2-21
「魔素って知ってるかしら?」
「うん、知ってるよ。この間マーリンに教えて貰った」
「あ、あら、そうなの?」
ドヤ顔で知識を披露するつもりだったカリュアーだったが、残念ながら既にマーリンによって教えられていた事だったのでその目論見が外れてしまう
「まぁいいわ。魔力を元にして外部に干渉する事を魔法って一括りにしてる訳だけど、当然それには色々な種類が有るのは判るわよね」
「うん、カリュアーが力を貸してくれたりするのは精霊魔法だよね」
「そうね、その他にも色々あるけど共通するのは魔力を消費する事ね」
「そんな事位知ってるわよ」
「生意気な子ね。最後まで話を聞きなさい」
カリュアーはどうにかアルベルトに凄いと言わせたいのだろうか中々本題に入ろうとはしない。 先程殺気を飛ばされたエリザベスが回りくどいカリュアーの説明に苛ついて懲りもせずに噛み付く。
その言葉にガルルルといった感じの唸り声で威嚇する彼女を何とかアルベルトが抑えて先を促すが、変な思惑のせいで前置きというには少し長いカリュアーの説明も悪いとは言え、抑々の二人の相性が根っこの部分から悪いのだからアルベルトの苦労は減らない
「そしてここからが大事よ。魔法で消費された魔力は分解されて魔素に戻るの。まぁ不十分な使い手だと消費しきれずに魔力も残るんだけど、その点はアルちゃんにしてもカイヤちゃんも完全に分解されてるから流石よね」
「エリザベス王女の魔法は?」
「まぁそこのクソガキも上手なのは確かね。魔法神の加護を受けてるだけはあるわ」
「誰がクソガキよ。私だって努力したんだから!」
魔法の才能を認められて加護を受けているのか、加護を受けているから魔法の能力が高いのかは定かではないがエリザベス王女が努力したのは確かだろう。 直情傾向な性格の通り細かい魔力操作は苦手とは言え六歳であの魔術師長に認められるには相当な努力が必要だった筈だ
「まあまあ二人とも・・・」
「いつまでも、いがみ合ってねぇで話を進めてくれよ」
中々先に進まない状況に仲裁に入るカイヤとバイマト。
「まぁいいわ。ともかくアルちゃん達が魔法を使いまくったせいでこの辺りの魔素濃度が高くなってるのよ」
「それと魔境に何の関係があるの?」
「抑々森に精霊達が沢山いるのも、この辺りが元々魔力濃度が高い所だったからなのよ。」
カリュアーが言うにはセイレケ砦周辺の地域は龍脈が存在しており、そこから供給される魔力によって比較的魔力濃度の高い地域だという事だった。 だからこそ精霊達が多く住みつき濃い森が形成されれいたのだ
「その魔力が高い地域で魔力量の多い貴方達が魔力をバンバン消費するもんだから、当然魔力が少なくなるわ」
「そりゃそうだな。でも、魔力濃度なんて放っとけば回復するだろ?」
『ふむ、そう言う事か。確かにちと拙かったかの?』
「どういう事、マーリン?」
高い場所から低い場所に流れるのは水だけでは無い、風だって気圧の高低で生まれる物だ。 それと同様に魔力も濃度の高い地域から低い地域に流れて行く性質を持っている
その為、元々魔力濃度の高かったこの地域は減少した濃度を元に戻そうと周囲から魔力が流れ込んできていたのだ
『魔力濃度が元に戻ろうとするのとは別に、魔素が多く集まればやがてそれらも魔力に変わる。 結果、この地域の魔力濃度が非常に濃くなってしまったという事じゃ』
「カイヤちゃんもそこのクソガキも上手だけど、アルちゃんは特に外気の魔力を取り込むのが上手いから余計ね」
アルベルトは魔法の発動時に空気中の魔力や魔素を操るといった事も上手であったが自身の魔力量の回復も早かった。
空気中の魔力が他から流れてきてもアルベルトがドンドン吸収してしまう為に中々魔力濃度が回復しない。 それが更に周囲から魔力が流れてくるのを加速させており、仮に魔力濃度が通常に戻っても急に止まる様な勢いでは無くなっていた
その濃度が高い状態で可視化するほどの魔力を使って城壁を創り出してしまったのだから更に濃度を戻そうとする流れが加速され、更に消費した魔力からは大量の魔素が生み出してしまったのだ
「魔力が集まっても直ぐには魔境になる訳じゃないんだけど、森に迷いの効果を出す為に魔力を集める様にしてたから・・・」
『フム、それで森に魔境が生まれると?』
「それで魔力を消費させる為に緊急避難で迷宮を創ったんだけど・・・」
「それをこの馬鹿が直ぐに攻略しちゃった訳ね」
申し訳なさそうなカリュアーを庇うようにジト目でバイマトを睨み付けるカイヤ
「んな事言ったってよ~俺に判る訳ねぇだろう?」
「ん・・・無理」
いつもならカイヤに非難されるバイマトの構図だと彼が一方的に悪いのだが、ヴィクトリアが庇ったように今回ばかりはそうではないだろう。 なにせ魔力の濃度や魔素の事などマーリンですら気にしていなかったのだ、戦士であるバイマトがそこに気が付くはずがない。 ましてや魔力を消費させるために迷宮が創り出されたとは考える筈も無いだろう
「迷宮が無くなって魔力が消費されなくなった処にさっきの魔法がトドメになったって事ね」
『そうじゃの。城壁の時ほどではないが大量の魔素が生み出されておるじゃろうし魔境になるのは時間の問題じゃの』
「時間の問題って言うか、もう魔境になってるわね。 魔力が集中しすぎて私じゃ手に負えなくなっちゃてるもの」
森の大精霊であるカリュアーはこの森の主でもある。 当然そこで起きる全ての事は彼女の知る処になるし支配下にあると言っても過言ではないのだが今はそれが上手く行かなくなっており、彼女の支配から完全に離れていた
「まぁ出来たばっかの魔境だからそう難しくはねぇから大丈夫だろ?」
「そうね、魔力が集まって悪さしてる中心を取り除けば元に戻るから安心して良いわよカリュアー」
「ホントに?手伝ってくれるの?」
「任せとけって。折角創った迷宮を壊しちゃったからな」
A級冒険者のバイマトとカイヤにしてみれば出来立ての魔境などは然程脅威ではない。 しかもアルベルト達もいるのだから最高難度の迷宮だって攻略できるだろうし気軽に請け負える事だった
「なるべくなら精霊達を傷つけないでくれると有り難いんだけど・・・」
「ん・・・問題ない」
「そうだな、多少魔力に酔ってるだけだろ?酒場の酔っ払いを片づけるより簡単だ」
魔境に飲み込まれた精霊達は濃厚な魔力に飲み込まれて理性を失っている可能性が高い。 元々迷いの効果を付与していただけに普段は大人しい彼等が攻撃してくる事は十分に有り得る事だ
しかし、そんな事は織り込み済みだったようで安心させる様に冗談で混ぜっ返すバイマトであったが配下の精霊達を想うカリュアーにしてみれば非常に頼もしい一言であった
実際、魔境の場合は迷宮の様にコアが出来ている訳では無く、代わりに中心にその原因となった魔力溜まりが有る筈なのでそこに澱んでいる魔力を散らしてやりさえすれば、やがて正常な森になるだろう
バイマトにしてみれば守護者が護るダンジョンコアを取り除くのに比べれば楽な話であった。 勿論そこに至るまでの道中には魔物や狂った精霊達がいる筈なので誰でも出来る訳では無い
「澱んだ魔力さえ取り除けば、後は私が何とか出来るわ」
「そうだね。なんたってカリュアーの森なんだしね」
「でもよアルがいるんじゃ、また魔力の濃度が高くなるかもしれねぇぞ?」
「ちょ!バイマト、それって僕のせいなの!?」
「そこは大丈夫よ。また迷宮を創って魔力の流れを操作しておくから」
「って、否定してくれない!?」
『ほっほっほ。人より高いステータスが有ると色々気苦労が絶えぬ物じゃよ』
寧ろ殆どの原因を作った張本人の伝説の賢者は他人事のように朗らかに笑う。
「ん・・・」
「ありがとう、ヴィク」
落ち込むアルベルトにヴィクトリアが寄り添い慰めるように頭を撫でる。 マーリンに言われるまま修行に励んでいただけだった筈なのに全ての原因の様に扱われ四面楚歌状態であったアルベルトには彼女の優しさが身に染みた
「ねぇ、さっきから思ってたんだけど・・・抑々迷宮ってそんなに簡単に創れるものなの?」
『ほっ、そんな訳が有るまいて。 大精霊であるカリュアーじゃから出来た事じゃよ』
「そうよ、だから少しは敬いなさい!」
「少しで良いの!?」
普段ならそんなヴィクトリアに負けじとアルベルトにくっ付こうとするエリザベス王女だが、それよりも疑問の方が勝ったらしく気にした様子が無かった
答えたマーリンの言葉にフンス!と鼻息荒く胸を反らすカリュアーであったが、その案外慎ましい言葉にアルベルトが控えめに突っ込むがそれすら気にした様子の無いエリザベス王女が更に勢いづく
「そんな事どうだっていいのよ!迷宮が自在に創れるなら・・・」
「そうか姫さん良いトコに気が付いたな!」
猪突猛進、考えるよりも行動派の彼が何かを思い付くなど滅多にある事では無い。 自身の言葉をそんな事呼ばわりされたカリュアーもその空気を感じたのか抗議の声を上げるよりも得意気なバイマトに注目する
「バイマト、どういう事?」
「判んねぇかアル?これで兵隊の目途が立ったかもしれねぇぞ!!」
バイマトが続けた言葉に眼が点になるアルベルトであった・・・




