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98話

 取引は迅速に行われる。こちら側はあたしが、向こうさんは変髪が、其々の大事なもんを、あたしは持って、あっちは縄で繋いだまま引き連れて二百五十メートル先の中間で交換だ。


 当然他には誰も付いて来させないというルールで、控えてる側も攻撃態勢を取るのも禁止としてある。


 どちらかがそれを破れば、即効でドンパチが始まるだろうね。

 まぁ銃社会じゃないから、ドンパチってのも変な話だけど、まぁ魔法はあるしね。


 とにかくまぁ、あたしと変髪は同時に一歩一歩歩き出す。

 出来るだけ歩幅は合わせる形で、少しずつ変髪と人質にされた三人が近づいてくるよ。


 勿論その分あたしも歩みを進めてるんだけどね。


 残り、五十メートル――三十――二十、そして残り十メートルというところで、変髪が脚を止めたから、あたしも止まる。


「ここにするとしよう」


 変髪がそう提言した。あたしには特に反対する理由がない。


「じゃあ、せ~のであたしはこれを投げる。そっちも三人を放しな」


 向こうは握ったロープさえ放せば、三人は自由になれる。手が縛られてるのは気になるけど、脚が自由なら走ってこれるだろ。


「わかってる。約束は守る男だよ私は」


 調子いいね。妙にニヤけた感じが、髪と同じように変な考え持ってんじゃないのかい? て雰囲気を醸し出してるよ。


 まぁ、い~か。とりあえずそれをしないと始まらない。


「せ~の!」


 あたしは語尾を強めると同時に、下手投げの要領で神宝を放り投げた。空中に舞い上がり、具足が山なりに変髪に向かって飛んで行く。


 当然、変髪は三人を繋げてあるロープを手放し、必死にソレを受け止めに掛かる。と、同時にスラパイ、ロリパイ、モジオの三人があたしに向かって駈け出した。


「マリヤ様! 私信じておりましたわ!」

「マリヤ様は流石はビッチなの!」

「マ、ママッ、マ!」


 笑顔を浮かべながら、三人があたしに近づいてくる。そして変髪は具足を上手くキャッチ出来たみたいだ。杖を持ちながら器用なもんだね。


 で、うん。本来ならこれで無事取引は終了だけどね。


 だけど――変髪の口角がニヤリと吊り上がって――


「馬鹿め! 引っかかったな! おい! やれ!」


 変髪が後ろを振り返ってそう叫んだ瞬間、三人の腰の辺りに、ロープとはまた違う、光輝く鎖みたいのが現れた。そしてあたしまであと一歩というところで、鎖が動き出して三人が浮き上がり、敵さんの陣地側に引っ張られていく。


「ガハハ! 愚か者め! その三人も気づかないよう魔法の鎖で拘束しておいたのだ! コレは魔力を込めぬと視認できんからな! さぁこれで神宝も人質も――」

「どうせそんなこったろうと思ったよ! 犬! イメクラ!」

 

「お任せ下さいマリヤ様!」


 あたしの言葉に、何!? と変髪が声の方を向く、その瞬間には火の玉の放った魔法の砲撃が、敵の陣地近くに着弾して土煙を巻き起こす。


 これで視界は悪くなったね。で、北側、敵から見れば右側から、犬が神速の走りで空中を舞う三人に駆け寄っていき。


「ぬぉおおぉお!」


 土煙の中に犬が飛び込んだね。と、同時に、ぎゃ! って悲鳴も聞こえてきて、かと思えばすかさず煙の中から影が一つ飛び出し、すげぇ勢いのある跳躍をみせて、あたしの側に着地したよ。


 勿論その腕にはしっかりスラパイ、ロリパイ、モジオが抱きかかえられている。

 てか三人も目をぱちくりさせて、何が起きてるか理解できないって感じだね。


 魔法の鎖とやらも消えてるしね。まぁ犬が助けると同時にやっつけたんだろうけど。


「ば、馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 一体これはどういう事だ!」


「ふん! タイトウ侯爵殿下の側近といっても大した事はありませんなぁ。巨人を操る魔導師と聞き、どの程度かと思えば、この程度の姿隠しの魔法も見破れぬとはな!」


 火の玉が勝ち誇ったような笑いを見せる。

 まぁ実際そのとおりでね。犬と火の玉にはずっと前の段階から、この平原で待ち構えてもらったのさ。


 犬は神宝の力で誰よりも早くここにこれたわけだからね。魔法の使える火の玉をおぶるぐらいも何て事はなかったはずだしね。


「あ、それとね。その疾風の神足、ニセモンだから」


 あたしはあっさり相手にバラしてやった。全くゴブリンの奴は本当に手先が器用だね。見た目だけでなく重さもそっくりそのままで、あいつもすっかり騙されてしまったってわけだよ。


「む、むぎぎ! き、貴様! さては最初からまともに取引する気などなかったな!」


 指を付きつけて怒鳴り散らしてくるけど、お互い様だろそれ。


「ふん! 愚かだなヘンガミ! だから最初からあの神宝は我々に預けておけばよかったのだ! それを下手な欲を掻くからこのような目にあう」


 土煙が晴れて、白い鎧に身を包まれた男が前に躍り出てきたね。

 金髪でライオンみたいな逆立った髪。目もやたらギラギラしてんよ。正しく猛獣って感じだ。


 肩に掛けるようにして持ってる武器も何かゴツイね。柄の長い斧……でも先端には槍みたいのも付いてんね。


「あれはハルバードですな。しかし本来は両手持ちの武器でありますが、それを片手でとは……かなり膂力に優れた騎士と見えます」


 犬があたしの横で解説してくれた。ふ~ん、成る程ね。てか、雰囲気的にはかなり上の立場って感じかね。


「言っておくがこの件も含めて、我々が上に黙っているから、何もなくすんでるということを忘れるなよ。さぁ! 判ったらあとは魔導師は魔導師らしく大人しくサポートにでも回っていろ! ここからは我らの領分だ!」


 ありゃ。マジでこのライオン偉そうな感じだな。変髪も、うぐぐっ、て感じに黙っちゃったよ。


「さて。女! ここまでやったからにはもう後には引けないことは判っているな? だが、諦めて大人しく投降するなら、聖騎士として手荒な真似はやめておいてやる。どうだ?」

 

「いや、そんなんで諦めるぐらいなら、最初からこんな事はしないし」


「全くでございますな」


 そう言いつつも犬は縄を解いた三人に目配せしたね。下がってた方がいいて意味だろ。

 で、三人はあたしを心配そうに見つめてるけど、軽く頷いたら察して下がっていった。


「ふん! そうであろうな。ならば仕方がない。ただ、そちらには何か勝算があるようだが――」


 そう言ってライオンは不敵な笑みを零したね。そして。


「弓兵! 今直ぐそこを撃て!」


 ライオンが指差し叫ぶと、弓を持った連中があたしから見て右側に向けて一斉に矢を撃ちこんでいく。

 

 あちゃ~参ったね。


「むぐぅおぉ!」

 

 あ~やっぱ巨チンが叫んで姿を現しちゃったね。矢ぐらい大したことはないんだろうけど、身体にあたったおかげで明らかに変な落ち方してるしな……姿隠しは見えないってだけだからねぇ。


「ヘンガミ! さっさと巨人どもで巨神を押さえつけろ! 三体いればやれるだろう!」


「くっ! わかっておる! いけ! 巨人たちよ!」


 変髪の命令で巨人三体が動き出したね。一気に駆けて行って……って、アレ?


「ぐぅ……」


 途中で動きを止めた……そうかこいつらに取って巨チンは。


「え~い! なにをしておる! 躊躇などするでないわ!」


 言って変髪が杖を巨人達に向けた。その瞬間、三体が悶え苦しみだしたね。


「マリヤ様。きっとアレが……」


 あぁ犬のいいたい事はなんとなくわかるよ。


 で、怒鳴り散らす変髪を一瞥したあと、巨人達は改めて巨チンに向かっていったよ。

 流石に巨チンはやりにくそうだね。しかも三体に囲まれて、あれはちょっと動けないかな。


「お前がもっとちゃんと躾ておかないから、こんな事になるのだ、愚か者。まぁいい、さぁ次は右翼! あの一人でいる魔導師を狙え!」


 あ、そういえば火の玉そのままだったね。

 で、ライオンの命令で何人かの奴が向かったよ。


「ふん! 愚かなそんな事もあろうかと詠唱は既にすんでおるわ! 焼き払え! 煉獄の炎!」


 なんか凄そうなこと言って杖ごと両手を前に付きだしたね。

 で、前に見せた以上の巨大な炎の玉を撃ったよ。


「馬鹿め! そんなのは予想しておったわ。さぁ掻き消せ!」


 変髪が叫んだと同時に、敵さんからも光の玉みたいのが発射されて、火の玉の魔法を飲み込んじまったよ。で、炎の玉消えちまうし。


「な、なんと!」


 魔法が消え去った事で、火の玉の奴慌てだして、オロオロしだしたよ。たく――


「おい! 早く逃げろ!」


 あたしが叫ぶと、火の玉がこっちに向かおうと走りだしたけど……おそ! これはとてもじゃないけど逃げられないね。


「犬、助けてやって」

「承知しました」


 で、犬が一足飛びで火の玉の下へ。流石にはや――


「――大地の檻にて仇なす者を閉じ込めよ!」


「な!? これは!」


 ……おいおい、犬が着地するのに合わせて、なんか魔法が発動。二人の周りの土が囲むように盛り上がり、ドームみたいになって閉じ込めちゃったよ。


「クッ! この犬、なんたる不覚!」

「も、もうしわけございませんマリヤ様!」


 くぐもった声が、ドームの檻の中から聞こえてきたよ。打音が響いてくるけどね、割れそうにないかあれ……。


「は~っはっはっは! 疾風の神足は確かに敏捷性、跳躍力ともに大幅に上げるが、膂力まで上げるわけではない! この国の魔導師の魔法の力だけは私もそれなりにかっている! そう簡単には抜け出せぬわ!」


 勝ち誇ったような笑いを上げて、ライオンがこっちを睨めつけてくる。


「さぁ! これで貴様らが頼りにしてる武器は二つとも封じたぞ! 覚悟を決めるんだな!」

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