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スーパー働かないおばさん、巨大化してのんびりする  作者: 鴉野 兄貴


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2/11

子猫

 徳香はアラフォー。昨今では娘。

 昨今の未婚は五十代ですら青年や娘気分なのに四〇など小娘と言っていいだろう。


 だからかはわからないけど二〇代でさっさと結婚して家庭を持った姉には頭が上がらない。


 そもそも背丈が10センチは違う。

 姉は『普通』の主婦だが美貌が違う。


 よく言えば『仏像みたい(しんぴてき)』な平坦顔の彼女に対して、

 姉は父に似た外国人顔で目鼻立ちクッキリ。母に似てモデル体型。そのくせ父に乳だけは似た。


 つまり父は中年太りなのだが母曰く学生時代はかっこよかったらしい。ほんとかよ。


 徳香は顔は母に体型は父に似た。

 悪いところだけ似てしまった。


 母の容姿が悪いとまでは言わないが地味系の美人は好みが分かれる。


 母は努力して一重美人を維持しているが、彼女は二重にする瞼がたるんできたあたりで自らの容姿に見切りをつけた。


 いや、前々からクソダサジャージ姿なのは多分きっと容姿端麗な姉のせいだ。


 思い起こせば幾度も言われたこの一言。

 ーー「え?! 穣子(みのり)さんの妹!?」ーー


 ほっとけ。言いたいことはわかる。悔しいが運命は変えられない。

 ただし姉の評価はまた異なる。


『ノリリちゃんほど綺麗な子はいない』


 姉の目が残念なのか妹萌が過ぎるのかはわからないが、小学生を経て中学生を超えたあたりから姉の彼女に対する評価は絶対になった。


「わたしもねー。美味しいお魚食べて牛乳飲んで頑張ったの。でもノリリちゃんみたいに『大きく』も綺麗にもなれなかったなー」


 真面目な顔で婚約者(後の義兄)の前にて言い放つ姉には真面目に顔から赤いビームを出したくなった。


 どう見ても170センチ超えかつ程よく形のいい巨乳な姉が160そこそこしかない普通体型の妹にいうセリフではなく、母相手のようなtelepathyなどできずとも義兄の当惑を痛いほど感じるハメになった。

 穴があったら入りたかったが『姉が憧れる彼女』が入れる穴は山口県美祢市秋芳町秋吉3449番地1秋吉台国立公園は秋芳洞にあるかも怪しい。


「私はノリリちゃんに入りたい」


 何を言っているのかテンパった姉は徳香の『件の姿』を見てこう抜かした。


 中学生となってなおうぶだった徳香には意味がわからなかったが姉が妹にするセクハラ発言にしても限度を超えている。


 ……後に身の危険を感じて渋る父を言いくるめ泣いて嫌がる姉を嫁がせた。


 これは仕方ない。うん。


 そんな姉の願いだ。



「にゃー」

「ふー」


 対抗して威嚇するも全く動じられていない。

 おのれ無力な子猫のくせになまいきな。


 子猫と言っても手のひらサイズ。

 目も開いているのかすら怪しいそれは姉が「ノリリちゃんは小さな生き物のお世話が得意だから」と置いていったものだ。


 大迷惑である。


 だからと言ってほうっておくほどに彼女は『日常会話の範囲内においては』姉に逆らえるはずがない。


 姉妹間において姉の権力は絶大なのだ。


 たとえそれが妹に対する偏愛が決して妹に抱いてはならない感情を含む変態の域に達していようとも。

 多分。


 やっぱりこの子、動物病院に引き取ってもらって姉に請求書送ろうそうしよう。


 彼女は小動物にナメられやすい。


 思えば田舎ではカラスの群れに襲われ、鳩にフンをかけられ、子犬に小便をかけてマーキングされ、お魚くわえたドラ猫追っかけようとして猫の群れにもみくちゃにされ、豚に発情されてえらい目にあいかけた。


 逆に祖父の牛には相手にしてもらえず乳搾りのとき大変だった。


「……」


 うーむ。キジトラである。

 育てばかわいいだろうに。


 そうだ。困った時は人に頼ろう。



「うち、内科なんだけど」

「似たようなものじゃない澄香さん!」


 当惑を隠せない新(あらた)澄香(すみか)に彼女は頼み込む。


「枯れた花を蘇らせたり、小学生の友達が越冬させているクワガタを借りて帰ってきた男の子の母親が『気持ち悪い』と外に放り出して殺してしまったりしたのを生き返らせたり、車に轢かれた犬を怪我なく起こすのとは訳が違うじゃない! わかって!」

「なにそれウルトラマン80?」


 意外と自分が生まれる前のトクサツに詳しい澄香である。


 彼女の母の美香が「学生時代、尾道の紺野商店でお父さんと見たわぁ」とTevaアプリで再視聴しているからだが。


「石田えりが昔の私にそっくりなの!」


 真偽はさておきまぁ胸元は確かに。

 澄香の母親の美香さんは今でもスタイル抜群である。若い頃は『ミカドン』と言われていたらしいし。ダイナマイトどころか核兵器。


 その辺はこっちも一緒か。

 まぁちょっと事情が違う。

 まさか澄香さんや美香さんも『同類』とは思えないし。


「ははは。ウルトラマンみたいなのがいたら僕は廃業かもね」


 澄香の夫『あらた内科クリニック』院長である新(あらた)真(しん)も徳香の言葉に当惑したが意味は異なる。純粋に医学的な興味からだ。


「長谷川初範(ショパン)さんかっこいいなー。お父さんの若い頃の方が好きだけど。101回目のプロポーズの時も良かったなぁー!」


 美香さんはさておき、新(あらた)医師。

 彼の隣では古びた珈琲メーカーが不規則に蒸気を放っている。

 足元を掃除する澄香の嫁入り道具だったらしいロボット掃除機もまたかなりの年代物だ。


「よしよし」

「新(あらた)、あなた猫の世話までできる訳?」


 慣れた手つきで猫を扱う新医師に彼の妻が問うと。

「いや、全くない」

「でしょうね」


『残念なひとがまた増えた』

「失礼だよ。コーヒーメーカーさん」

 新医師が隣の古びたコーヒーメーカーになぜか話しかける。

 この医師の変なくせであるが近所の人は気にしていない。


「猫の飼い方教えて。掃除機さん」

『そんなことも知らないのか澄香』


「あの、澄香さん、ロボット掃除機はチャッピー(生成AI)じゃないと思うんだけど」

 でも徳香は思わず突っ込んでしまう。澄香もまた掃除機に頻繁に声をかける変な癖がある。


 そこへ。

「あっ猫ちゃんだ!」

「ここここんにちは……田中さんの猫ですか」


 澄香と新医師の娘たちが挨拶してくれる。



 ここ『あらた内科クリニック』の1階は受付とカフェを兼ねていて澄香はここの美人店長兼医療事務担当。


「昔は汚部屋仲間だったのに今では美人奥様扱い。なぜだ巨人・徳香と医療事務・澄香どうして差がついたのか…慢心、環境の違い」

「田中さんの言ってることよくわからない」

 無口なほうの新家の双子の一人が珍しく話しかけてきた。今日日の子供にスポーツ新聞ネタはわからない。

 頑張れ松○。今年こそ巨人を再興してくれ。



 徳香と澄香とは年齢も近い。

 新(あらた)一家との付き合いは10年近くになる。


「前に二人とも地下街の火事に巻き込まれて倒れたり火傷したときとかすっごく心配した」

「結婚前だったっけ? すっかり治ったし!」


「刺されたこともあったよね」

「その節はどうも」


 新医師がなぜか徳香に頭を下げた。



『(なぜ知っている)』


 一瞬ヒヤリとしたが徳香は気のせいと自分を無理矢理納得させた。


「新、あなた医者でしょ」

「今は子供の頃みたいに苗字じゃなくてパパと呼んでほしいな澄香」


 微妙に話をずらした!



 この二人、たまに新婚気分が抜けずに甘ったるい雰囲気になるのは付き合いの長い徳香とて食傷気味だが、その感想は快活そうな双子の一人も同じらしい。


 つい最近まで妹だと思っていた内気な双子の姉のほうはそっと見上げて両親の仲睦まじい姿が羨ましそうである。



 そして。

「結局私が世話するのか」


 妙に猫の世話にあれこれ蘊蓄を、それもGoogle先生から直接引用したかのように語る澄香には気になったが、手つきは怪しいのにやけに万事そつなく澄香は手配してくれた。


 澄香は『まるで誰かに言われるまま』諸々の難しい手続きを初見でもできてしまう医療事務だが、頼んだ徳香も猫の世話の手筈までしてくれるとは思わない。


 なお、新医師曰く、「コーヒーメーカーさんは『コーヒーを猫が飲んだら大変だから掃除機さんにお任せする』ってさ」と謎の発言。引っ込み事案なほうの双子の熱い目線に反して引き取ってはくれないようだ。



 そして数週間。



 なんか……こやつ(仔猫)。

 みるみるデカくなってる。



 新家の双子の姉で引っ込み事案な光(ひかる)ちゃんが猫を気に入って「キジちゃん」と勝手に名前つけているし「次はいつ連れてきてくれるの」とうるうる目で訴えてくるので後にひけない。


 快活な妹の香(かおる)ちゃんはこういう動物の世話が苦手らしいので「ちゃんと世話してよ田中さん……光ちゃんが猫ちゃん好きになってるし応援する」とのこと。


 そういえば帰宅側に。


「だから、コーヒメーカーやロボット掃除機はしゃべったりしない! なぜ当たり前に話しかけているのよ!」


 香ちゃんの声が聞こえたがいつものことだから気にしない。


 新(あらた)妹背(※いもせ。パートナーを意味する)は独身時代からそれぞれの『相棒』に話しかける癖がある。


 近所では有名な話だ。



「とりあえず今日も仕事終わった」


 今日も姉に猫の無事を示す写真を送ると「すごい! やっぱりノリリちゃん天才!」と秒で返信が返ってくる。

 あの人はケータイに張り付いているのだろうか。


「リョーマがおばさんに会いたいっていうの、だから、泊まりに来て『いますぐ』飛んできてマッハできて早く」

「無理」

 即答でスタンプにて返答。


 私に会いたがっているのはどう考えてもリョーマくんじゃない。


 甥はもちろんかわいいけど高校生になろうとしてきたらやっぱり距離感は変わる。


 まぁいかなる時も大阪からマッハで駆けつける叔母は時として飲んだくれるもっこすどもより遥かに育児中の主婦にとっては頼りになる。


 姉と甥の彼女に対する評価は高い。

 まさにヒーロー!


 もっこすどもが飲み会突入して相手してもらえない甥が熊本から「すぐ来ていますぐ来て」と涙ながらに頼まれたらさすがの徳香も駆けつける。たとえ死屍累々の負け戦といえども。女は飲み会の片付け役だ。


 そんなこんなでめちゃくちゃ子育て参加させられたし。

 リョーマくんは母と姉妹でわきゃわきゃしながら育てた。


 父もあの温厚な義兄ですら酒を飲んだら議論好きなのに自説を曲げない悪癖が出る。



 なぜ徳香が父の後継ぎ候補なのかは件の母譲りのアレもあるが、姉がさっさと生物学者として家業から自立してしまったことが原因である。

 嫁に出したら割と好きにやっている。


 その姉は妹に対してまごうことなき変態だが「生物学的には私たちが母親から受け継ぐあれは『変身』ではなく『変態』なので全く問題はない」と自己弁護している。


 変態の意味が違う。

 姉でなければ殴るぞエセ生物学者。



 中学生すぎても風呂場に突撃してきやがって。


 友達と話す過程で一般的には『よそでは中学生にもなって姉と風呂に毎日入らない』と知った衝撃たるや。


 思えば「洗いっこしよう」と迫っていた姉のあの手つきは、いやもう問わない。

 黒歴史消えろ!


 鬱屈したものを抑えるように胸を掴みゴソゴソと寝台の下に隠しているものを出そうとして今は望まぬ同居人がいることに気づく。


 なんか最近歩き出したし生意気なやつめ。


「見ちゃ……めっ」

「みゅ」


「うーん。キジちゃんだと普通だしハヤブサでファルちゃんとか」

「ぴーと?」


 猫はたまに喋るものだ。



 いかん名前つけて本格的に飼ったりしたら管理人の高峰さん姉妹に叱られる。


 確かこのアパートはペット禁止だ。



 妹の潤子ちゃんあたりがニッコニコでペット可能物件を紹介してくれそうだし怖い。


 あの姉妹は作家活動しつつ税金対策だかなんだかで親名義の不動産屋もやっている。


 姉の和代ちゃんの他にもう一人綺麗なひとが二人の部屋に出入りしているけどこの間不精ヒゲを生やしていたから多分男だと思う。


 絵本出すって言ってたから原案担当かな。


 前まで居座っていた居候の吹雪さんと代わって出入りする彼と二人との関係は不明だ。


 まさか彼氏でもないだろ。多分。



 このボロアパートは結構気に入っている。

 向かいが銭湯なのがいい。


 ブチキレた和代は鬼より怖い。

 猫の件に関して気をつけねば潤子の巻き添えでまたコブラツイストだ。



「はーい。おふろだよー」



 思案と関係なく意外と手は動くもの。

 猫は水浴を嫌うがこのコはむしろ好きらしい。

 特にお風呂が好きだ。


 タライに水を入れてお湯にするとちょうどいい温度にできる。


 先日、銭湯に行ったら久しぶりに番台に立っていた和代ちゃんに言われた。


「うちの銭湯、猫は洗っていたら湯船OKな」

「銭湯の営業的にも衛生問題的にも本来はアウトだよ和代ちゃん」

 潤子が掃除しながら突っ込んだ。


 ……ひょっとしてバレてる?


 ちなみに高峰姉妹と新一家は歳の離れた友人同士である。

 高峰姉妹が高校生だった時に、大阪市淀川区三国にあった銭湯とアパートの管理人と番台を親に代わって行っていたので店子である独身時代の澄香と仲良くなったらしい。


 以来、新一家が都合で引越しを行う時は世話しているとのこと。『あらた内科クリニック』も奈良にもう一件あるらしく高峰家と新家はやり手の部類だろう。


「新さん一家の話は微笑ましいけれど、どっかの独身(ひとりみ)には爪の垢飲んでほしい」

 姉のセリフが心をえぐる。


 曰く「人間社会においては当然生まれた子供しか意見を言えない。ならば『独身も選択肢』というのは反出生主義者かヒューマニストを名乗って若くて魅力的なオスメスを恋愛市場から遠ざけてライバルを減らす社会的行動にすぎず、パートナーも定まらず子供もできないままそれに乗っかるのは大馬鹿である」とのことである。


「でも未婚のまま、甥姪を保護する老個体が群れの生存率を上げるのも事実でしょ」

「そうよ」

 姉はあっさり自説を撤回した。


「抱かせて。あなたの子」

 ワキワキ指を動かす姉に。

「ごめん姉さん気持ち悪い」

 彼女は容赦なかった。


 ……気を取り直して。



 さて。ここは南国ハワイ。

 間違っても鳥取県東伯郡羽合町ではない。


 だとしても2004年に湯梨浜町に統合されている。


「しょわー」

「にゃ」


 空母艦隊に囲まれつつのんびりハワイ湾を湯船に微睡む銀の巨人。

 その胸元を怪しい足取りで進む子猫を海軍航空隊がInstagram投稿している。


「Oh! Cute!」


 決してエロ盗撮ではないはずだ。

 そういえば猫になんかカメラ仕込んでいないかめちゃくちゃ探したっけ。

 姉のそういうところは信用できない。



 銀色に輝く彼女のこゆびの先をおそるおそる探検して進む子猫。お湯に入って満足の声。


「にゃ」

「じゅわー」


 彼女も猫に続き声を上げる。

 夜が更けて月が出て、ハワイでは見ると幸せになるmoonbow。



 帰れば急にアプリの通知。

「本日のVET。22:00-6:00」

 無理。夜勤要請は速攻で突っぱねる。


 今日も一日おつかれ様。


 こうして不法滞在お構いなくで移民大嫌いな切り札大統領ブチギレ案件おばさんは一日を終える。



 本日の決め技:フェイスファイア

 顔面から最大1000度を超える熱と遠赤外線を放つ。

 副次作用として遠赤外線に触れた周囲の小動物や植物の生命力を活性化させ、死にかけた人間を蘇らせることすらできるらしい。


 長時間お湯の状態を保つため某銭湯のお湯を沸かすバイトやタライの水をお湯にするのに最適。


 特に近所にある連日満員御礼長時間待ち列を覚悟せねばならないつけ麺屋「あすから」にとって福音になる超大技。


 スープがなぜか丸一日アツアツになる全つけ麺屋の夢の技術の出所は企業秘密。


 どこぞのキン○星王子の技とは関係ない。


 代償は黒歴史消えろ。

 一人のときは姉の手つきを真似するのが結局一番気持ちいい。

『ハワイにて暴動鎮圧。みなハッピーでラッキーだとは元暴動首謀者Mさん』

『ハワイにて健康統計改善。生活習慣の激変に伴い麻薬組織壊滅か』

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