伝説の賢者マーリン~⑤
三人にはマーリンがふざけて創ったとしか思えない【ゴーレム戦隊マッドレンジャー】であったが、五人全員が今のアルベルト達よりも強い事は明白だった
マーリンの説明だとリーダー格の赤マッディ君は防御特化のタンク型の戦士という事であったので攻撃が通じなかったのは仕方ないとしても、五人の中では攻撃力に劣る赤マッディ君に圧倒されていたのだからその実力差は歴然であった
『ホッホッホ♪彼等の強さが判った処で個別に指導して貰うのじゃ』
「私は青マッディ君が先生ね。」
「ん・・・黒マッディ君」
「・・・」
「どうしたのアル?」
「僕の先生って本当に黄マッディ君なの?」
筋骨隆々で無手の黒マッディ君は格闘系、何処かクールで杖を装備している青マッディ君が魔法系というのはその雰囲気や装備からなんとなく理解できる。 しかしアルベルトの先生役である黄マッディ君は横幅の有る重量級タイプだ。 良く言えば貫録のある容姿ではあるがアルベルトの得意な剣術を扱うタイプには見えない
『ほっほっほ。アルよ見た目で判断するようではまだまだじゃ。黄マッディ君は全ての剣を修めた剣聖の戦闘データが入力されているのじゃぞ』
「剣聖・・・」
この世界に剣聖の称号を持った者は存在しない。 賢者の称号もそうであるが伝説上、又はお伽話の世界にしか出てこない称号だ。 そんな称号を持っていた者達がリアルに生きていた時代・・・マーリンが生きていた時代というのは一体どんな世界だったのであろうと、その時代に思いを馳せるアルベルト
とは言え、剣聖の称号の戦闘データを入力したゴーレムの体型をこんな横綱タイプにしなくても良いのでは?とイマイチ納得しきれないアルベルトであった
「まぁいいか。黄マッディ君よろしくね」
「ま゛!」
先程の赤マッディ君との戦闘で彼等マッドレンジャーの実力は確認済みという事も有り、マーリンの言葉を信じて自分を納得させたアルベルトは愛用の武器を構えて黄マッディ君の指導を受ける事にした
「トリャー」
「ブンッ!」
気合の声と共に突っ込むアルベルトの目の前で空気を震わす音を残して消え去る黄マッディ君。 視覚から消え去った事に驚くアルベルトだが、斜め後ろから迫るチリチリとした殺気に前に転がる様に避ける
「ま゛!まッまま゛!」
「ごめん、流石に何言ってるか判らないよ・・・」
一応は先生らしく何事かアドバイス若しくは注意点を教えてくれているのだろうが、発声機能の付いていないマッドゴーレムの言っている内容までは判らない。 それをもどかしそうな表情で理解した黄マッディ君は自分の足元を指さし足をバタバタさせる
「ん!?・・・そっか足捌きか!」
「ま゛!」
嬉しそうな表情?の黄マッディ君は先程の動きをスロー再生の様にゆっくりと繰り返しアルベルトにそのコツを教える。
「えっと・・・踵から踏み出す?無理じゃないのそれ?」
「ま゛ー!!」
「判ったって、ごめん。やってみるよ・・・こうか、いや違うな。」
何度か繰り返し足捌きのコツを掴もうとするアルベルト。 その動きは十分に早いのだが黄マッディ君からすると合格点には程遠い様だ
「う~ん難しいな・・・でもさっきよりは動きやすいかも!?」
「ま゛♪」
「でも早く動けても黄マッディ君の動きを追えないんだよ・・・」
「ま゛~」
「え、なに?・・・胸?っと、違うのか・・・そっか心?」
「ま゛!」
「置いといて・・・?」
「今度は・・・目?・・・心で見る・・・そうか心眼!って余計に難しくなったよ!?」
発声器官が無いゴーレムとの会話はジェスチャーに頼るしか無く、その説明を理解するのに苦労するアルベルト。 しかも言いたい事は理解できたが要求されていたレベルが思ったよりも高過ぎて思わず愚痴ってしまう
しかしアルベルトやヴィクトリアの戦闘系は動きを再現して貰えるだけまだマシで、魔法系のエリザベスはその性格の影響もあって遅々として修行が進んでいない
「だから!何言ってるか判んないのよ!!」
「ま゛!ま~まま、ま゛!まっ」
何処となくクール系な雰囲気の青マッディ君も熱くなってきたのか身振り手振りが段々と大きくなってきており、ブンブンッと先程の黄マッディ君の時と同じように空気を斬り裂く音をさせながら必死に説明している
「流れ?・・魔力の流れ!そうでしょう!!」
「まぁー!」
「で?魔力の流れを如何すんのよ!」
「目・・・からビーム、って何よそれ!」
「ま゛ー!!」
目からビームが出せるなら、それは最早魔法を使わなくても立派な攻撃手段であり戦いで魔法使いの必要性が無くなってしまう。
黄マッディ君と黒マッディ君は何とか意思の疎通が出来ているのにこの少女は中々理解してくれなくてイライラするように地団太を踏む青マッディ君。 しかしそこは命令に忠実なゴーレム、粘り強くジェスチャーを続くえていく
「今度は何よ・・・鼻?え?違う自分!?」
「ま゛」
「んで・・・流れ?、そうか魔力の流れね・・・判ったわ!青マッディ君の魔力の流れを見ろって事ね!!」
「ま゛♪」
エリザベスがやっと理解してくれた事を喜びながら魔法を発動させる青マッディ君。 発声器官の無い彼は当然無詠唱で発動させるのだがその威力はエリザベスが詠唱して発動させた魔法よりも高位力の物だった
「凄い・・・魔力の収束でこんなに変わる物なの?」
「ぅま゛」
「そうね・・・ファイアーボール!!」
「まぁ~」
「なによ!不満そうね!!・・・でも確かに魔力の収束がてんでなってないわ」
何とかコミュニケーションも可能になり魔法の基礎ともいうべき処から鍛え直さないといけない事に気が付いたエリザベスは体内の魔力の循環のさせ方から学び始める
一方のヴィクトリアの修行は二人に比べて驚くほど順調であった。 元々口数の少ないヴィクトリアと如何にも武人って感じの黒マッディ君は相性もいいのか会話せずとも意思の疎通が出来ているようである
「ま゛!」
「ん・・・」
素早い動きと一撃必殺の威力で勝負していたヴィクトリアではあったが、赤マッディ君との戦いでそれが防がれた場合の次の手が無い事を痛感していた
この辺りはアルベルトも同じで戦った相手が一撃で倒せてしまう為、必要無かった事も有り今迄は考えた事も無かった。 しかしこれから出会うであろう強敵たちにはそれでは通用しないのだ
黒マッディ君はその事を教える様に、次の手に繋げる為の連撃を見せる 。時にフェイント、時に必殺の一撃を囮に死角からの攻撃など多彩な手段で攻撃を加えていく。 それをスポンジの様に吸収していくヴィクトリアの動きは格段に向上していくのだった
「ん・・・こう?」
「ま゛!」
ヴィクトリアの表情は本人も知らない内に笑みを浮かべていた。 そしてその相手をする黒マッディ君も何処か楽しそうだ
『ほっほっほ、善き哉善き哉。若者よ努力せよ』
満足そうなマーリンは暖かな目で努力する三人を見つめていた
「マーリンの旦那!居るかい?蒸溜器が出来たぜ!ちょっとこっちに顔出せるか?」
『ほ!流石に酒好きのドワーフ達じゃ。想定していたよりも早いの・・・しかし今ここを抜け出す訳にはいかん・・・』
「お!なんだアルの奴。随分と苦戦してるじゃねぇか。こりゃ無理か・・・判ったこっちで勝手に進めとくぜ」
アルベルト達の修行の様子からマーリンが工房にまで出張るのは無理だと理解したバイマトはそれだけ言うとサッサと工房へと戻って行ってしまう。
アルベルトの成長に伴い多少は彼から離れられる様になったとはいえこの訓練場から工房までの距離を離れる事はまだ出来ない。 メネドールの守護霊であるライラの様に自由に動けるのはアルベルトのさらなる成長が必要であろう
今暫くは行動の自由は制限されるのは仕方ない事だ。 しかし、不便だと思いつつもその分彼等の成長を見れるのが嬉しいのか特に不満にも思っていないマーリンであった・・・




