2-22
「兵士の目途が立ったってどういう事?」
「判らねぇかアル。迷宮がありゃあ冒険者たちが集まってくるに決まってんだろ」
バイマトが自身の言葉をイマイチ理解していないアルベルトを小馬鹿にしたような態度で言い切る。 普段は頭を働かせるという事が無いタイプなのだが、珍しく浮かんだ良い考えに浮かれているのだろう
「そう上手く行くかしら?」
「ん・・・怪しい」
「迷宮と美味い酒、まぁ後は良い女がいれば奴等は勝手に湧いてくるもんだぞ」
若干、子供に聞かせるには教育に悪いバイマトの発言だが冒険者として成り上がった実績を持つ彼の言葉には一定の説得力があった
「馬鹿はアンタじゃないの!冒険者が兵隊になんかなる訳ないでしょ!」
「そうだよね。無理やり兵士に徴用しても役に立つかは判らないし・・・」
カイヤが指摘した通り、自由を愛する冒険者と厳しい規律を守らなければならない兵隊とでは求められる資質が違う。 抑々、兵士には集団での行動が求められるのに対して冒険者たちは精々がパーティ程度の少数での行動が基本だ
個々の実力では冒険者が勝るかもしれないが集団での戦闘力は軍隊の方が上だろう。 どちらが優れていると言うよりも運用の仕方が違うのだから比較する事自体が間違いだろう
「んなこたぁ判ってるよ。でもな冒険者が集まりゃあ人も集まんだろ」
『ほっほっほ。人が集まれば兵士に志願する者も集まるという訳か』
「そう言う事だ。流石はマーリンさん良く判ってるぜ!」
アルベルトとカイヤの指摘は的を射た物だったが今日のバイマトは一味違った。 何か良くない事の前触れでは無いかという位に冴え渡った彼の答えにマーリンも感心したようだ
「って、事でだマーリンさんよ。」
『まぁ幸い畑には余裕があるから酒も造れるじゃろう』
「だろ?後はカモーラから料理人を連れて来れば完璧さ」
「それって自分が飲みたいだけじゃないの?」
「ん・・・同意」
おっさん二人の妙な連携で話が進んで行くのを見て呆れるエリザベス王女とヴィクトリア。 因みにバイマトが女から料理人に変えたのはカイヤの冷たい視線が突き刺さっているからだ
だが、実際にカイヤの視線は別にしてもカモーラの料理は王国で評判になっているのは事実だった。 その切っ掛けになったのは勿論マーリンの叡智なのだが、彼自身は料理に然程興味を持っていた訳では無かったので非常に断片的な物だった
しかし、それが却って料理人たちのアレンジを呼び起こし様々なバリエーションが生み出されたのだ。 そしてその評判は行商人や旅人を通じて王国だけでなく周辺国にまで広まっており人を呼ぶのに十分な物だった
「まぁバイマトにしては考えてる方ね。後でウマルにも相談すれば良いと思うわ」
「そうだね。ウマルならきっと上手くやってくれるよ」
「チッ、なんだよ。信用ねぇな」
確かバイマトの提案は良く考えられていた。 実際、新しい迷宮が出来ればそこを稼ぎ場にしようとする冒険者たちが集まる可能性は高い。 彼等が有る程度以上の数に達すれば冒険者ギルドも出来上るだろうし、それに伴って素材を求める商人達も来るだろう
人の流れが出来上がれば宿屋や食事処だって出来上がる。 そうやって人が集まり定住してもいいと言う人材が各地から集まれば、兵士の募集にも人が集まる事は間違いない
しかし何分提案したのが脳筋寄りのバイマトだけに疑ってかかるアルベルトとカイヤに不満を漏らすバイマトであった
「難しい話は終わった?」
「おう、そうだったな。迷宮を創って貰う為にも精霊達を助けてやらねぇとな」
バイマトの考えはカリュアーが迷宮を創りだすのが前提の考えだ。 その為には先ず彼女の森を平常に戻さなければならない。 精霊である彼女は基本的には人界の事に過大な干渉を行なわない為、バイマトの話を黙って聞いていたが話しに目処が付いた処で口を挟む
「でもカリュアー、僕達が手を出しちゃって大丈夫なの?」
「大丈夫って何が?」
「精霊さんって干渉を嫌うんじゃないの?」
「アルちゃんは別枠だから大丈夫!」
「別枠!?」
人の為に迷宮を創ると言う話もそうだが、自身の支配領域である森を魔境から解放するのに人の手を借りる事もまた、精霊のルールからは逸脱している。 その事を気にするアルベルトであったが帰って来たのは予想外の言葉だった
『ほっほっほ。まるで人外扱いじゃな』
「ああ、ごめんなさい。そういう意味じゃないわ」
「でも・・・」
「ん・・・アルは特別」
「そう、それが言いたかったの。全ての精霊に愛されてるアルちゃんを助けたって文句を言う精霊はいないわよ」
『その逆も然り、という訳じゃな』
つまりはルール違反ではあるもののアルベルトに嫌われるかも知れないという事だけで文句をいう精霊はいないと言う正に別枠という理由であった
「いいの?それ・・・」
「良いのよ、あくまでも自己ルールなんだから」
「まぁ、精霊らしいって言えばらしいわね」
上位精霊ともなれば強大な力を有する者も珍しくは無い。 なので本来は世界の均衡を崩さない様にする為に設けられたルールであったが、そこは勝手気ままな精霊達である。 抜け穴は幾らでも在るという事だろう
「それにアルちゃんを愛おしく思うのは私達だけじゃないし」
「私達だけじゃないって他にもいるの!?」
「う~ん・・・この世界全部?」
「世界全部!?」
「ほっほっほ。アルは神々ですら魅了しとるからの』
カリュアーの言葉に驚愕するアルベルトであったが、さも当然と言った感じのマーリンは孫を自慢する爺バカ状態だ
「ん・・・アルは世界一」
「ヴィクまで・・・もうやめてよ」
実際、称号にそれが現れているアルベルトなのだが彼にしてみるとそんな自覚は無いし、そこまで優遇される心当たりも無いのだから只々困惑するしかない
「えっと・・・じ、じゃあ私は宇宙一愛してる!」
「いや、エリザベス王女も無理して褒めなくても・・・」
「むぅ~・・・本気なのに」
負けじと褒めよう・・・と、言うより愛の告白をしたエリザベス王女であったが、あまりに流れに乗り過ぎていため本気で受け取って貰えず頬膨らまして剥れてしまう
『ほれ、もうすぐ森に着くぞ。大丈夫じゃと思うが気を引き締めるのじゃ』
「うわっ!なんか嫌な気配がビンビンくるね」
「こりゃあ少し気を引き締めねぇと」
「私達は待ってた方が良さそうですね」
「サーム!?・・・居たの?」
「ずっと居ましたよ!!」
「そっか。何も喋らないから気が付かなかったよ」
「「・・・」」
確かに畑から此処に来るまでの間の会話に参加していなかった二人だが、仕える主の余りの一言に声を失う
「でもそうね、二人にはまだ少し荷が重そうだから此処で待ってた方が良いわね」
「おっさんもだぜ?」
「将軍も!?」
「殿下!?そんな殺生な・・・」
「ひょっとして・・・」
「私もいますからね」
話に夢中になってすっかり存在を忘れられていた四人に見つめられバツの悪そうなアルベルト・・・
目の前に広がる濃い森からは瘴気とも言えるドス黒い物が流れ出していたのだが、それに対してでは無い冷たい汗が彼の背中を流れるのであった・・・




