96話
マッドビーストの連中を屈服させた後は、とりあえず、犬に状態の確認をしてもらった。
犬は仕事が早いから、そっこうでその役目を終えて戻ってくる。
報告によると、あたし達の側は一切被害なし。怪我人すらいなかったみたいで、正直圧勝って感じだったみたいだね。
逆に向こうさんは、五百人近くいた連中の内、負傷者が百人近くと死んじまったのは五十人ぐらい。
まぁでも、巨チンがあれだけ暴れまわったんだからそりゃそうだよねっと。
で、とりあえず頭みたいにしっかり忠誠を誓ってきた連中には、ダークエルフやメイド長の魔法の力で怪我を治してやった。
ただ、中には面白く無いっって思ってる連中もいてね。そいつらは妙に反抗的だったわけだけど――
「いやマリヤ様! 流石でございますな! あの荒くれ者どもも、今はすっかりマリヤ様を崇拝しており、ドングリ教にもあっさり入信してくれましたぞ!」
後ろから付いてきてる火の玉が、ホクホク顔でそんな事を言ってきた。
てか、マジで教団作る気だったのかよ、こいつ。
「奴らがこれまで奪ってきた宝というのも地下の宝物庫に収めてありまして、お布施としてしっかり頂いておきました。いやはや、とても幸先の良い一歩でしたな。本当に素晴らしい!」
「その宝は後でしっかり報告してよね」
一応釘をさしておく。犬にも確認させておかないとね。
「も、勿論でございます! いや、しかしどうやってあの連中を大人しくさせたので?」
「口だよ」
「あぁなるほど! マリヤ様のありがたいお言葉に、奴らも感銘を受けたというわけですな!」
いろいろ勘違いしてるぽいけど、めんどいからそれでいいや。
「それにしても、今回は他の巨人がいなかったのは幸いでしたな。いや、巨神殿の力があれば、例え巨人がいても問題はなかったと思いますが――」
確かにね。なんでも馬鹿はそのまま残しておいたけど、スラパイは巨人に乗せられて、タイトウの街に連れてかれたんだとか。
一歩遅かったって感じかね。全く面倒な事だよ。
それと、ここの頭の話だとロリパイとモジオもやっぱ捕まえたんだと。
でも目的は知らされてないとか。
ただ手荒な真似はされてないらしいという事は言ってたね。
よくわかんないけど、あぁでもロリパイあの胸だからなぁ~。
変な意味では何かされてっかもしんねぇけど、まぁビッチ目指すって言ってたし大丈夫か。
でも流石に馬鹿は心配してっけどね。でもだからって何も考えなしに、突っ込むわけにもいかないしな。
そんなわけでとりあえず砦の修復と、体制の強化ってとこだね。全部犬の話だけど。
「今どんな感じ?」
火の玉と一旦別れて、忠誠を誓った元盗賊達に指示してまわってる犬の元に向かった。
で、状況を確認してみる。
「砦の修復はダークエルフの魔法の力もあって、滞り無く進んでおります。それとカグラ様と巨チン殿に頑張ってもらい、城からゴブリンと更に魔法に長けたダークエルフを招集してるところでございます」
犬の話だとこの砦にはいい炉があるとか。材料も揃ってるから、ゴブリンを連れてくれば装備品の作成も出来そうだとか。
「……なんか普通に戦とか、そんな感じになってきた気がするね」
「実際そのとおりでございます。ここまでやった以上、向こうも黙ってはいないでしょう。仕掛けてきたのはタイトウ側が先ですが、向こう側は侵略だ! と騒ぎ立ててもおかしくありません」
なんだか物々しい話だねぇ。
「とは言え――」
うん?
「こちらには疾風の神足がございます。そして向こうにも人質となる三人が。もしタイトウ側が、この神宝を大事に思っているなら、先ずは武力行使でなく、それ以外の方法で接触を試みてくる可能性はございますな」
それ以外ねぇ――
◇◆◇
砦を手に入れてから十日が経った。壁の修復も終わったし、いざという時の為の配置も、犬が上手いことやってくれている。
ゴブリンも砦でトンテンカントンと金槌を振るって、装備品を作っている。
てか奴らは仕事が早い。特にあのゴブリンの長が以外と出来るやつで、一度手にとってみてしまえは、そっくりそのまま作ることも可能だとか。
その上で性能だけ上げたりもしてるみたいだね。
お陰で兵士になった連中も、いい武器や盾が手に入ったと喜んでるよ。
で、火の玉なんかは周辺の村々に出向いて行って、ドングリ教の布教に精を出してる。
てか、そんなふざけた名前の教団に入るやつなんていんのかな? て思ったんだけど、どうもあたしが、走る巨チンに乗ってたとこを多数の村人に見られてたようでね。
それが印象的だったみたいだね。あたしが神の使いってのはわりとあっさり受け入れてくれたってさ。
それでいて、この領内の村はタイトウってののいい加減な体制で、貧困に喘いでるのが多いとか。まぁ盗賊がのさばってたぐらいだしね。
で、火の玉の話だと、ドングリ教を崇拝する事に決めた村には、ゴブリンを派遣し、開墾して田畑を増やすとか。
すでに城でも、ゴブリンの力で作られた畑の作物が目覚ましい成長を遂げてるとか。
「ゴブリンにはゴブリンで自分たちの自由に出来る場を用意し、それとは別に人間の手助けをしてもらう形ですな。それと今後増えるオークも村の警護に回しましょう。勿論これは後で村人が裏切ったりしないよう、監視の意味もありますが――」
村はある程度余裕が出てきたところで、お布施を貰う形にしようって魂胆らしいね。
……てか、なんか知らないうちに話が妙な方向に膨らんでる気もしないでもないけど――
……まぁ損になる話じゃなさそうだし、とりあえずは好きにさせておくかなっと。
で、そうこうしてる内に更に七日が過ぎて――タイトウからの使者ってのが砦にやってきたね。
◇◆◇
「全く。あれだけ面倒見てやったのに、タイトウ侯爵殿下を裏切るとはな」
エロババァと元頭を睨めつけながら、そいつが言う。
やってきたのは、タイトウって奴の側近を勤めてるとかいうジジィだった。まぁジジィっても五十代ぐらいか? 眼はデカイけど黒目は小さい。髭は左右にピョコンと伸びている。
で、なんつうかMパゲの癖に、やけに尖った髪型してるのが印象的ってか笑える。さりーちゃんのパパかテメェは!
で、まぁどうやらこいつが、魔導師達を束ねるドンでもあるみたいだね。
一応一人じゃなくて後三人ほど部下を後ろに付けてるよ。
「念のため言っておくが、この近くに更に手練の護衛も控えてる。我々に何かしようとしても無駄だぞ」
用心深いこって。別にそっちが何もしてこなきゃ、手を出す気はないっての。
ちなみに今は、砦で一番広い部屋に主要メンバーが集まってる。
壁に地図が貼ってあって、ど真ん中にデカイ机がある部屋だ。
「それで、私の妻と、子どもたちは無事なんだろうな!」
馬鹿が刑事ドラマとかで人質の取られた奴みたいな発言をした。
まぁ犯人が目の前にいるってのが違いだけど。
「ふん。安心しろ。手荒な真似はしていない」
「手エロな真似はしてるんじゃないのか?」
「一体何を言っておるのだ貴様は!」
心外な! て顔してるね。なんだ、じゃあマジで無事なのかな?
「ふん! 貴様らなどとこのような話を続けていても仕方ないわ。こちらの要件は一つ、今直ぐこの砦を明け渡し、我らから奪った大切な神宝『疾風の神足』を返却せよ! そうすればまぁとりあえず預かっている貴様らの仲間は無事返してやる」
あぁやっぱ宝が取られた事は気がついたんだ。てか、預かってるとかようは人質だろ?
それにしてもやたら強気だねこいつら。
「お言葉ですが、その要求はあまりに一方的ではございませんかな?」
犬が納得がいかないと言った感じに口を挟んだね。でも変な髪はギロリと犬を睨みつける。
「ふん! 本来なら半日もあれば、壊滅出来るところを、譲歩してやろうというのだ。命があるだけでもありがたいと――」
「これはまた面白い事を言われますな。巨神を抑えられ、砦も奪われ、裏で手を結んでいたダークエルフやマッドビースト達にも裏切られ、むしろピンチなのはそちらでございましょう?」
火の玉が強気な口調で相手の言葉に割り込んできたね。まぁ確かにぶっちゃけ巨神がいるってだけでもかなり心強いだろうからね。
「……巨神一匹を仲間に付けたからと何を生意気な。確かにあれは強いが、所詮は一匹! こちらにはまだ多くの巨人に魔導師! 更にトーゲン教の聖騎士団も仲間に付いておる! 我らの優位が揺るぎることなど無いわ!」
そこまでいって今度は火の玉とあたしを交互に見てくる。
「大体貴様ら、最近ドングリ教等というふざけたものを、近隣の村々に布教して回ってるらしいな。本来であれば領主の許可も取らずそのような勝手な行動に及ぶだけでも、処刑に等しい所業であることを忘れるな!」
机を思いっきり叩きつけて、変髪が叫びあげてきたね。てか――
「とりあえずさ。あんたら結局どうしたいわけ? 言っておくけどこっちはそんなそっちに有利なばかりの条件飲む気はないよ」
こんなの受けても何の得にもならないしね。
「マリヤの言うとおりだ。どうしても交渉を進めたいというなら、先ずは私の妻と子どもたちを返し給え!」
それはそれでこっちに都合が良すぎだけどね。
「こっちが下手に出ていれば調子に乗りおって……」
下手って……終始偉そうだけどなこいつ。
「いいか! お前たちから預かってる者達は私の胸三寸でどうとでもなるという事を忘れるな!」
「宜しいのですかな? もし奥様達に何かあるようならば、神宝は二度と戻りませんぞ?」
尖った瞳を光らせ犬が言う。かなり強気な姿勢だねぇ。
「ぐぅ、むぐう!」
お、なんか拳握って歯ぎしりしてんな。やっぱそうとう大事なもんなんだろうねぇ。
でもなぁ、いい加減これじゃあ話が進まないよ。平行線って奴? ……しゃあないね。
「だったらさ。とりあえず砦とかは抜きにして、お互いが預かってる物の件だけなんとかしてしまおうぜ?」
何? て変髪があたしを睨んできたけどね。
「あたし達の方は、アリスと子どもたちを返して欲しい。あんたらは神宝を返して欲しいんだろ? だったら同時に取引と行こうぜって言ってんだよ。場所を決めてさ。その他の事は、その後決着つければいいだろ?」
あたしの意見に、成る程、って変髪が興味を示したね。で、なんか軽く口角が緩んだ気もするけど、まぁとりあえずこれで話が進みそうだよっと――




