帝国の滅亡と新たな脅威
セイレケの街で行われていた晩餐会は急遽齎された報告で予定を変更して早めに切り上げられた。 各国の大使達もこの情報を分析した上で自国に報告する義務も有りその決定に不満を漏らす者達はいなかった
しかし、アデル王国の玄関口であるセイレケの街から街道を使って自国に向かう為には、帝国領、・・・情報が正しければ元帝国領を通らねばならず、伝令兵の様子を鑑みればそれは難しいと考えられる
その為、アデル王国から自国に向かうには北方の都市国家群に抜ける山道を踏破するしか無く大使達はその準備に国王の閉会の挨拶と謝罪も半ば聞き流しながら直ぐに行動に移したのであった
「メ、メネドール閣下・・・出来れば詳しい話を聞かせて貰えぬだろうか」
「うむ、そうじゃな、可能な限りの情報は渡そう。それまでは・・・」
「はい、父上。迎賓館に部屋を用意させますので、そちらにて待機していただいて情報が確定次第お知らせします。陛下よろしいでしょうか?」
「うむ、ヌマジ殿。悪いようにはせん、安心するが良い」
各国の大使達が挨拶もそこそこに退室していくのとは正反対に自国が滅亡したとの知らせに不安気にメネドールに問いかけてくる帝国大使ヌマジ卿。 小競り合いと言うよりも本格的な侵攻を受けて関係の悪化している帝国の大使ではあるが、関係が悪化しているからこそ重要な人物であり、更に亡国の可能性が出てきた帝国の貴族でもある彼を保護するのは当たり前の話であった
とは言え、伝令兵の詳しい報告を一緒に聞かせるのは戦略上の問題もあり後で情報を届けるという事を約束して迎賓館での待機を命じて退出してもらう。 ヌマジも大使として経験を積んでおりアルベルトの言い分を理解しつつも不満顔であった。 しかし国王が約束した以上は不平を言う訳にはいかず不安な表情を浮かべたまま大人しく迎賓館へと案内されていった
「さて、疲れている処すまんが詳しい話を聞かせてくれ」
「ハッ!自分は帝国にある大使館付武官のイマールと申します。私の他に二名の武官が大使館を出ておりますが、おそらく私が最初にこの地に辿り着いたと思われます」
メネドールに促され伝令役を務めたイマールが自己紹介から報告し始める。 他の二名はそれぞれ別のルートを使ってアデル王国を目指している事を告げる。 最初に到着したという表現は確定情報では無い、しかし同僚の安全を願う彼にしてみればそう願いたいと言う願望の表れであるのかもしれない
イマールの話によると帝国の首都ハルガルに混乱の兆しが出たのは先の侵攻の失敗の報告が為された頃からであった。
総大将であるヨシュア・ダーマ侯爵が敗残兵1500をまとめ何とか帰還し、今回の敗戦の責任は全て自分に在ると白装束にて皇帝の前で報告した上で、自身の首を以って償いたいと言ってのけたのだ
「あの侯爵がですか!?ちょっと信じられません・・・」
「こら。陛下の御前だ控えろ」
帝国内部の話という事で呼び出されていた元帝国兵のサームが思わずと言った感じで漏らした言葉に同じく元帝国兵のハサンがうんうんと言った感じで頷くのをメネドールが嗜める
「お二方の言う通りヨシュア・ダーマ侯爵の潔い姿勢、それが帝国の貴族達の意見を真っ二つに割った事が発端でした」
二人の驚きの表情に帝国にて諜報活動を行っていたイマールが正しく!ッと言った感じで報告を続けていく。 サームが驚いた様に帝国貴族の負の面を体現したかのような傲岸な侯爵が死に装束で皇帝に報告した事で、帝国貴族の鑑だと称賛する声と、何を言おうと敗戦の責を問わねばならないと言った声に別れ、謁見の間は意見の分かれた貴族達の怒号が響き渡る異常な状態となってしまった
結局皇帝はその場での処分を下せず、おって沙汰を出すといってその場は侯爵の処分を決めかねたのだが、それが更なる混乱を齎す事になったのだ。
時間が経つ事で、侯爵の今迄が今迄だけに命乞いの手段であろうという声の他に、撤退時に兵達を励まし続け自身の騎乗する馬まで糧食として分け与えたという報告もあり、特に敗残兵たちからは寛大な処置を望む声も高まるなど、様々報告や噂話が持ち上がり擁護派は侯爵の美談を、排斥派は醜聞をと互いに持ち出し喧々諤々の論争を繰り広げた
その結果、特に身分が低い兵達や民衆に抑々侵攻を決めた帝国上層部への不信が広まり帝都には不穏な空気が広がり始めたのだった。 此処に至り皇帝は事態の収拾を測る為に侯爵を処刑、その首を城の門前に晒すという通常よりも重い処刑方法を取ったのであったが、これが更なる事態の悪化を招く事になる。
戦の勝ち負けは世の常である。 確かに二度目の敗戦という事で処刑は逃れる事が出来ないにしても、死後もその名誉を貶める扱いに軍部の反感を招く。 更にこの処刑までの間に散々貴族達の腐敗が喧伝されており民衆達の不満は既に限界値を突破しており、その不満を誤魔化すような処刑方法に民衆達は遂に爆発、皇帝の居城を取り囲む事態となったのだ
「ふ~む、解せんな。何故そこまで民衆の不満が溜まっていたのだ?」
「そうですな、他国を飲み込む事で拡大してきた帝国。しかも帝都であれば疲弊もしておらんはず・・・」
領土的野心を前面に出し他国を併合してきた帝国だが、併呑した国の民衆ですら不満を溜め込んでいた訳では無い。 その理由は税の低さと豊かな食糧に有った。 併呑された国々は小国とはいえ国家として成り立っており、当然そこには為政者がいた訳だ。 例えこれと言った贅沢をしていなくとも予算として少なくない金額が動くのは当たり前だ
また、国を維持するためには軍事費も掛かっていたのだが、併呑されたことによりそれらの予算は国が存続していた時よりも少なくなり結果として税も安く、また精強な帝国軍が護る事により治安も向上したのであった
しかも、今迄は自国内の食料でやりくりしていた食料や嗜好品が輸入と言った形では無く、単一国家の都市から齎される物になり、関税が掛からなくなる事で安く手に入る事になった。 その上広大な帝国の版図では一地域が飢饉に陥ろうとも他の地域から支援物資とし安定的な供給が為されたのだ
ましてや帝都に住む民衆はその豊かさの一際集まる場所でそれを享受してきたのだ。 その生活に不満などある訳も無く、国が上手くいっている以上は貴族達の多少の腐敗ではそこまでの不満を溜め込む事は無い。 確かに王国との戦いで多少は疲弊していようとも生活を圧迫するほどでは無く帝都に住む民衆にとっては他人事で在った筈なのだ。 為政者としてその辺りの事を理解している国王とメネドールにはその部分が引っ掛っていた
「そこからは正に怒涛の如く自体は推移していきました。民衆の暴動を鎮める為に国軍を動かした皇帝は一度はそれを鎮圧しましたが・・・」
「それが却って事態を悪化させたか・・・」
イマールの言葉に苦虫を潰した表情で国王が述べる。 民衆を力で抑えつける様な方法が事態を好転させる筈もない。 しかし為政者である自身が同じ状態に陥った時にそれを冷静に判断できるかは別の問題であり、自身が同じ間違いを犯さないかどうかは自信が持てなかったのだろう
「陛下、前提条件が違います。わが国でそこまでの事は起こりません」
「そうだな。帝国とは違うのだからな」
「いいえ、此度に関してはそうとは言い切れません。帝国は民衆に倒された訳では無いのです」
「なに!では一体誰が帝国を亡国としたのだ」
「今の帝国・・・いえ奴らは聖ザービス神国と名乗っていますがその支配者は教皇を自称しております」
「教皇!・・・宗教国家か!!」
この世界の宗教観は非常に緩いものであった。 神とはその権能を以って恵みを与えてくれる存在であり、多数の神々が見守ってくれていると言う多神教が殆どであった。 創造神や魔法神、慈愛の神や戦いの神など力のあるとされる神々の他にも、マイナーな所では盗賊の神や賭け事の神など一部の者に信仰されている神たちもいる。 基本的に温厚ではあるが稀にその怒りによって被害を齎す神もいるとされているが神罰と言うよりも道徳的な意味での寓話の方が多い
しかし極稀に独自の神を祀る者達が現れる事が有り、多くの場合その神は一神教であった。 他の神々を否定し厳しい戒律を求める物であり、その独善的で攻撃的な性格から民衆に受け入れられる事は少なく大抵の場合は直ぐに廃れて消えていくカルト的な物ばかりであった。
だがカルト的な物であっても、いやだからこそ信徒たちの結束力は高くその集団は厄介極まりないものである。 今回はそれが集団では無く国家としての機能を得たと言うのだ。 しかも帝国の基盤をそのまま受け継いだとしたならば周辺国にとって脅威以外の何物で無い
「・・・おそらく扇動したものがいるでしょうな」
「はい。大使殿は念の為に事態の悪化の前に私達を大使館から脱出させ隠れているように指示を出しておりました。そのお蔭で外部から冷静に事態を観察できたのですが、一部の民衆は異常な盛り上がりで城を取り囲んでおりました」
「そ奴らが原因か・・・」
「最初に国軍が出動した時は民衆と冷静に話し合う姿勢でした。しかし武力衝突の原因になったのは民衆側の攻撃だったのではないかと・・・」
「何処までが策略だ?侯爵も奴等の一派だったのか?」
「陛下。今はそれを考えている場合ではありません。まずは情報取集が先です」
此処までの話を総合すると混乱に乗じて民衆を扇動した者達がいる筈だ。 そう考えなければそう簡単に帝国を乗っ取るというような事態にはならない。 しかしだからと言って扇動者がいれば出来たのか?と言われるとそこまで簡単な物では無いのも確かだ。 しかし計画と準備も無しに実現できる訳の無い話であった。
宗教・・・本来は人々に安らぎと正しい道を示す道標のようなものだ。
しかしそれが不気味な存在として突然隣国に現れた
アルベルト達の胸にまるで嵐が来る前の不吉な予感だけが広がっていくのであった・・・
思ったよりも早く帰れました・・・しかし疲れているのか全体的に重くなっています。説明回と思っていただけると幸いです
読んで頂いて有難う御座います




