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「ファイアー」
「ん・・・凄い!」
右手を突き出したアルベルトが放った炎が渦を巻くようにしながら結界の内部で大地を舐めるように広がり枯草を焼き払う。 初級魔法のファイアーでは有り得ない光景に無口なヴィクトリアも驚きの声を上げる
「マーリン!どう?合格でしょ!?」
『・・・』
「マーリン!?どうしたの?」
『ほっほっほ。すまんすまん。ちょっと感慨に浸っておったわい』
「感慨って何で?」
『フム。アルは覚えておらんだろうが一番最初に使った魔法がファイアーだったのじゃよ』
まだ、赤ん坊だったアルベルトが初めて使った魔法がファイアーだった。 当然アルベルトが覚えている訳は無いがマーリンにしてみればボヤ騒ぎですら懐かしい思い出であった
しかし、赤ん坊の頃のアルベルトが放ったファイアーと、今のアルベルトが放ったファイアーはその威力以外にも大きな違いがあった。
本来、初級魔法であるファイアーは掌から火が噴き出る魔法だ。 その燃焼温度も特に高い訳でもなく範囲も広くない。 だが結界で覆われた畑に生える枯草は轟々と音を立てながら焼き払われていた
いくら燃えやすい枯草と言えどもこれほどの火炎になる事は有り得ない。 しかも結界の内部は炎で埋め尽くされているのだから当然アルベルトは結界の外にいる。 つまりアルベルトの放ったファイアーは掌から離れた場所発動したのだ
『しかし、これでは修行にならんの』
「修行!?畑を造るんじゃなかったの?」
『ほっほっほ。開墾だけなら人海戦術でも良いからの』
マーリンが考えていた賢者式幼児教育の計画では魔力を阻む結界の向こう側にある魔素を操作して魔法を発動させる事、そして広範囲の枯草を焼く様に魔法を操る事で魔法の制御を学ばせるつもりであったのだが、カリュアーがくれた指輪の効果で精霊達がその大部分を補ってしまったのだ
これではこの後に予定していた大地を耕す事も精霊達の力で容易く実現できてしまうのは目に見えており計画を変更せざる得ない状況であったが、アルベルトの能力が高くなったのは事実なのでマーリンは特に気にした様子も無かった
『さて、枯草を焼くのは追々やっていくとして、家畜を捕まえてくる事にするかの』
「家畜?それと畑になんの関係があるの?」
『ほっほっほ。昔はもっと色々な家畜がおったのじゃよ』
アルベルトが思い浮かべた家畜とは鶏や山羊、それに羊程度の小型の獣ばかりで農業に結び付ける事が出来なかった。 移動用に馬を飼育しているのは知っていたが養うのにかかるコストが高く家畜として考えるには無理があるのだから仕方がないだろう
『元々、屯田制を行うのじゃから兵達が畑を耕すのに便利な牛鋤は考えておったのじゃよ』
「ん・・・すき焼き」
『ほっほっほ。儂も好きじゃがソレとは少し違うの』
じゅるりと口元を拭うヴィクトリアに笑いながらマーリンが牛鋤を説明する。 牛に農具を引かせて畑を耕すと言った発想の無かった二人には驚く物だった
「そっか人より力があるから深く早く出来るんだね」
『そうじゃ。専用の道具は造る必要が有るが、一度作れば何度も使えるものじゃからの』
砦には武器を修理する為の鍛冶場もあるし職人もいるのだから難しい事では無い。
「でも牛って言っても・・・」
『それを今から捕まえるのじゃよ』
アルベルトの疑問は当たり前の物だった。 抑々、牛に曳かせると言っても指示に従いそうな大人しい牛など存在しない。 この辺りにいる牛と言えば気性の荒い、殆ど魔獣と言っても良い様な獣ばかりだった
『倒してはいかんぞ?ソコソコにダメージを与えてテイムするのじゃ』
「え~テイムなんてした事無いよ僕・・・」
『なに難しい事ではない。ちょっと動けなくして上下関係を学ばせるだけじゃよ』
マーリンは事も無げに言うが魔物や獣などをテイムするのは専門のテイマ―達が行う事で知識も無いアルベルト達が簡単に出来る事では無い。 マーリンはちょっと動けなくするだけと言うがそれが難しいのだ、ダメージを与えすぎれば怒りで我を忘れるだろうし少なければこちらに従う事は無い。 本職のテイマ―達はスキルで補いながらテイムするが、それでも長い修行が必要なのだ
『案ずるより産むが易しじゃよ。やってみれば案外簡単じゃ』
「う~ん・・・」
「ん・・・やってみる」
頭を捻りながら悩むアルベルトであったが、妙にやる気を出すヴィクトリアに押し切られる形で渋々了承するのであった
☆△☆△
「はっ、またマーリンさんも面白い事考えるな」
「そうね~普通は思い付かないわね」
「そうだよね。アレを見て家畜にしようとは思わないよね」
セイレケ砦から離れ、目的の牛が出没する平原に移動してきたアルベルト達。 同行したバイマトとカイヤも呆れ顔で目の前で草を食むソレを見ながらマーリンの計画に半信半疑の様子だった
視線の先にいるのは羊の様にクルリと巻いた角が特徴的なシープヘッドと呼ばれる牛?だった。 しかし羊に似ているのはその角の形だけで大きさは羊とは比べ物にならない程大きく頭の位置は長身のバイマトよりも高い
体長も三mを越え、筋肉で盛り上がった首回りは頭と変わらない太さだ。 駆ける速度も速く角を使った突き上げで肉食の獣すらも寄せ付けない。しかも性格はテリトリーに入った者は徹底的に排除するという気性の荒さだ。 此方から近寄らなければ何もしないので魔獣認定されていないだけでその強さは並みの魔獣にも劣る物では無かった
そんなシープヘッドであるが、草食らしく群れで行動するのが常なので余計に捕まえる事など考える者はいない
『ほっほっほ。儂の畑では奴等は大活躍じゃったぞ?』
「う~ん・・・マーリンさんの言う事を信用しない訳じゃねぇが・・・」
「兵士達に扱えるのかしら?」
『群れのリーダーを従えれば他の奴等もいう事を聞くからその辺は大丈夫じゃ』
「リーダーってアレでしょう?」
「あんまりお近付きになりたくないよね」
群れの中央に陣取り、此方を睨む様に警戒する一際大きなシープヘッド。 頭一つ大きなソレは体高が三mを越えているだろう、当然体長も他のシープヘッドよりも大きく筋肉の盛り上がりも他とは違う立派さで一目でその危険度が判るほどだった
『群れの他の奴等を殺めてはいかんぞ。怒りで命尽きるまで向かって来るからの』
「うへぇ~、そいつは面倒だ」
『じゃが、より強いリーダーに従う習性じゃからこそテイムしやすいのじゃ』
「まぁ、でもこのメンバーなら何とか出来そうね」
『何を言っておる。テイムするのじゃから一人でやらねば駄目だぞ?』
「それって・・・幾らなんでもそれは無茶じゃない!?」
シープヘッドのリーダー争いは過酷な事でも有名だった。 群れの力もリーダーの力という認識なのかリーダーに挑むにはまず群れ全てを倒さねばならない。
一対一の戦いでは無く群れ全てが襲い掛かってくるのを蹴散らしてその後のリーダーとの戦いで勝利する事でその群れを統べる権利を得るのだと言う
テイムする場合も同じで群れ全体を一人で倒さねばシープヘッド達は新たなリーダーとは認めないだろう
『まぁ儂が戦った時はもう少し小さい群れじゃったがのう』
「バイマト、貴方ならどうする?」
「どうするったって、俺に出来るのは吹っ飛ばすくらいしかできねぇぞ。だけど殺さねぇって自信はねぇな」
「そうよね。眠りの雲とか効くのかしら?」
「まぁ、やってみるよ。時間を掛ければ何とかなると思うし」
目の前のシープヘッド達の群れはどう見ても三十頭は超えている。 この群れを一頭も殺める事無く且つ一人でと言うのならば高いステータス誇っていても難易度が高い
だが、いくら難易度が高いと言ってもアルベルトがシープヘッド達に倒されるという事も無いだろう。 時間は掛かるだろうが一頭一頭確実に倒していけば不可能では無い
『もう一つ追加じゃ。使って良いのは魔法のみじゃぞ』
「魔法だけ?更に難しくするの!?」
『ほっほっほ。修行じゃからの』
カリュアーの指輪のせいで出来なかった魔力制御の修行を兼ねると言いだすマーリンに流石のアルベルトも自信なさげな顔をする
「ん・・・失敗してもすき焼き」
「ヴィクが乗り気だったのってソレが理由!?」
『ほっほっほ。これだけの数じゃと食いでがありそうじゃの』
その様子を涎を抑えながら、期待しているヴィクトリアであった・・・




