温浴
徳香は熊本県民らしくそこそこ呑める。
姉ほどではないがまぁまぁと言ったところだ。
酔いつぶしてあわよくばお持ち帰りを狙ったゼミの連中、あろうことが教授助教授まで加担して姉に飲ませまくったところ、彼らの財布は素寒貧になったうえに皆逆に酔いつぶされ姉だけが空の焼酎瓶と高級ウイスキーの瓶降ってたことがある。
でも宴会となると裏方やらされる女の身では席を改めて女だけで飲みに行かねばならない。
あるいは野郎どもが釣りなどで出掛けて帰ってこないなどである。
どのみち田中家は祖父が酪農家父が建設業と二人とも現役であり土日どころか休日の概念すら薄い。納期もそうだが牛は休日など関係ないし夜中早朝にだって産気づく。
だから女だけで呑めるときはなかなかない。
「女三人で飲む酒はさいこー!」
徳香は母を囲んで姉と久しぶりに飲んでいた。
やれつまみを作れだの酒が足りないぞだのいう野郎どもはいない。姉の過剰なスキンシップ(※姉はあくまでもこれはスキンシップだと主張する)にさえ目をつむれば自分でつまみ作って自分で飲むのだから気楽なものだ。家事が壊滅的な徳香だがつまみくらいなら結構なものを作る。
「サーモントラウトの花山椒ストロベリーソース和え」
「おっしゃれー?! 徳香どこで覚えたの?」
阪急ホテルの自分で料理をとらなくていいビッフェであるナイトアンドデイズの季節メニューだったなんて言ったものだから母から「誰に連れて行ってもらったの? いい人?」と突っ込まれてしまった。
単に出会い系の待ち合わせである。
姉は察して追求しなかったが。
その時は予約取れたことも含めてかなりラッキーだった。
量は少ないがおいしかっからたくさん食べたが、そのあと食事は奮発したがアフターは兎我野町に行こうと執拗に誘う男には閉口した。
遠くはないが近いとも言わない。
そのあとブロックされてそれっきり。
命に関わる飲み方だが、三人は水着の上にバスタオル巻いて覗き対策だけして、徳香の祖父久が建てたサウナになる掘立て小屋の中にて焼き石ぶち込んで家の脇を流れる冷たい用水ぶっかけて簡易サウナを楽しみつつキンキンのビールを「ぷはー!」「ああっ! さいこー」「久しぶりに父ちゃんもいないし、のんびりできるわー」とやらかす三人。
これまた命に関わる飲み方だが、汗をかくだけかいたらそのまま豪快に雪解け水流れる川にダイブである。
ちなみにこの場にいない男どもは令和の今になっても水着を着ない。
豪快にフルチンである。
母の今なお衰えない美貌と爆乳、姉の柔らかそうな双峰以上に綺麗に割れた縦腹筋に対して感じるものがないではない普通体型徳香。Cは小さくないし徳香の年代的には巨乳の部類であるがEだのモデル体型のDだのの隣にいれば自分のわがままな脇腹を思わず握ってしまうもの。
四十路でビキニであり徳香もちょっと目のやり場に困る姉のモデルみたいな腰つき。
胸のデカさはこの際目をつぶれるが子持ちのくせにそのウエストラインは反則だろ。
ちなみに流石の風呂好きなシナトラも蒸し風呂はお気に召さなかったらしい。
でも水温10℃の川にダイブしてはしゃぐ女どもに合わせたか前足で川の水をぺちぺちやっている。たまに小魚を捕らえようとするのだがまだ子猫ゆえうまくいかない。
「シナトラちゃん、まだ子猫なのにお魚とろうとするなんてかしこいだけでなく生活力あるんじゃない?」
姉が指摘する。そのシナトラは顔についた水を前脚ではらっている。釣果は芳しくない模様。
「なんか顔色良くなったよ徳香。最近調子いいの?」
そりゃ不眠不休で目も開いてない子猫の世話していたのが終わったら定時になると「ごはん」夜更かししていると「寝よう」と頭や背中に乗ってくる。挙句に徳香が怪しげなおもちゃを使おうと思ったら一緒に寝ると勘違いしてベッドに入ってくるのだから仕方ない。
しかも綺麗好きでロボット掃除機が動く余地がないと拗ねる猫なのだシナトラは。
「シナトラちゃん、徳香を頼んだ!」
その話を聞いた母がマジレスする。
「徳香が生活改善しただと? まさに賢猫だ!」
姉も無責任なことを言う。連れてきたのはあんただ。
シナトラは思いの外冷たい水をぺちぺち前足で叩いている。お風呂が好きだが水遊びも好きという変わった猫なのだ。
飲み水用のお皿をひっくり返して遊んでいたのは一度や二度じゃない。仕方ないから華道用の水盤でシナトラは水を飲んでいる。その水盤ですら入り込んでブルブル体を振ってあちこちに水滴を飛ばして遊ぶ。
どうも徳香がバスタオル持ってすっ飛んでくるのを楽しい遊びと認識しているみたいだ。
「ん? それって」「徳香、あんたにかまってもらえないから魚取るまねしたりして目立つことしてない?」
姉と母が一様に気づく。
「まじか」
「多分」
「娘と違って生物学者じゃないけど昔の徳香そっくり」
「めちゃくちゃ賢い子ね」
母と姉が感心している。思い当たることが多々ある徳香。
ちなみにシナトラは抱っこが大嫌いで普段は徳香の頭の上か背中、抱っこされるのが嫌な時は膝の上に避難してくる。
その様子が愛らしくて抱きしめると『どうして……』という微妙な顔になる。
これは『新内科クリニック』の双子の相手をしている時もそうである。
光ちゃんを悲しませないためにか気を使ぅて徳香相手なら頭や背中に投げるところおとなしくしている。名前が決まったのに「キジちゃん」と頑なに呼ばれても反応している。どうも光ちゃんと他を分けて対応している感じがする。
「うーん。学者から見ても賢いわね。ノリリちゃんに預けてよかった。私だったらお世話できずに死んでいたわ」
「不眠不休の日々」
実際は治療ビームが使えるからマシなのだが。
「おーし! では次はシナトラちゃんつれて山の上でのんびりするぞ!」
母がキラリと光ると大巨人になる。
覗こうとしていた近所の山本さんは物干し台から滑って失神した。
「うん」
徳香も変身する。姉は変身できないので「いーなー」と言っている。
「シナトラちゃん連れてGO!」
シナトラは変身した徳香相手でも態度が変わるわけでなく最近しっかりしてきた足取りで徳香の背中に乗り、空の旅の間は毛繕いをはじめた。




