アルベルト領主になる~⑤
敵兵の真っ只中に突っ込んでいくアルベルト。 右手に握った剣が一閃されると帝国兵に不幸が訪れる。 哀れな帝国兵は、しかし痛みを感じる事無く不思議な表情で倒れる自分の身体を見つめるという体験をしながら息絶える
左手からは魔法が放たれ距離を詰めようとしていた帝国兵を吹き飛ばす。 詠唱どころか魔法名すら唱える事の無いそれが、実は初級の火の玉であるとは信じられない程の威力を以って帝国兵に恐怖を齎す
更にはマーリンが放つ魔法は遠距離で竜巻をおこし向かって来る者、逃げ惑う者区別なく宙へと巻き上がらせている。
「ば、化け物・・・」
「逃げろ!命が惜しかったら走るんだ!!」
正に修羅となったアルベルトの姿を見て動けなくなった仲間を必死に立たせて背を押す同僚。 そのまま仲間を庇う様に背を押しながらアルベルトと距離を取る様に走っていく。
だが、脅威はアルベルトだけでは無い。混乱と恐怖が渦巻く戦場に於いても姿を認識させない影人が彼等の首を斬り裂き、ヴァンパイア達が歓喜に打ち震えながらその血を貪っていくのだ
血に酔っている彼等の姿を見た人間はヴァンパイアを魔物と呼ぶが普段の彼等は普通の人間とそう変わりは無い。 個人差は有るものの吸血衝動は制御できる範囲らしく無暗に人を襲うことは無い
寧ろ普段の彼等は非常に友好的で温厚な種族と言える。 アルベルトもヴィクトリアと出会って知ったのだが、吸血衝動を満たす為に彼等は人間と契約を結んだり、傭兵として戦場に出る事でそれを満たしたりと皆自分の吸血衝動と上手に付き合っているのだ
しかし、今戦場で彼等に出会った帝国兵達はそんな事は信じられないだろう。 それ程の惨劇が目の前で繰り広げられている。 月の光の元、彼等の身体能力と再生能力は極限まで高まる。 幾ら訓練された兵達でも混乱の最中で相手取る事が出来る筈が無い
「ええい!魔物まで使役するかこの悪魔め!」
右手で剣を振り、左手で魔法を放って帝国兵達を一人で蹂躙するアルベルトに男が吠えながら向かってくる。 装備や武器などは新品で一見すると新兵の様だが纏うオーラがそれを否定している。 血糊の突いた剣を持っている事からも実力は相当な物だろう
おそらくは金で雇われている傭兵か冒険者なのだろう。味方の混乱ぶりから敵将を倒すのが最善策と考える辺り戦場慣れもしているとアルベルトは相手の実力を見抜く
「悪魔でもいいよ。でも僕達を害そうとした以上は同じ目に合っても文句は言わないで欲しい」
冷たく言い放つアルベルトは歩を止めないままに男と対峙する。 いや対峙と言える物だったろうか・・・男が振りかぶった剣がアルベルトに届く前に後から繰り出したアルベルトの剣が男の首を刎ねてしまう。 それは対峙では無く交差、擦れ違い様の攻防にしかならなかった
帝国軍の中でも信頼されていたのだろう、その男が一瞬で倒されたのを見た周りの帝国兵達は本格的な潰走状態に陥ってしまう。 彼等にしてみれば悪魔か死を運ぶ死神にしか見えなかったのだろう
アルベルトの強さが異常だと言っても多勢に無勢だ。 囲んで襲い掛かっていれば結果はもう少し違ったものだったかもしれない。 しかし誰も先頭には立ちたくなかった。 根源的な恐怖が内部から湧き上がりアルベルトの前に立つ勇気を誰も持ち合わせていなかったのだった
「て、敵襲!!王国兵が突撃してきます!!!」
伝令が大声で叫んでいる。 混乱の坩堝に落ちいている自陣で報告するべき相手を見つけられなかった伝令兵は大声で叫ぶことで皆に知らせると言う方法を取っていた。 そしてそれは正しい選択であっただろう。 帝国軍の中央まで混乱に巻き込まれており部隊長はおろか総大将であるヨシュア・ダーマ侯爵でさえ所在不明になっていたのだから・・・
セイレケの街に掛かる跳ね橋から重装を纏った騎兵を先頭に、歩兵部隊や弓隊。 更にはエリザベスに率いられた魔導兵までが一斉に帝国軍へと向かって進撃してきた
街から見て左手に広がる森の中から単騎で奇襲したアルベルトから見て右手に重装騎兵が突撃してくるのが見える。 先陣を切って突っ込んできているのはハサンだろう。 彼に与えられた槍の軌跡が炎に照らされて赤く伸びるのが遠目でも判る
「若様ー!アルベルト殿下!!」
彼の良く通る野太い声で何故セイレケの街から私兵達が突撃してきたのかを知るアルベルト。 今回の奇襲を知っているのはヴィクトリアだけだ。 本当は彼女にも知らせるつもりがなかったのだが、斥候部隊を指揮する彼女にしてみれば、そんなアルベルトの動きはお見通しだったようであっさりと見つかってしまった
「弓隊、整列しろ!目標は崖側だ。敵右翼に集中攻撃!!」
「あーもう邪魔よ!炎よ敵を焼き尽くせ。ファイアーストーム!」
詠唱短縮した魔法でも帝国兵達を焼き尽くす炎の竜巻が中央に向かって突き進む。 暗闇を照らし出すそれが進んだ後には消し炭さえも残っていない死の道が出来上がる
「嬢ちゃん無茶すんな!殿下が何処に居るか判らないんだぞ」
「何言ってんのよ!アルがこんな魔法で怪我なんてする訳ないでしょう。たっく!あのバカベルト!見つけたら引っ叩いてやるんだから!!!」
王女らしからぬ迫力に思わず黙り込むハサン率いる重装騎兵を追い抜いたエリザベスはアルベルトがいるであろう方向へと向かって突き進む
アルベルトは味方が傷付くのを避ける為一人で敵陣に突っ込んで行ったが、新月の夜に帝国軍の陣地で炎が炸裂すれば城壁の上から気付かない筈が無い。 見張りの兵達がその異変を報告する相手はアルベルトな訳で、その彼が見当たらなければ帝国軍に何が起こっているかを想像するのは難しい話では無い
アルベルトの桁外れの力を知る側近たちやエリザベスならば彼が帝国兵に害される可能性が低い事は判っている。 しかしだからと言って黙って単騎で攻め入っていった彼をそのままにしておける訳が無い
結果、私兵全軍でもってアルベルトの救出に駆け出したという訳だ。 しかしその突撃は余りにも無謀ではあった。 作戦も無く指揮官の判断だけで突き進む部隊は帝国軍が優秀であったならば即座に反撃を受けていた可能性が在った
しかし左翼をアルベルトに、後方はヴァンパイア達と影人に襲われ逃げた先の右翼にいた兵達は降り注ぐ鉄の矢の餌食となった。正面からは重装騎兵と魔導兵に蹂躙され四方から襲われる結果となった帝国軍は最早軍としての機能を失ってしまっていた
「殿下を見つけました。この先にて孤軍奮闘中です」
「でかした!野郎ども吶喊だ!!!」
「弓隊。騎兵を援護だ!全員乱射しろ!!」
ハサンが叫ぶ声に合わせて騎兵達が雄叫びを上げて騎馬を嗾ける。 よく訓練された騎馬達は乗り手の想いを受け取るとその指示に従って帝国兵達を跳ね飛ばし、踏み潰しながらアルベルトの元へと掛けていく
そのハサンの叫び声に状況を察したサームの弓隊が鉄の矢を放ち帝国兵達に組織的な行動を許さない。 とはいえ既にその様な行動を帝国軍が起こせる状態では無いのだが、主君の救出を目指す彼にしてみれば万が一ですら許すつもりも無いのだ
ハサン、サーム、エリザベスの三人はこの時一刻でも早くアルベルトの元に向かう事を至上としており邪魔する者達を排除する為には手段を選ぶつもりは無かった、当然自身の安全すら考慮に入れず突き進むその状態はとても危うい物であった
「殿下!ご無事ですか!!」
「なんでこんな危険を・・・誰が命じ「バチィーン」た」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!独りで突っ込んで行って危ないのはどっちよ!!!」
重装騎兵を率いるハサンが真っ先にアルベルトの元に駆け付けその無事を確認するも、アルベルトから出た言葉はその行為を非難する物であった。 しかし息を切らせながら走ってきたエリザベスの宣言通りの平手打ちに思わず黙り込む
更に追い打ちをかけるエリザベスの言葉と表情に、叩かれた頬を押えながらアルベルトは黙り込んでしまう。 アルベルトを囲む様に布陣した重装騎兵達、そして弓隊や魔導兵達も続々と彼の元へと走ってくる
後方のヴァンパイアと影人を下がらせたヴィクトリアの機転で帝国兵達は雪崩を打ったように撤退していく
「だってみんなに怪我して欲しくないから・・・危ない事させたくなかったんだよ」
「馬鹿野郎!何の為に俺達がいると思ってんだ!俺達はお前の矛であり盾だ。立ち塞がる障害を排除するために存在するんだ。何故それが判らねぇ!」
「だって・・・だって戦ったら誰かが傷付くんだよ。そんなの・・・そんなの嫌だよ」
「殿下・・・私も同じ想いです。親しい誰かが傷付くのは嫌です。だからこそ護る為に武器を取り、そしてその為に己を鍛えているのです。当然その対象には殿下も入っております」
「そう言う事よ。貴方に護って貰う、それは良いわ。でもその結果で貴方が傷付いたら私達の想いはどうなるのよ。いい加減に目を覚ましなさい!甘い事ばかりじゃ無いのよ、このバカベルト!」
そう言いながら抱きついてくるエリザベスの頬には涙が流れていた。 それは悔しさや怒りからの物なのか、アルベルトの無事に安堵したからのなのかは彼女自身にも判らなかった
『ほっほっほ、アルよ。王女の方が正しいの。為政者である以上は全てに責任を持たねばならん。それは勝っても負けても負わねばならんのじゃよ。誰かが傷付いても自身が傷付いても同じよ。だからこそ準備をし、作戦を練るのじゃ。そして犠牲を少なくした上で命じるのがアルの仕事じゃよ』
「ん・・・主様。人の上に立つのは難しいし辛い・・・でも逃げちゃダメ」
アルベルトが単身戦う事を選んだ時に反対しなかった二人もアルベルトに諭すように優しく語り掛ける。
今迄は自身の能力の高さとマーリンと言う存在のお蔭で簡単に考えていたのだ。責任の重さは理解していたつもりだった。
しかしそれはつもりでしかなかったのだろう。 時には唇を噛み締め血が流れようとも辛い決断をしなければならないのだ。
大勢を護る為に少数を犠牲にしなければならない。 アルベルトの桁外れのステータスでも解決が出来ない時、それを決断しなければならない時が来るかも知れないのだ
領主としての責任・・・この日突き付けられた責任の重さとその事実にアルベルトの目の前は真っ暗になる
「「「「『我々が共に歩きます』」」」」
しかし頼もしい仲間がいるのも事実だ、ならば前を向こう。 犠牲が出るならそれを少なく、いや零にして見せよう、それが自身の役割だ。
この日、アルベルトは本当の意味で領主になったのだった・・・
本当は二章はほのぼの&ネタ満載の章にしたかったんですが、なんかアルベルトの成長とか書いてみたくなったんです
そしてこうやってプロットがドンドン変わって行ってしまう&話が進まなくなってくんですよね・・・トホホ
こんな作者ですがよろしくお願いします(笑)
読んで頂いてありがとうございます




