伝説の賢者マーリン~⑧
遅くなってすいません
遅くなった分いつもの二倍ありますのでご勘弁を・・・
「マーリン、ちょっといいかな?」
『どうしたんじゃアル、随分深刻な顔して?』
エリザベスが【並列思考】の訓練を初めて一週間、アルベルトの私室の隣にあるマーリンの為の隠し部屋に珍しくアルベルトが訪れる。 彼の成長に伴って離れる事が出来る様になったマーリンの為の部屋であり、主に夜に婚約者たちと過ごす場合に使われている避難所の様な物だ
アルベルトの守護霊であるマーリンは彼を通してならば魔法も使えるし特に不便は無い。 しかしこうやって離れている時間には物も触れられないし本も読めない、しかも離れられる距離は限られている為、初めは退屈な時間であったが、最近の研究からアルベルトが魔力を込めた魔道具なら起動出来る事が判ってからは頻繁にこの隠し部屋を利用して様々な研究を重ねていた
「いや・・・実はちょっとお願いがあってさ」
『ふむ・・・何やら問題が起きておる様じゃの』
年齢の割には落ち着いており思慮深い彼が一方的にマーリンを頼ってくる事は実は珍しい。 しかも何やら言い辛そうにしている事からプライベートな事で問題が起きているのだろう
「べスの事なんだけど・・・戦い方の訓練も入れて欲しいんだよ」
『戦い方・・・しかしまだ【並列思考】のスキルを獲得できておらんぞ!?』
「うん、それは知ってる。だけどストレスがたまってるのか・・・夜の方が激しすぎて身体が保たないんだよ」
「ん・・・あれは私もちょっと引いてしまう」
『そんなにか!?・・・う~む少し考えねばならんか』
アルベルトの後ろから音も無く表れたヴィクトリアもその様子を思い出したのか身震いを押える様に両手で自身の身体を抱きしめる。 高いステータスを誇るアルベルトは夜の方も、まぁ一般的な男性よりもかなりスタミナがある訳で、そのアルベルトが泣き言を入れるのだから相当な物だろう
『まぁいずれは必要な事じゃ、前倒しで進めるかの』
「助かるよ・・・」
正直、その手の話はあまり想像したくは無いのだが、目の下の隈が消えていないアルベルトの様子に仕方なさそうに答える。 それを聞いて心底ほっとした様子のアルベルトに苦笑いを浮かべながらマーリンは壁の隅に置いて有る武器を指さす
『エリザベスには杖術を覚えて貰うつもりじゃ』
「ん・・・いいかも」
突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀と言われる杖術。 戦い方のバリエーションも多く、あらゆる場面に対応できる武術だ。 しかも超近接戦のヴィクトリア、近接戦のアルベルトという構成を考えれば中距離でも戦える杖術は理に適っている
「ん~杖術か・・・」
『魔法戦士は本来は近接戦の才能こそ必要な戦い方じゃ。エリザベスの様に魔法に特化した才能で近接戦は無理があるからの中距離からの戦い方を模索するべきじゃ』
魔法戦士は非常にバランスが難しい戦い方だ。 確かに技量の高い魔法戦士は通常の近接職よりも戦いの幅も広く、そして通常の魔法使いよりも体力面で優れており非常に有効な戦い方ではある
しかし下手な技量で行うにはどっちつかずになる可能性が高い為、【並列思考】のスキルを持つ者でも滅多に選択はしない戦い方だ。 抑々前衛で敵に近接している状態では高位力の魔法を放てば自身も巻き込まれるのだから、魔法は牽制や補助、又は死角を突いた低威力の物を放つのが精々だ
仮に高位力の魔法を自身を巻き込まない様に放てたとしても魔法を構築するまでの時間を近接戦闘で稼がねばならない。 無詠唱であろうとも強力な魔法は発動までに時間が掛かるのだ
その為、魔法戦士を選ぶ場合でも近接戦闘の才能こそが一番に求められ、次点で必要とされるのは魔法の発動のスムーズさと魔力の調整という事になる。
故にかつて無いほど魔法神の加護を受けているエリザベスであっても近接戦闘に才能が無い分前に出過ぎない中距離からの戦い方の方が良いのだ。 正直エリザベスの性格上の問題が無ければ無難に後衛で移動砲台になっていてくれた方がまだ無難なのは間違いない
「う~ん・・・まぁやってみれば判るか」
「ん・・・心配?」
マーリンの考えは十分に理解しているアルベルトではあるが彼なりに不安が残る様で、ヴィクトリアも怪訝な表情でアルベルトに問いかけていた
☆△☆△
『今日からは武器を持った戦いの訓練も混ぜていくからの。黄マッディ君!指導を頼むぞ』
「ま゛!」
「やった♪もうあんな訓練は飽き飽きしてたのよ!」
アルベルトがマーリンの私室を訪れた翌日、黄マッディ君の指導の元で杖術を学ぶべく杖を片手に喜びを体一杯で示すエリザベス。 因みにエリザベスが飽き飽きしていた訓練は、初めの右手で正方形左手で正三角形を描く訓練では無く、チェスと将棋を使った二面打ちへと変わっていた。
当初はイライラしていたエリザベスだが妙な適性を発揮して右手で正方形左手で正三角形を描く事を身に着けてしまった彼女は無意識で身体が動くようになったのか苦も無く行えるようになってしまった
しかし【並列思考】を獲得する為には同時に二つの事を考えて行う事が重要であり身体が順応して無意識下で出来る様になったのでは意味が無い。 その為に思考が必要な盤上遊戯での訓練に切り替えたのだが、元々盤上遊戯、しかもチェスや将棋などと言った先の事を考えて何手先も読むといった行為が得意では無いエリザベスはストレスを溜め込むだけの結果になっていたのだ
大体、そんな盤上遊戯が得意であれば素直に後方で魔法使いとして全体の行動を読めた筈なので、マーリンにしては珍しく訓練の方法自体が間違っていたと言わざるを得ない
そんな背景もあり身体を動かす訓練に切り替えると言われたエリザベスは活き活きとして杖を振り回しているのであった
「ま・・・」
「青マッディ君も不安!?僕もなんだよね~」
そんなエリザベスの様子を、今迄魔法の指導を行ってきた青マッディ君は不安そうに呟き、この数週間ですっかりマッドゴーレム達の言いたい事を理解しているアルベルトはその不安に同意するように見守るのだった
☆△☆△
訓練を初めて一時間が経ったころ・・・
「バキッ!」
「もう!何なのよ!!!」
「ま゛!」
「なによ!ハッキリ言いなさいよ!!!」
アルベルトと青マッディ君の予想通り早速不満の声を上げるエリザベス。 そこには真ん中から折れ二本になった杖を両手に持ちイライラするように黄マッディ君へと詰め寄る姿があった
「やっぱり・・・杖術なんて難しい事ベスには向かないと思ったんだよ」
「ま~」
『う~む。ここまで不器用じゃとは・・・』
突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀と言われる杖術。 確かに使いこなせば死角の少ない杖術であり中距離からの攻撃も出来る為マーリンがその戦い方を選択したのは間違いでは無い。 しかしそのバリエーション豊かな杖術はそれだけ習得の難しさでも有名であった
とにかく覚える事が多く、地道な反復訓練と柔軟な思考が必要であり一般的な話で考えても習得の難しい武器である。 ましてやそういった事が極端に苦手なエリザベスにはまるっきり向いていない武器である
「マーリン・・・今回はちょっと理屈倒れだと思うよ」
「ま゛!」
『う~む。そうかの~然程難しいとは思わんのだが・・・』
この辺りはやはり賢者マーリンの限界とも言えるかも知れない。 マーリンはあくまでも賢者であり基本的には魔法使いの上位職である。 戦い方の知識もあるし、おそらく生前はある程度の近接戦闘も可能だったかもしれない
しかしやはりそこは後衛職が基本であり本職の前衛の戦い方と適性を見抜く処まではいかなかった。 しかも適性を無視した・・・この場合はエリザベスの性格を無視した理論だけで武器を選んでいるので余計に拙かったと言えるだろう
「まず・・・ベスにあってるのはメイス系だよ。難しい理論や刃筋とか考えなくていいし見た目よりも力が有るからピッタリだと思うよ」
「「ま!!!」」
アルベルトの意見に元々指導していた青マッディ君と実際に武器の使い方を指導した黄マッディ君が同意を示すように頷く
「なんか馬鹿にされてる気がする・・・」
『しかしそれではバランスが・・・』
「馬鹿になんてしてないよ。ほら神官戦士とかもメイス系だしさ。マーリンもまずはバランスとか考えないで戦闘に慣れてもらう事を考えようよ」
アルベルトが珍しく本音を隠して二人を説得し始める。 神官戦士も回復魔法を使いながら近接戦闘も熟すのである意味魔法戦士に分類される。 しかし彼等がメイス系の武器を使用するのは職業上アンデッド系と戦う事が多く、アンデッド系に有効な攻撃手段という事でメイス系を使っているのにすぎない
三人のバランスを重視するマーリンに対しても最悪、自分が中間距離から戦えば済む話なので拘る必要は無いと考えての言葉だった。 しかし正直にそれを口にすればエリザベスが激怒するのは判り切った話なので誤魔化しに終始しているのだ
「ん・・・世渡り上手」
「ヴィク・・・ちょ~っと黙っててね」
スッカリ婚約者の性格を理解しているアルベルトは問題解決の為に最良の方法で動いており、まぜっかえす様な言動のヴィクトリアに釘を刺す。 この辺りは世の男性が奥さんに対して気を使うのと同じ事であった
「まぁいいわ。こっちの方がスカッとしそうだし私に合ってるかも。」
「うん、そうだね。きっとそうだよ。一度魔法も使って戦ってみたら?」
「えっ!いいの?私まだ【並列思考】持ってないわよ!?」
「一度戦ってみないと必要性も判んないでしょ?まずは戦ってみて納得してから取得を目指そうよ」
『ふむ、そんな物か。確かにあ奴もそうじゃったか・・・』
長年連れ添った夫婦の様にエリザベスの事を理解しているアルベルトの物言いに、自分の過去の夫婦生活を思い出したのか妙に納得しているマーリン
「それじゃぁ・・・一応赤マッディ君に相手してもらおうかな」
「ま゛」
アルベルトの言葉に、任せとけ!って感じで前に出て構えを取る赤マッディ君。 なんだかんだで一番模擬戦での出番が多い彼はその防御力でアルベルト達の攻撃を受け止めてきた実績がある。 ここはエリザベスに思いっきり攻撃してもらいスッキリして貰った上で問題点を洗い出した方が話が早いだろうという判断だ
「それじゃ行っくわよ~。最初からフル稼働、最大戦速で行くわよ」
「ま゛!!」
模擬専用のメイス、とは言っても打撃武器の為に刃挽き等は出来ない為に金属製では無く木製のメイスを構えるエリザベスは気合を入れると赤マッディ君へと疾走していく。 一方の赤マッディ君は大盾を構えて万全の態勢で迎え撃つ
「ゴンッ!」
赤マッディ君の実力ならばまともに大盾で受ければ木製のメイスなど粉々に砕く事も可能だったであろう。 しかしアルベルトが目論んだ通り今回はエリザベスに己の欠点を認識して貰う為の模擬戦である事を認識している赤マッディ君は上手に力加減を操作して派手な音を出しつつ武器には負担の掛からない受け止め方をしている
「もう!硬っいわね~」
「ま゛」
「キンッ!」
「ま゛!?」
ただ受けてるだけでは後で何を言われるか判らないので申し訳程度に反撃を試みた赤マッディ君の大剣は盾によって防がれる。 その事に驚愕の声を上げる赤マッデイ君
そうエリザベスはメイスを手に攻め込んだが盾など装備していない。 しかし大剣は確かに盾で防がれておりその事が赤マッディ君の動きを一瞬止める
「チャ~~ンス!」
「ま?ま゛~~~~!!」
エリザベスの頭上で確かに赤マッディ君の大剣を受け止めた大盾は白い光を纏いながら彼女の周囲を守る様に同様の盾が四つ浮かんでいた。 そしてエリザベスの言葉と共に光り輝く槍が生み出されると一斉に赤マッディ君へと向かって飛んでいく
驚愕の赤マッディ君は急いで距離を取ろうとするがその速さよりも光の槍の方が早い。 更にエリザベスも赤マッディ君の後退に合わせて廻りこむ様にメイスを構えて間合いを詰める
「ま゛~!」
「逃がさないわよ~」
更に自らの頭上に浮かべた氷の礫を放って退路を塞ぐと握りしめたメイスを下から擦り上げるように大盾にぶつけるエリザベス。 メイスの攻撃など物ともしない赤マッディ君だが、流石に魔法での攻撃を受け流しつつ力を加減して受け止める余裕は無くシールドバニッシュで吹き飛ばすつもりでエリザベスのメイスを受け止めた
・・・しかし吹き飛ばされたのは赤マッディ君自慢の大盾の方であった。 よく見るとエリザベスのメイスには魔力が注ぎ込まれており木製のメイスとは思えない程の威力と頑強さを得ていた
「こぉれでぇラストぉおぉぉおおお!!」
「ま゛ぁ~~~!」
下から大盾を吹き飛ばされた赤マッディ君は盾を手放しこそしなかったものの左手を完全に頭上に挙げてしまいがら空きになった胴体に魔法の槍を喰らってしまう。 そしてその隙に待機していたエリザベスの魔法が一斉に全方位から叩き込まれ流石に動きを止めてしまう
「あ~スッキリした!どうマーリン私の戦いぶりは」
『な、なんじゃその戦い方は!!【並列思考】も無しに・・・ま、魔法の構築はどうやっておるんじゃ有り得んぞ!!』
「あ~なんか頭の中にボタンがある感じなのよね。それを押したらサクッて魔法が発動する感じなのよね、私の場合。枕もとに立った魔法神様がなんかしてくれたみたいなのよ。これって魔法神様からのプレゼント?」
「何それ・・・聞いた事無いよ」
「ん・・・吃驚」
「「「「ま゛・・・」」」」
気を失い倒れ伏す赤マッディ君を他所に驚くマッドレンジャーの面々。 それ以上に魔法に関しては一流、いや全てを修めたと言っても良い賢者マーリンですら驚く方法で魔法を発動していたエリザベスにアルベルト達も言葉が出てこない
流石の伝説の賢者も自らのお気に入りの可愛さに、加減を知らない程の加護を与えていた魔法神の行動までは読めていなかった
今回は良い所無しのマーリンはただただ目を真ん丸にして驚いていたのであった・・・
今回のネタは・・・エヴァ
エリザベスのモデルには彼女の影響が色濃いので何処かでやりたかったネタです
その分長く成り過ぎましたが楽しんで貰えたでしょうか?
もし良かったらブクマ、感想等よろしくお願いします




