伝説の賢者マーリン~③
「蒸溜器の製作は儂らに任せて貰おう、なんなら保守管理まで請け負ってやる。で、熟成・・・完成した酒を飲めるのはいつになるんだ?」
「最低で三年、長い物なら十年は掛かりますね」
「そんなにか!?」
情熱以外に溢れだしていた物を何とか抑えたテンゲンが蒸溜器の製作と保守を請け負う。 此処で大事なのは保守の部分で、それを行うという事はドワーフの鍛冶師がセイレケの街に常駐するという事に他ならない。 尤もそれは早く酒が飲みたい為であり、長としての決定というよりも目先の欲に負けてしまった結果でもある。 しかしその欲はテンゲン個人の物では無くドワーフ全体の物であり後々問題になる事は無いだろうという判断であった
しかし、マーリンに言われるまま話しているアルベルトの熟成に掛かる期間を聞いて仰天するテンゲン。 流石にそこまでの長い期間では他のドワーフ達を押えきれないと思ったのかもしれない
「う~む。そこまでは待てんな。熟成前の酒で構わんから回す事は出来んのか?」
「そうすると完成品の数が減る事になりますから三年後に後悔しますよ?それこそ他の方々に恨まれる結果になるでしょう」
「そこまで言い切るのか・・・しかし何か方法は無いのか?」
「無い事も有りませんが・・・」
「あるのか!?。多少の無理は何とかする!その方法を教えてくれ」
もうソファーに落ち着いて座っていられなくなっていたテンゲンがテーブルに頭を擦り付けんばかりの勢いでアルベルトに懇願してくる。 会話だけを聞いていると落ち着いて対応しているアルベルトだが、彼もマーリンに言われてまま話しているだけであり、テンゲンの様子に申し訳ない気持ちで一杯になってくる
「え?、・・・ゴホン。領主館の倉庫に魔法を掛けます。そこだけ時間の速さを進める事で熟成期間を速める事が出来るかも知れません」
「なんじゃと?そんな方法聞いた事も無いぞ?」
テンゲンが訝しげに聞いてくるがマーリンの言葉にアルベルトも思わず驚いた位なので当たり前の反応だろう
「しかしこの方法はかなり魔力を使いますので・・・」
「頼む!儂らに出来る事ならば手間は惜しまん。何とかしてくれ」
「判りました。では私達と私兵達の装備一式ではどうでしょう?しかし渡せる量は少ないですよ?その事は了承してくださいね」
「構わん。少なくとも三年後には量も増えるのだ。それまでは配給制でもとって誤魔化して見せるさ」
アルベルトの言葉に表情を明るくしたテンゲンは細かい打ち合わせの為にバイマトと共に設計に入る。醸造所の増築も既に進めているらしく、バイマトも酒に対する情熱ではドワーフに負けていないので素晴らしい設備が出来るに違いないだろう
☆△☆△
「もう!マーリンたら聴いてない事ばっかりじゃないか!」
『ほっほっほ。あれくらい吹っ掛けねばドワーフ製の装備など手に入れられないからの』
「ん・・・老練」
始めはアルベルトの装備だけの筈が、何時ものメンバーと私兵隊の装備一式とかなり話が大きくなっていた。 流石に私兵隊の分に関してはワンオフの一品物では無く量産品という事で済んでいるが、それでもドワーフ製の装備である。 質としては一級品の装備になる事は間違いない
「でも本当に倉庫の時間を早める事なんて出来るの?」
『フムそこじゃ。理論的には出来るのじゃが、実際には如何じゃろな?」
「呆れた・・・もしできませんなんて言ったらドワーフ達が攻めて来るわよ?」
『うっ!ま、まぁ何とかなるじゃろ』
エリザベスの言葉に不安気に答えるマーリン。 長年・・・というより生まれた時から自分に憑いていてくれているマーリンは信用しているが、その様子にかなり不安を覚えてしまう。 幾らドワーフとはいえ流石にいきなりの武力行使は無いと思いたいが相手は酒好きで有名なドワーフ達だ。 どういう結果になるか予測不可能なのは確かだ
『ま、まぁそれに関しては後で考えるとしてじゃ。ここらで一つアルベルトもきちんと修行をした方が良いじゃろう』
「後でって・・・。まぁいいや、それで修行って?」
「うむ。どうもアルの場合、身体能力や魔力の高さに頼り過ぎてる部分があるからの。 一度きちんと基礎や技術を学んだ方が良い。ヴィクやべスにも同じことが言えるがの」
確かに賢者式幼児教育では主にステータスを高める訓練などは行ってきたが、戦いの仕方に関してはバイマトとの模擬戦くらいで殆ど教えていない。 しかし高すぎる身体能力はそれを補って余りある為に魔物や帝国兵達との戦闘に支障は無かった。 しかしこの後迷宮で強敵と戦うのならば武術や剣術を学んだ方が良い。
また魔法に関しては、元々素質がそのまま成果を生み出す分野である為にアルベルトの魔法は自由自在で強力に見える反面、魔力の操作や魔法の発現を能力に頼り過ぎている部分がある
これは種族的に上位であるヴィクトリアや魔法神の加護を受けているエリザベスにも言える事であった。
「でも、実際に私達の相手を出来るのなんて限られてるわよ?カイヤやバイマトにも学んでるんだからそれ以上ってのは難しくない?」
「ん・・・努力は無駄にならない」
『ヴィクトリアの言う通りじゃの。なに心配はいらん、儂が考えた修行方法ならばお主らでも楽しめる筈じゃ』
「ははは・・・」
酒の熟成加速とは違って自信あり気に答えるマーリンにアルベルトは乾いた笑みしか浮かんでこない。 伝説の賢者であるマーリンであれば自分達に合った修行方法も思い付くのかもしれないが、何せマーリンである。
伝説の賢者であると共にやり過ぎ賢者でもあるのだ。 アルベルトは覚えていないが赤ん坊のアルベルトに魔法を教えて危なく火事を出しそうになったという話を聞いているのだ
そのマーリンが自信満々で答える修行方法というのに嫌な予感しかしないアルベルト。 間違いなく楽しめると言う程度で終わる筈が無いのだ
『そうと決まれば早速行動じゃ。アルよ、先ずは熟成加速に使えそうな倉庫と訓練に適した場所・・・いや、そうじゃ!倉庫と訓練場は隣接している方が良いな。ウマルに言って良い場所を探させるのじゃ』
何やら思い付いたマーリンの表情は非常に楽しそうで、それが却ってアルベルトを不安にさせる。 しかしブレーキ役のライラはメネドールと共にカモーラの街にいるし、大義名分がある以上今更取りやめるのも可哀想だ
後にその事を激しく後悔するアルベルトであったが、根が優しいアルベルトはこの賢者の、久しぶりに心底楽しそうにしているマーリンの邪魔をするのを躊躇った
「判ったよ。それじゃあウマルに言って適当な場所を探して貰おうか」
『出来るだけ広い場所じゃぞ♪』
「はいはい。判ってるよ」
機嫌のいいマーリンをあしらう様にしながらアルベルトは執務室を出てウマルを探しに行く。 珍しくアルベルトに付いて行かず部屋の残ったヴィクトリアとエリザベスはコソコソと顔を近づけて相談し始める
「ねえ、マーリンさん・・・やらかしそうで怖いんだけど」
「ん・・・不安」
「そうよね・・・なんか考えとかないといけないわね」
その後も仲良く相談を始める二人
後々この密談に感謝するアルベルトであるが、二人を含めてその事はまだ知らないのであった・・・
酒関係の話が長くなってる件・・・
予定ではサッサとアル達の修行に入る筈だったんですが・・・
予定は未定という事で、なんくるないさ~
読んで頂いて有難う御座います




