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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第三章 少年編
62/179

アルベルト領主になる~④

少し重たい話です


主人公の成長と苦悩を描けたらと思って書いてみたのですが・・・

 セイレケの街の前に布陣した帝国軍。 黄昏時を過ぎ辺りが暗くなるとその周囲は闇に包まれる 。夜襲にはピッタリの新月の夜に帝国軍もそれを警戒して通常よりも多い歩哨を立てていた


 煌々(こうこう)と輝く篝火(かがりび)の灯りを頼りに周りを見渡しながら立つ帝国兵。 その明かりに照らされた顔はまだ年若く、支給されている装備もまだ新品同様で誰が見ても一目で新兵だという事が判ってしまうが、だからこそ緊張を切らさずに周りを睨み付けるように警戒を続けている


 これがベテランの兵ならば、あるいは適当に手を抜いて、それこそ欠伸でもしながら気を緩めていたかもしれないがその新兵は与えられた任務に忠実であった


 しかし漆黒の闇の中に蠢く者達がそっと近づいて来るのを歩哨に立った彼は気付くそぶりさえ見せない。 別に経験が不足しているからでは無い、この場合は闇に蠢く者が優秀なだけの事だ



「フグっ!」



 後ろに回ったその影が新兵の口を塞ぐと同時にその首筋を斬り裂くと声も出さずに新兵の身体から力が抜ける。 口を塞いだままの手でその身体を支え、引き摺る様に新兵を隠した影が暗闇に向かって合図するとカサカサと微かな音を立てながら同じような黒装束の影達が集まってくる


 篝火に照らされている筈なのに何故か酷く認識しづらいその者達は、ハンドサインで何事か伝え合うとそのまま再び闇に溶け込む様に消えていく・・・


 これがこの日、帝国軍を襲った悲劇の始まりだと誰にも気付かれる事が無かった。 不幸な新兵の死が誰かの認識にあがる事無く・・・いや、自らも同等に不幸に見舞われる事になる同僚達は彼の事を考えている余裕など無かったのであった



「準備完了しました」


「ありがとう。それじゃあ行こうか」



 普段のアルベルトでは考えられない表情と声色であった。いつも笑顔を絶やさない印象が強い彼だが、今回ばかりは違った。 母親と同じ髪色の少し暗い金髪と深く碧い瞳を悲しみに染めたアルベルト 。唯一彼の母親を知るマーリンは厳しい表情の中に申し訳の無さを浮かべていた


 彼女の事はアルベルトに伝えていない。 望めば教えるつもりであるが今の処アルベルトにそういった欲求が有るとは思えないので知っているという事すら伝えていない。 しかし母親の事を考えるとこれから彼が行おうとしている事を知ったら悲しむのではないかとつい考えてしまうマーリンであった



 ☆△☆△



 帝国軍の中央、陣幕の中にいるヨシュア・ダーマ侯爵は以前であれば酒でも飲んで鼾(いびき)をかいている時間であったが、油断する事無く周囲の状況に気を巡らせながらも明日の戦闘を如何行うか考え込んでいた



「閣下、もう夜も更けました。お休みになられた方が・・・」


「何を言っておる。夜襲の可能性がある以上は気を抜けんぞ。それよりも明日の作戦を立てねばならんだろう」



 サームに怒鳴り散らした人物と同一だとは思えない程の落ち着き様に見る者が見れば驚いたであろう。 しかし声を掛けた兵は侯爵が起きている以上、自分が休めないからと言う理由で進言したので内心不満に覚えただけで侯爵の変わり様にまでは興味が向かなった


 侯爵は夜襲を警戒しているがそんな事は無いと言うのが一般の兵の考え方だった。 跳ね橋を上げている以上は夜襲を行おうとしても、それを下した音で直ぐに異変に気付く筈だ。 ましてや侯爵の命令で普段の倍の人数が歩哨に立って警戒しているのだ。 これ見よがしに焚いた篝火を見れば王国軍も夜襲を諦めるだろうと言うのが兵達の考え方だったのだ



「ドガーン」



 暗闇を引き裂く眩い光と爆発音に眠りに入っていた帝国兵達が飛び起きる。 篝火よりも紅い炎が辺りに飛び交いそれと共に悲鳴と戦いの喧騒が聞こえ始める



「やはり来たか。慌てるな、敵は少数の筈だ落ち着いて陣形を組み直せ!!」


「森側から敵襲!!」


「いや、後方からだぞ!」



 唯一この夜襲を読んでいたヨシュア・ダーマ侯爵であったが錯綜する情報に思い通りの指示を出せない。 そうこうする内に彼方此方から更なる炎が上がる。 前回は駄目っぷりを晒した彼が素晴らしい変貌を遂げようとも兵の質が急に上がる訳では無かった


 スッカリ油断した兵達は陣形を整えようとするのではなく自分の身の安全を図る事のみに傾注して部隊長の怒鳴り声など聞く気もなくただ逃げ惑う


 正に混乱の極みの中を悠然と歩くアルベルト。 向かって来るのが独りだと気付いた帝国兵が逃げる選択では無くアルベルトに向かって剣を構えると無造作にそれを振り下ろす


 成長し身長こそ高くなったものの、まだ年若いアルベルトの身体はまだ線が細いと言えるものであった。 歴戦の兵から見れば正にヒヨッコ、その後に自らに不幸が降りかかるとは思ってもいなかっただろう


 斬った!そう思った彼だったが斬られた筈の相手は、彼の事など気にせずに変わらず悠然と歩いて行く。 その様子を見て、もう一度自分の剣を振りかぶろうとして剣を握っていた筈の腕が肘から先が失われている事に初めて気付く


 神速の剣・・・そう表現するしかなかった。 抜いた事すら気付かせぬ速度と恐ろしいまでの斬れ味の剣。 それが融合した時痛みすら感じる事が無いのかと斬られた側の彼は思った。 そしてそれが彼の最後だった・・・



「ん・・・ちゃんと殺すのが礼儀」


「ごめんね。どうしても・・・」



 腕を斬られた男にとどめを刺したヴィクトリアに答えるアルベルトの言葉は途中で途切れる。 なにも人を殺すのが初めてな訳では無い。 既に五歳の時には盗賊退治で人を殺した事が有る


 しかしあの時は単純に悪を懲らしめるという考えだった。 勧善懲悪を行う上での必罰の結果だと考えていたのだが、成長した今のアルベルトは兵達の事を考えれる位にはなっていた


 彼等は指揮されて戦っているだけだ。 帝国に帰れば家族もいるであろうと考えるとどうしても決意が鈍ってしまう。 そんな優しさが先程の結果に繋がったのだろう・・・



「でも・・・それじゃあ大切な物は護れない」


「そうだね。判ってるよ」



 そう、相手は攻めてきているのだ。 理不尽な暴力で持って此方を害そうとしている者達と自分の街の民たち。 どちらが大切か非情な決断をしなければならない時なのだ


 アルベルトの周囲では歩哨の兵達を斃した影達が混乱する帝国軍兵士たちを蹂躙していた。 それは正に影であった。ヴィクトリアの配下達、始祖の一族に付き従うヴァンパイア達とその眷属たる影人(シャドウ)と呼ばれる者達が蠢いていた


 エリザベスと共に妃候補とみられているヴィクトリアだが彼女がヴァンパイアだという事を知る者は少ない。 始祖の一族ともなればその姿は人と変わらずに生活できる。


 種族に差別の無い王国と言えどもヴァンパイアを魔族と忌避する者もいるかも知れない状態で上級貴族たる辺境伯の跡継ぎの妃候補がヴァンパイアと公表するにはまだ時期尚早なのだ


 しかし今回の夜襲ではその能力をいかんなく発揮し夜の帝王たるヴァンパイアとその眷属達が帝国軍に少なくない打撃を与えている


 これはアルベルトが望んだ事だ。 自分の周りの者を護る為、その過程で亡くなる可能性の有る兵達ですら血を流させない為にだ



「アル、責任を果たしなさい。苦しければ私が支えましょう、でも逃げる事は出来ないのよ」



 珍しく口数の多いヴィクトリア。 その表情は母親の様に慈愛に満ちていたが言葉には厳しさが在った



『アルよ考えるのは後で良い。まずは為す事を為せ!』



 マーリンが言葉と共に魔法を放つと遠巻きにしていた帝国兵達が吹き飛ばされていく。 実際に魔法を行使したのはマーリンだ、しかし周りにはアルベルトが放った魔法にしか見えない。


 神速の剣技と強力な魔法に帝国兵達の顔が恐怖に歪む。 しかしこうなる事は判っていた筈だ。 アルベルトは自分に言い聞かせる


 例えどんなに恐れられようとも、それで護りたい物が護れるのならば修羅にも成ろうと決意した筈だと・・・



「そうだね、ごめんね。」



 アルベルトが謝った相手は誰であっただろう・・・不甲斐無さを嗜めてくれた二人に対してなのか、それとも倒される帝国兵に対してだったろうか・・・



 剣を握り直したアルベルトは敵兵たちの真っ只中に斬り込んでいくのであった・・・


読んで頂いて有難う御座います

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