良さそうじゃないタイプと見た」
「ん・・・脳筋タイプ」
「こっち見ながら言わないでよ!」
ダンジョンマスターであるジョゼルの部屋にはいる為の扉である以上は破壊不能属性が付いている筈であり、力押しでどうにかできるものでは無い。 知性ある魔物ならばすぐにその事に気付くだろうし、知性が低いタイプであってもこれだけ繰り返せば普通は破壊不能な事に気が付くはずだ
しかし衝撃と轟音は止むどころか間隔が短くなってくる位なので扉の前にいるであろう魔物は力だけで解決を目指すタイプである事は容易に想像つく
「タイミングを見て僕が突っ込むよ」
「ん・・・私の方が向いてる」
「・・・そうだね。それじゃヴィク頼むよ」
若干間が空いたのはアルベルトの矜持とヴィクトリアの能力を検証した結果だろう。 危険な場所にヴィクトリアを単身飛び込ますのは避けたいものの、現実問題として高い隠蔽能力と瞬発力を兼ね備えた彼女が一の矢に相応しい事は揺るぎ無い事実でありアルベルトが飛び込むよりも正しい選択であった
「カウント省略・・・今!」
「ん・・・」
エリザベスがタイミングを計り・・・というかアレで計っている事になるのかは判らないが、ともかく扉への攻撃の間隙を抜けて黒い弾丸と化したヴィクトリアが扉を潜り抜ける。 そしてそのまま拳に纏わせた闇色のオーラを叩きつけるように目の前の巨大な魔物に渾身の一撃を加えその巨体を後ろに下がらせる事に成功する
「ヴィク下がって!べスはシールドを展開させて中央へ」
「了解!って、こんにゃろ~!」
「ん・・・失敗、闇属性だった」
アルベルトの指示で中央に布陣したエリザベスが魔法で具現化したシールドを展開したのと黒い巨体が再び攻撃を仕掛けてきたのは同時であった。
「チッ!部屋が暗い。アル、明りを!」
「ライトボール!」
幸い単純な叩きつけるだけの物理攻撃であった為何とか防ぎ切ったエリザベスだが部屋の中は暗闇に包まれており相手の姿を視認できる状態では無かった。 本来ジョゼルが設定したダンジョンの部屋には明りがデフォルトで設定されており、それが機能していないという事は目の前の魔物がこの部屋の機能を支配している事を示していた
「ん・・・ダークドラゴン」
「って、なんで転生竜のダンジョンに邪竜がいるのよ!?」
二人が言う様に目の前にそびえるのはドラゴンであり、その身体から漏れ出すオーラは闇の属性を色濃く反映していた。 しかしダークドラゴンは本来エンシェントドラゴンに属し身に纏うオーラのイメージとは違い知性の高い穏やかな竜である。 だが目の前のドラゴンには知性の欠片すら見る事が出来ず完全に闇落ちした邪竜と化していた
『ふむ・・・ダークドラゴンは闇に強い耐性を持っておるのじゃが・・・興味深い事例じゃな』
「って、マーリンも落ち着いて検証してないで力を貸してよ!」
おそらくダンジョンに溢れるジョゼルの余剰魔力が何かしらの影響を与えていると推察できるが、抑々エンシェントドラゴンがダンジョンに短期間で生み出されている事自体がおかしいのだ。 しかし目の前に居るのはアルベルトがマーリンに助けを求める程の相手である、思考の深淵へと向かおうとしていた意識を集中し三人のサポートを開始するマーリン
マーリンがアルベルトを通して展開させた魔法は各ステータスの底上げを行うバフ、更には物理攻撃に対する障壁で各々を包み込み戦いを補助するものばかりでマーリンはサポート役に徹するつもりの様だった
『本来はエリザベスの役目なんじゃがな・・・』
「ん!?なんか言ったわね?」
『やれやれ・・・なんも言っとらんから気にするでない。それより、ほれ目の前の攻撃に集中せよ』
最近、やらかす事が多いエリザベスの悪口センサーは長足の進歩を遂げておりマーリンが小声でボソッと呟いた言葉にも鋭く反応した。 マーリンとて自慢の攻撃魔法をぶっ放すいい機会を泣く泣く諦めているのだから自身の望む様に戦うエリザベスの姿に愚痴の一言でも言いたかったのだろう。 しかし目の前の邪竜はそんな事は気にせずエリザベスに向かって鋭い爪を振り上げており深く追求する時間は無かった
「ライトニングアロー16連!!」
「私だって!ファイアーボール!」
エリザベスがシールドでその巨大な爪の一撃を防いでいる間にアルベルトが光の矢を生み出し邪竜へと攻撃を仕掛けると、負けじとエリザベスも同時展開した炎の球をその顔面へと炸裂させる
「ん・・・爆炎掌!」
「グギャァァアアアオオウ!」
エリザベスの放った炎で視界を塞がれた邪竜はアルベルトの光の矢とヴィクトリアの炎を纏った掌底に怒りの雄叫びを上げる。 しかしそれはダメージを受けた事では無く矮小な人間から攻撃を受けた事による怒りの雄叫びであり二人の攻撃では大したダメージを与えていなかった
「チッ!魔法防御が高い。物理攻撃の方が効果的か?」
『アル!先ずは奴の纏う闇属性のオーラを先に潰すのじゃ!』
「判った!シャイニングレイ!!」
「ん・・・朧」
「って、油断大敵よ!!」
アルベルトが得意の光魔法シャイニングレイを邪竜に向けて放つ。 頭上から降り注ぐその名の通りの光の雨が邪竜の纏った闇色のオーラを中和していく。 本来は相手の魔法効果を消し去る魔法なのだが今回は属性の影響も有り特に効果が高かった
そこへヴィクトリアがマッディ君達との修行で得たスキル【朧】で分身して邪竜の注意を引き付けると渾身の力を込めたエリザベスのメイスがその脛に叩きつけられる
「グギャ!」
「まだまだぁ!」
脛に叩きつけたメイスをその反動も利用して振りかぶり打ち付けたのは・・・小指の先であった。 幾ら硬い鱗に包まれ高い防御力を誇ろうとも痛みを感じる部分は人と変わらない
「べス、攻撃がせこいよ・・・」
「何言ってんのよ!戦いなんて相手の嫌がる事してなんぼでしょう!」
ダメージの有無はともかく光の雨で闇色のオーラを失った邪竜は涙を浮かべて痛がっているのは確かだ。
「ん・・・チャンス」
悶絶している邪竜の尻尾を駆け上がると勢いそのままに背中に生える翼を踏み台にして一挙に邪竜の顔面まで飛び上がるヴィクトリア
「ガル!?」
「ん・・・オーラナックル!」
涙目の邪竜がその事に気が付いた時にはヴィクトリアの闘気と魔力を混ぜ込んだオーラを纏った拳が邪竜の鼻っ面を殴り飛ばす寸前だった。 そしてその拳は寸分の狂いも無く叩きつけるように下向きの一撃を叩きこみ邪竜の頭を地面へと吹き飛ばす
そしてその先には剣を鞘に仕舞ったアルベルトが鞘内で魔力を溜め込みタイミングを計っていた。
「おおおお! 絶技ライトニングスラッシュ!!」
鞘内で高められた魔力を纏った剣が強化されたSTRとAGIで目にもとまらぬ速さで引き抜かれる。 マーリンの眼でさえも捕えられない剣速は一条の光の筋となって邪竜の首筋に叩き込まれる
その剣の軌道上にあった逆鱗をも斬り裂き首の半ばまで達した傷口から大量の血液が噴き出すのを躱したアルベルトは油断なく剣を構えて邪竜の様子を覗う
「グ、ゴフッ・・・グギャァアアア!」
喉元から吹き出す血がそれだけでは無く口元からも吹き出す。 しかし怒れる邪竜はそれらに構う事無く頭を振り上げると体内の魔力を練り上げる
『いかん!ブレスじゃ!!全員散れ!!!』
その魔力の動きから邪竜の最後の攻撃を悟ったマーリンが叫ぶと全員が散らばりその標的を絞らせない行動に出る。 しかし邪竜のターゲットは初めから決まっていたのだ。 神速の動きで距離を取るアルベルトに視線を固定した邪竜はその動きを追う様に口内に魔力を集中させ眩いばかりの光がそこに発生する。 その内包する威力は現時点でも最上級の魔法にも匹敵する圧力を放っており、此処まで魔力が高まってしまえばもうそれを防ぐ手段は無い
「アル!逃げて!!」
エリザベスが悲鳴にも似た叫びを上げるが、アルベルトは諦めたのかの様に動きを止めると剣を構えて邪竜と正面から対峙した
『アル、タイミングが全てじゃ。ぶっつけ本番じゃが判っておるな』
「うん。マーリンに合わせるから全力で行っちゃって!」
邪竜の口内の圧力は膨らみ続け限界まで高められたそれは自身に致命傷を与えた者への天罰だとでも言う様に尋常では無い威力にまでなっていた。 おそらく此処まで威力を高めたブレスを放てば邪竜自身もただでは済まないだろう。 しかし既に致命傷を負っている彼はそのプライドの全てを掛けて相打ちに持ち込むつもりなのだ
『「ブレイブストライク!!」』
光に包まれ背中から更に眩い翼を生やしたアルベルトが邪竜に向かって飛び込んでいくのと邪竜からブレスが放たれたのは同時であった。 眩いばかりに高められた闇色のオーラを伴ったブレスはアルベルトに向かって細い、しかし収束され威力を増しその軌道上に有る物を消し去る程の力を秘めた物だった。
しかし白い光に包まれたアルベルトはその闇を斬り裂き邪竜へと向かって飛翔する。マーリンが渾身の魔力でアルベルトを包み込みアルベルトは持てる力を全てその剣に注ぎ込む。 全属性を付与したマリーンの魔力が邪竜のブレスを防ぐ、しかし邪竜も負けじとブレスに残った全ての生命力をつぎ込み押し返す
始めにアルベルトがいた場所と邪竜の中程の位置で闇と光が拮抗し、お互いの速度が限りなくゼロに近づいて行く
「おおおおお!!!!!」
そこにアルベルトの叫びと共に彼のオーラが混じり合い、邪竜のブレスを徐々に押し返し始める。 そしてその勢いは徐々に確かな速度になり、やがて完全に押し切ったアルベルトの速度は完全に飛び込んだ時の勢いにまで達する。 そのままの速度で振り切った剣から伸びた光が邪竜の口を斬り裂くと、ゆっくりとそこから上下に別れた邪竜の頭部が滑り落ちる
制御を失ったブレスの余波が逃げ場を求める様に天井に向かって放たれるが、それはダンジョンを破壊できる程の威力を既に失っており徐々に弱まって行った
「ん・・・無事?」
「ちょっと!心配したじゃないの、このバカベルト!!!」
ゆっくりと羽ばたき地に降り立ったアルベルトから翼が消え去ると二人の婚約者が心配そうに駆け込んできた。 あっさりした言葉のヴィクトリアと非難するかの言葉のエリザベス。 言葉の内容は違っても左右からアルベルトの身を確認するように、その無事を確認するように力を込めて抱きしめるのは二人とも同じであった
「旦那様。≪もにた≫が復活したのじゃ!って何をイチャついておるのじゃ!!妾も混ぜるのじゃ!!!」
邪竜を倒した事でジョゼルよりも強力な魔物は存在しなくなったのだろう。 ダンジョン内部を見渡せる魔道具が復活した事でアルベルト達の様子を確認したジョゼルが抗議の声を上げる
『ふむ。ぶっつけ本番じゃったが何とか上手く言った様じゃ』
「へへへ、流石はマーリンだね」
『うむ、アルも良く儂の魔力を耐えきったな』
先程の技は見た目の美しさとその威力の代償としてアルベルトはマーリンの全属性を付与した膨大な魔力に耐えきりながら自身の身体能力を操り、最後にマーリンと同調した魔力を剣に込めて放つという言葉にすれば簡単な技である
伝説の賢者である膨大なマーリンの魔力は人の身で耐えうる物では無い。 これは守護霊であるマーリンと長年、それこそ生まれた時から一緒にいるアルベルトだからその魔力に同調する事で辛うじて耐えうる事が出来る物であった
魔力を同調していても耐えがたい苦痛を生み出すこの技は、それが狂ってしまえば一瞬でアルベルトすらも焼き尽くす危険性を孕んでおり、訓練では失敗が多く全力での使用は初めての事だった
当然、そんな危険な技を試している事は内緒であり、成功した今であってもそれが知れたら二人に大目玉を喰らうためその危険性は秘匿せねばならない事であった。 命の危険よりも二人の婚約者の方が怖いアルベルトとマーリン。 そんな男同士の秘密を胸に、しかしやはり二人の婚約者の温もりが何よりのご褒美のアルベルトであった・・・
最近ブクマがいい感じで増えているので執筆意欲も上がってます
時間が有るというのも大事ですが目に見える評価というのはやっぱり有り難いです




