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スーパー働かないおばさん、巨大化してのんびりする  作者: 鴉野 兄貴


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7/12

喫茶

 徳香は茶を飲み英語新聞を気取って読んでいた。


 学生時代から成績振るわない徳香だが、古文漢文英語のテストだけは90点を下回ったことはないし(※Javaと Japan、JAPANを迷った挙句にJapaneseと書いてしまったことはある)一通りの英語に加えて仕事先で会った肉体労働者たちの使う言葉は猥談含めてだいたい把握している。


 手元には小林一茶著「七番日記」。


 興味を持ってパラパラと読んだ澄香はいきなり怪しい薬草の紹介や全文漢文なので面倒になって即座に返した。賢明な判断と言える。


 これ以上澄香がこれを読み進めたら「新そっくり」とか言い出して物議を醸すだろう。


 あらゆる事物に対しておおらかで慈悲深い作風の一茶だが、この日記は若い嫁を次々と乗り潰した性業の記録でもある。なぜ徳香がそのような本を読んでいるのかは謎だが。


(※余談だが澄香は結婚10年超えても今なお夫を苗字で読んでしまう癖がある)



 徳香の語学力は確かなもので、仕事先の現場にいた外国人たちがたまにとんでもない話をしているのを聞き止めてしまい、録音した上で大阪入国管理局に通報したり逆に仕事先の外国人を引き取りに行ったりもする。入国管理局や警察の知り合いに頼まれてとんでもなくレアな話者(※担当者曰く『さすがに異世界語はわからん』と謎の発言)の翻訳にも駆り出されることがある。


 でも普段の彼女はそんなことはおくびにも出さないし少なくない収入のほとんどは可能な限りiDeCoとつみたてNISAにぶっ込んでいたりしていつもカツカツだ。



 さて。

 なぜ『かふぇ&るんばっ♪』にいながら評判の『コーヒーメーカーさんのコーヒー』ではなくて紅茶なのか。



 コーヒーでもいいがここのコーヒーは『何か別物』な気がするからだ。

 最新マシンのコーヒーは安定して美味しいがわざわざ飲むほどでもない。


 ここの『コーヒーメーカーさんのコーヒー』はどちらかといえば彼女(のりか)の能力めいたものを感じる。

 一緒に食べている菓子パンに関しては澄香は「お隣で買ってきたものだから直接隣で買ってきて」とのこと。


 それでいいのか。


 一応澄香がいくらモノグサとはいえバターなどはつけてくれるし「100円上乗せ分」と称して飲み物おかわり一杯無料らしいが。


「いっぱい? いっぱい飲んでいいの!?」

「店潰す気?」


 澄香の目は笑っていなかった。


 ただしWi-Fiは注文しないと1時間でパスワードが変わってしまう設定だ。


「ケチだ澄香さん。なんか言って美香さん」

「徳香さん居座るじゃない。うちは席あまりないから仕方ないわ。

 はい『納豆チーズトーストの小倉あんこがけと生おろしニンニクチューブ添えアボカドとレモン汁大さじ二杯入りサラダと酵素とビタミンC強化青汁入り牛乳のセット』。こんなの頼むの徳香さんくらいなのだけど」


 この『かふぇ&るんばっ♪』では軽食も頼めば(※美香さんがいれば)作ってはくれるが基本メニューには存在しない。「コーヒーメーカーさんのコーヒー」も常連の口伝でしかない。もともとは超イケメン医師の澄香の夫『新真』(あらたしん)が手ずから患者たちにサービスしていたものだし。


「過酷な仕事を連日でこなすにはカフェインを控えて生おろしニンニク由来の成分とビタミンCとクエン酸とアミノ酸とBCAAの補給をこなすサイバーイグアナセットが欠かさない。サプリで取れば高いが食事で補えれば安いものよ」

「自分で作りなさい」

 わけのわからないことをいう徳香に美香は『最近の子は博学ねぇ』と思いつつも老婆心でツッコミを入れると。

「はぁい美香ママさん」

 徳香も冗談は言える。あまり面白いわけではないが。


 ここには美香目当ての男性常連客も多いが彼女は趣味に多忙なのであまり店にはいない。逆に通い詰める人を増やす結果になると美香は知っている。


 美香も澄香もおおらかなので花火のシーズンになると屋上を解放してくれて夜間カフェをやってくれる。ありがたいことである。


「サイバーイグアナさん? あの男の人が使う『すっごくごっついアレ』売ってる人?」

 なぜ知っているのか澄香。

 さらに澄香の発言にコーヒーを噴いた新医師には心当たりがあるのか。



「あの、新せんせ、新聞取り替えて」

「す、すまないどうぞ。休憩終わったから上を開いてくる」

「せんせー待ちくたびれましたよ」


 もともと新医師の受付待ちを兼ねてのカフェだったので彼と共に一部の患者たちがゾロゾロと。


「(逃げたな新先生)」

 徳香はそう感じた。


 とはいえここの常連どもはかなり深刻だった症状もすっかり快癒していて今「いたい」だの「澄香ちゃん見るとここがちょっと」と言う前者はただの年齢で後者は新医師言うところ「頭のお医者さん(でいりきんし)」案件である。



 今どき新聞読んでいる徳香だがSNSもちゃんと見る。


 新聞は徳香曰く『こう言うふうに読者に動いてほしい』情報の集まりらしいので株やる上では見るべきらしい。

 今読んでいる英字新聞はその辺が比較的マシなので単純に『読解は筋肉と同じで毎日鍛えないと衰える』と言う理由で読んでいる。

 変なニュースはないし人が死んだり不幸になる話題は載せないことでも有名な誌面である。



 徳香はとりあえず老後のためにと株やNISAやiDeCoなどフル課金する。


 彼女は典型的なNISA貧乏である。



 たまにFXや競馬などにも手を出している。


 せっせと老後の貯蓄に励み、文章の要らん裏の意図まで読み取ってしまう徳香。


 そりゃホストどももメールしなくなる。



 話題は澄香の若い頃に。

「学校の成績? もちろん下から数えた方が早かったわよ。でも数学と英語と古文はよかったな。『新と一緒にいたい』って思ったらお母さんじゃ医学部なんて向いてないし、なら医療事務やるかー』って安易に商業高校へ。新……お父さんまで入ってきたのは想定外だったけど」

「娘の前でいう話じゃないと思うよお母さん」



 娘の香ちゃんのツッコミと何か言いたげな光ちゃんに平然と「だって隠す必要ある? 新が全科目満点だったから気にしたことない」と言い放つ澄香。

「『ほぼ』満点だよ」

 苦笑をこぼして苦言を放つ新医師。


 なんでも勉強会と称してのデートを放課後の教室やファミレスでやった仲らしい。


「お母さん真面目に勉強しなかったでしょ」


 香ちゃんのジト目に「そっそんなことないよ? お父さんって意外とスパルタだもん。一度間違えた問題忘れていたらネチネチしていた」「していないよ。黙っていたら色々いうね。後で昔みたいにおしおき」という新医師。いつのまにか帰ってきたらしい。


 ……「おしおき」の内容が気になるところだが澄香の頬が赤くなったことから察せられる。


 光ちゃんが何か察したのか同じく顔を逸らした。

 この子意外と耳年増だ。香ちゃんの方がこっちには疎い。


 ぼーっとそんなことを考える徳香。

 前話における家賃上昇はやっぱりショックだが、近くにいいペット可能物件があるのでそっちを打診されている。



「家賃据え置き! 引越し代は私の知人総動員でタダにする!」

「えっ?! いいかも!?」



 姉和代(※ほんとうは実の姉妹ではないらしい)の暴走のせいか潤子は割と気を利かせてくれた。

 和代のコブラツイストを食らった甲斐があった。アレめっちゃいたい。


 さしもの徳香も秘奥義オクトパスホールドには速やかにタップした。

 ギブギブギブアップ和代さん。


「アレ筋肉スペシャルだろ! マジ痛かったから!」

「たまに和代ちゃん、変な技かけるよねー。キン○族局中秘伝亡羊捕牢固めまででよかったじゃない。私タップしなかったからそのまま局中秘伝罵苦怒髏投(バックドロップ)食らって伸びたことあるもん。『さすがにやりすぎた』ってパフェ奢ってもらったけど。


「それでいいの潤子さん」

「それでいいのだ」



 潤子の同情と温情には感謝している。

 それはそうとなぜ古い漫画の技に詳しいのか高嶺姉妹。



「えっ知らないの? 今週の週プレ、吹雪ちゃんがグラビアなのよ?!」

 マジで?! そう問うより早く潤子の怒涛の語りが始まる。

「今完璧超人始祖ジャスティスマン様が捕まっていてネメシスさんことサダハルさんも捕まっていて目が離せないのに!」

 超早口でジャスティスマンとテリーマンのベストバウトを語る潤子だが、10歳は若いはずの潤子の言っていることがまるでわからん徳香。


 とりあえず徳香にとっては『夏休みに延々と再放送されていた古い漫画』という認識のキン肉マンが今復活連載して10年以上になりしかも面白いことはわかった。


「面白いよ!? 今すぐ全巻持ってこようか!?    

 私月賦で買ったフェラーリで持ってくる!」

「月賦でフェラーリは買えないんじゃなかったっけ? 確か一括のみでしょう」


「昔の話だけど私たち、新堀のおじさまから『家出娘を保護してくれた御礼』ってことで原ナマで200万づつもらったことあるもん」

 家出娘である友人を父親に売ったと言え。


「そうそう。当時口座もろくに作れな……もとい色々物騒だから吹雪に頼んで吹雪名義でその金を証券口座に預けてな」


 なんかすごい話しているぞこの金持ちども。

 その時の縁でその新堀さんからお金を借りたらしい。


「私が卒業するまで和代ちゃんに色々あったから、ほったらかしにしてたら吹雪ちゃんから電話きて」

「めっちゃ増えてたな。はっはっは」


「(めっちゃ増えてたなじゃない!? 少し分けてくれ)」

 貧乏人の僻みかと自嘲する徳香。


「吹雪ちゃん、『いつも二人が同人描く時ボンボンや旗持って応援してたし、一割ちょうだい』とか言いだして」

「そうそう。家賃払えよなー」


「でも『税金払う側になるか』って初めてマジレスされてごめんなさいしたけどねー。和代ちゃん」「ねー。あいつ私いない間に色々やってくれていて助かった」

「わたしたちの税金とか確定申告とか代わりにやってくれてたんだよねー。何も言わなかったけど後で自分でやるようになって絶望したもん」

「そういえば『レシート取っといて。ポイント云々』とか誤魔化していたけど、俺らの収入と支払いとかあいつの口座だったもんなー」


 作者ですら書かない描かないそのくせお調子者の穀潰しという認識だった吹雪。今回のグラビアといい意外と有能かつ義理堅いと判明!


「会計事務は『月岡会計事務所』に頼んでくれていたし、美鈴は口が硬いから大丈夫」

 高嶺さんちの知人の会計事務所は若い娘さんが主(あるじ)だがなかなか優秀かつ口が硬いとのこと。


「うちも頼もうかな」

 澄香こそ要らなさそうだが。


「と言うか私らが澄香さんにお願いしたい」

「確定申告しんど……」

 噴き出す澄香。


「しっかりしろ少女たち」

「もう三十路だもん」「同じく」


 むしろしっかりしなければならない更年期。

 確定申告についてはこの中では唯一サラリーマンな徳香にはピンとこない話題だがそう言うものなんだろう。


「で、キン肉マンどうする。徳香さん。今なら賛否両論ある2世もつけるよ」

「あ、そんなに面白いなら私も読みたい」

 澄香は手を挙げる。

「わたしも読んでいい?」「わたしも」

 双子が手を挙げるので潤子は張り切ってこち亀全巻とキン肉マン全巻持ってお店に置いて行った。



 とりあえず引越しは来週に決まった。



 本日の決め技:オタ語り

 代償というか、正直ヒク。

「本日は晴れ時々豚。稀に銀色の女巨人が降るかもしれません」

「かんれーじぇんちぇんの影響で豹がふるかもしれまちぇん」

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