99話
聖騎士のライオンは、勝ち誇ったような笑みを浮かべてこっちを見てきてる。
「どうやら本当にマジでヤル気みたいだね」
「当然だ。何だ? 冗談とでも思ってたのか? だとしたら愚かなことだな。あぁ、だからいつまでもそんなところで突っ立っているのか。言っておくが女だから狙われないとでも思っていたら大間違いだぞ?」
確かにあたしは、単身結構前の方に出てるけどね。でもだからってそんな甘いことは思ってないさね。
「エロイーヨ! こうなったらこっちも仕掛けるよ! 魔法の準備! ゴブリンは弓! オーク含めた戦士隊も頼んだよ!」
「ふっ、ようやく妾の出番かえ」
「腕がなるわ。我らオークの力を見せつけてやろう」
「神様のご指示だ! 期待に答えようぞ!」
「てめぇら! 姉御の為にも気合入れろ!」
後ろから随分と景気のいい声が響いてくるね。この状況でも全く怯む様子がないのは流石だよ。
「ふん! つくづく愚かな連中だ! いいだろう! 力の差を見せてやる! 弓隊前へ! ヘンガミは魔導師共を指揮して付与魔法を詠唱! 数ではこちらが圧倒的に勝っているんだ! おまけに巨神も身動きできない! あのような連中恐れるに足らず!」
ライオンが吠えると一斉に弓持った連中が前に出てくる。横並びにズラリと構えて、その後ろでは魔導師も詠唱を始めた。
確かに数では圧倒的に不利だ。ダークエルフとゴブリンの数合わせても、向こうの弓兵の数にも劣るだろうしね。
おまけに巨神も封じて、自信を持つのも判る。
でもね、あんたらは最初からミスをしてるのさ。
そもそも巨チンのはある程度想定内だ。あたしからしたら巨人三体に立ち塞がれる方が厄介だったしね。
犬に関してはちょっと誤算だったけど、大した問題じゃないさ。
あたしが前に出てていいのかって? 違うねあたしは前にいなきゃいけなかったんだ。
だってあんたらが尤も警戒しなきゃいけなかったのは――
「この! あたしなんだからね!」
「……な! だ、団長! あ、あの女」
「なんだ! 慌ておって見苦しい!」
「そ、それが突然座り込んで、ま、股を、股を開いてます!」
「……はぁ?」
「し、しかもした、下着を穿いておりません! 全開です! あそこが全開であります!」
何を馬鹿な! ってライオンの吠える声が聞こえたね。あいつの前に弓兵が出て後ろに隠れちゃったからね。
まぁいいや。てかソレぐらいであんたら呆けすぎだよ。
そしてそれが……命取りだよ!
「ぐはぁ!」
「ぐふぉ!」
「――な、何だこれは! 一体どうなってる!」
「だ、団長! 矢です! きょ、巨大な矢が連続でこっちに……ひぃいいいい!」
弓を構えてた連中が一瞬にしてパニックに陥ったね。
そりゃそうか。M字に広げたあたしの股から――
「キタァああ! 膣バリスタ!」
「あれが姉御の膣バリスタ・連! すげぇ! すげぇよ姉御!」
だ~~~~! だから勝手に変な名前付けんなこら!
クッ、まぁいい。何せ前もって砦にあった巨大な矢を数十本しまっといたからね。しかも魔法の付与付きだ。威力は折り紙つきだよ!
敵さんの悲鳴と、爆発の付与ってのを付けた矢が着弾して、轟音が鳴り響いてるね。
相手の魔導師もこれじゃあ詠唱どころじゃないだろうね。
さぁ! 次だ! あたしは立ち上がって、一気に跳躍! 巨人の力もあって、今の犬ほどじゃないにしても、十メートル近くはあたしでも飛ぶことが出来る。
「ダークエルフの魔法の準備はOKかい?」
「いつでも可能だぞえ!」
よっしゃ! だったら下に見える兵隊達に向かって――一気に放つよ!
そして、あたしは次に出すものをイメージして膣に力を込める。すると――
「な!? 雨?」
「いや……水――空中の女の股から……て、え? おしっ――」
誰が放尿だよ! 違うから! これ城に戻った時に溜めておいた水だから! 放水ね、放水。いや別に黄金水でもいいけど量がでねぇし。湖で吸い込んどいたんだよ。
さて、シャァアア――と、まんべんなく降り注いだみたいだねぇ。それじゃあ。
「魔法頼んだよ!」
「はい! 天空に集いし雷雲よ、我が祈りを持ちし仇なす者を撃つ裁きとなれ!」
あたしは空中を蹴って後方の少し離れた位置に着地する。
巻き添えを受けないようにね
その時点で既にバチバチと放電する黒雲が、敵さんの頭上に浮かび上がり――
「な。こ、これは! は、早く退避を!」
もう遅いんだよバ~カ。て、ピカっと光って、ズドォオオオオン! ってよっしゃ! 景気良く落ちたね! しかも前もってかけておいた大量の水で感電もするし効果も倍! てね!
「風の精霊よ! 我が同士にその恩恵を!」
後方からはダークエルフの付与の魔法が飛び交い、オークと元盗賊達の興奮した声が上がる。ゴブリンも威力を上げた矢を一斉に撃ちこんで、雷ですっかり乱れた敵陣に矢の雨が降り注いでいく。
「いくぞおおおぉおお!」
そして雄叫びを上げながら、デカマラ率いるオークと、マッドビーストの連中があたしの横を走り抜けて、狼狽え続ける敵軍に突っ込んでいく。
「く、くそおおぉおお!」
「む? なんだその一撃は! この程度で我を討とうなどと片腹痛い!」
おお、さすがデカマラ。軽く斧を振り回しただけで、七、八人の首と胴体が一気に飛んだわ。
「おらぁ! おらぁ!」
「ふん! ふん! ふん!」
「クキキャッラ! しきぇい! しきぇい! しきぇいいいぃい!」
おっと三獣士も水を得た魚みたいに暴れまわってるね。
爪なんて、めちゃめちゃ切り刻んでるし。
「わ、我が名を持ちて生み出し――」
「魔法なんて使う暇与えるかよ! ぼけぇええ!」
元頭も頑張ってるな。魔法を使われる前にたたっ斬っていってるよ。
それにしても、最初のあたしの攻撃と落雷でかなりの数は減ったとはいえ、相手の数はまだまだこっちより上なんだけどね。
でもその数の差を感じさせないほどこちらの指揮は上がってる。
実際予めマッドビーストの頭から聞いた話でも、タイトウ側の集める兵は殆どが、奴らみたいな盗賊崩れが多いことが判ってた。
そんな連中だから、一度崩れてしまえば弱いと犬は分析してもいた。
で、実際その予想は的中ってとこかな。ただ、まぁそれでも――
「クッ! こうなったら我ら聖騎士団はあの女を狙う! アレさえ討ち取ってしまえば! 勝機は我らにあり!」
あ、やっぱりね。聖騎士団とやらはそう上手く行かないか。速攻頭を切り替えて、あたしの方へ向かってきたよ。
実際あいつらだけ、妙に動きが良くて、殆ど躱されてたんだよね。
「その首もらったぁあぁ!」
血の気が多そうな若い奴が、あたしに向かって飛びかかってきたよ。
女だからって容赦してくる様子はいまのところないね。仕方な――
「チェストォオオオオ!」
て! うぉ! 馬鹿! 何だ復活したのかい!
「マリヤ! 助けに来たぞ! このメルセルク! 指一本触れさせ――」
「だったらそいつらは頼んだよ!」
え!? て戸惑う馬鹿を余所に、あたしは他の聖騎士の連中の下へ飛び込んでいく。
てか、あたしも正直あまり戦いを長引かせる気もないんだよね。疲れるし。
「クッ! わ、わかった! 任せておけマリヤ!」
うん。まぁ四人ぐらいに囲まれてっけど、あの馬鹿ならなんとかなんだろ。
「我ら聖騎士の中に自ら飛び込んでくるとは愚か者が!」
はいはい。ごつい鎧きた奴が、ごつい斧振り上げてるけどね。
「鋤だらけだっつの馬鹿」
「ぐふぉおおお!」
ガラ空きの胴体を思いっきり殴りつける。見た目には物々しいのに、まるで粘土殴ってる感覚だよ。
鎧もひしゃげて巨体が吹っ飛んでったし。あたしも大概だねこりゃ。
「ば、馬鹿な! 鋼よりも固い我らの鎧が!」
「こ、こんな脆弱そうな女の拳で……」
鋼よりも固い? これが? う~んもうちょっと品質改良に努めたほうがいいと思うけど。
とか考えつつ、ほい! ほい! っと。いやぁ一発なぐるだけで飛ぶ飛ぶ。人が紙のようだよ。
ちなみにあたしはもう武器は使ってない。素直に諦めた。巨チンの力だと、どんな武器を振ってもすぐ壊れちゃうんだよね。
だからって手加減してもね。武器を持つ意味が無いし。
犬が、丸太とかいかがですか? とか冗談なんだか本気なんだか判んないことを提案してきたりもしたけど、即効で却下した。
何かカッコ悪いし。女で丸太は流石にないわ~。
「おんなぁああぁああぁ!」
て、うぉ! なんだ急に近くで叫ぶなよ。びびんだろ……て、いつの間にか前方に仁王立ちのライオンがいるね。
「く、くくくっ。よもやお前のような女がいるとはな……」
うん? なんだこいつ? 妙に楽しそうだけど。
「てか、おんな、おんなってマリヤって名前があるんだけどね」
「くくっ。そうか、マリヤ。そうだったな。神の使いなどと吹聴してまわり、我がトーゲン教からも追われる身と聞いてはいたが。だが! 確かにその強さ! 鬼神のごときと言っても良いだろう!」
まぁ神の使いってのは成り行きでしかなかったんだけどね。
「気に入った! このトーゲン教タイトウ支部! 聖騎士団団長ライオン・ハート! マリヤ貴様に一騎打ちの決闘を申し込む!」
……てかこいつマジで名前ライオンかよ。




