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スーパー働かないおばさん、巨大化してのんびりする  作者: 鴉野 兄貴


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8/12

歯科

 大人でも嫌だが行かねばならぬものがある。

 一つは仕事。二つ目は歯医者だ。


「山田徳香様。定期検診のお知らせ」


 なぜ熊本からいまだに定期検診のハガキが来るのだ!?

 岡村歯科からハガキが来るのは35年連続。定期検診に行ったら定期検診用のハガキに患者が名前と住所を書いて渡して検診日に間に合うように岡村歯科が健診のハガキを出す。


 でもわざわざ熊本の歯医者に行くか? 普通。


「あっ。徳香ちゃんお久しぶり!」

 岡村拓哉は姉の幼馴染だが、姉がモテモテで遊びに来てもあぶれてしまい、どちらかと言えば徳香と遊んでいたことの方が多いので徳香の幼馴染とも言える。

 家業のこともあって拓哉と徳香と姉とは家同士の付き合いがある。父だけは別で彼は歯医者嫌いなので毎回定期検診に連れて行く過程で騒動を起こす。


 共に独身だ。

 お互いの独身への怨嗟や近況報告に花が咲くと言うもの。


「丸山くん結婚したの? えっ? ついに花代さんと!?」

「マジですれ違い20年だからな。幸せになってほしい」

 中年になって見えてくるものもあるもんだ。徳香は他人事ならそう思えるのだ。


 歯石を取るのは歳もあって知覚過敏でズキズキするが今回も歯の調子はいいとのお墨付きをいただけた。前は歯茎が衰えていると言われて焦ったが。


「お父様元気?」

「うーん。のんびりしているよ」



 35年前。

 歯医者岡村和哉はこの仕事に命をかけることにした!


「スパイラルウォッシュ!」

 普通二人操作を必要とする消火栓を一人で操り消防ホースから破壊的水流を放つ!


「スーパードリル!」

 ダイヤモンド粉入りのドリルがほぼ効かない!


「いやー。和哉さんほんとたすかるわー」

 寝ている徳香を抱えて巨人がホッコリとした口調で告げるが、サイズがサイズだけに周囲の空気が揺れた。


 この時の徳香はいまだ自分が巨大化すると知らないが、普通に歯医者に連れて行くとぐずる。


 なら寝込みに連れてきて変身中に治療すれば娘にバレないと母は無茶をしたのだ。

 35年にわたる徳香のカルテは姉が見れば狂喜するであろう生物学的資料になる。


「久しぶりに地元で色々話せて楽しかった」

「お父さん新幹線代出してくれるんだろ。もっと地元に顔出せよ」


 嫌だよ。新幹線代って新幹線に乗るわけでなくて実家土産代だもん。素直に新幹線や飛行機で帰ったら「お土産なし?」「叔母さん飛んで帰ってほうが早いのにお土産でなくて新幹線チケットなんか買ってなにしてるの」と家族はおろか甥っ子にまで言われてしまうのだ。


「悪いけどデカくなったのを親父みたいに治療するのは無理だから大人しく診療台に乗っていてくれよ」

「はいはい」


「でさー。子供の頃約束しただろ。俺なんだかんだで歯医者になれたし、徳香ちゃんもしよければ」


 徳香は寝ていた。

 マッハで飛んで帰ってきた直後においては診療台って意外と気持ちいいのだ。


 決め技なし。

 これぞ空振り35年。

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