伝説の賢者マーリン~⑪
ドワーフ達の作品発表会と化していた打ち合わせを終えた日の夜、マーリンは隠し部屋にアルベルトと共に各々が選んだ武器を持ち込んでいた
アルベルトが選ばなかった武器も第二候補のつもりなのかサニラとサームにも声を掛けたようだった。二人とも戦場で前線に出る役目ではないので今回の武器の対象者では無かったが、不思議な事に何かに引き寄せられる様に会場を訪れ武器に呼ばれていた事に気が付いたのだった
更に驚いたのは、会場の様子を見に来た文官のウマルがエリザベスに選ばれなかったメイスに気に入られてしまい武器防具をセットで手に入れると言うハプニングが起きた事だった
「私は戦い自体行った事が無いのですが・・・」
「いやぁ~ひょっとしたらなんかの才能があるかもしれねぇな。ちょっとレベル上げに行くか?」
「そんな、一緒にトイレ行こうぜ!、みたいなノリで誘わないで下さい。私はまるっきりの素人ですよ!」
「でもひょっとするかもよ!?」
元々家庭教師役だった三人だがアルベルトの成長と共に役目を変え、最近では三人一緒の行動をする事は殆ど無くなっていた。 それが戦闘を共に出来るかもという事でバイマトとカイヤは嬉しそうにウマルを冒険へと誘うのだが、生粋の文官であるウマルはあまり乗り気では無いらしい
「最近見つかったって言ってた、噂のダンジョン!パワーレべリングには丁度いいじゃねぇか!?」
「あら、バイマトにしては良いこと言うじゃない。あそこなら私達でも経験値入るし丁度良いじゃないの。ねぇウマル、三日間くらい時間作りなさいよ」
「嫌ですよ!大体二人に経験値入るってどんだけ危ないトコ連れてくつもりですか!!」
A級冒険者としての確かな実力を持った二人は、初心者が入る様な低級ダンジョンでは経験値など毛先程も手に入らない。 この二人が経験値を入手できるレベルのダンジョンならば確実に国内最難関のダンジョンに違いないのだからウマルが嫌がるのも無理は無い
「ねぇアルベルトも賛成よね!?」
「えっ!?・・う、うん、まぁウマルが良いんなら・・・」
「ほら、アルベルトも行けって言ってるわよ!!」
「いやいやそこまでは言ってないよ!ウマルの意思を尊重・・・なんでも無いです」
最早ノリノリのカイヤはアルベルトまでだしにしてウマルへ冒険の誘いを掛ける。 まさかの曲解に抗議の声を上げたアルベルトはカイヤの氷点下の一睨みで黙ってしまう
「はぁしょうがないですね・・・三日だけですよ」
「やった。サニラとサームも誘いましょ。もう決定だから後で嫌だとか言わないでよね」
「よっしゃ、久しぶりのダンジョンだし三日で最下層まで攻略となれば準備も必要だな。早速買い物にいかねぇと」
「ちょっと!最下層の攻略なんて聞いてないですよ!!!」
まぁそんな具合で隠し部屋にはアルベルト達三人の装備の他にサニラ、サーム、ウマルの装備も揃っているのであった
「マーリン。それでこの武器達を如何するの?」
『アルも錬金術のエンチャットを覚えても良い頃じゃし、この武器では少々心許無いからの』
ドワーフ製の武器、おそらく現在のこの世界で最高峰の出来を誇る装備品を目の前に心許無いと断言してしまうマーリン。 彼の生前に有った武器の性能はどれだけ破格だったのだろうと思わずゴクリと唾を飲み込むアルベルト
『まぁ儂の知り合い達は優れた者が多かったからの。そ奴等の装備と比べてしまうとどうしてもな・・・』
「ふ~んそうなんだ。凄い人達だったんだね」
懐かしそうに語るマーリンにアルベルトは当たり障りのない返事しか出来なかった。 守護霊としてアルベルトと共にあるマーリンだが、当然生前の知り合い達はこの世界にはいない。 ひょっとしたらマーリンと同じく守護霊になっている可能性もあるが再び出会える可能性は殆ど無いだろう。
まだ人生経験の少ないアルベルトにはこういった時にどんな顔をすれば良いのか判らないのだ
『ほっほっほ。アルは優しいの、でも気にする事は無いぞ。儂は今の生活が気に入ってるのじゃからな』
「笑えばいいと思うよ」では無く、今の生活を気に入っている事をアピールして素直な性根で俯くアルベルトを励ますマーリン。 その言葉にやや硬いながらも笑顔で返すアルベルトであった
因みにそのマーリンの知り合い達は彼と同じく伝説となっている者達が多く、名前を聞いていれば驚いていた所であったがアルベルトはマーリンの心情を気遣って詳しい話を聞かなかったのでその事には気付かないままだった
『では、まずは【鑑定】の仕方から教えようかの』
「うん!お願いします」
久しぶりにアルベルトの教師役になったマーリンが明るく言ってくれた事で気持ちを切り替えたアルベルトも元気よく返事を返しエンチャットの仕方を教わるのであった・・・
☆△☆△
「な、なんじゃこの武器は・・・儂らが、いや確かに儂が打った剣には違いない。しかしこれほどのオーラを放つ物では無かった筈だぞ!?」
「ああ、ごめんね。テンゲンには黙ってたけどちょっとエンチャットを掛けて性能の底上げ・・・」
「なんじゃと!!エンチャットと言ったか!?それは失われた技・・・儂の爺様の爺様、更に先の初代テンゲンが伝説の賢者と作り出したと言われる技では無いか!!!」
『ほう、コヤツやはりあ奴の子孫か・・・』
テンゲンの言葉とそれを知っていたようなマーリンの反応に思わず振り返ってマーリンの顔を見てしまうアルベルト。
「領主さん・・・いやアルベルト殿。その技術何処でお知りになった?初代の技術を復活させることは儂等の悲願なのじゃ。どうかそれを教授してくれんか」
「いや、待って下さい。どうか頭を・・・あ~もう!マーリン良いよね?」
『まぁしょうがないの。あ奴の子孫ならば問題無かろうて』
エンチャットを終えた武器を最終調整の為に作成した工房に戻そうとテンゲンの元を訪れたアルベルト。 だがエンチャットされた武器を一目で見た瞬間にその内容を看破したテンゲンは流石に一流の武器職人であった
しかもその技術は既に失って久しい物であり、それを復活させることがテンゲンの一族の悲願で更にその技術の開発に祖先が係っているともなれば、エンチャットに関する話を聞きたいのは当然の事だろう。 しかしその為にはマーリンの事を話さない訳にはいかず、本来であれば上手く誤魔化して秘匿してしまう内容であった
だが、目の前のテーブルに額を擦り付ける位に頭を下げているテンゲンの様子は詳しい話をしなければ納得しそうになく、かといって拒否してしまえばこれからのドワーフ達との関係にも影響が出てくるだろう。
しかしそんな難しい事よりも目の前で土下座せんばかりの勢いのテンゲンの姿にアルベルトが居心地の悪さに耐えかねたのが本当の処だろう。 尊敬できる人物が下出に出ると無下に出来ない素直な彼らしさと言えるであろう。 それを知っているマーリンは自身の存在が明るみに出る事よりもその素直な性根のアルベルトに嬉しさを感じながら許可を出すのであった
「これから話す内容は絶対に秘密にしてください。他のドワーフ達にも内緒です」
「おお!勿論だ!!抑々エンチャットの事を知ってる者も少ないし、例え鍛冶師仲間であってもいらん詮索はマナー違反だ。決して他には漏らさんと約束する」
アルベルトはマーリンが語る初代テンゲンとの思い出話を目の前の当代のテンゲンに話す。 エンチャットの開発秘話や必要なスキル、ついでに酒の話なども交えながらの話に目の前のテンゲンは時に唸り声を上げながら聞き入っていく。特にマーリンと共同で作った酒の話に食い付いたテンゲンは本筋を忘れて、その酒を飲んでみたいと残念がるのだった
『まぁあ奴は【鑑定】を持っておらなんだから口伝が正確に伝わらなかったのだろうな』
「そうなのだ。一応三代目まではエンチャットを施していた記録はある。しかし今ではそれに成功する事は非常に稀だった。今の話を聞いた限りでは儂らに伝わる口伝には肝心な事が掛けている」
「要はエンチャットの技法では無く、武器のスロットの問題だってことが伝わらなかったんだね」
『そうじゃな。儂ならば【鑑定】でスロットの確認が出来るが初代は武器の目利きしか出来んかった。その上、あ奴が開発したスロットを増やす鍛治技術も同時に失ったようだしな』
初代テンゲンが残したエンチャットの技法には鍵となる物が二つあった。 一つは【鑑定】でスロットを確認する代わりに武器の目利きとしての感覚でスロットを確認する方法。 もう一つが武器製作時にエンチャットを施す為のスロットを付与する技術だ
つまり錬金術で何かしらのエンチャットをするのであれば武器製作時からそれ用に鍛える必要が有ったのだが、その事が一切伝わっていなかった様で当代のテンゲン達は武器の良し悪しに関しての目利きは出来てもエンチャットできる武器かどうかの目利きは知識として一切無い
しかし、なまじ武器の良し悪しが判るだけにその性能を上げる事に執着するあまりスロット作成の工程を省いてしまっていたのだった。 先代を超える武器を造るという向上心が却ってエンチャットを不可能にしていたと言うのは皮肉な話だ
因みにアクセサリにエンチャットできたのは、アクセサリ自体が補助、若しくはオマケ程度の認識だったために伝わっている製法を忠実に再現していたからである。 アクセサリ製作時に品質の向上という意識が薄かったからこそ逆にエンチャットが掛けれたのだった
「これでエンチャットも再現できる感謝するぞ。アルベルト殿、マーリン殿!」
「えっ!【鑑定】は必要ないんですか?」
「なに、そこまで頼っては職人として恥ずかしいからな。スロットの在る無しを見極められるように成れば良いだけの話だ」
『ほっほっほ、それでこそテンゲンの一族じゃ。技術に対するあくなき向上心、あっぱれじゃ!』
案外、口伝が失われたのもその辺りに原因があるのかもしれない。 与えられた情報では無く自らが求め研鑽する事で更なる技術の向上へと向かう厳しい道程。 あえて子孫にそれを課した先祖たちの贈り物だったのかも知れなかった
「ところでな、その、話は変わるんだが・・・」
「ん!?まだ何かあった?」
「いや、その~初代と造った酒の事なんじゃが・・・」
『ほっほっほ、そうじゃな。それは技術云々ではないからな』
どうやら鍛治の事ではあくなき向上心で自ら道を切り開く気概が有っても酒に関してはそうではない様で、しかし大見得切った手前、はっきりと聞く事も憚られたのかドワーフにしては珍しく酒の事だと言うのに申し訳なさそうに聞いてくるテンゲン
『酒の元になる穀物が見つかっておらんのだが、なにアタリは付いておる。そちらも程無く作れるじゃろうて』
「そ、そうか。いや~やはり伝説の賢者様は凄いな!!」
「って、どっちが本命なんだか・・・」
エンチャットの技法に目途が付いた事よりも伝説の酒への期待感の方が大きそうなテンゲンに呆れるアルベルトであった・・・
なんかこの「伝説の賢者マーリン」、書きたい事も多いし書いていて楽しいしでなかなか終わりません
本来だったらジョゼルのダンジョン探索と何個かのフラグを立ててとっくに次章へ移ってる筈だったのですが・・・
まぁ楽しいのでいいかっと開き直って続けます!
話しが進まなくて申し訳ありません。が、もう少し御付き合い下さい
読んで頂いて有難う御座います




