帝国の滅亡と新たな脅威~②
状況を報告してくれたイマールを下がらせた国王や宰相、それにメネドールであったが、結局の処具体的な対応策を出せないままであった
現時点では本当に国家を運営できるほどの能力を持っているのかは不明だが、明確な敵対行動を取っている訳ではない相手に対して王国としては友好も敵対も選べるほど情報がある訳では無い
これが帝国と友好関係であったならば神国の正当性を問う事があったかもしれないが、明確な宣戦布告が無かったとはいえ戦争状態であった訳だし王国から起こすべきリアクションが無いのが現状であった
イマールが危惧していた同僚達も無事にセイレケの街に到着し追加の報告を上げてはいたが、その事が却って身動きを取り辛くさせていた
「大使館付の武官を素通りさせている上に監視付きの軟禁状態とはいえ大使館の無事も確認できた以上は、こちらから何かするべきでは無いでしょう」
「そうじゃな、どちらにせよ情報不足だ。ヌマジ殿には悪いが先ずは様子見しか手立てはあるまい」
「ではサウスバーグ領としては情報収集に努めましょう」
イマールの同僚達は第一報を彼に任せて、危険を承知で情報を集めた後に街を脱出したそうだ。 重要施設や各国の大使館、更には街角にも武装した兵士達が立ち物々しい雰囲気ではあったが闇雲な暴力や逮捕監禁などは行われておらず、身元の確認などは多いものの混乱は少なく一定の秩序が保たれていたという
最後に脱出した武官は誰何の声を掛けられたものの身分を偽る事無く街を出る事が出来たという。 宰相はその対応を意外に思いつつも、突発的な簒奪では無く綿密な計画の上で今回の事態が引き起こされたとみており国王にもその旨を伝えている
そうなれば対聖ザービス神国の最前線はサウスバーグ領という訳になり、メネドールの言葉は宰相と国王の期待に副う物であった
「アルベルト、このような事態になった以上はセイレケの街の重要性は判っておるな」
「はい父上。神国側からの出入りには十分な警戒をしておきます」
「頼むぞ。まぁお主ならば問題ないだろうがな」
メネドールとアルベルトのやり取りに彼のステータスを知る国王と宰相は任せたぞ!って感じでうんうんと頷いていた。 アルベルトのステータスを知っているとはいえ、それはわずか五歳の時点の話であり現在のステータスを知っている訳では無い。
抑々二人が知っているのは隠蔽され改編されたステータスであるのだが、神々の杜撰な隠蔽により五歳児にしては高過ぎるものであった。 しかし、発展著しいセイレケの街や繰り返された帝国の侵攻を無傷で凌いでいたのだ。 更に今回の転生竜との契約、それらの事から順調な成長をしていると二人は思っている。
実際には桁が違う訳でありアルベルト自身は周りに優秀な者が多い為に意識していないが、数度の戦闘や内政等の経験を積んだアルベルトの今のステータスをもってすれば情報収集など簡単な話であったので国王からの言葉にも素直に頷く事が出来た
「かの国から使者などが来た時はどのように対応いたしましょう?」
「そうじゃな。基本的にはオーセントに送り出せばよい。この地で遇する必要は無い」
「しかし陛下、彼奴らが宗教国家を謳う以上、布教の許可を持ち出す可能性が有ります」
「う~む、それを拒否すると拙いか・・・」
「そうですな。今後もし友好を結ぶのであれば影響が出るかも知れませぬ」
「よし。アルベルトに任せた!お主の好きなようにせよ!!」
「はい!?」
「なに、神々に愛されたお主が気に入るのであれば神々にも愛される存在じゃろう。逆にお主が胡散臭いと思ったのであれば神々も胡散臭いと思うという訳じゃ」
聖ザービス神国が使者を送るのならば間違いなく通る筈のセイレケの街。 そこの領主であるアルベルトは間違いなく使者の相手をせねばならないだろう。 そう思って国王に対応の基本姿勢を問うたアルベルトだが国王の無責任な言葉に思わず聞き返してしまう
思いっ切り不敬な態度であったのだが気にした様子もない国王の説明に頭を抱えたくなってしまうアルベルト。 重すぎる信頼に流石に今度は素直に頷く事が出来ない。 しかし普通に考えれば辺境伯の嫡男でセイレケの街の領主であっても国家の大事を話す場に同席している事自体がおかしいのだ。
つまり国王と宰相にしてみれば何事が有ろうとも最前線にアルベルトがいるので多少の事は心配すらしていないのだ。 その事を理解したアルベルトは思わずメネドールを見つめるがまるで諦めろと言わんばかりに黙って首を振られてしまいガックリと肩を落とすのであった
☆△☆△
国王達が元帝国の大使のヌマジ殿を連れて王都であるオーセントに帰ったのは三日前であった。 各国の大使達や王国の重鎮たちを送り出した後、何処からか現れたベルクワトが転移魔法であっさりと連れて行った
転生竜、王国を護る聖竜王である彼女だが、もう一つの顔である宮廷魔術師長としての立場で現れており事情を知らない者達にすれば国王と宰相の不在の期間を短縮するために莫大な魔力を消費しての転移魔法と思っているが、転生竜である彼女にしてみれば簡単な事であった
並外れたステータスを持っているアルベルトでさえ転移魔法を使う事が出来ない。 ましてやセイレケとオーセントの間を遠距離を転移するとなれば人の身では不可能な事であった
「旦那様~♡」
「あれ?ジョゼル。迷宮から出ても大丈夫なの?」
「姉上の魔力も使ったから早くできたのじゃ。しかも普通とは違う迷宮じゃから魔物が溢れだす心配はいらんぞ」
パタパタと飛びながらアルベルトの胸に飛び込んできた暗黒竜王ことジョゼルを受け止めながらアルベルトが問い質す。 ソファーに座ったままのアルベルトの胸の中で満足そうに頭をスリスリと擦り付けながらジョゼルが説明をしていく
通常の迷宮は入り口から最下層である迷宮の主の部屋の向かって伸びていく。 魔物達は迷宮の主から漏れ出す魔力によって生み出され、いわば主の子供達の様な存在でありその命令には無条件で従う
しかし、迷宮の規模が大きく成り過ぎたり、主の能力が劣っているとその命令に従わず迷宮から溢れ出し人々を襲ったりするのだと言う。 ジョゼルの能力が低いとは言わないが万が一の事を考えて迷宮の入口は直接ジョゼルの部屋に繋がっているのだと自慢気に話す
つまり、アルベルト達の住む領主館からジョゼルの部屋に直接繋がりその部屋を通り抜けて下層へと繋がる構造で作ったと言うのだ
「これで堂々と旦那様の元へ来られるのじゃ」
「ちょっと!くっ付き過ぎよ!」
「ん・・・順番」
婚約を公式な場で国王が婚約を発表した事で常にアルベルトの傍にいる二人が抗議の声を上げる。 アルベルトにしてみれば幾ら性別が女性(メス?)とはいえ竜の幼生体に欲情することは無いのだが二人にとってみればジョゼルもライバルであるらしい
「こいつだっていずれは人化の法を使えるんでしょう!?だったら今からルールは守って貰わないと駄目よ!」
「妾にそんな口を利いて良いのかな?迷宮への扉は妾しか開けられんのだぞ?」
「ジョゼル、それってどういう事?」
「旦那様の為に強い魔物が生まれるように作ってあるのじゃ、だから修行には持って来いなのじゃ」
エリザベスには勝ち誇ったような口調で答えるのだが、アルベルトには猫撫で声で甘えた様に答えるジョゼル。 どうやら溢れる魔力で生み出される魔物を数では無く強さを重視して生み出しているようだ
「本来は妾の眠りを妨げない為の魔物達じゃ。しかし入り口が旦那様の家なのじゃからその心配が無いのじゃ」
「・・・そんなに強いの?」
「むふふ。旦那様に退屈はさせんのじゃ」
「ん・・・多少は良いかも」
「ちょっとヴィク!狡いわよ。私も入りたい」
迷宮に現れる魔物達は主の魔力で生み出されるのは広く知られている事だった。 実際に主の部屋に近づくほど魔物は強くなってくるので迷宮の下層に進むほど魔物は強くなっていく。 しかしそれが主を護る為の用意だとは知られておらず迷宮の不思議を解き明かす発言であったのだが、三人は他の事に興味を惹かれておりそこには気付いていない
アルベルトの修行の為に用意されたという魔物。 しかも転生竜から溢れだす魔力を修行の為だけに凝縮したと言うのだから弱い訳が無い
「ほ~ほっほっほ。跪いて願うのであれば考えんでもないがな」
「クッ!こ。こいつ性格悪いわ」
「ん・・・性悪」
恋のライバルであり、先に婚約まで成し遂げた二人に意趣返しが出来た事で満足そうに笑うジョゼル。 しかし彼女の天下は長くなかった
「何を調子に乗ってるの!!」
「ヒィ!ね、姉さま!?」
いきなり転移で現れたベルクワトがアルベルトの膝の上で勝ち誇るジョゼルの首根っこを掴んで目線の高さまで持ち上げる。 三日天下ならぬ三分天下であった・・・
「まったく。魔力を調整したのは私でしょうに・・・何を勝ち誇ってるのかしら?目的はきちんと説明したわよね」
「い、いや、その・・・そうじゃ言葉の綾。そうちょっと意地悪したかっただけなのじゃ。じゃからそう目くじらたてんで・・・ああ、やめてたもれ、そ、そこは弱いのじゃ~」
ベルクワトがジョゼルの首の下にある逆鱗をチョイチョイと弄るとクネクネと悶絶するジョゼル。 竜の逆鱗にに触れると烈火のごとく怒る程の弱点と伝えられているが、ジョゼルの上気した瞳を見ていると別の意味での弱点にしか見えない。 男性(オス?)の場合はどんな反応になるのかと想像した三人は同時に首を振り思わず出てきたその妄想を頭の中から消し去る
「はぁ~こんな事では無いかと思って来て良かったわ」
「ようこそベルクワト様。しかし次からは連絡位は欲しいわね」
ハァハァ悶絶しているジョゼルをソファーの上に投げ捨てたベルクワトにエリザベスが抗議する。 一応は貴重なイチャイチャタイムなのだ。 今回は三人での健全なイチャイチャタイムだがもう少し過激な時に来られるのは勘弁願いたいのだろう
「ん・・・むっつり」
「なんですって~!」
「まあまあ、エリザベスも少し落ち着いて。それでベルクワト様、目的とは一体何の事ですか?」
ヴィクトリアに心の中を見透かされたエリザベスが激高しかけるがアルベルトが宥めて落ち着かせる。 彼にしてみれば昼間っから見られて困る様な事をするつもりは無いのだから当たり前だ
「ふむ。前にも少し言ったが貴方にはもっと強くなって貰わねば困る。その為の準備と思って貰えればいいわ」
「僕に必要になるって言ってた奴ですか?」
「そうね。前も言った通り理由はまだ話せないわ。でも貴方には出来るだけ早く強くなって貰わないといけない。その為には迷宮での修業は最善よ。そこの二人も含めてね」
「わ、妾は、妾はどうなるのじゃ!?姉さま!仲間外れは酷いのじゃ!!」
「まったく、説明したでしょう!大体早く強くなりたいなら大人しく迷宮に引き籠ってればいいのよ!!」
再び始まった姉妹喧嘩に重要な部分を聞ける雰囲気では無くなってしまった。 アルベルトも強くなる事自体は構わないがそれが必要になると言われれば、それが起きた時の事を考えて準備しておきたいのが本音だ。 彼にしてみると個人だけならいざ知らずセイレケの街を巻き込む事態になるのは何が何でも避けたいのだった
しかしヒートアップしていく姉妹喧嘩に半ば諦めた表情のアルベルト。 傍らにはヴィクトリアとエリザベスが彼に引っ付く様にして事態を見守っている
帝国が滅び厄介な宗教国家が隣国に成立し、更に国王に丸投げされた懸案など頭を悩ます事は山盛りであった
しかし日常は彼にそれを意識させず平和な空気が流れるのであった・・・
シリアス路線はもうお腹いっぱいです
なので、ほのぼのいちゃいちゃへ移行します
読んで頂いて有難う御座います




