アルベルトの冒険
セイレケの街では毎年恒例の戦勝祝賀会がそれこそ街を挙げて行われていた。 普通は戦勝祝賀会が毎年行われるのは如何なものかと考えるのだが、何せここ数年は毎年帝国が攻めてきて、それをアルベルトが一切の損害無く追い払うのだから住民にしてみれば祭りが増えた様なものだ
時期的に収穫祭が終わったばかりの事が多いのだが、収穫祭がセイレケの街とその周辺で取れた収穫物がメインなのに対して祝賀会は商人達が持ち込む珍しい物が食べられるとあってイベントとしての人気も高い
最近では帝国が侵攻の準備を初めたと聞くと、祝賀会の為に商人達も準備を始めると言う噂話が出る位には恒例の物となっている。 事実、帝国軍が撤退した後には帝国側からの商人が挙ってセイレケの街を訪れるのだから単なる噂話では無いのかもしれない。
「やぁ今年もお願いしますよ」
「おお、待ってたよ。帝国産の酒は人気だからね」
「有り難い事です」
「でも良いのかい?この街が負けてたら丸っきり損じゃないのかい?」
「いえいえ。その時は帝国軍に売るだけですよ。ただそうなると買い叩かれますからな、出来ればセイレケの皆さんには頑張って頂きたいものです」
「そうなのかい?御国の事よりも商売が優先って訳か・・・お主も悪よのぉ~」
「いえいえ。商会長さんには敵いませぬ」
「「ハッハッハ」」
なんて会話が有るとか無いとか・・・兎も角、商人と言うのは逞しいとアルベルトは思うのであった
そんなアルベルトも戦勝祝賀会を謳っている以上は出番も当然ある訳で書類の山を片づける合間を縫って祝賀会に顔を出している
開催の挨拶の他にも戦いの間に迷惑を掛けた関係各所への顔だしや物資を提供してくれた商会への挨拶に各種褒賞の発表などやる事は沢山ある
しかし街の人々の喜ぶ顔を見れるのが嬉しいのかアルベルトは嫌な顔を見せずに積極的にそれらを熟していく。 まぁ書類仕事が嫌なだけといういう可能性は一先ず置いておくが・・・
勿論こういう時間が取れるのもウマルが見易いように書類を纏めてくれるからなのだが、それだけでは無くセイレケの街の内政官たちが充実してきた結果でもある
農家でも商家でも、果ては貴族であろうとも子供の死亡率が高いのが当たり前の世の中でセイレケの街だけは他と少し事情が違った。 アルベルトが推し進めた(実際に提案したのはマーリンだが)各種学校や各種政策のお蔭で他には類を見ない死亡率の低さである
子供の死亡率が高い為に跡取り以外にも子供を産み育てるのが当たり前の世の中で、それが低いという事は人口の急増と言う結果を齎した。
跡取り以外の者達は自力で生きていく手段を探さなければならないのだが、アルベルトが用意した各種学校がそれらを容易にすることに成功したのだ。
兵隊や衛兵を養成する軍学校、各種魔法や回復魔法等を学べる魔法学院、商業や農業を学べる生産学園、裁縫、鍛治を学べる専門学校を出た人材は公務員として要職就く事も可能だし民間に雇われる事も可能であった
かつて独立するか奴隷に近い働き方をする事しかなかった選択肢が豊富になった事によって街の急速な発展を助けた一因になった事は間違いの無い事だった
「流石は若様だよな」
「うんうん。見通す先が俺達とは違うわ」
「いや~領主様万歳だ!」
「そうだ!流石は領主様だ」
かつて合言葉の様に語られた【流石は若様】と言う言葉も【流石は領主様】と様変わりして行く。しかしアルベルトを慕う姿には変わらない住民達の会話が祝賀会の彼方此方で交わされるのであった
☆△☆△
と、街の住民達の尊敬を一手に受けるアルベルトは目下書類仕事に忙殺されている。 なにせ演習の書類に加えてメネドールと国王に提出する帝国軍撃退の報告書、更には祝賀会の分の決済などやる事が山の様に重なって行くのに、調子に乗って祝賀会の顔出しを優先してしまったものだから書類が山の様に溜まってしまったのだ
下手に優秀な家臣を得てしまうと、下から上がってくる報告書等の仕事が停滞することは無い。 それなのに決済をするアルベルトが遊んでいれば仕事が溜まるのは自明の理である
「うみゅ~。ウマルを呼んでよ~」
「だからあれ程仕事を溜めるなって言ったでしょ!このバカベルト!!」
「ん・・・頑張れ」
いつかと同じセリフを叫ぶアルベルトだが、あの時よりも手伝ってくれる人員は増えている。まぁヴィクトリアが書類を手伝えないのは変わってない様だが・・・
「ウマルを呼んでも決済はアルの仕事だから減らないわよ」
「殿下。私達も手伝いますから頑張ってください。もう少しです」
元々手伝ってくれていたカイヤに加えて、王女として教育で書類作業も出来るエリザベス。 更に何かと苦労人で何事も卒なく熟すサームが一緒になって手伝ってくれている
「アルベルト様。進み具合は如何ですか?」
「ウマル!手伝ってくれ・・・る訳じゃないね」
前よりも広くなった執務室にウマルが入って来るのを見たアルベルトが一瞬喜ぶが、彼が手に持つ書類の束を見て落胆の表情を浮かべる
「そんな嫌な顔をなさらずに、これが最後の書類です。これが終わったら迷宮の場所を教えますから」
「ウマルの意地悪・・・」
正に馬の目の前に人参をぶら下げる様な手法ではあるが、このお蔭でアルベルトの集中力が切れずにいる訳だからウマルの方が一枚上手という事だ
実際にはカイヤが此処にいるのだから迷宮の場所を聞き出す事は出来なくもない。 しかし彼女がウマルの意思に反してそれを教えることは無いだろう。
それにアルベルトとてやならなければいけない事は判っているので、終わった後のご褒美と考えて文句を言いつつも頑張って書類作業を進めている。 なんだかんだ言いつつも相変わらずで素直ないい子なのだった
「でも迷宮か・・・本格的に潜るのは初めてだよね」
「そうね。まだ年若い迷宮って感じだったけどそこが楽しいかもよ?」
仕事の手を止めずに呟くアルベルトにカイヤが笑顔で答える。 勿論彼女も書類から目を離さずに手を止める事はしていない
王国内には複数の迷宮が在り、サウスバーグ領にも迷宮はある。 その他にもセイレケ周辺はかりゃーが創り出した迷宮が沢山ある。
しかし、管理された迷宮では無く自然発生した迷宮となれば、そこを探検したいと言う欲求はムクムクと大きくなっていく。
カリュアーが造った迷宮も面白そうだが、冒険者達の稼ぎ場でもあり高いステータスを誇るアルベルトがそこに挑むと彼等の稼ぎの邪魔になる可能性もある
かといって高い難易度を誇る迷宮にアルベルトが挑むとなると、それはそれで大事になってしまうのでそう簡単には行けなくなっていまうのだ
しかし生まれたばかりの迷宮であれば難易度はそれほど高くなく、しかも冒険者達にも知られてないのであれば彼等の生活を圧迫する可能性はほぼ無いと言っていいという事で、実は本格的に迷宮に潜るのが初体験のアルベルトは非常に楽しみなのだ
「今回は私も付いてくからね。置いて行ったら許さないわよ」
帝国軍への襲撃に置いて行かれた事を根に持つエリザベスが真っ先に釘を刺す。 婚約者同然とはいえ王女を迷宮攻略に連れて行くとなれば、それはそれで問題なのだがエリザベスは譲る気は無さそうだ
「ん・・・私も付いて行く」
そう言いながら書類作業をしていないヴィクトリアが後ろから抱きつく様にアルベルトにくっ付く。 書類作業をしているアルベルトの邪魔にならない様にと言う配慮だろうが、背中に伝わる柔らかい感触に思春期真っ只中のアルベルトにとっては精神的にかなりの邪魔になっている
不思議な事にヴィクトリアの姿は初めに出会ったころと比べて成長していた。 ヴァンパイアであり始祖の一族であるヴィクトリアは見た目通りの年齢では無い。 当然成長期など過ぎているのだがアルベルトの成長に合わせるように、その姿は成長していた
「あっ、狡い!私も・・・」
「駄目よエリザベスは書類が有るでしょう」
「そうだよ。ほらヴィクも離れてよ」
「ん・・・当ててるの」
何をとは聞かないアルベルト。 なにせ見た目の年齢以上に豊かなそれのヴィクトリアに対して年齢以上にそれが貧相なエリザベスが目の前に居るのだから迂闊な事は言えないのだ
「きー!ち、ちょっとデカいだけで勝ち誇らないでよ!か、感度なら負けてないんだから」
「ベ、べス!?」
「ハァ~書類が進まないわね・・・」
「・・・」
呆れるカイヤと色々聞かなかった事にしたいサーム。 因みに彼はまだ独身であるので色々思う事が有るようだ
結局、いつもの争いに発展した二人の恋人のせいでアルベルトの書類作業が終わるのが半日遅れたのであった・・・
あれ?冒険まで行かなかった・・・またプロット無視の展開になってしまったが後悔はしておりません!
余り触れてませんでしたが、評価やブックマーク感謝しています。
ちょっとずつでも増えていくと大変励みになります。本当にありがとうございます
これからも拙作をよろしくお願いします




