伝説の賢者マーリン
結局何しに来たのか良く判らないまま、ベルクワトは帰って行った。 一応は迷宮の利用方法や注意点など説明してくれたのだが、ほとんどの時間をジョゼルとの言い合いに使っており詳しい事は実際に入ってみなければ判らない状態だ
「旦那様、なるべく早めに来てたもれ」
「うん、準備が出来たらお邪魔するね」
ジョゼルも大人しく迷宮へと大人しく帰って行った。 当分は迷宮の中に籠って成長を優先するらしい。 とは言えやはり寂しのかパタパタと飛んでいくその後姿には元気が無かった
「で、どうするの?アル」
「ん~話を聞いてると結構強そうだし準備は必要かな?」
「ん・・・時期尚早」
ベルクワトと共に創ったジョゼルの迷宮は、その構造上彼女の部屋を出たら直ぐにボス級の魔物との戦闘になるらしい。 迷宮にどの程度魔力が籠っているか判らないが強さに絞って魔物を生み出しているという話からも相応の準備が必要だと思われた
「僕の武器って最近合ってない気がするし・・・」
「そうね、アルの本気に着いていけてないのよね」
アルベルトの装備は彼専用の特注の物を使っている。 だがマーリンは始めから優秀な武器や防具を身に着けると自分の力を勘違いしやすいとの事で初陣の時の彼に合わせて用意されたものだ。 その為、幾度かの戦いでスッカリ成長した今のアルベルトには合っていなかった
正直、今のアルベルトの技量ならば武器に合わせた戦い方も出来るのだが魔物との戦い、しかも強力な魔物の場合は実力を発揮しきれないかもしれない。 人間相手の時と違い硬い毛皮や皮膚、大岩さえも簡単に砕く様な膂力の持ち主と対峙するのであれば今の装備のままでは心許無い
「ん・・・良いのが無い」
「そうなのよね~。こんな辺境じゃあ鍛冶師の腕も知れてるものね」
エリザベスの言い様に苦笑いで答えるしかないアルベルト。 発展著しいセイレケの街と言えども王都と比べれば店の数や品揃えでは適うはずもない。 しかし辺境と言われても殆どサウスバーグ領から出た事の無いアルベルトには実感が無いのだ
「あ!ごめん。此処が嫌いな訳じゃないのよ。ノンビリしてるし長閑だしセイレケの街自体は好きなのよ。でもやっぱり特殊な技能を持つ職人の絶対数はどうしても・・・」
「うん、それはしょうがないよ。そこまでの需要が無いんだから」
サウスバーグ領自体は王国の玄関口でありそこそこ賑わってはいるし領軍を積極的に見回らせることによって治安も悪くない。 メネドールは農地の開拓を推奨し積極的な誘致もしているので食料自給率も高い。 アルベルトが領主を務めるセイレケの街も同じ政策を取っており、かなりの勢いで住民が増えていっている
しかし、逆に言えばサウスバーグ領の政策はセレブな皆様達を喜ばせる様な贅沢では無く、住民達が必要とする物を優先的に揃えていっているのだ。 結果、庶民が必要とする程度の料理人や生活に必要な鍛冶師達の数は多いのだが、王都などに比べるとその技量はどうしても低い物になってしまう
本来ならば冒険者たちがこれだけ集まって来ていれば鍛冶師の需要は高まってくる筈なのだが、高位の冒険者たちはもっと名の知れた街で装備を用意するしランクの低い冒険者たちは数打ちの物で十分であった。
その為どうしても武器防具専門の鍛冶師は需要が少ない。せいぜい装備の補修程度、又はそれすらも覚束ない程度の腕の鍛冶師しかセイレケの街にはいないのだ
「へっへっへ、話は聞かせて貰ったぜ!そう言う事はオッチャンに任せときな」
「バイマト!?」
わざとらしく入り口の扉の処でポーズを決めているバイマト。 入口の桟のもたれ掛って腕を組みながら、何故か口には草?っぽい物を咥えている。 元々扉は開いていたので声位は聞こえていたかもしれないが何処か演技臭い・・・というか怪しい。 絶対タイミングを見計らっていた見え見えだった
「ん・・・悪巧み?」
「失礼な!偶には俺だって役に立つんだって処を見せねぇとな・・・武器が欲しいんだろ?なら良い手が有るぜ」
「・・・なんか胡散臭いのよね。アルの弱みに付け込んで良い様に利用しようとしてない?カイヤさんを呼んできた方が良いかしら」
「ま、待てって。まずは話を聞けって。」
エリザベスの指摘に焦りまくるバイマト。 悪巧みでないのならばカイヤを呼ばれても不都合は無い筈である
「いいか、腕のいい鍛冶師と言えばドワーフと相場は決まっている」
「まぁそうね。でも彼等は滅多な事じゃ動いてはくれないわよ」
品質の良い装備を求めるのならばドワーフと誰でも答えるだろう。 しかし、いやだからこそ彼等はそう簡単には動いてくれない。 自分たちが動けばその場所にいる鍛冶師達の仕事を奪いかねないという事を理解しているのだ
その上、厳格な師弟制度での厳しい修行を課しており中途半端な腕の職人に独立を許さない事も有ってドワーフたちの鍛治工房の数は非常に少ない。 その為大抵は鉱山の近くに在るドワーフの集落まで行かなければ彼等の装備は手に入らない。 またその需要は高く集落に行ったからと言って簡単に手に入る物では無いのだ
「そこで秘策があるのさ。ドワーフと言えば・・・」
「言えば?」
「そう酒だ!奴らは酒に目が無いのも有名だろ。仮にこの街に仕事が少なくても良い酒が有れば間違いなく来る筈だ!!」
やっぱり邪魔だったのだろう、加えていた草っぽい物を吐き出して力説するバイマト。 確かにドワーフたちが酒に目が無いのは確かだが、その分彼等の集落には世界中のありとあらゆる酒が集まっており幾ら良い酒が有ったとしてもそう簡単には動く事は無い筈だ
「お酒って言ってもこの街、いやサウスバーグ領には名物って程のお酒は無いよ?」
「いや、十分に美味いんだけどな。他の街の酒っつったら、温いし酸っぱいしで飲めたもんじゃ・・・」
この街以外の酒を飲んだ事の無いアルベルトには実感が無いが、セイレケ産の酒は十分に名物足り得るもので、他の街の酒が如何に不味いのかを語り出すバイマト
「ん・・・話の続き」
「おっと、話が逸れた。確かにこの街の酒も美味いんだが、ドワーフ達を動かすにはちっと弱い」
「弱い?アルコール度数って事?」
「そう言う意味じゃないでしょ。動機として弱いって事よ」
余りにも熱く語り出すバイマトをヴィクトリアが本題に引き戻す。放っておいたら一晩中でも語りそうな勢いであったが、アルベルトの絶妙なボケに困った様なバイマトをエリザベスが救う。
「でもな、この街には他にはない物が有るんだよ」
「他に無いもの?」
「そう、かつて世界の知識の全てと錬金術を極めたと言われる賢者が俺達にはいるだろ!」
「それってマーリンの事?」
「そうさ!!そしてついに幻の酒の再現に成功したって訳だ」
ジャーンって感じで腰の後ろに着けている鞄から酒瓶を取り出すバイマト。 普通の酒瓶よりも小振りなそれには透明な液体が満たされていた
「これが蒸留酒って奴だ。マーリンさんの話じゃまだ若くて駄目らしいがそれでも伝説級の酒だぜ!」
「なんか最近マーリンがどっか行ってると思ったら・・・」
「って言うか、いつの間にマーリンさんと会話できるようになってるのよ!」
「ふっふっふ・・・実はこの前の迷宮から出た辺りでな。まだ薄っすらとしか姿も見えねえが何とか意思の疎通は出来るぜ」
ビシッと親指を立てた綺麗なサムズアップ。 片目を瞑って自慢げに語るバイマトはかなり嬉しそうだ。 ヴィクトリアや転生竜であるジョゼルとベルクワトは種族的に高位の存在でありマーリンの姿が見える事も有る程度は納得できる
しかしあくまでも人の身で、仮にマーリンという存在がそこにいる事を知っていたとしてもそう簡単に認識できるものでは無い
「な、なんでアンタが私よりも先にマーリンさんの事が見えるのよ!!!」
「う~ん勘!?」
「勘って何よ。勘って!」
「お前、まだマーリンさんの事を信じ切ってないだろう。そこの違いかもな」
まぁ正直、姿の見えないマーリンの事を本当に信じれるかというと中々難しいかも知れない。 どうしても常識という物が邪魔して知覚できないと言うのはあり得る話・・・なのか?
エリザベスとて魔法神の加護を受けている人間の枠からやや外れかけている存在だ。 彼女が認識できない物をバイマトが感じ取っているのだとすれば、寧ろ長年の経験とLVの高さが影響していると考えた方が納得できる
「カイヤの奴も薄々見えてるんじゃないか?あいつの場合精霊なんてもんが見えてるんだから守護霊だって見えるんじゃね?」
「そ、そんな・・・私だけなの?」
「ま、その内見えんだろ。それよりもこの酒だよ。実はなマーリンさんの言う通り造っては見たんだがどうしても上手くいかないんだよ。大量に造るには専用の器具、蒸留器っつったか?がいるんだとよ」
「それをドワーフに創らせようって訳?」
『うむ。まぁ魔法でも創れるんじゃがな。アルの装備と引き換えに秘密の製法を・・・とか言ったら食い付くじゃろ』
「へっへっへ。実はなこの酒瓶を奴等の集落に送ったんだよ、昔の伝手を使って手紙付きでな。んで、そろそろ返事が来るはずだぜ」
「ん・・・自分が飲みたいだけ」
「おっと、それは言いっこなしだぜ。上手く言ったらめっけもんって感じなんだからな」
確かにマーリンの知識で造った酒ならばドワーフたちも興味を持つだろうし、作った事の無い器具というのはドワーフたちの鍛冶師としての誇りも擽るかも知れない。
聊か動機に不純な物を感じないでもないが案外上手くいくかも知れないという処がバイマトらしかった
「でもそれなら初めに言って欲しかったな。僕に黙ってお酒を送ったんでしょ?」
「い、いや。こうなる予感がしてたんだよ。ほら、あれだ蟲の知らせって奴だよ」
ジト目で見つめるアルベルトに焦ったのか言い訳がましいバイマト。 つまりアルベルトに黙ってドワーフに蒸留器を創って貰おうとしていた所にたまたま装備の話が出ただけなのだ。 そうでなければカイヤに聞かれたとしても問題無い筈だ
「ふ~ん・・・まぁ良いけどね」
「ん・・・結果オーライ」
「わ、私だけなの・・・私だけが見えないの・・・」
ヴィクトリアの言う様に結果が良ければそれでもいいだろう。 取敢えずは了承しつつもジト目を辞めないアルベルト
その傍らで床に両手をついて落ち込むエリザベスであった・・・orz
ファンタジーで武器と言えばドワーフ
ドワーフと言えば酒!って訳で伝説の賢者の知識を利用しちゃおう・・・
う~ん、正にgotogo主義(笑)
エリザベスに関してはorz・・・これを使ってみたかっただけだったりします




