顛末と新たな火種
「うみゅ~ウマルを・・・」
「手伝いませんよ!?今回は御自分のしでかした事ですからね諦めて下さい」
書類整理になるといつも吐く弱音を丁度執務室に入ってきた本人に否定されてしまうアルベルト。
「だってあの時は他にいい方法を思い付かなかったんだもん」
「それでも少しは自重という物をですね・・・」
「ん・・・無理」
ヴィクトリアのフォローは果たしてどちらの意味だろうか?と、一瞬考えるウマル。 他にいい方法を思い付くのが無理だったのか、アルベルトに自重を求めるのが無理なのか言葉数の少ない彼女の真意は読み取れない
「まぁアルに自重って一番似合わない言葉よね~」
「そ、そんな事無いよ!僕だって色々考えてるんだから!」
エリザベスの言葉と焦るアルベルトの表情で、やはりそっちかと思いつつも事の重大性を説明していくウマル
ウマルだけでは無く、街に戻って来てから散々各方面から怒られたアルベルトだがイマイチ伝わっていないようで、ジョゼルを守護竜とした選択の重大性を判っていない。
第一に王国にしてみれば聖竜王が守護する国という建前が有る以上、発展著しいと言えども辺境の一都市が同等の存在に守護されると言うのは権威の問題が出てくる
更に守護竜だと言え他国にしてみれば、いつかその力が自国に向かうと考えてしまう物だ。 その為無用の緊張を強いる事になると外交でも問題が出る。 確かに険悪な帝国との関係を考えれば抑止力と主張できるが、王国が覇権主義に走った場合その力が帝国以外に向けられる可能性を考えない為政者は皆無だと言っていい
強すぎる力という物は兎角問題を起こすという事を散々怒られたのだが、さりとて転生竜が眠る迷宮と言う厄介な物をサクッと解決する方法が他に有ったかと言うと、それもまた難しい問題でアルベルトの反省度が低いのもその辺りが原因だったりする
「ほら手が止まってますよ。国王がこの街に訪れる日にちは決まっているのですから早急に警護の計画に決済を頂きませんと間に合わなくなります」
「判ってるよぉ、でもなんで僕ばっかり・・・」
「妾の為にすまんの」
「いや、ジョゼルのせいじゃないから気にしなくても良いんだけど・・・」
アルベルトの不満に申し訳なさそうに机の隅で小さくなる暗黒竜王。 その言葉から浮かぶイメージとはまるで違う様子でアルベルトに頭を下げる
今回の後始末、特に王国の権威と言う部分のフォローの為に国王がセイレケの街に訪れる事が決まっているのだ。 権威の回復と言う意味ではアルベルトとジョゼルが国王の元に行くのが一番なのだが、転生竜という上位の存在に対して余り上から目線と言うのも問題が有る
色々考えられた結果、国王が転生竜の元を訪れた上で友誼を結び守護をお願いすると言う形に落ち着いたのだった。 それは、あくまでも王国主体でセイレケの街を守って貰うと言う事で王国の権威を保ち、あくまでもセイレケの守護と国王が限定する事で他国へのアピールも兼ねようという一石二鳥の考えなのだろう
その為、各国の大使や王国の重鎮も参加する式典を行うという大事になってしまい、セイレケの街では要人警護の計画や式典の警備体制の構築など普段とは比べ物にならない会議が行われたのだ。 それこそ山の様な書類が彼方此方を飛び交う事態になっており、当然その書類は最終的にアルベルトの元に送られる事になりそれの決済に忙殺されているのだった
一週間後の式典に向けて最終段階に入っている事も有り、目の下の隈が三段くらいになっている文官達が持ち込む書類も事後承諾に近い物が多くなっているので、式典の開催自体は間に合わないという事も無さそうだが、だからと言ってのんびり出来る訳も無く痛む手首に回復魔法を掛けながらサインを書き続けるアルベルトであった
☆△☆△
「ゲッ!こ、この気配は・・・だ、旦那様、妾はちと急用が出来た。暫く留守にさせて貰う」
「いきなり何言ってんの!?駄目に決まってるじゃない」
「は、離してたもれ。ここにいる訳にはいかんのじゃ!」
式典を明後日に控え、やっと書類の山から解放されゆっくりと自室で寛いでいるアルベルト達であったが突然のジョゼルの宣言にエリザベスが抗議の声を上げる
ジョゼルは今回の式典の主役の一人であり留守にしてますで済まされる訳が無い。 小さい羽根をパタパタさせて必死に逃げ出そうとするジョゼルと、その尻尾を捕まえてその逃避行を阻止しようとするエリザベス
本来転生竜は翼の揚力で飛行する訳では無く、魔力を使って飛んでいるのでエリザベスが尻尾を掴んだ程度では阻止する事は出来ないはずだ。 しかし、そんな事も忘れて慌てているジョゼルの様子を訝しげに見つめるいつものメンバー。
「見苦しいですよ。まったく・・・この期に及んで逃げ出そうとするなんて」
室内に響く凛とした女性の声。 涼やかなその出で立ちに良く合う声で有ったが、その言葉に乗せられた感情は心底情けないと言った感じだった
「す、すいません。お止したのですが・・・」
「いや、大丈夫だよサニラ。お久しぶりですね魔術師長さま」
「お久しぶりですねアルベルト様。しかし今回は魔術師長として訪れた訳ではありません」
『ほう、そう言うからくりか・・・』
かつて初陣で帝国軍を撃退した折に行われた首都での晩餐会で挨拶をした宮廷魔術師筆頭の魔術師長の姿にアルベルトが挨拶をしながらサニラに軽く手で合図する
恐縮したように頭を下げながら部屋を出て行くサニラの事など気にしていない様子の魔術師長ベルクワトは表情も変えずに挨拶を返す。 門番からのお伺いも無し、しかも守備役のサニラが引き止めていた事からおそらく転移魔法を使って屋敷に直接移動、そのままアルベルトの自室に向かって来たのだろう
いくら魔術師長と言えども礼を失っている行為であった。 しかしその表情とそれらの事から何かに気が付いたマーリンは感心したように何かを悟っている様だった
「ベルクワト様。幾らなんでも説明も無いって訳にはいかないわよ!?」
「王女様もお久しぶりですね。しかしこれは別の問題ですので」
「ッ!なんですって!!」
「ん・・・聖竜王」
「!!!」
自らエリザベスの事を王女と呼びながら、しかし王女に対する態度とはまるで逆の冷たい言葉を発するベルクワトに激高したエリザベスだったが、続いて発したヴィクトリアの言葉に驚き動きを止める
「なかなか面白いメンバーですね。これならジョゼルが懐いたのも納得は出来ます」
「そうじゃろ、これはしょうがない、い、いや運命なのじゃ。じゃから姉上、もそっと怒りを鎮めて下され」
「「「姉上?」」」
ヴィクトリアの言葉を消化しきれていない状態で更に驚きの発言がジョゼルから出た事で殆ど思考停止に陥ってしまうアルベルト達
『なるほどの。普段は王宮で人の真似をしておった訳か・・・それならば聖竜王の姿を見る事は出来んのも頷ける』
「どういう事?マーリン」
『なに、人化の法という奴じゃ。強大な魔力と強靭な肉体を人の身体に納めて、余った魔力で王国を守護しておるのじゃよ。竜の身体に比べれば短い人の寿命でも余った魔力を使えば長持ちさせれるじゃろう』
「流石は古の賢者殿。正解ですよ」
『なにが古じゃ。お主の方がよっぽど長生きじゃろう。それで?出来の悪い妹の後始末か』
「似たような物ですね。人里近くに眠りについた上に勝手に契約を結ぶなど転生竜の理を無視しすぎです。」
マーリンが説明してくれた事で何とか事情が垣間見えてくる。 どうやらジョゼルとベルクワトは姉妹であり、今回のジョゼルの転生や守護竜としての契約は色々転生竜的には褒められた・・・いや寧ろ拙いものだったらしい
「じゃあ、ジョゼルとの契約は無しになるのかな?」
「そうしたいのは山々ですが、転生竜が自らの真名を名乗っての契約を破る事は出来ません。これは我々転生竜にとって一番重い制約でもあるのです」
突然の姉の登場にビクビクしているジョゼルを背中に庇いながらアルベルトが問いかけると大きな溜息と共に答えるベルクワトに一先ず安心する一同。 此処まで大掛かりな式典の用意までして肝心の契約が無効になってしまっては王国の威信にかかわる
「まったく・・・ジオブリント坊やもちっとも言う事聞かないでこんな式典まで用意して。こんな幼生体の姿では転生竜として威厳も何もあったもんじゃありません!」
「坊やって・・・」
国王を坊や呼びするベルクワトに思わず乾いた笑いが浮かんでしまうアルベルト
「ん・・・代理出席?」
「そうよ。幸い私の姿もジョゼルの姿も知っている者は限られるし、今回のジオブリント坊やは契約でなく要請止まりだから代理でも問題ないわ。」
なにか色々と複雑なルールが有るらしいが要請ならば代理でも転生竜的には問題ないらしい
「大体ね!暗黒竜王ってなによ!恥ずかしいわね!」
「いや、聖竜王も大概かと・・・」
「この子と一緒にしないで。私は初代に名付けられただけで自分では名乗ってないわ。まったく真名を隠す必要が有ってもセンスって物が有るでしょうに・・・どうせ左目に封じられた魔物が、とか封じられた左手が疼くとか言ってたんでしょう!」
「あ、姉上!流石の妾もそこまでは・・・」
「お黙り!知ってるのよ!?実家のベットの下に日記帳を隠してたでしょう!」
「ひ、人の日記を勝手に見たの!?姉上、それはあんまりですじゃ」
転生竜としての威厳とか言っていた割にヒートアップするベルクワトは只の姉妹喧嘩の様相を呈している事には気付いていない様だ
散々、聖竜王の秘密と暗黒竜王の恥部を晒した姉妹喧嘩は留まる事を知らず室内にいるアルベルトと二人の恋人の竜に対する憧れを打ち砕くのに十分なものだった・・・
お待たせしてすいませんでした
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