伝説の賢者マーリン~⑥
「旦那様はなぜ来ぬのじゃ!!!・・・まさか妾に飽きてしもうたのか!?」
と、他の人が聞いたら誤解しそうな内容を叫ぶジョゼル。 飽きるも何もアルベルトも幼竜に欲情する事は一度も無かったのだが、恋する乙女心は人も竜種も変わり無い様で不安ばかりが募るようだ。
一方その頃のアルベルト達は【ゴーレム戦隊マッドレンジャー】達との修行に没頭しており迷宮の存在とジョゼルの事はすっかり頭から抜けていた
この一週間で個別の指導の他に苦手な戦闘タイプとの修行や五対三の集団戦など様々な修行の成果でステータスやスキルに頼らない戦い方を学んだ三人の実力は長足の進歩を遂げていた
「ま゛~」
「おっと逃がさないよ。ヴィク廻りこんで!」
「ん・・・連打」
三人が共通して苦手だった赤マッディ君との戦いも今では赤マッディ君が押されるようになっている。 情けない声で叫ぶ赤マッディ君の表情が見るからに焦っているのがその証拠だろう
「よし!止めは私の魔法ね・・・行けアイススピアー!!」
「ちょっ!べス!!まだ早い!!!」
「ま゛♪」
無詠唱で放たれた氷で出来た槍が鋭く回転しながら赤マッディ君へと迫るが、アルベルトの指摘通りそんな大技が決まるほど赤マッディ君は追いつめられていた訳では無い。 逆に迫る氷の槍を大型のカイトシールドで防ぐとその破片をアルベルトとヴィクトリアへと飛ばす事で余裕を造る
そのまま大盾を前面に押し出したシールドアタックで二人を吹き飛ばすとエリザベスへと迫り右手に持った大剣を振りかざした処で動きを止める
「あ~また勝てなかったか。べスもうちょっと周りを見ようよ・・・」
「ん・・・慌て過ぎ」
『ほっほっほ。魔法使いは常に冷静でおらんといかんな。補助に徹して前衛を助ける事を念頭に置かねばならんぞ』
「ごめん・・・」
「ま゛・・・」
三人が模擬戦で負けるパターンはエリザベスの暴走によるものが一番多いのだった。 繰り返されるこのパターンに先生役の青マッディ君も呆れた様に肩を竦めて首を振っている
確かに魔法は強力な攻撃手段だ。 単純な攻撃力だけでは無く属性に応じた副次的な効果で敵に状態異常を起こす事も可能だし、範囲魔法の様に上手く嵌れば敵を一掃する事も可能だ。 しかし、だからこそ上級レベルの戦いではそれを防ぐ手段も確立されており、そう簡単には大技を喰らってはくれないのだ
マーリンの言った通り前衛の補助に徹して攻撃や防御をサポートして前衛が敵を倒す事を前提に考えた方が確実だったりする。 しかしここぞという時にはその高位力を生かして起死回生の一手を指さねばならず、冷静な状況判断が魔法使いにはもっとも大事なのだ
しかし猪突猛進を体現したかのようなエリザベスにとってはその事が一番苦手な訳で・・・
「魔法神さまももう少し性格を・・・」
「ぬぅわんですってぇ!!!」
「わー、ごめん。つい本音が・・・」
アルベルトの本音に激怒するエリザベス。 この分では冷静な魔法使いという訳にはいきそうもないと、額を押えるマーリンと青マッディ君であった
☆△☆△
「よ!どうだい調子の方は?」
「うん、順調だよ。実際凄く強くなれた実感も有るし迷宮に挑戦してみるのも良いかも知れない」
『アルよ・・・その為にはエリザベスをどうにかせんと・・・』
「そこなんだよね・・・どうも性格的に魔法使いタイプじゃないと言うか、どっちかというと戦士タイプというか・・・」
『いやあれはバーサーカ―タイプじゃな』
「バーサーカーって、姫さん魔法使いだよな!?」
婚約者たちは入浴中の為、言いたい事を言い放題の二人にバイマトが思わずって感じで呆れる。 実際、ある程度の連携も取れており三人組のパーティとしては優秀な方ではあるが、エリザベスが先走りがちになる為に非常にリスキーな戦い方になっているのも確かだ
『ジョゼルの迷宮に出てくる魔物の強さ次第では非常に危うい。エリザベスの戦い方を考えんと許可は出せんぞ?』
「つってもな~性格はそう変わらんだろう?・・・いっその事前衛で戦う魔法戦士にでも仕上ちまえば良いんじゃねぇのか?マーリンの旦那も出来るんだろう?」
『う~む、それには【並列思考】がいるからの・・・アルの様に戦士と魔法に適性が有るのならばいいのじゃが。まっやってみるか』
「・・・でも言い方間違うと悲惨な目に合いそうな気がする」
アルベルトは本人の嗜好もあって剣で戦う事に重きを置くタイプだが必要に応じて魔法も放つ。 彼女の場合はそれとは違ったタイプの魔法戦士として成立するかもしれない。 唯一の誤算は桃マッディちゃんの回復魔法を誰に覚えさせるかだが、回復魔法は誰が使えても問題ないので三人が覚える形にしても問題ないとマーリンは考えを改める
こうして本人の知らない所でエリザベスの育成方法が決まった。 正直、魔法の補助に使う杖で殴りつける様な性格の彼女なので不満を漏らす心配は無いだろう。 アルベルトも魔法を使いながら戦うタイプだし寧ろその事で喜ぶかもしれない・・・が、言い方を間違えればプライドの高いエリザベスの事だ、いきなり魔法を放つ位はしてくるかもしれない
「よしこれで決定だな。まぁ実際迷宮に行く時は俺とカイヤも同行すれば問題ないだろう?」
「そうだね、カイヤがいてくれたら安心だね」
「って、俺は必要ないってか、この野郎!・・・まぁ冗談は置いといてマーリンの旦那、そろそろ酒の方も手を掛けねぇとドワーフ達が痺れを切らすぜ。蒸留器の方は問題なく稼働して例の倉庫に積み込んであるんだからな」
『ほっほっほ、抜かりないわい。今日の訓練でも必要な量の魔力が集まったから大丈夫じゃよ』
「訓練で魔力を集めた?」
『うむ。ジョゼルの迷宮やカリュアーの森を参考にさせて貰ったのじゃよ。アル達が放った闘気や魔法を集積して隣の倉庫に流しておったのじゃ』
「それで訓練場に魔法の残滓が残ってないのか~」
屋外での戦闘ならば拡散される魔力も、室内や迷宮の様に閉ざされた空間ではそこに留まり続け魔力の残滓が一種の淀みを造る事が有る。 通常は問題なくやがて拡散されていくのだが、流石にあれだけの闘気や魔法を毎日放っていれば良くない事が起きても不思議では無い
しかし、マーリンの説明の通り集積して他の目的に使っていたというのならば合点は行く。 とは言えそんな残滓を集めて再利用する方法などマーリン以外では不可能な技術であるのは間違いない
「んで?その集めた残滓で時間の加速を行ってたわけか?」
『正確には違うの。流石に時間の加速は無理じゃったわい。理論的には出来るのじゃが世界の法則に違反しそうじゃったから、諦めて熟成の促進にしておいた』
「世界の法則?なんか難しそうだな・・・まぁ酒の熟成が出来るんなら問題ないぜ」
細かい事を気にしないバイマトらしいセリフではあったが、もし詳しい話を聞いていたとしてもマーリンには説明する事が出来なかった。 実際マーリンも確実な事を知っている訳では無く、生前に散々行った実験の中で理論上は成功する筈の事が考えられない理由で失敗すると言う事例から、そのような法則が有るのではないかという考えに至っただけなのだ
しかし、世界を治める理は確実に存在しマーリンの想像は概ね正しい。 今回は≪時間の操作≫という禁忌に振れる横目であり、もしマーリンがそれを行おうとしても発動しなかったであろう。 それを経験から予測したマーリンは熟成の加速に切り替えたのであった
『室温の上昇と酒樽の内部の化学反応を魔法で促進してやる事で何とか成功したぞ。 流石に長期熟成程の旨味は出ておらんがドワーフ達も満足するじゃろうて』
「よっしゃ!テンゲンに報告しておくぜ。これで装備の方も作成に掛かってくれるだろうよ」
嬉しそうに拳を自分の手の平に打ち付け喜び勇んで部屋を出て行くバイマト
「きゃ!」
「おっと、ごめんよ!」
部屋から出ていく処で入浴から戻ったエリザベスとぶつかるが、謝る時間すらも惜しむ様に駆け出して行ってしまった
「どうしたの?随分慌ててたけど・・・」
「ん・・・酒?」
「ヴィク正解。ドワーフのテンゲンに知らせに行った処だよ」
「ふ~ん。どっちが楽しみにしてるんだか」
エリザベスの言葉通り酒が出来て喜んでいるのはドワーフだけでは無く同じく酒好きのバイマトも同様だろう。
「そ、そうだ、ベスに話が有ったんだよ。」
「改まって何よ?今日の模擬戦の話?」
何事かの気配を感じたのか若干の不機嫌さを醸し出して聞き返すエリザベスにアルベルトはやや怯む。 しかしここで伝え方を間違えば更なる怒りを買うに決まっており魔法攻撃を受ける確率も高くなるのだ
「い、いや・・・そのべスも魔法戦士の適性が有りそうだな~って話をね。」
「魔法戦士!?」
「いや、その気に入らなかったらいいんだよ。もしかしたらって話だからさ」
もう既に若干逃げ腰のアルベルトはエリザベスと視線を合わせず、会話にもいつでも逃げを打てる要素を織り交ぜている為、非常に情けない形に成っている。
「ガバッ!」
「ヒィ!ご、ごめんなさい」
「嬉しい!私もずっと魔法戦士に憧れてたの。どうも後ろからチマチマ魔法使ってるのって性に合わなかったのよ!!!」
いきなり予備動作無しで飛び付いてきたエリザベスに思わず謝ってしまったアルベルトだが、そんな事を気付かずに満面の笑みで喜ぶエリザベス。 言っている内容は普通の魔法使いが聞いたら激怒する様な事なのだが喜びに満ちている彼女にはそんな事は気にしていない様だ
「ん・・・狡い、私も」
「ちょっ!ヴィク・・・せめて扉を閉めて!あ~れ~~~~」
そのまま二人に押し倒される形に成ったアルベルト。 最近は訓練が忙しくイチャイチャタイムが不足していた事も有って二人の婚約者に襲われる形に成ってしまった
『ふ~やれやれ・・・若いって事は素晴らしいの』
そう言って壁を通り抜けて部屋を出て行くマーリン。 その表情はどこか嬉しい様な呆れている様な複雑な物であった
「ん!?アル。どうした随分疲れているな?」
「な、なんでも無いよバイマト」
「ふ~ん・・・まぁお楽しみの様で何よりだ」
夕食の為に訪れた食堂でバイマトに突っ込まれるアルベルト。 一方の婚約者たちは艶々とした輝きを放っており上機嫌で食卓に着いていた
結局エリザベスからの魔法攻撃は喰らわなかったものの、ボロボロになるのは変わらないアルベルトだった
月末月初でバタバタしてますので次の投稿は二日になるかも知れません・・・
読んで頂いて有難う御座います




