2-10
『それでは準備は良いかの?』
「うん、頑張ってみるよ」
「失敗しても他の群れを探してやるからな」
「アルなら大丈夫よ」
「ん・・・お肉♪」
アルベルトがマーリンに促され眼前の目標に立ち向かうべく気合を入れる。 その気配を敏感に感じたのか呑気に草を食んでいたリーダー以外のシープホーン達も首を上げて警戒する様にアルベルトを睨みつけてくる
一名だけ他の方向へ欲望が向かっているようだが三人の励ましを受けたアルベルトは魔力を練り上げながら群れへと疾走する。 その姿を見たシープホーン達も臨戦態勢を整え頭を低くして迎え撃つようにアルベルト目掛けて大地を揺らしながら駆けてくる
「ファイ・・・って、燃やしちゃ駄目だ。えっと、ウインドじゃ止まらないだろうし・・・うみゅ~マーリンどうしたらいいの?」
『ほっほっほ。そこを考えるのも修行じゃよ』
彼我の距離が縮まり、さぁこれからと言う時点になってアルベルトは自身の魔法では相手を倒す手段に乏しい事に気付く。 精霊の後押しを受ける彼の魔法で放つファイアーではヴィクトリアが喜ぶ結果にしかならない
アルベルトが使う許可を得ている他の魔法でも結果はそう変わらないだろう。 初級魔法でも十分な威力を出せるアルベルトではあったが、初級魔法は単純な現象の具現化しか出来ないのだ。 見るからにタフネスなシープホーン達を都合良く弱体化させるには不向きであった
悩んでいる間にもシープホーン達はアルベルトへと向かって来る。 アルベルトの身長では見上げなければならない程の獣達の突撃に咄嗟に上へと飛び上がってやり過ごす
「ごめんね!」
「ブモォー」
頭を踏みつけられたシープホーンが怒りの雄叫びを上げるのをやり過ごしたアルベルトだったが、次の突撃の波が迫る。 リーダを中心にした彼等の連携は敵と認めたアルベルトを逃すつもりが無い様で四方を囲む様にしながら突撃を繰り出してくる
『ではヒントじゃ。この修行の目的は魔法の制御と魔素の操作じゃ』
「魔法の制御と魔素の操作?・・・よけい判んないよ!」
『固定概念に囚われる事無く柔軟な発想が大切じゃぞ。元々何をしようとしていたのかを考えてみるのだ』
ヒントと言いながらマーリンが示した道は非常に曖昧で五歳のアルベルトには少し難しい謎掛けであった。
「元々は結界の向こうの枯草を焼く筈で・・・でも精霊さんが後押ししちゃうから強すぎて・・・」
『ほっほっほ。ほれ、次のが来るぞ?』
アルベルトが必死に考えている間もシープホーン達の突撃は止まない。 助走をつける為アルベルトの周りをグルグル回りながら死角を突いて突進してくる。 それを時に横へ躱し時に上空へと跳躍して躱すアルベルトだった
「そうか!離れた場所の魔素を操って・・・うん、大丈夫!!」
ピコンと擬音が付きそうな表情のアルベルトは何事か思い付いた様でタイミングを計る様にシープホーンの動きを注視する
「ブモォー!」
「今だ!!」
アルベルトの背後から突撃を掛けてきたシープホーンを振り向きざま横っ飛びで躱すアルベルト。 突撃を躱されたシープホーンはそのままの勢いで彼から離れようとしたその眼前に土の壁が立ちはだかる
「ブモォ!?」
『ほっほっほ、狙いは良かったがの。まだまだ魔力の練りが足りんの』
精霊の後押しを受けて出来上がった土壁は厚みも高さも十分な物であった。 しかしシープホーンの突進を受け止めるには強度が足りずアッサリと突き崩されシープホーンは何事も無かった様に群れへと戻っていく
「う~ん、壁じゃ駄目か・・・なら今度はコレだ!」
「ブモォ!!!」
続いてアルベルトは拳大の土の塊を生み出すと宙に浮いたソレを操りシープホーン目掛けて打ち出す。 今度は大きさではなく硬度を上げる事に専念した事で確かなダメージを与える。
しかしサイズが小さすぎたのか正面から当たって砕けたそれに怯む事無く、いや寧ろ怒りが増した状態でアルベルトへと向かって来る
『ほっほっほ。一つの事だけに専念していたのでは駄目じゃな。 硬く、大きく、一撃で意識を刈り取れる力強さを与えねばならんぞ』
「う~ん・・・砦の時は上手く行ったのに」
初陣で帝国兵達に手痛い一撃を与えた時の様に巨大な土玉を生み出そうにもシープホーン達はその隙を彼に与えてはくれない。 しかもあの時は坂を転がる様にするだけで良かったが今回は意図的に操らねば素早く動く目標に当てる事は出来ないだろう
「硬くて大きくて力強い・・・」
『ふむ、儂も若い頃は女房を泣かしたものじゃ・・・』
「マーリンの若い頃?」
『なに、こっちの話じゃ』
守護霊になってソッチの欲望は枯れたマーリンであったが男である以上は気になるキーワードな訳でピンクな反応を示すが、まだ五歳のアルベルトにはいまいち伝わらない
「奥さんを泣かす魔法・・・」
『アル!?』
「泣かす・・・苛めっ子?」
『いや、その・・そう意味では無くての』
シープホーンの攻撃をひらりひらりと躱しながらブツブツ呟くアルベルト。 明らかに言葉の意味を取り違えているのでマーリンが危惧したような意味では無いだろうが賢者式幼児教育法で教えるには少し早い内容だ
「苛めっ子!!そうだ、コレだ!!精霊さん力を貸して!!!」
「ま゛!」
「行っけ~!」
『おお!まさか此処まで出来るとは思わんかったぞ』
アルベルトが精霊に呼びかけその力を借りて生み出したのは五mほどの大きさの土人形。 しかも彼の号令に従いズシンズシンと大地を揺るがしシープホーンへと迫ると振り上げた拳で殴りつける
「ゴーレム?ちょっとどういう事よ。いつの間に召喚魔法なんて使える様になってたのよ!?」
「俺に聞かれても判る訳ねぇだろ!」
「ん・・・ちょっと違う?」
離れた場所で見守っていた三人にもアルベルトが生み出した土人形がシープホーンを狩る様子を驚きと共に見つめる
「確かに召喚陣も出て無かったし・・・」
「ん・・・アルの匂いがする」
ヴィクトリアの言う様にアルベルトが生み出したのは厳密にはゴーレムでは無い。 本来ゴーレムとは人造の身体に核を埋め込み、そこに記された命令通りに動く物だ。 その為、予め造り出し設置しておくか召喚魔法で呼び出すのが通常だ
しかし、アルベルトが生み出した土人形には核は無く、あくまでも彼自身がその場で操っているだけであった
「あれだけの土の塊を操ってるっていうの!?」
「しかも見てみろよ。打撃の時だけ拳を強化してやがる」
「ん・・・もう一体」
一体だけでは時間が掛かると思ったのか更にもう一体の土人形がシープホーン達へと向かって行く。 物言わぬ人工物が迫る恐怖に恐慌状態に陥った群れは先程までの連携を見せる様子も無くただ逃げ惑っていた
「ブッモォー!!」
『真打の登場じゃな。こいつを倒せば群れをテイムできるぞ』
制御不能になった群れを下がらせ満を持して登場したリーダーは前足で大地を掻き頭を下げて突撃の準備に入る
「よし!合体だ!!」
「ブ、ブモ!?」
それを見たアルベルトは二体の土人形を操ると一際大きな一体の土人形へと変える。 ズッシーンズッシーンと先程よりも大地を大きく揺らしながら迫る土人形の迫力に流石のリーダーも攻撃姿勢に入っていた頭を持ち上げ見上げるようにして固まっていた
『勝ったの』
「うん、後はテイムするだけだね」
もはや戦うという気力すら奪われたリーダーにアルベルトが近付き、そっとその額に手を当てるとその支配下に入った証にアッサリと腹を見せて横たわる
「なぁ、考えてみたら牛なんて使わなくてもゴーレムで良かったんじゃねぇか?」
『ムッ!?そう言われるとそんな気がしないでも・・・』
「でもそれだと修行にならないよ?」
「ゴーレムを造るのだって同じような魔力の使い方が必要なのよ」
カイヤが言う様にゴーレムの作成でも空気中の魔素から土を生み出さねばならないし、核を創り出すには高度な魔力操作が必要だ。 今回のアルベルトは核ではなく魔力で土人形を操ったが修行として考えるならばどちらでも同じ事になるだろう
『いや、その、なんじゃ。まぁ結果オーライじゃ』
「ん・・・強引」
ジト目で睨むカイヤから目を逸らしながら珍しく狼狽えるマーリンであった・・・




