顛末と新たな火種~②
世界最強種である竜種、しかも転生竜というお伽話や伝説上の生物の姉妹喧嘩はアルベルト達の憧れや幻想を悉くぶち壊してしまっていた。 一応は自重しているらしく口喧嘩だけで終わらせてくれたので部屋に被害が出ていない事だけが幸いであった
「はぁ~結局何しに来たのよ・・・」
「め、面目ない。つい・・・」
『相変わらず頭に血が上ると周りが見えなくなるようじゃな』
溜息と共に呆れるエリザベスに冷静になったベルクワトが申し訳ないようにシュンとなって頭を下げる。 部屋に入って来た時の尊大さは欠片も無くなってしまっている。 そんなベルクワトに声を掛けるマーリンはまるで昔から彼女の事を知っているようだが今はそれ処でないのを判っておりそれ以上追及することは無かった
「話を戻しましょう。一応ジョゼルの代わりって事は判ったけど、実際にはどうするつもりですか?」
「うむ、特に難しい話では無いわ。人化を解いた私にジオブリント坊やがセイレケの守護を要請して終わりよ」
「人化を解いたベルクワト様ですか・・・」
当初の予定ではジョゼルと国王でそれを行う予定であった為、会場は室内の予定であった。 しかし人化を解いたベルクワトという事であれば伝説上にあるその大きさを考えれば室内と言うのは無理があるだろう
『城壁の上しかあるまい。それに天より飛来した転生竜と国王が対話する方がよほどそれらしくはある』
「う~ん。そう言われればそうかも!?」
「ん・・・迫力不足」
「な!姉さまそれは酷い・・・」
いつの間にか上下関係が確定しているジョゼルがヴィクトリアに抗議の声を上げる。 しかし今のジョゼルの姿は一般の人が想像する転生竜の姿から考えればヴィクトリアの言う通りであるのは確かだ
「そうよね~やっぱり手乗りサイズの竜よりは、天から飛来する竜の方が迫力はあるわね」
「妾はそこまで小さくない!」
実際、手乗りサイズと言うのは語弊がある。 ジョゼルの大きさは片手で収まるサイズでは無く両手でやっと抱えられる位の大きさだ。 しかし魔力を使って調整している為抱いた時の重さは然程でもないしアルベルトの肩の上や膝の上で丸まっている事が多いジョゼルのサイズを表すに丁度いい表現ではある。 因みにヴィクトリアに対しては姉と敬っているがエリザベスに対してはそこまでへりくだるつもりは無いらしい
「その辺の事はジオブリント坊やとは打ち合わせ済みです。申し訳ありませんが予定の変更をお願いします」
「そうだね。サニラ!ちょっと良いかい?」
「お呼びですか?アルベルト様」
主の許可を得て下がっていたとはいえ予定外の来客という事も有って部屋の前で待機していたサニラに声を掛けウマルを呼んできて貰う事にするアルベルト。 室内の様子は把握していただろうサニラはそれでも余計な事は口に出さずウマルを呼びに退室していく。
とはいえウマルにはきちんと事情を話して呼んでくる事など彼にとっては当たり前の事だ。 セイレケの街が砦だった時には只の守備隊長でしかなかった彼だが、元々優秀な人材である。 現在はアルベルトの住む領主館の守護を担当しているが、その働きぶりは殆ど家令と言っても差支えの無いほどだった
☆△☆△
「・・・二日いや、明日一日でその準備を整えろと?」
「う、うん。何とかならないかな?」
「まったく、判っているなら初めから伝えてくれれば良いものを・・・警備の見直し、来賓の誘導、式典と晩餐会の場所の変更と、どれだけ大変か判ってます?」
「うっ!そ、そこを何とか頼む」
呼び出されたウマルは事情を聴いて青筋を浮かべながら不満をぶつける。 彼自身の事よりも既に目の下の隈を三段にしている文官達の事を慮っての事であるが、聖竜王であるベルクワトにすら怯まない姿に彼の傑物ぶりが覗える
姉妹喧嘩で失態を演じた手前強く出れないとはいえ、只の人族であるウマルの迫力に思わず頭を下げるベルクワト。 転生竜であり国王ですら坊や呼ばわりをする彼女からは想像がつかない事だった
「まぁそう言うなよ。警護に関しちゃ転生竜が二人もいるんだしアルに俺達が居れば問題ないだろ」
「案内も馬車を使って移動すれば何とかなるわ。まぁ貴族の皆さんには自前で移動してもらわなきゃだけどね」
一緒に呼び出されたバイマトとカイヤがウマルを宥める。 ウマルの不満はもっともだがここでそれを言っても始まらないし、ベルクワトの言う事にも一理あるのは確かなのだ
元々治安の良いセイレケの街だし、既に不穏分子の洗い出しや街の中の警護は既に手配してある。 国内の重鎮である一部の貴族には国王の名で伝えれば問題ないだろうしベルクワトがその辺りの許可を既に国王から貰ってきていた
各国の大使達は領主館の敷地内にある迎賓館に滞在しているので馬車で移動しても然程問題は無いだろう。 元々彼等は人数も少ないし護衛などは式典の最中は別行動が基本の為、移動に然程手間は掛からないだろう
「妾はどうすれば良いのじゃ?」
「ジョゼルは迷宮に籠ってもらうわよ。こんなトコでうろちょろされても困るのよ」
「あ、姉上!それは無体じゃ。旦那様と引き離すと言うのかえ?」
「そういう訳じゃないわよ。一応守護の契約も結んだんだし街から離れる訳にはいかないでしょうに・・・」
そう言うとベルクワトは真剣な表情でアルベルトに向き直る
「アルベルト様、この館の地下に迷宮を創る事を許可願います。私とジョゼルの力を使えば問題は出ないと思います」
「って、おいおい。流石に街のど真ん中に迷宮は拙くないか?」
ベルクワトの言葉にアルベルトが答える前にバイマトが口を挟む。 他の迷宮都市ですら街の中に迷宮が在る訳では無い。 迷宮からの恩恵に頼りながらもその危険を認識した上で迷宮都市は成り立っているのだ。 流石に街の真ん中に迷宮が在るのではその危険性から考えても容認できるものでは無い
「その辺りはご心配なく。迷宮の主はジョゼルですので魔物達の制御は問題ありません。間違っても暴走の発生は有りません」
「とは言っても・・・」
「それにアルベルト様にはいずれ必要になりますよ」
「必要に?」
「ええ。ですがそれについては今は話せません、時が来れば判ると思います」
『ふん。また勿体付けおって・・・まぁ自身を鍛えるのには丁度いいじゃろう。迷宮の主が自ら調整する迷宮じゃ、レべリングにはもってこいじゃよ』
「マーリンが言うなら大丈夫だろうけど・・・」
ベルクワトの説明にイマイチ納得は出来ないがマーリンも容認の方向に動いた事で迷宮に関しては任せる事にする。 今はジョゼルが人化の法を取れないのでその姿を隠す意味からも丁度いいのは確かだ
「でも今更よね。街の人達はジョゼルの事知ってるし・・・」
「まぁ良いんじゃない?アルが非常識なのはみんな知ってるわよ」
「ちょっと!僕そんなに非常識?」
エリザベスとカイヤの会話に抗議するアルベルトであったが、その非常識さが街の住民に受け入れられているのは確かだ。 「流石は領主様」はもはや合言葉にすらなってしまった言葉でそれを受け入れている住民達であるが世間一般から見れば非常識なのは確かなのだ
「では準備の方は頼んだわ。私はジョゼルと迷宮を創ったら街の外で待機する。流石に街中で人化の法を解く訳にはいかないからね」
「ちょ!姉上、苦しい。扱いが酷過ぎるー」
母猫が子猫でも持つように首根っこを掴まれて連れ出されるジョゼル。 その姿を呆れつつ見送りながらアルベルト達は早速準備に取り掛かる
「それじゃあウマル、大変だけど頼むね」
「判りました。カイヤ手伝ってもらえますか?」
「大丈夫よ。バイマト警備の方は頼むわよ」
「おう、任せとけって」
三人はお互いに声を掛け合って部屋から出て行く。 なんだかんだで家庭教師時代からの付き合いだ、この辺りの連携はすっかり上手くなっている。
「さぁ僕達も忙しくなるよ」
この後、到着するであろう重要人物たちを出迎えなければならないアルベルト。 国内の重鎮や父であるメネドール、それに国王も到着するのだ。ホスト役である街の領主にゆっくりする時間は少ないのだ
準備を三人に任せたアルベルトは恋人たちを連れだって自室を出て行く。 ある意味では二人のお披露目を兼ねるのだから服装などの準備にも時間が掛かるだろう。
式典だけが全てでは無い。 出迎えから始まり参加者が帰るまでの全てが領主としてのアルベルトを試す為の場でもあるのだ。 只でさえ若いアルベルトを舐めてかかる者達も多い。 また王女であるエリザベスを傍に置いているという事で色々とやっかみや嫉妬などを持つ者も少なくないのだ
セイレケの街が出来て以来の最大のイベントであり、アルベルトの試練でもある式典はこうして幕を開けるのであった
本当は一話で終わる筈が二話掛かっても終わらない件・・・
次の話で終わって新たな火種がアルベルト達を襲う・・・ハズ
読んでいただいて有難うございます




